大河原克行のデジタル家電 -最前線-

新生シャープの「Be Original.」は、「目のつけどころがシャープ」を超えるか?

 2016年10月4日から、CEATEC JAPAN 2016が開幕した。昨年のCEATEC JAPANで、「ロボホン」を発表して話題を集めたシャープは、今年は、家電同士を結んで、コミュニケーションを取りながら操作が可能な「ホームアシスタント」を開幕前日に発表、再び話題を集めてみせた。

シャープが打ち出した「Be Original.」

 そのシャープブースに、これまで見たことがない「Be Original.」という言葉が掲示されている。しかも、「Be Original.」の言葉を使った「Be Originalギャラリーゾーン」も設置されている。

 そして、この言葉は、CEATEC JAPAN 2016のブース展示向けに用意された、一度だけ使用する言葉ではないようだ。それどころか、鴻海傘下で再建を目指す新生シャープを象徴する言葉に位置づけられる可能性すらあるのだ。

 シャープは、「Be Original.」にどんな意味を込めたのだろうか。

CEATEC JAPAN 2016のシャープブース

CEATECで初公開された「Be Original.」

 CEATEC JAPAN 2016のシャープブースを訪れると、正面にはSHARPの赤いロゴが掲示されている。そのロゴを挟むように、ブースの両側に、白く浮き上がるようなデザインで、「Be Original.」の文字が掲示されている。各社が鮮やかな色を使ったブースを展開するなかで、少し注意しないと、この文字を見逃してしまうかもしれない。

 だが、この言葉に込めた意味は、そのおとなしさとは裏腹に、強い意思が込められものだった。

 CEATEC JAPAN 2016の開幕に先だって、前日となる10月3日に行なわれたシャープのAIoTスマートホームに関する会見で、同社・長谷川祥典取締役専務兼IoT通信事業本部長は、「Be Original.は、『目のつけどころがシャープ』の意味を、いまの時代に置きかえたもの」とコメントした。

長谷川祥典取締役専務兼IoT通信事業本部長

 今年のシャープブースでは、ブース奥に「Be Original.ギャラリーゾーン」を設置した。ここでは、1976年に発売した世界初の太陽電池付電卓「EL-8026」や、フロントローディング方式を採用し、初めてビデオデッキをテレビの下に置いて使うという設置スタイルを提案した1979年発売の「VC-6000」、2001年に発売した世界初の液晶テレビ「LC-13C1」などを展示。

「Be Original.ギャラリーゾーン」
Be Original.ギャラリーゾーンの概要

 これを「いまの世界や、生活シーンで当たり前になっている生活スタイルの始まり」と位置づける一方で、シャープの代表的製品であるヘルシオシリーズの展示や、シャープ独自のネイチャーテクノロジーの解説、プラズマクラスター搭載製品の紹介、最新のIGZO技術やフリースタイルディスプレイの展示のほか、世界初の8Kモニターなどもあわせて展示。「昔も、今も変わらないシャープ独自のモノづくりの志を持った製品を展示した。人を見つめ、暮らしを見つめ、人に寄り添って、あなたのためのオリジナルを作り、今後もそれを作り続ける姿勢を、Be Original.ギャラリーゾーンで示した」と、長谷川取締役専務は語る。

1976年に発売した世界初の太陽電池付電卓「EL-8026」
初めてフロントローディング方式を採用した1979年発売のビデオデッキ「VC-6000」
1992年に発売した液晶ビューカム「VL-HL1」
2000年11月に「写メール」のキーワードとともに登場したJ-PHONE(現ソフトバンクモバイル)向けのカメラ付携帯電話「J-SH04」
「21世紀に持っていくもの」の吉永小百合さんのコメントが印象的だった液晶テレビ「LC-13C1」

 ブース全体では、AIoTが前面に出ているが、Be Original.を、今回のシャープブースにおいて、重要なメッセージに位置づけていることは間違いない。

 では、Be Original.という言葉は、どんな経緯で生まれたのだろうか。

ワンワードでシャープの姿勢を表す

 シャープ ブランディングデザイン本部・大矢隆一本部長は、「今年1月から、ブランディングデザイン本部のなかで、新たなシャープの姿や方向性を表現する言葉を模索しはじめていた」と振り返る。

シャープ ブランディングデザイン本部・大矢隆一本部長

 大矢本部長は、約2年前に、マツダからシャープに移籍。デザイナー出身の同氏は、現在、シャープのデザインを統括するとともに、ブランディングについても統括している。

 大矢本部長は、「シャープの製品は、常にオリジナル性を持っていた。そのシャープが、新たな環境で再生を目指す上で、創業者である早川徳次氏が残した『誠意と創意』の志をどう残していくか。そして、これからのシャープを象徴するAIoTへの取り組みをはじめ、シャープが持つオリジナル性、新たなものを提供し続けていく姿勢、常に価値を提供していく姿勢をどう表現するか。そうした意味を込めて、これからのシャープを象徴する言葉を模索した」と語る。

 こだわったのは、シャープの姿勢をワンワードで的確に示すことができる点、さらにグローバルに通用する言葉である点だった。

 検討に検討を重ねた結果、今年4月には、2つの言葉に絞り込んだ。

 ひとつは、最終的に決定した「Be Original.」。そして、もうひとつは、「Future Friendly」という言葉だったという。

 Future Friendlyという言葉には、シャープの「人に寄り添う」というモノづくりを表す意味が込められていた。だが、Futureという単語が示すように、未来を強く意識したこと、語感からは親しみは感じるものの、力強さはあまり感じることはできないという点が指摘された。

