大河原克行のデジタル家電 -最前線-

ウォークマンが2週間連続でトップシェアの理由とは?

~若年層の獲得が、シェア拡大の切り札~


 BCNが発表した携帯オーディオプレーヤーの市場シェアで、ソニーが2週連続でのトップシェアとなった。8月24日~30日の集計では、ソニーのシェアは43.0%となり、首位の座を獲得。そして、続く最新週の8月31日~9月5日の集計でも、ソニーは首位を維持。47.1%と5割近いところまで、さらにシェアを伸ばして見せた。

 これに対して、アップルは、最新週の集計で37.1%にまで下落。同社のシェアが30%台となったのは、2007年8月27日~9月1日の集計以来、実に2年ぶりのこと。だが、このときはトップシェアを維持しており、首位から落ちたのは、2005年1月10日~16日の集計以来、約4年8か月、実に241週ぶりのこととなる。

携帯オーディオ メーカー別販売台数週次シェア 上位2社(BCN発表)

■ 念願の首位奪還に、ソニー社内は沸いた。

 8月24日~30日の集計では、0.9ポイント差という僅差であるが、担当部門が歓喜したのは当然のことだろう。また広報部門にも新聞各紙からの問い合わせが殺到し、各紙で大きく報じられたこともソニー関係者を驚かせた。
 「8対2、7対3の構図では勝負にならない。だが、これで互角のところまできた。年末商戦に向けて、ウォークマンの販売に弾みがつくのは明らか」とソニー関係者は語る。

 8月の集計ではソニーのシェアは41.1%となり、アップルの45.0%には及ばなかったが、昨年8月の30.7%対51.4%の状況とは明らかに違う。両社が40%台で拮抗しているのは、ソニーにとってこれまでにない状況だ。

携帯オーディオ メーカー別販売台数月次シェア 上位2社(BCN発表)

 では、なぜソニーのウォークマンが、ここにきて週次集計で、首位を奪還し、月次集計でも拮抗することができたのだろうか。

 それにはいくつかの理由がある。まずはアップル側の事情だ。

 一部媒体などで指摘されているのが、iPod利用者の一部が、iPhoneに移行したためというものだ。確かに、iPhoneの数字は携帯オーディオプレーヤーのなかに含まれていない。これを加えると、アップルのシェアは、ソニーを上回ったままというわけだ。iPhoneの影響度などの具体的な数字はBCNでは明らかにしていないが、確かにiPhoneを加えれば、シェアは逆転することになるだろう。

 ただ、これもソニーのウォークマンケータイを集計に加えていないというのと同じであり、その点では、携帯電話までを含めた別の集計方法が必要になる。

 もうひとつが、米国時間で9月9日(日本時間9月10日)に発表される予定の、iPod新シリーズを前にした買い控えの影響である。発表に関する情報が広がるに従って、販売数量が減少したというものだ。しかしこれも、過去のiPodシリーズの新製品発表前にもアップルがトップシェアを維持してきた実績を見ると、今回だけが特別というわけではないだろう。アップル側の事情から、ソニーにシェアを奪われたという要素は少ないといえる。

幅広いラインアップが功を奏すウォークマン

 では、ソニー側の事情を見てみよう。ひとつは、ラインアップが大きく拡大していることだ。

 現在、ウォークマンには、最上位シリーズとなるXシリーズを筆頭に、ハイグレードモデルとされるAシリーズ、スピーカーとの一体提案を行なっているSシリーズ、コンパクト性を追求したEシリーズ、耳にかけるという新たなスタイルを提案しているWシリーズというように、5つの製品シリーズをラインアップしている。これにより、幅広いユーザーへの提案が行なえるようになったことが、シェア上昇に直結しているとみられる。

 実際、ウォークマンのシェアが上昇するときには、幅広いラインアップが功を奏している例が多い。そして、それが量販店におけるウォークマン売り場の拡張にもつながっている。ソニー純正アクサセリーとの連動提案の例も増えており、これも追い風になっているとの見方ができる。つまり、積極的なラインアップ拡大が今回のシェア引き上げの一因といえる。

XシリーズのSonyStyleモデル「NW-X1060/BI」
 2つめには、高音質化への取り組みや、長時間バッテリーといったウォークマンが得意とする技術的優位性が認知されてきたことだろう。最上位のXシリーズでは、フルデジタルアンプS-Masterやデジタルノイズキャンセリングをはじめとする6種類のデジタルクリアオーディオテクノロジーを搭載。音質の良さは定評だ。また、ソニーが得意とするスタミナバッテリーは、単に長時間化を図るだけでなく、3分の充電で90分間の音楽再生を可能とするなどの急速充電機能にも高い評価が集まっている。

 一方で、東芝、パナソニックといった国内メーカーが携帯オーディオプレーヤー事業から事実上撤退しており、これらの購入層がウォークマンに移行したという見方もできる。国内メーカーの製品を購入したい、あるいはPCレスで活用したいというユーザー層が流れたというわけだ。

 だが、ソニーのウォークマンは、アップルに比べて平均単価が低いという傾向もある。ソニーの平均単価は1万3,000円前後。機種別シェアでも、低価格モデルが上位に名を連ねる。つまり、ソニーの場合、比較的低価格モデルに人気が集中しているともいえ、ソニーのシェア拡大は、携帯オーディオプレーヤー市場全体の価格下落にもつながっている。

 ソニーでも、ウォークマンの好調ぶりの理由として、いくつかの要素を挙げている。ラインアップ拡充や、高音質および長時間バッテリーに対する評価が高まっていることも理由のひとつとしながらも、ウォークマン専用売り場の拡充や、中学生や高校生を対象とした「my first DMPプロジェクト」により、若年層を獲得していることなどを挙げる。

 特に若年層の獲得は、シェア拡大の切り札のひとつとなっているようだ。

 ある関係者は次のように語る。「かつては、iPodが携帯オーディオプレーヤーの代名詞のように使われ、中学生や高校生に聞くと、必ずiPodが欲しいという回答が返ってきた。だが、それが徐々に薄れており、必ずしもiPodが代名詞にはなりえなくなっているのではないか」。こうした動きもウォークマンにとっては追い風となっているようだ。

 9月10日以降、iPodシリーズの新製品が投入されることによって、ソニーのシェアは下落することになるだろう。だが、これを一時的なものにすることにできるのか、あるいはシェア下落をどこまで歯止めできるかが、年末商戦本番でのシェア争いの行方を大きく左右することになるはずだ。その点では、今週末の土日以降のシェアが気になるところだ。


(2009年 9月 8日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など