本田雅一のAVTrends

ゲームに回帰したE3 2014。AVファンこそ楽しめる進化したゲーム体験

 AV Watchのでの記事執筆を目的にプレス登録を行ない、3年連続のE3に向かったのは先週のこと。しかしこの連載への執筆は少し躊躇していた。

 というのも、今年はAV Watchという切り口で紹介できるテーマがやや少ないためだ。E3が主に扱っているPCゲーム、コンソールゲームの業界は成長こそしていないものの、スマートフォンやタブレットが伸してきている中にあって縮小しているわけではない(携帯型ゲーム機はその限りではないが)。

 コンソールゲームの主役は、ハードウェアプラットフォームを持つソニー、任天堂、マイクロソフトだが、この3社の勝ち負けの話題よりも、「もっとゲームを楽しんでもらうには、どうすればいいのか」といった話の方がバックヤードの話題としては多かったと思う。

マイクロソフトのプレスカンファレンスは、Xbox Oneと「ゲーム」に集中
SCEもPlayStation 4の新ゲームタイトルを徹底して紹介

 プラットフォーマー3社のハードウェアが一通り新しいものへとリフレッシュされ、その上でこれから5年以上をかけ、新しいゲーム体験を育てていく。今年のE3はそのスタート地点と言えるイベントだったからだ。

 実際、1年前と比べてもデモされるゲームの質は大きく向上した。ゲームパブリッシャー、クリエイターが、タイトルの企画を新世代機向けに軸足を移動させたこともあるのだろう。具体的なゲームタイトルの紹介や、各プラットフォームごとの発表などは、ゲーム専門の僚誌であるGAME Watchのレポートにお任せするが、筆者としては少し斜め上から俯瞰したE3レポートを書いてみたい。

E3が「ゲーム機らしいゲーム」のショーに回帰した理由

 筆者がしばらく中断していたE3取材を2年前に復活させたのは、(当時)モバイルゲームへ向かっていたように見えたコンピューターを用いたエンターテインメントの世界が、実際のところ海外ではどう受け取られているのか? を確認したかったためだ。

 E3は前述したようにPCゲームとコンソールゲームの祭典で、どちらかと言えばコアゲーマー向けの色が濃い。とりわけオーディエンス側(E3関連ニュースのウォッチャーや来場者。E3はトレードショウで一般来場者はいないが、かなり多くのゲームマニアが紛れている)にはその傾向が強いものの、本来はトレードショウであるため、カテゴリを問わずにコンピュータを使ったエンターテインメント企業全般が集まる(少なくとも2年前は集まっていた)。

 たとえば、映画会社やテレビドラマ制作会社などは、それぞれのキャラクターやストーリーを活かしたゲーム化を行なうことで、DVDやブルーレイとは異なる収益源や、公開中の相互プロモーション効果を狙うことができる。スポーツや音楽アーティスト関連のマネジメントも、ゲームタイアップなどに興味を向けている。

 つまり、表向きとは別に多様なコンテンツがゲームというキーワードでクロスオーバーする場という側面もあったわけだ。

 2年前というとGREEがE3に初出展した年で、いきなり大きなブースを出して業界を驚かせた。億単位の予算がかかっていると思われる巨大ブースだったからだ。当時はPCゲーム、コンソールゲームともに低調で、EAなどのパブリッシャーも最安値を付けていた頃。EAは買収されるのでは? という噂が流れたほどである。

 しかし当時のEAトップは「確かに彼らの収益性は高い。そのことはEAがライセンスしているIPに入ってくるライセンス料からもわかっているが、しかしこれがずっと続くとはとても思えない。来年、彼らのブースがE3からなくなっていても、私はまったく驚かない」と話していた。

 実際、その翌年になるとミーティングブースは構えたようだが、E3の表舞台からGREEはいなくなった。ソーシャルゲームプラットフォーマーが、顧客を斡旋して次々に新しいゲームを遊ばせるやり方はフィーチャーフォン時代で終わりとなり、ソーシャルゲームのエッセンスは残しつつも、個々のゲーム骨子の善し悪しで勝負しなければ生き残れないスマートフォン時代になったからだ。

 あれから2年、スマートフォン向けゲームはかつてのソーシャルゲームのfree to playの流れを汲みながらも、良いゲームを出せているところ、人気あるコンテンツと組み合わせることができているところは生き残り、旧来のカードゲームの延長線上にあるゲームしか作れていないところは難しい環境にある。