 その一方で、Be Original.には、語感の強さとともに、過去からシャープが培ってきた独自性を、将来に渡って継承していくという、過去から未来への連続性も込められている。

 「シャープがオリジナルにこだわり、それに対して、毅然とした態度で取り組んでいくことを示すことができる言葉である」と、シャープ ブランディングデザイン本部ブランド戦略部・西野正彦部長は語る。

 もうひとつ、「Be Original.」には、最後に「.」がついている。実は、この「.」にも、シャープは意味を込めたという。

 「最後に、ピリオドを打つことによって、シャープは、Be Originalに対して、強い決意を込めて取り組んでいく、という姿勢を表現したかった」と、シャープの西野部長は語る。そして、「シャープは、どんな時代にも、誠意と創意で新しい暮らしの答えを生み出してきた。それをこれからも継承していく」と続ける。

 ここにも、Be Original.という言葉に対するシャープの強い思いが感じられる。

ブース内では、Be Original.ギャラリーゾーンとして、最新製品も展示した

「その仕事は本当にオリジナルか」と自ら問いかける

 シャープブースの奥には、「Be Original.」の言葉の意味を示すボードが展示されている。

 ここには、「あなたの日々を、もっとあたらしく、たのしく。1世紀前、1人の発明家が志した『誠意と創意』の仕事は、今も、これからも変わらない私たちの原点。もっとあなたの近くで、もっとあなたのために。私たちは、『あなたのためのオリジナル』を作り続けます」と記されている。

 これが、「Be Original.」に込めた思いだ。

IGZOもBe Original.の象徴的製品だ

 そして、CEATEC JAPAN 2016の開催にあわせて、シャープでは、約1分40秒のビデオを制作した。

 シャープブースのステージで随時放映されるほか、CEATEC JAPAN 2016終了後には、このビデオを同社サイトで閲覧できるように公開する予定だという。

 このビデオでは、ロボホンをはじめ、ヘルシオグリエ、AQUOSといった現行製品のほか、シャープの歴代のエポックメイキングな商品が続々と登場。シャープの社員たちもこのビデオに参加している。そして、最後に登場するのが、社名の由来でもなり、創業期の基幹製品であるシャープペンシル。そのペンを使って、「Be Original.」と書いてみせる。

 約1分40秒に渡る映像のなかでは、次のようなナレーションが入る。

 「思い出してみてください。あなたが、はじめてのものに出会ったときのことを。そのとき感じた心のときめきを。私たちの仕事は、ものをつくる仕事です。けれど、私たちが本当につくりたいのは、そんな、はじめての気持ちなのです。それが、たとえささやかなものであっても。その積み重ねは、きっとすてきな人生につながる。そう信じています。だから、あなたが、はじめてのことに出会えるように、もっとはじめてのことに挑戦しようと思います。あなたが、自分らしい毎日を見つけられるように、もっと新しい視点で、世の中を見つめようと思います。オリジナル。私たちにとってその言葉は、ただ奇抜で、独りよがりなことを意味するのではなく、はじめてを愛すること。はじめてを通じて感動を生み出し、くらしを変えていきたいと願うこと。私たちは、問い続けます。その仕事は本当にオリジナルか。その仕事は、誰かの気持ちを動かしているか。Be Original.。私たちはシャープです」

 このビデオに流れる言葉が、「Be Original.」に込めた、いまのシャープの志であり、そして、決意につながるといえそうだ。

Be OrBe Original.のコンセプト

 また、このビデオのメッセージからも感じられるように、これは、「社内に対して、いま、シャープはなにをすべきかというメッセージでもある」(シャープ・西野部長)という点も見逃せない。

 鴻海傘下という新たな体制のなかでの再建に挑むシャープにとって、こうしたメッセージによって、創業者が持つ原点に立ち返り、社員が統一感を持つことは極めて大切なことだともいえよう。

「Be Original.」はシャープの代名詞になるのか?

 「Be Original.」は、ブランディングデザイン本部が打ち出した新たなメッセージであるが、それが、ブランドスローガンのような形で、全社で採用されるかどうかは、現時点では未定だ。

 今年4月に、ブランディングデザイン本部が「Be Original.」を決定して以降、経営層への提案も行なっているが、新たな体制へと切り替わるタイミングでもあったことで、経営判断にまでは至っていない。

 「まずは、CEATEC JAPAN 2016で、来場者の反応を見たい。このメッセージに対して、多くの人が共感すれば、次のステップへと進むことができる」と、シャープの大矢本部長は語る。

 大矢本部長の頭のなかでは、「Be Original.」を、今後、どんな形で露出していくのか、どんな手法で使用していくのかといったアイデアが、数多く準備されているという。将来的には、シャープの名刺に刷り込まれることもあるかもしれない。

 「目のつけどころがシャープ」というメッセージは、まさにシャープの代名詞となった。「Be Original.」は、それを超えるシャープを象徴するメッセージになるのか。

 「Be Original.」に込められた意味を捉えれば、「目のつけどころがシャープ」にとって変わるポテンシャルを秘めたメッセージだということができそうだ。

 「Be Original.」は、シャープの代名詞になるのか。いよいよその挑戦に向けた1歩が踏み出された。

Be Original.ギャラリーゾーンの前に立つ大矢本部長

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など