小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1204回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

多彩なワークフローに対応してきたキヤノン「EOS R6 Mark III」

新スタンダードの3世代目登場

キヤノンのフルサイズミラーレスもかなりラインナップが幅広くなってきた。R1を筆頭に、R3、R5、R6、R7、R8、RP、R(無印)が存在するが、昨年11月に発売が開始された「R6 MarkIII」は、Rシリーズで一番最初M3まで到達したモデルとなった。それだけよく売れ、新技術が投入しやすいモデルということだろう。直販価格はボディ単体が429,000円、「RF24-105 L IS USM」レンズキットが583,000円。

「R6 MarkIII」と「RF24-105 L IS USM」

動画機としては、今回のR6M3はキヤノンのミラーレスEOSとしては初めて、「オープンゲート撮影」に対応したところが大きなポイントだ。

「オープンゲート」はこれまでBlackMagicDesign製のカメラでよく採用されてきたが、一般的にはあまり馴染みのない用語かもしれない。

これまで動画撮影は、最終アウトプットのフォーマットに合わせて、HDや4K、8Kといった規定の解像度、16:9や17:9、21:9、4:3といった規定のアスペクト比で記録していた。オープンゲートはそうした縛りをやめて、撮像素子の持つ解像度やアスペクト比そのままで記録していこうという撮影方法である。

どうせ編集するわけだから、その時に最終フォーマットに収めればいいという考え方だ。大きめに撮っておけば、シネマ用とテレビ用でトリミングを変えて編集するといったこともできる。さらに昨今は縦長動画も求められるということもあり、横で撮りながらも縦動画に対して十分な縦解像度を確保するという意味合いもある。

今回はR6M3とRF24-105 L IS USMのレンズキットをお借りした。プロの世界では今年本格的な活用が期待されるフォーマットにいち早く対応したということで、国内外からも注目されているR6M3を、早速テストしてみよう。

ボディは変わらず中身を刷新

前作のR6M2を触っていないので写真での比較だが、ボタン位置や外寸などは同じなので、おそらく同一筐体なのだろう。

搭載センサーが違うので写真や動画解像度が違っているところだが、ボディでの大きな違いとしては、M3ではCFexpressとSDカードのデュアルスロッットになった点が挙げられる。またHDMI端子もミニ端子からフルサイズに変更されるなど、動画に対する強化が行われた結果、R6M2のアップグレード版というより、8Kが撮れないだけでR5M2の方に近いといった位置づけになっている。

ボディはM2と同じだがセンサーを始め中身を刷新して登場
カードスロットはCFとSDカードのデュアル
HDMIはフルサイズに

まずセンサーだが、総画素数約3,420万画素、有効画素数約3,250万画素のフルサイズCMOSセンサーとなっている。画像処理エンジンはDIGIC Xで、これはR6M2と変わらない。

動画撮影フォーマットは、オープンゲートに加えてRAWにも対応したので、かなり多い。

撮影モード解像度アスペクト比フレームレート
OpenGate
(RAW)
6,960×4,6403:229.97/25.00
OpenGate
(MP4)
6,912×4,6083:229.97/25.00
RAW6,960×3,67217:959.94/50.00/29.97/25.00/
24.00/23.98P
4K DCI4,096×2,16017:9119.88/100.00/59.94/50.00/
29.97/25.00/24.00/23.98P
4K UHD3,840×2,16016:9119.88/100.00/59.94/50.00/
29.97/25.00/23.98P
2K DCI2,048×1,08017:9179.82/150.00/119.88/100.00/
59.94/50.00/29.97/25.00/24.00/23.98P
Full HD1,920×1,08016:9179.82/150.00/119.88/100.00/
59.94/50.00/29.97/25.00/23.98P

また色域およびダイナミックレンジとしては、Canon 709、Canon Log 2、Canon Log 3、PQ、HLG、BT.709 Standardに対応するので、その組み合わせは膨大な数に上る。

キヤノンRAWは、同社が提供するCinema RAW DevelopmentやDigital Photo Professionalで現像処理したのちNLEに回すというワークフローになる。なおR6M3で撮影できるRAWはCシリーズで搭載しているCinema RAW Light(.crm)なので、Davinci Resolveは直接対応している。

なおRAWで撮影する場合は、デュアルスロットを使ってのデュアル記録が推奨されている。CFカードにRAWを記録すると同時に、SDカード側にはXF-AVC Sの2K DCIプロキシか、XF-HEAC SかXF-AVC Sの4K DCIサブ映像が記録できる。

