本田雅一のAVTrends

今の4Kテレビは4K放送を楽しめる? HDCP 2.2対応が鍵に

CESで4Kコンテンツへの対応が話題に

 米ラスベガスで開催される2014 International CESでは、テレビの4K化……すなわち、従来のフルHD画質に対して縦横2倍、総画素数で4倍の高精細映像を表示できるテレビに関連した話題が数多く見られる(4Kという名称はデジタル映画で規格化されている4,096×2,160画素の映像が通称4K2Kと言われるところから由来している)。新たな4Kテレビの展示や放送に関する議論などもあるが、4Kの高品位映像をどのように扱うのか。実は、放送、パッケージソフト、インターネット配信、すべての流通経路において細かな決めごとが落ち着いていない。

 今回のCESでは、単純にテレビの表示解像度が高められるという話だけでなく、実際に4K映像が放送、パッケージ、インターネットなどで配信される時にどう対応していくべきなのか、現在の4Kテレビはその際に対応できるのか? といった、より実践的な話題が出てきている。

 中でも一般の消費者に最も近い話題が、今の4Kテレビは将来、4K放送やパッケージ、ネット配信ソフトを楽しめるのか? というテーマだ。CEA(米国家電協会)は今回のInternational CESで、4KテレビはHDCP 2.2対応が必須になることを公式にアナウンスするという情報が流れてきている(HDCP 2.2の詳細については後述する)。

 このアナウンスは、これから4Kテレビを購入する人たちに対する注意の呼びかけなのだが、すでに4Kテレビを購入している人たち、今、流通している4K対応テレビの購入を検討している消費者にとっては知っておくべき重要な話だ。

 業界全体ではどう取り組んでいくのか。昨年からの取材を振り返ってみると、将来、4K放送を楽しめない可能性があるテレビが存在することがわかってきた。

今の4Kテレビは4K放送を楽しめる?

Silicon Imageが'13年10月のCEATECに出展したHDCP 2.2、MHL 3.0/HDMI 2.0対応レシーバIC「SiI9679」

 見出しの質問に対する答えは“対応できる製品とできない製品がある”だ。まだ不確定な要素は含んでいるものの、少なくとも4K品質の映画に関しては、新たな暗号化技術であるHDCP 2.2(現行は1.4)に対応しなければ、ハリウッド映画を楽しめない可能性が極めて高いためだ。

 その結果、チューナやプレーヤは4K品質での再生時、接続するディスプレイ(テレビ)側がHDCP 2.2対応であることが必須要件となるかもしれない。順を追って説明しよう。

 ご存じのように、現在のところ4K放送の国際的な枠組みは決まっておらず、テレビ側には4Kテレビチューナは内蔵していない。日本では今年秋から試験放送が開始されることがNexTVフォーラムから明らかになっているが、4K放送を楽しめるようにするためには今の4Kテレビ(フルHDのコンテンツを超解像などの技術を用いて4Kにコンバートする)に4K放送を受信するためのチューナをつなぐ必要がある。

 そこで、まずは昨年9月初旬に、4K映像を毎秒60フレームで伝送できるHDMI 2.0という規格が発表された。この規格に乗っ取ったインターフェイスがあれば、4Kの高精細映像を伝送可能になる。対応レベルの違いこそあれ、各メーカーはすでに対応済みだ。

 ではこれで問題解決か? というと、話は少々複雑になってくる。HDMI 2.0で4K伝送に対応するだけでは、4Kテレビとチューナ(あるいは将来の4Kブルーレイプレーヤーなど)の間で映像を伝送できない可能性が高まってきたためだ。

 HDMI 2.0に関する記事を昨年IFAで発表された際にこの連載でも書いたが、それから程なくして、9月中旬にハリウッドの大手6映画会社(SPE、パラマウント、ワーナー、20世紀FOX、ディズニー、ユニバーサル)で構成するMovieLabs(Motion Picture Laboratories)が「4K映像をデジタル伝送する際には、著作権保護機能としてHDCP 2.2の採用を必須とする」要求を発表した。

 これをハリウッドの大手映画会社からの“要求”とみるのか”要望”とみるのかは意見が分かれるところだが、筆者が関係する各所に出した質問の返答を見る限り、“要求”と考えるべきだと思う。

