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[BD]「おおかみこどもの雨と雪」

天才子役の熱演&3DCGの大胆な活用
ハッピーエンドの“その先”へ

 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。

 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

どこを切り取って作品にするか

おおかみこどもの雨と雪
Blu-ray
(C)2012 「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
価格:
7,140円
発売日:
2012年2月20日
品番:
VPXT-71242
収録時間:
本編約115分+特典約153分
映像フォーマット:
MPEG-4 AVC
画面サイズ:
ビスタ
音声:
(1)日本語(リニアPCM 2.0ch)
(2)日本語(リニアPCM 5.1ch)
(3)コメンタリ
発売元:
バップ

 アニメを見るだけでお金がもらえる国があったら、今ごろ総金歯になっているはずの私は、これまで“アニメのテンプレート”に沿った様々な作品を鑑賞してきた。大半の作品で先が読めるようになるものだが、1月から放送が開始された「まおゆう魔王勇者」という作品は、新鮮な気持ちで鑑賞している(主にヒロインの胸を)。

 ファンタジー作品だが、「勇者が魔王倒して終わり」という物語ではない。「魔王の新しい考え方に耳を傾けた勇者が仲間になり、一緒に社会の構造改革に乗り出す」という物語。一般的に「めでたしめでたし」で終わるハズのシーンの、その先をメインにしているところがユニーク。恋愛モノで例えるなら、波瀾の末に誕生したカップルの、結婚後から話を始めるようなものだ。人生という物語の中の“切り取り箇所”に独自性があると言い換える事もできる。

 今回の「おおかみこどもの雨と雪」も、この“切り取り箇所”がユニークな作品だ。監督は、「時をかける少女」、「サマーウォーズ」などを手掛け、すっかり“老若男女が楽しめる良質アニメを定期的に作ってくれる監督”というイメージが定着した細田守氏。

 脚本は奥寺佐渡子、キャラクターデザインに「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」などの貞本義行と、「時かけ」や「サマーウォーズ」にも参加した細田作品の常連メンバーが再集結。安心感すら漂う細田監督作品の布陣だが、完成した新作は、これまでの作品と比べると展開が大きく異る。静かなトーンの映画だが、野心的な作品に仕上がっている。

おおかみこどもの育て方

 主人公の花が大学で出会い、好きになった青年は“おおかみおとこ“だった。2人で紡ぐ、貧しくも幸せな日々。やがて授かった2人の子供、姉の雪と、弟の雨。永遠に続くかと思えた幸せだったが、ある日唐突に、おおかみおとこの命は奪われ、花は幼い2人の子供と取り残される。しかし、“子育て”という本当の物語の始まりはそこからだった。

 都会の人目を逃れて、厳しい自然に囲まれた田舎町に引っ越す親子。人との関わりを絶ってひっそりと生きていくはずだったが、思いがけず、田舎の人情に触れ、母子は苦労しながらも、人らしく、親らしく、子供らしく、そして自分らしく暮らしていく。しかし、成長していく子供たちには、やがて「人として」生きるのか、それとも「オオカミとして」生きるのか、という大きな選択が迫っていた……。

 “狼男”に限らず、ケモノっ子というか、ケモナーというか、最近ではスライムやヘビ、ケンタウロスなどが美少女化した“モンスター娘”も流行りだが、とにかくそういう類のキャラクターと人間の恋愛モノというのは、古来から1つのジャンルとして存在する。だが、その多くは恋愛が成就、もしくは破綻するまでがメインストーリー。「おおかみこども」の場合は、花と狼男が出会って恋に落ち、2人の子供を生み、ある事件で狼男が死んでしまうまでが、回想としてスピーディーに展開。その後に続く“母の子育て”がメインとなる。これが大きな特徴だ。

 おおかみこども2人の可愛さと共に、子育ての苦労もリアルに描かれる。半分オオカミなので、幼稚園に入れるわけにもいかず、都会では自由に走り回る事もできない。そこで一家は「となりのトトロ」を彷彿とさせる田舎へと移住。自然の中で暮らす事の魅力、人との触れ合いの大切さなど、“田舎の良さ”も描かれていく。