 と、話が盛大に逸れたが、2年前に久々にE3にやってきた時をピークに、徐々にソーシャルゲームの話題はE3からフェードアウトしている。コンテンツ業界からは、依然として熱い視線を浴びているソーシャル系モバイルネットワークゲームだが、その実態は大きく変容しており、ゲームというよりはコンテンツ(主に人気キャラやタイトルなど)のフランチャイズの一つとして定着したという印象だ。

オーディエンスの期待も「ゲーム」

 そしてE3は、やはり“コンピュータのパワーを用いたゲーム”そのものへのフォーカスがより明確になった。新しいゲームコンソールが揃い、当面は更新されないことがわかっている今回のE3では、さらにそれが明確だった。

 本稿でプラットフォーマー3社の様子やサードパーティのコミットメント状況などについて触れることはしないが、オーディエンスの傾向が明らかに異なる任天堂は別として、ソニーとマイクロソフトの競争はゲームソフトの質を高める方向では、相互に良い刺激になっているように思う。

 一方で本連載の「AV」Watchの視点で見た時、今世代のゲーム機はAV機器ユーザーにとってどんな位置づけの商品になるのかも、ここに来てハッキリしてきたように思う。

 今世代のゲーム機は“ゲーム専用機”としての色がより濃くなっているように思う。それは商品企画としてそうなったというよりも、時代の流れの中で“ゲーム機然とした商品”が消費者から求められていると思うからだ。

PS3世代とPS4世代で変わったこと

 前世代のPS3は、AV機器として購入しても良いほど、オーディオとビジュアル、両面で興味深い製品になっていた。CELLプロセッサを用いたCDのアップサンプリングでは、好みの聴感になるようフィルタを選択できたり、DVD再生時には適応型アップスケーリングフィルタが実装されたりした。初代機にはSACD再生機能もあり、同じくCELLの演算能力を活かしたDSD-PCM変換フィルタをオーディオ部門と共同開発するなど、相当にマニアックな作りとなっていたのだ。

 またBlu-ray Discプレーヤとしては、当時(現在もかもしれない)もっとも高速に動作し、黎明期は遅かったJavaコンテンツの再生で圧倒的な動作速度なども好まれた。

 その後の機能強化でDLNAを用いたネットワークコンテンツプレーヤーとしても、PS3は大いに活用された。リストのスクロール速度などが速いPS3はコンテンツプレーヤーとしても家電製品に比して、良い体験を提供できていたと思う。

 確かに高級AV機器よりも良い音や絵かと言えば、そこにはゲーム機なりの限界もあるのだが、しかし、ゲーム機として考えたとき、その価格以上の価値を提供できていたと思う。

 また海外に目を向けると、映像コンテンツの流通が物理メディアだけでなく、ネットワーク配信も使われるようになる中で、ゲーム機が重要な役割となった。Netflixに代表される映像配信サービスを受信する機器として、Xbox 360やWiiが大活躍した。

 システムソフトウェアやプレーヤソフトとして提供されるアプリケーションがこなれるに従い、AV機能がどんどん強化され、それも前世代ゲーム機の魅力として認知されていたように思う。

 しかし、今世代のゲーム機、すなわちPS4やXbox Oneが同じような方向に熟成していくかどうかと言えば、前世代機並みには徐々になっていくだろうが、それ以上にAV機器として進化したものになるかと言えば、そこには疑問もある。全く進化しないとは言わないが、優先順位としてはどうしても下がると思うからだ。

いまAVファンが評価すべきは「ゲームそのもの」

 たとえば、Blu-rayプレーヤとして評価した時、PS4がPS3よりも良いかと言えば、現時点ではPS3の方がベターだ。どのようにデコーダなどが異なるのかはわからないが、見比べるとPS3の方がきれいに見える。これはDVDのアップコンバートにも言えることで、将来、PS4のプレーヤーソフトが改善される可能性はあるものの、現時点でAVコンテンツ再生を目的とするなら、PS4を使う利点はない(Xboxに関しては360にBlu-ray再生機能がなかったので、Xbox Oneで再生可能になる利点はあるだろうが……)。