 というもの、実は現行のHDCP 1.4はすでに保護技術が破られており、HDMIの中を流れるデジタルデータを抜き取ると、生の映像データに戻すことができてしまうからだ。

 ハリウッドメジャーたちは、4Kコンテンツを放送、パッケージ、ネット配信などで流通させることに関しては前向きな立場だ。過去のアナログ時代の名作を4Kで復活させるチャンスが生まれ、新作も4K以上の高品位カメラで撮影されることが多くなってきているからだ。元の映像コンテンツがあるならば、それを高品位な状態で売りたいというのが彼らのモチベーションだ。

 しかし、4Kへの対応という大きなステップを踏むのであれば、著作物が盗まれてしまう旧来の保護方式ではなく、新たな枠組みが必要だと主張しているわけだ。一部にはアナログ映像出力禁止に関して、移行期間を設けて実施した過去の例と同様に、しばらくはHDCP 1.4での4K接続を認める運用を求める声もある。しかし、膨大なアナログインターフェイス搭載テレビがあった当時とは異なり、4Kテレビの出荷実績はまだまだ少なく、むざむざと4K映像が盗まれるリスクをハリウッドメジャーが冒すとは考えにくい。

 つまり、4K映画に関して言えば、HDCP 2.2に対応したHDMIインターフェイスを内蔵しているかどうかが、4Kコンテンツを楽しめるか否かの境目となる。

各社のHDCP 2.2に対する取り組み

 では映画以外のコンテンツは? となると、実はまだはっきりとは決まっていない。放送に関しては各国ごとに態度が表明されると思われるが、まだNexTVフォーラムではHDCP 2.2に対する結論は出ていない。

 とはいえ、4K放送や配信などにおいて、高品位なハリウッドコンテンツを無視して4Kの枠組みを作れるとは考えにくい。映画を送り出す時だけ、暗号化技術が古いため画面が真っ黒になる……なんてことは避けなければならない。となれば、HDCP 2.2対応を外付けのチューナや映像配信サービスに接続するセットトップボックスの仕様として求めるのが自然な流れだろう。

 このため、このCESで展示される4Kテレビに関して、少なくとも日本で発売される大手テレビメーカーの製品は、HDCP 2.2への対応が行なわれる。HDCP 2.2に対応するには、新たな暗号アルゴリズムへの対応と暗号化の秘密鍵埋め込みが必須だが、半導体レベルで対応したものが使われる。つまり、CESで発表され、今後新製品として登場する製品はHDCP 2.2対応となる。

 旧来の製品に関しては、HDMIインターフェイスに利用しているLSIがHDCP 2.2に対応していなければ、ソフトウェアのアップグレードなどでは対応が不可能だ。なぜなら前述したように新しい暗号化アルゴリズムと秘密鍵は、ソフトウェアでは対処できないためである。

東芝がCESで展示した新4Kテレビ。高輝度を活かした4K REGZAの最上位モデルとなる予定

 こうした状況に対して、真っ先に消費者への対応方法を表明したのは東芝だ。

 International CES開幕を前にした1月5日、米ラスベガスで行なった記者説明会において、東芝は年内に毎秒60フレームの4K映像再生が可能はHEVC(H.265)デコーダを搭載し、現在のREGZA Z8と同等の高輝度・部分駆動LEDバックライトパネルを採用した、4K REGZA最上位モデルを開発していることを表明した。

 いわば昨年末に最高画質フルHDモデルとして発表されたレグザZ8シリーズの画質を、そのまま4Kにまで拡張し、最新の機能やインターフェイスをすべて搭載した製品だが、その発表の中で最新のHDMI、HDCP規格に対応すると触れられていた。

 そこで上記HDCP 2.2への対応について質問したところ、東芝執行役上席常務でデジタルプロダクツ&サービス社・社長の徳光重則氏は、昨年発売した4Kテレビ「REGZA Z8Xシリーズ」のアップデートサービスを行なうと約束した。

 他地域での対応は未定とのことだが、日本市場では基板交換によるHDCP 2.2対応を受け付ける。ただし、有償・無償かは未定だ。

 東芝以外は、まだこの問題に対して公式な対応、声明は発表していないが、筆者が独自に取材した範囲で以下のことが判明している。

 韓国LG電子は、HDMI 2.0への対応も含め、すでに販売したすべての4Kテレビのアップグレードを無償で行なう。“HDCP 2.2に対応するため”とは案内されていないものの、映像エンジンを含めて今年発表のモデルと同等レベルにシステム基盤を変更すると話していたため、HDCP 2.2への対応は確定と考えていいだろう。

