本田雅一のAVTrends

欧州のBlu-ray普及、3D対応を着実に進めるBDA

-レコーダ投入のパナソニック。ソニーはネットを重視



 日本でもアニメファンを中心に認知が広がってきている市販Blu-ray Discソフト。北米では新作のDVDとBD同時リリースがすっかり定着し、”こんなものまで……”と思うほど、多種多様な作品がBD化されている。日本もそこまでは定着していないが、それなりの規模を保っている。しかし、欧州市場に関しては思ったよりも立ち上がりが遅いというのが、関係者の共通した認識のようだ。

プレスカンファレンスに登壇する、BDAプロモーション部会チェアマンのVictor松田氏
 欧州はDVDの普及も日米に比べて遅かったことや、ハイビジョンテレビの普及も日米より少し遅れていることも無関係ではないだろう。しかし「普及していないからこそ、ビジネスの可能性が多く残されている」とBlu-ray Disc Association(BDA)の欧州プロモーション委員会チェアマンのNiels Leibbrandt氏は話す。

 確かに欧州でのBDビジネスの立ち上がりは力強いものではない。しかし、同氏はそれを認めつつも、普及への準備は着々と進んでいるという。欧州では約1,500の市販BDタイトルが流通し、150を超えるプレーヤが購入できるなど、普及に向けた準備は整いつつある。200ユーロ程度の低価格BDプレーヤも最近は登場し始めた。


欧州では約1,500タイトルのBDが流通しているBDプレーヤーも既に150を越えるモデルが購入できる

上の青い線がHDTVの普及率、下の赤い線がHD放送受信世帯数だ
 実は欧州でのハイビジョンテレビ普及率は今年の時点で47%に達しているものの、ハイビジョン放送を受信できるユーザーがまだ8%しかいないのだという。このためフルHDコンテンツの魅力がまだユーザーに認知されていない。しかし、国ごとに状況は異なるものの、デジタルハイビジョン放送は徐々に始まってきており、会場になっているドイツでもデジタルハイビジョン放送が開始されたばかりだ。

 ハイビジョン放送が始まり、HDコンテンツに日常的に接するようになれば、自然にDVDからBDへのシフトが起きる。すでにタイトル数やプレーヤー、BDシアターシステムなどの商品は多数あるのだから、あとは時間の問題というわけだ。



■ 着実に3Dへの準備を進めるBD

 IFA 2009のBDAプレスカンファレンスでは、このほか、amazonの担当者がBDを購入する人たちの傾向をレクチャーしたり、マーケットの状況をアナリストが分析したりといったセッションが続いたが、最後を締めくくったのはBDAで3Dタスクフォースの会長を務めているBen Carr氏だった。

 Carr氏はディズニースタジオズでテクノロジ担当の副社長をを努めているが、コンテンツ供給側の意見として映画業界の3Dへの急速なシフトが始まっていること、そして今後は3D映画が増えていき、それらは家庭向けにも展開されることなどを話した。

amazonがBDバイヤーの消費行動を分析し、レクチャーした欧州でのBDタイトルの価
格トレンド。新作も旧作も、発売後に徐々に価格が下がるトレンドを描いており、「消費者にも買いやすい環境が整ってきた」とBDA
左はBDAで3Dタスクフォースの会長を務めるBen Carr氏

 実は3Dに対応するBD-Videoの規格は、現時点では正式なスペックにはなっていないが、大まかな方式やオーサリング用のフォーマットなどは結論が出ており、商品開発には支障がない段階まで進んでいる。

 具体的にはMPEGのサブストリームを活用した方式で、2Dプレーヤと互換性を保ったまま圧縮する書式、映像ビットレートが左右チャンネル合わせて映像に最大60Mbpsを確保(3D映像ストリームは同じ画質なら1.5倍のデータ量となるため)といった基本スペックは決まっているようだ。

デジタル放送が始まったドイツ向けのDIGAを発表するパナソニックの吉田氏
 パナソニック本社役員でAVCネットワークス社上席副社長の吉田守氏は「来年、3D映像のビジネスがスタートする時には、ローエンドの低価格プレーヤを除き、レコーダもプレーヤも”3Dレディ”にしておく必要がある」と話す。

 パナソニックは自社開発のUniPhier(ユニフィエ)を基礎に、すべてのレコーダとプレーヤがほぼ同じLSIを共有している。何か一つの機種向けにソフトウェアを対応させれば、他のモデルでも対応しない理由はない。「そう、わざわざ対応しない理由はないんですよ」(吉田氏)。ただ、実際にはローエンド機には搭載するメモリが少ない可能性があるため、もっとも廉価なプレーヤではサポート出来ないかもしれない。

 一方で、2010年に3D映像機器のビジネスをスタートさせると宣言したソニーだが、対応製品の具体的な予定や見通しはまだ明らかにしていない。しかし意外に多くの製品が3D対応となっていくようだ。たとえば、PlayStation 3は初代機を含めてすべてのモデルが、ファームウェアのアップデートで3D映像の出力に対応する。ハードウェア的にはHDMIバージョンは変わらないが、ディスプレイのEDIDを読み取って3D対応の場合は3Dフォーマットで出力するようソフトウェアでコントロールするようだ。



■ 欧州にBDレコーダは根付くか

 最後に普段はあまり耳にしない、欧州でのBDレコーダ事情について触れておきたい。この秋、パナソニックはブルーレイDIGAを初めてドイツ市場に投入すると発表したが、実は以前から国ごとにブルーレイDIGAを発売し始めている。

欧州では放送後の番組をインターネットで公開するサービスが一般化。ソニーはそれらのビデオアーカイブにアクセスする機能を提供し、BDレコーダにはあまり興味を示していない

 パナソニックAVCネットワークス社ビデオビジネスユニット長の杉田卓也氏は「デジタル放送が開始された国では、日本ほどではないにしても録画ニーズが出てくると考えています。これまでも”売れない”と言われながらも、DVDレコーダがそこそこ売れていました。元々、家庭向けVTRはよく売れた市場です。今はケーブルのセットトップボックス内蔵HDDに録画する人が多いのですが、全種類のチューナを内蔵させるなどの対策を打つことで、欧州でもBDレコーダビジネスは展開できると考えています」と話した。

 しかしソニーヨーロッパ・プレジデントの西田不二夫氏の見解は異なる。「ビデオアーカイブの文化は日本にしかないもの。デジタル放送は各所で開始しているが、欧州でレコーダが大きな存在になることはないだろう」と話し、BDレコーダに力を入れるよりも、PlayStation Networkを通じた映像流通や、欧州各放送局が行なっているインターネットユーザー向けのコンテンツアーカイブへのアクセス機能に力を入れていく方針を示している。


 
(2009年 9月 5日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]