 登場人物が多いが、それらの動きが整理され、大きな矛盾や破綻なく描かれる安定感は細田監督作品ならでは。生き生きとした子供たちの動きに加え、風景描写も素晴らしい。見どころは、木々や大地を3DCGで作り、そこに2Dキャラクターを見事に合成・融合させ、“オオカミモード”の雨&雪が森や雪山を疾走するシーン。アニメーターの井上俊之氏が原画を手がけており、“思いっきり走り回る気持ちよさ”をそのまま絵に変換したような、躍動感溢れる動きで、スクリーンに引き込まれる。真っ暗なホームシアターにいるのに、雪山に顔から突っ込んだ爽快感だ。

 “おおかみこども”という設定はファンタジーだが、子育てにまつわる苦悩は人間の子供と大差は無く、主に母親の花の目線で物語は展開する。子供が楽しめるアニメというよりも、年齢層がもっと上の、特に女性向けの作品と言えるかもしれない。

 それゆえか、個人的にはやや感情移入が難しい。前述のように、子育てに奮闘する母の物語がメインなのだが、そこに雨と雪それぞれの物語が重なり、さらに、それを取り巻く周囲の人の物語も入って来る。カメラが誰かに固定されていないので、1人のキャラクターに傾倒しにくいのだ。

 例えば「トトロ」の場合、お父さんも出てくるが、あくまでカメラが子供たちの目線に固定されており、妖怪や精霊が住んでいそうな深い森の魅力や怖さも、子供たちの感覚を通して描かれる。「おおかみこども」の場合は俯瞰視点で、観客がその世界に入り込んでハラハラドキドキする感じではない。テレビの動物番組で“オオカミ親子の子育てスペシャル”を見ているような、一歩引いた位置で“観察”している気分だ。

 なぜだろうと思いながらもう一度再生してみると、母・花の境遇に、最初の段階でイマイチ共感できていな事に気付いた。彼女の生い立ちや、どんな女性なのか、恋した相手が狼男と知ってショックを受け、それでもやっぱり好きで……というような、普通のアニメ&映画でメインにされる物語が、抜粋でスピード通過してしまったためだろう。

 だから彼女が苦労していても「頑張れ!」という応援の気持ちより、「子供生むって、戸籍とか学校はどうするの?」、「収入もないのに育てられるの?」、「病気になったらどうするの?」などの、妙に現実的なツッコミばかりが頭に浮かんでしまう。それでもなんとか乗り越える“母の強さ”は確かに感じるのだが、彼女との“心理的な溝”が埋まらないままエンドロールを迎えてしまったのが心残りだ。

 作品の根幹をひっくり返すような素人考えだが、狼男(つまりダンナ側)が主人公の方が良かったのではないだろうか。不器用な狼男が都会に出てきて、失敗しながらも仕事にありつき、恋をして、恋人に正体を打ち明けるかどうか迷い、子供を授かるが奥さんが他界……。そんな展開ならば、人間社会に慣れない狼男なので、子育ての見通しが甘かったり、不器用で子供の世話が失敗続きでも「おいおいしょうがねえな、でも頑張れよ」と応援したくなっただろう。突然赤ちゃんを預けられた独身男が、右往左往して大笑いみたいな映画が、昔のハリウッドに幾つかあったが、あんな感じの方が笑って泣ける作品になったかもしれない。私が男だからかもしれないが……。

疾走したくなる映像美。特典も充実

 「サマーウォーズ」も映像クオリティの高さに驚いたが、今回も凄い。前述のように、野山を疾走するシーンは“これぞアニメ”と言える魅力に溢れ、あのシーンだけでも個人的には満腹だ。手描き部分も良いが、3DCGと手描きの融合が秀逸で、大学や街中にいる群衆は大半が3DCGだが、手描きキャラクターと質感が統一されており、ぼんやり見ているとCGだとわからない。特典ディスクに収録されている「素材集」を見ると、群衆どころではなく、もっと大量の3DCGが使われている事が判明。「え!?あれもCGだったの」と驚くはずだ。

 背景美術も良い。特に花達が引っ越す日本家屋が秀逸。空家と言うより、ほとんど廃屋なのだが、ホコリまみれのよどんだ空気がスクリーンから流れてくるようだ。花が徐々に補修していくのだが、タイムスリップするかのように、“味のある旧家”の姿を取り戻していく様子が美しい。なお、背景美術は「魔女の宅急便」や「ももへの手紙」などでも美術を担当している、大野広司氏によるものだ。