 韓国メーカーで言えばサムスン電子も、4K対応のエボリューションキットをリリースすると発表しているものの、日本未発売のため、ひとまず我々には関係がない。

 では昨年1年を4K戦略推進に費やしてきたソニーはどうか? 執筆時点ではHDCP 2.2に対する言及はまだない。しかし、どうやら対応するつもりのようだ。

 84インチのBRAVIA X9000は、HDMI 2.0への対応を基板交換によって行なう(この対応はプロジェクタのVPL-VW1000ESでも同じである)。この際、表向きはまだHDCP 2.2対応のアナウンスを出していないが、対応HDMIチップに置き換えられる。一方、X9200AとX8200シリーズは基板交換なしに対応が可能とみられる。関係者によると、ソニーはシリコンイメージと共同で先行開発していたASICをX9200A以降の製品に搭載している。

 なお、北米で昨夏に発売されていた4K映像プレーヤ「FMP-X1」がHDCP 2.2対応ディスプレイを接続対象としている。

 パナソニックはHDMI 2.0規格に対して、唯一フル対応していることを、現行の65インチモデル「TH-L65WT600」で強く訴求しているが、この製品に採用されているHDMIチップはHDCP 2.2にまだ対応していない。今年になって発表されるすべての4Kテレビ向けには、新たにHDCP 2.2にも対応する新チップを開発済みで全製品に展開する予定だ。現行モデルの対応は基板交換(ソフトウェア対応はできない)でしか行なえないが、実際に基板交換対応を行なうか否かについては、まだ態度を明らかにしていない。

 これはシャープも同様で、AQUOS UD1シリーズはソフトウェアアップデートでのHDMI 2.0対応を果たしたが、HDCP 2.2対応はファームウェアアップデートの対応は不可能となっている。昨年秋の段階では「HDCP 2.2には非対応」との回答のみで、回路基板のアップデートによる対応について、現時点で言及はない。

 なお、シャープは4K入力を受け付けるクアトロンプロ(AQUOS XL10シリーズ)を発売しているが、こちらはアップデートでHDCP 2.2に対応可能なLSIが搭載されているようだ。ただし、こちらも具体的なアップデート計画は執筆時点ではない。

BRAVIA KD-65X9200A
REGZA 58Z8X
AQUOS UD1。LC-70UD1(左)、LC-60UD1(右)
BRAVIA「KD-55X8500A」
4K VIERA「TH-L65WT600」
LGエレクトロニクスジャパン「65LA9700」

“4Kテレビ+外付け装置”の形をどこまで重視するか

 慎重に書き進めたつもりだが、本稿に書いている情報の中には不確定な要素もある。たとえば、MovieLabに対してHDCP 2.2非対応ディスプレイも移行期間を設け、過去に発売された製品に関しては認めてほしいと説得するメーカーが出てくる可能性はゼロではないが、すでに大手メーカーが、過去モデルを含めてHDCP 2.2対応を進めている中では、あまり説得力はないだろう。

 ただし、HDCP 2.2の問題は“外部装置の接続”時のみに関連する話だ。

 たとえばNexTVフォーラムによると今年秋から4K放送が試験的に開始されるが、本格的な放送となるには時間がかかる。またブルーレイの4K対応も、まだ規格は確定していない。もっとも早く始まるのはHEVCを用いたネット配信サービスだろうが、当面はコンテンツも限られることから、テレビ内蔵の機能で簡易的に楽しむのが主流になるだろう。

 つまり、外付けの映像装置といっても、いつ、どのタイミングで必要になってくるかを現時点で読むのは難しい。“4Kテレビ+外付け装置”の形をどこまで重視するかで、HDCP 2.2対応の重要性は変わってくる。とはいえ、ユーザーとしては気になるところ。

 今年以降に4Kテレビを……という方は、本件に関して安心してほしい(今後、非対応製品は出てこない)が、HDCPの扱いに関して業界で統一した見解が出る頃までには、4Kに投資をしてきた先行ユーザーへの対応を明らかしてほしいものだ。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。