ビューファインダは0.5型OLEDで約369万画素、背面モニターは3型のTFTカラー液晶で、タッチパネルとなっている。また今回波形表示はヒストグラムだけでなく、波形モニター表示も搭載した。ビデオ系のカメラマンにはありがたいだろう。ただPQなどのHDR撮影に変更しても縦軸は0〜100IREのままなのはちょっとうーむという感じだが、まああくまでも目安ということだろう。

背面ボタン類もM2と同様

電源ボタンはダイヤル式で、OFFとONの間にLOCKがある。LOCKにするとダイヤル動作などが効かなくなるので、カメラから撮影者が離れた状態で撮影する時には便利だ。動画と静止画の切り替えダイヤルは左側にある。

電源はダイヤル式
動画静止画切り替えは左肩

「カラーモード」で多彩な表現が可能に

では早速撮影してみよう。まずは画角の違いから確認してみる。オープンゲートの画角は、6K RAWや4KDCIと横は変わらないが、縦がかなり広く撮影できる。

オープンゲートでの画角(24mm)
DCIでの画角
DCI手ぶれ補正入の画角

手ぶれ補正は光学補正と併用する格好で、電子補正には入・強・水平補正の3モードがある。それほど強力に効くわけではないが、シーンモードの中に手ぶれ補正のプリセットがある。その中から補正方式を選ぶのが手っ取り早いだろう。

手ぶれ補正比較

マイクは軍艦部に2つ、ステレオで設置されている。このクラスのカメラでカメラマイクだけで集音することはあまり考えられないが、一応テストしてみた。今回は風が強いため、風切り低減はオートで集音している。風切り音は多少ボコボコしているが、メインの音声をマスクしてしまうほどでもなく、ガイド音声としては十分だろう。

本体マイクでの集音テスト

本機を特徴づける機能としては、多彩な「カラーモード」がある。ボディ背面の左端COLORボタンを押すと、ピクチャースタイル、カラーフィルター、カスタムピクチャーの3つが選択できる。

3タイプのカラーモードが使える

ピクチャースタイルは以前からあったポートレート、風景などのプリセットに対してコントラストやシャープネスが設定できる機能だ。

カラーフィルターは、「PowerShot V10」あたりの、いわゆるVlog向けカメラから搭載が始まった機能だ。フィルターを切り替えるために毎回カラーフィルターモードに入る必要はなくなり、シャッターボタン後ろのM-Fnボタンを押すと、映像を見ながらダイヤルでどんどん切り替えていけるようになっている。ちょっとUIとしては妙に小さいのが気になるところだが、絵を多く見せるために小さくしたのかもしれない。

カラーフィルター選択用UI
StoryReal&Orange
StoryMagenta
StoryBlue
PaleTeal&Orange
RetroGreen
Sepiatone
AccentRed
TastyWarm
TastyCool
BrightAmber
BrightWhite
ClearLightBlue
ClearPurple
ClearAmber

カスタムピクチャーはCINEMA EOSシリーズに搭載されてきた機能で、多くのガンマや色域のプリセットのほか、LUTを読み込んで適用できるようになっている。純正のLUTは「Canon LUT Library」からダウンロードできる。今回は一部のLUTを試してみた。

LUTなし
Canon_TD_Golden_Hour
Canon_TD_Summer_Day
Canon_TD_Warm_Afternoon
Canon_TO_Teal_and_Orange

VシリーズやCINEMA EOSシリーズのカラー機能が1台に合流したことで、他のシリーズのカメラのサブ機としても使えるのはもちろんだが、1台で何役もこなせるカメラに仕上がっている。

多くのワークフローに対応

続いてオープンゲート撮影を試してみる。オープンゲートはRAWとMP4で若干ピクセル数が異なるが、基本的には7Kに近い解像度でアスペクト比3:2で撮影できる。

3:2という映像フォーマットはないので、ここからトリミングして各フォーマットに収めていくことになるわけだが、単に縦横を切るだけでなく、高解像度を利用して拡大もできるのがポイントだ。

本機のマーカー表示では、2つのマーカーが表示可能だ。つまり16:9と9:16のマーカーを同時に出しておいて、撮影時のアングルのあたりをつけられる。

アスペクトマーカーは2つ同時に表示できる
オープンゲート画角に16:9と9:16のマーカーを表示したところ

とはいえ、縦動画でも横動画でも同時に満足できるフレーミングをいっぺんに行なうのは、演出も絡む話になるのでかなり難しいし、時間もかかる。今回は頑張って1度の撮影で縦横のコンテンツを作ってみたが、横で構図を決めたものを縦に切り出すと、そもそもカットの持つ意味自体が変わってしまう。