 アクション映画ではないので派手な音声はあまりないが、自然音の表現が良い。例えば大学の教室、板張りの巨大な空間で反響する話し声や、床の軋みなどがリアル。また、辛いシーンで大雨が降る映画なのだが、この雨量がハンパではなく、シアタールームがバケツをひっくり返したような豪雨に包まれる。雨粒の細かさと、音場の広さを両立させたい。また、キャラクターの小さな声が雨音にかき消されていないかどうか、再生機器が試されるシーンだ。

 キャストは、母親の花を宮アあおい、おおかみおとこを大沢たかお、姉の雪、幼年期は大野百花、少女期は黒木華。弟の雨は、幼年期を加部亜門、少年期を西井幸人が演じている。俳優と子役中心のキャストだが、観ていて違和感を感じる事は無かった。子供の声は“演技っぽく”なると台無しだが、特に元気少女の雪を演じる百花ちゃんが激ウマ。子供時代の雪は、美少女なのだが中身は完全に“制御できない犬”なので、はしゃぐ声にも唸り声が交じったりするのだが、可愛さと共に“野性味”もしっかり声で表現しているのに驚いた。

 脇役にも菅原文太、林原めぐみ、中村正、大木民夫、片岡富枝など凄い名前が並ぶ。セリフは少ないが、菅原文太演じる、農家の頑固親父の存在感が凄い。非常に良いキャラクターで、後半もっと活躍してくれると嬉しかったのだが……。

 なお、BD/DVDのラインナップは、特典付きのBD版(VPXT-71242/7,140円)とDVD版(VPBT-13736/5,040円)、さらにBD+DVDのファミリーパッケージ(VPXT- 71243/6,090円)の3種類を用意している。ファミリーパッケージには特典ディスクがついていないほか、オーディオコメンタリも入っていないので特典を重視している場合は注意が必要だ。

 コメンタリには細田監督に加えキャスト陣も参加。雪が登場するシーンでは、監督も桃花ちゃんの演技を絶賛。当初は鳴き声や遠吠えはSEでやる予定だったが、あまりに上手いので、全部彼女に演じてもらったそうだ。また、声が空気を伝播して届く質感を出すため、役者の前にマイクを立てるのではなく、ガンマイクを上部にセッティング。役者の前にはマイクが無い状態で、距離をとって声を収録したという。そう言われて改めて見返すと、各キャラクター同士の声や、背景音との“声の混ざり”が普通のアニメよりも自然だと感じる。

 特典映像としては、ジャパンプレミアやワールドプレミアの模様、各種舞台挨拶などを収録。さらに、劇場公開時に放送された紹介番組の再編集版も収録されている。必見は、監督らが北アルプスの田園風景や、花の家のモデルとなった、富山県にある古民家を尋ねる番組。特に古民家の方は、アニメそのまんまで、聖地巡礼好きとして思わず身を乗り出してしまう。実際に行ってみたくなることうけあいだが、行ってから「うわーそのまんまだ!」と驚きたかった気もして、ちょっと複雑な気持ちだ。

まとめ

 「時かけ」や「サマーウォーズ」もそうであったように、アニメはメイン視聴者層と年齢が近い、少年少女が主人公になる事が多い。だが、「おおかみこども」は、花の青春時代を早送り気味に紹介し、子育てをじっくり描写、雨&雪が思春期まで育った時点で幕が降りるという流れ。キャラクターの年齢を自由に変えられるアニメでしか描けないにも関わらず、今までのアニメではほとんど描かれて来なかった時間が、1つの作品として切り取られている。これをどう感じるかが、この作品の評価の分かれ目だろう。

 “おおかみこども”というファンタジー設定はあるのだが、物語自体は非常に現実的で、例えば妖怪が出て来たり、地球の存亡をかけた話に発展したりはしない。「時かけ」や「サマーウォーズ」のような、“映画っぽい”怒涛のクライマックスを期待していると、「あれ終わっちゃった」と肩透かしを食うだろう。そういった意味で今までの細田監督作品っぽくはないのだが、個人的には“細田監督にしか作れない作品”だと感じる。

 子供向けというより、その付き添いで映画館に来た両親の胸を打つ作品に仕上がっており、お茶でも片手に、何度も鑑賞して、じんわり楽しむタイプの作品だ。雰囲気としては、連続TVドラマなんかに向いている気がする。

 出産前や子育て奮闘中のお母さん、既に子供が自立した夫婦などに「こんな映画があるんだけど」とオススメして、感想を聞いてみたい……そんな作品だ。

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