 そもそも、画質や音質面で特に恩恵がないのであれば、ゲーム機を使ってBlu-ray再生を行なう必要があるだろうか。

 むしろ、DLNAクライアントとしての機能が失われていたりと、AVクライアントとしては後退している。PS3をずっと使ってきたユーザーは、今後もPS3を使い続ける必要がある(そもそも、ゲームソフトの互換性ひとつ取っても、PS3はずっと持ち続けるべきだとは思うが)。

 西田氏が以前にインタビューしていたように、ソニーコンピュータエンターテインメントはPS4のAV機能をPS3並にすると話しているが、その優先順位は“ゲーム機としての充実”よりは低いだろう。“ゲーム機をAVコンテンツを再生する装置として応用する”デマンドが以前よりも下がっているからだ。

 テレビに独自コンテンツを配信するため、HDMI端子に接続するネットワークコンテンツ再生装置のことを「OTT STB(Over the top set-top box)という。Apple TVやGoogle TV対応STB、アマゾンのFire TVが代表格だ。欧米版Vita TVのPlayStation TVもその一種と言えるだろう。OTT STBは安価で99ドル以下が中心。安価なものは50ドルを切る。テレビにネットコンテンツを届けることが目的なら、ゲーム機である必要はない。

 また、DLNA機能や各種コンテンツサービスへのアクセス機能は、近年のテレビには標準で備わっていることが多いので、ゲーム機にAV機能を実装しても他機器と被る機能が多い。

 このような事情を考えると(そしてPS3ゲームソフトを持つ既存ユーザーはPS3本体を手放せないだろうことを考慮すると)、PS4向けシステムソフトウェアの開発優先順位がゲーマー優先になるのは必然的な流れだと思う。

 これは、OTT STBにはできない、より体験レベルの高いノンゲームコンテンツに注力したXbox Oneでも事情は同じだ。Xbox OneはHDMI入力端子を備えてCATV端末と連動させたり、より良いネット映像コンテンツプレーヤとしてノンゲームアプリを充実させてきた。

 マイクロソフトはユーザーの裾野を広げ、市場全体を拡大するために、引き続きノンゲームコンテンツにも力を入れていくと話しているが、E3のプレゼンテーションを見る限り、まずはゲーム機として充実させねば先がないと考えているように思う。マイクロソフトは今年のE3で、Xbox One向けノンゲームコンテンツへの言及を一切行なわなかった。

 “GAME"ではなく“AV” Watchの読者を対象として話をするならば、AV再生機として新世代ゲーム機に過度の期待を抱かない方が良いのでは……とアドバイスしたい(もちろん、機能は時間をかけて充実していく可能性はあるが)

 むしろ、AV環境を整えている人たちには、本来の役割である“ゲーム機”としての再評価をおすすめしたい。今世代のゲーム機は、1080pのネイティブ解像度でゲーム画面がレンダリングされているタイトルも多く(特にPS4)、毎秒60フレームのなめらかな動きも期待できる。今後、開発が進めば1080/60pは当たり前になるだろう。テクスチャの質も、メモリ容量の拡大に伴って格段に良くなっている。

 様々な音がサラウンド音場に配置され、ゲームの動きに合わせて音源の位置が変化したり、キャラクターがいる場所によって音響効果が変化して部屋の雰囲気が変わるといった要素はゲーム機に従来もあったが、シミュレーションできる音源数が増加しているのか、あるいは音場再現のための演算精度が上がっているのか、良いサラウンド環境で最新ゲームを楽しむと、その音質の良さに驚かされる。

 戦場もののゲームを遊んでいると、周りの人の動き、兵器の動きなどがゲーム性に大きな影響を与え「こんな低い音、どれだけの人が再生できてるの?」と思うようなワイドレンジの、しかもダイナミックレンジの広い音が出てくる。

 ゲーム機をAVコンテンツ再生のために使うのもいいが、ゲーム機本来のタイトルを良いAVシステムで是非とも楽しんでほしいと思う。良いディスプレイやプロジェクター、良いサラウンドシステムと組み合わせることで、より良いゲーム体験が得られるものだなぁと素直に感心できると思う。

 そこには、映画やアニメを再生する、音楽を楽しむといったAVの世界とは異なるおもしろさがある。PS4やXbox Oneには、これまでのゲーム機には食指を伸ばして来なかったAVファンにも楽しめる要素が増えた。何かの機会に、最新のゲーム機を再評価してみてはいかがだろう。

本田 雅一