オープンゲート画角と、それをDCIサイズにトリミングしたもの。印象はそれほど変わらない
オープンゲート画角から縦動画用に切り出したもの。かなり印象が変わる

撮影がリテイクできるなら、縦と横でそれぞれ構図を決めて2回撮影する方が現実的だろう。あるいはもっと広角のレンズを使って、とりあえずドーンと広い絵で撮っておくか、である。そう考えると、オープンゲートはアクションカメラのような超広角カメラで使われるべき方法論のように思う。

RAW撮影も試してみた。今回はデュアル記録でXF-HEAC Sの4K DCIサブ映像も記録している。プロキシも記録できるが、いざとなればサブで本番でも使用できる解像度の映像が撮影できている方が心強い。

記録機能で「メインとサブ」を選択
動画記録サイズが2つ選択できるようになる

今回はDavinci Resolveで直接RAWファイルを読み込み、PQ HDRでグレーディングした。とはいえコントラストを調整したのみで、色味はいじっていない。6960×3672ピクセルの17:9で撮影し、4K DCIに縮小しているので、解像感もかなり出る。動画においては割とオールマイティに使えてしまうカメラである。

RAWで撮影し、HDRにグレーディングしたもの

夜間撮影は、動画にはそれ専用のモードはないが、ISO感度は最大102400まで上げられる。ただ動画のデフォルト最大値は25600に設定されている。51200よりも上げると、そこからは増感となるようだ。SNを重視するなら、最大で51200までと考えておくといいだろう。

ISO感度の最大値は102400

今回は最大ISO感度25600に設定した上で、暗部ノイズに耐性があるCanon Log3で撮影した。夜間撮影では無理にISO感度を上げなくても、Log撮影してグレーディングした方がノイズもなく、かなり良好に出力できる。ラストの歩きのカットは、光源の色温度が変わる中、ショックレスホワイトバランスのおかげで、雰囲気を残しながら少しずつホワイトバランスが追従していく様子が観察できる。

ISO感度のテスト
ショックレスWBの設定
夜間撮影はCanon Log3で撮影してグレーディング

HDR関連の機能としては、「HDR撮影(PQ)」と「HDR動画モード」がある。違いがわからなかったので撮り比べてみたが、「HDR撮影(PQ)」は本当にPQフォーマットで撮影するので、PQの色空間やダイナミックレンジの中で編集すると、HDRの映像が得られる。

「HDR撮影(PQ)」で撮影したもの。PQの色空間ではちゃんとHDRになる

一方「HDR動画モード」は、SDRの中でHDR風の高コントラストで撮影する機能である。従来は高速に明暗2フレーム撮影して合成していたが、今回からは一度の露光でフレームを生成する方式に変更されている。そのため、早い動きの被写体に対しても残像が抑えられるという。

「HDR動画モード」で撮影したもの。SDR空間でもHDRっぽいダイナミックレンジになる

総論

R6シリーズは、8Kが撮れるR5の一つ下ということで、動画においてはミドルレンジに相当するポジションにある。だが今回のM3は多彩なカラーモードを搭載しただけでなく、撮影フォーマットもかなり幅広い。またRAWとSDRが同時収録できるなど、多くのワークフローに対応できるようになったというのがポイントであろう。

ミラーレスEOSシリーズとしては初のオープンゲート対応となったわけだが、オープンゲート撮影・編集はまだまだ始まったばかりで、これから色々な方法論が開拓されることになるだろう。そうしたテスト機としても、使いやすいはずだ。

余談だが、これだけ撮影モードが多いと、メニュー内の設定がかなりややこしくなる。そこでマニュアルPDFをGoogleのNotebook LMに読み込ませ、チャットでやりたいことを質問する、という方法を試してみた。設定変更のメニュー位置や、何と何が排他機能で使えなくなるかといったことまで答えてくれるので、この方法はかなり有効であることが分かった。

マニュアルをAIに分析させるのは有効

今回はレビューなので一通りの撮影モードをテストしたが、実際にはこれらすべての機能を使うわけではなく、自分のワークフローに合わせてどれかを選択するという事になる。自分にとってベストなスタイルが決まるまで、かなり研究と実験が必要なカメラである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。