大河原克行のデジタル家電 -最前線-

ソニーは、「2011年7月以降」をどう戦うのか

~ネットワーク戦略を強化するソニーマーケティング栗田社長に聞く~


ソニーマーケティングの栗田伸樹社長

 「2011年7月以降のビジネスをどうするか。薄型テレビの需要が減少するのはすでに見えている。だが、そこに留まっているのではなく、7月以降にこそ、新たなビジネスチャンスが生まれると捉えるべき」--。ソニーマーケティングの栗田伸樹社長は、2011年後半を視野に入れた中期的方針をこう示す。

 薄型テレビの需要は一巡するものの、見方を変えればデジタル化されたインフラが整い、数多くの家庭にインターネットによるコンテンツ配信が可能になったテレビが普及した。そこに向けた新たなビジネスが創出できる土壌が整ったというのは、的を射ている。

 一方、年末商戦が最終コーナーを迎え、「ウォークマンでは、最終週でトップシェアを獲得したい」との意気込みもみせる。ソニーマーケティング・栗田社長に、年末から来年にかけてのソニーの国内市場における取り組みについて聞いた。



■ 「デジタル家電の成熟期」に魅力ある製品を提案

 業界内では、2011年におけるAV機器の需要が減少するという予測に対して異論を挟む声はない。

 薄型テレビは、2010年11月のエコポイント制度による駆け込み需要によって、月間約600万台という販売台数を記録したとされ、2010年度の年間出荷台数は、社団法人電子情報機器産業協会(JEITA)の予測では年間2,300万台、調査会社のGfK Japanでは年間2,500万台に達すると予測。通常、年間1,000万台規模とされる国内薄型テレビの需要を大きく上回っている。

 この反動が、2011年7月以降に出てくることは明らかだ。

 JEITAでは、2011年の薄型テレビの需要は年間1,000万台程度とみているが、一部には700万台程度に落ち込むとの厳しい見方も出ており、テレビメーカーの国内における業績が大きく落ち込むことは避けられない。しかも、テレビの買い換えサイクルが7年以上といわれることを考えると、需要の低迷は中長期的に続くことになる。

 栗田社長は、「日本国内のAV/ITマーケットを俯瞰すると、2010年まではデジタル家電普及期といえるが、2011年からはデジタル家電の成熟期になる。2010年には3兆円規模だった市場は、2012年以降は2兆円規模にまで縮小するだろう。ざっと1兆円の需要が無くなる計算だ」と予測する。この状況は、少なくとも2015年までは続くだろうというのが栗田社長の予測である。

 だが、その一方でこんな見方もする。

 「確かに、テレビの購入は一巡するだろう。しかし、個人の可処分所得が減少するわけではなく、魅力的な製品を提案することで、AV/IT製品を購入していただけるという土壌はある。ソニーには、サイバーショットやハンディカム、ウォークマンといった力を持った製品がある。こうした製品群をより積極的に訴求することが大切になる」とする。



■ ネットワーク戦略の強化で2011年以降に備える

 さらに、栗田社長が注目しているのがネットワーク製品である。

 「家庭のテレビがデジタル化し、インターネットに接続することができるテレビが普及したともいえる。その上で、ソニーはどんな提案ができるのかを模索していく必要がある」とする。

 ソニーマーケティングの試算によると、現在約10%のテレビのブロードバンド接続率は、2011年には30%にまで拡大し、2015年に75%の家庭に広がるだろうとする。

BRAVIA LXシリーズ
 また、現在、28%と試算しているモバイルブロードバンド環境は、2015年にはWiMAX、LTE、Wi-Fiの普及によって、99%の環境で40Mbps以上の回線スピードが実現されるとみている。

 「すでに、ブラビアLXシリーズの購入者では、45%のユーザーがネットワークに接続しているという結果が出ている。ハイエンドモデルの購入者からネットワーク接続する傾向が高い」とする。

 ソニーでは、2010年度中に、90%の製品カテゴリーにおいて、ネットワーク接続した製品を投入するとしている。

 「ブロードバンドネットワーク環境と、それを利用できるテレビが家庭に普及することで、リビングルームにおいてテレビが主役になるという時代が改めてやってくる。ここで、様々なビジネスを展開できるようになる」とする。

 テレビがリビングの主役に復権する流れを後方支援するのが、キラーコンテンツの存在ということになる。栗田社長は、その点で、ゲームコンテンツ、映像コンテンツ、パーソナルコンテンツが重要だと語る。

 「ネットワーク対応したことで、PlayStation 3とテレビとの関係がより密接になる。また、サイバーショットなどで撮影した孫の画像を、田舎の両親にブラビアポストカードの機能を利用して、簡単にテレビに配信するといったパーソナルコンテンツの活用も増えていくことになる。また、ソニーが海外ですでにスタートしているQriocityによって、映像コンテンツなどを楽しむ土壌もできている。日本国内においてもこうした活用を積極化させていくことが必要だ」とする。

 さらに、ソニー製品同時の融合もこれからの大きなポイントになる。BRAVIAを中心として、サイバーショット、ハンディカム、VAIOなどをネットワークで結んだ連動型の活用提案は、ソニーならではの提案のひとつだ。

 また、PlayStation3のユーザーと、ソニーが展開している「My Sony Club」のユーザーを合計すると、日本国内には1,000万人以上の規模となるユーザーグループが創出できる。これまでは別々に動いていたものを連携させることで、より大きな潮流を作ることもできよう。

 「ソニーグループ各社が連絡会を開き、どんな連携ができるかを模索している」という。

 「2011年以降の国内AV/IT市場は、業界内ではクライシスと呼ばれるが、これは事前にわかっていたこと。クライシスにしないための施策が展開していかなくてはならない」と、栗田社長は宣言する。



■ 「次代のソニー」を占う年末商戦のシェア動向

 栗田社長は、9月に開催した「Sony Dealer Convention 2010」の記者会見で、2010年の年末商戦においては、薄型テレビで20%以上、カメラ総合シェアで30%以上、BDレコーダーで30%以上、ウォークマンで50%以上、PCで15%以上という目標を掲げた。

ウォークマンはシェア50%を目指す

 特に注目されるのが、ウォークマンにおけるシェア50%の獲得だ。BCNの調べでは、2010年8月の集計で、ソニーのウォークマンが47.8%のシェアを獲得。アップルのiPodの44.0%を抜き、月次ベースで初のトップシェアとなった。このときには、新製品への入れ替え前というタイミングだっただけに、手放しでは喜べない状況にあったのも事実だ。

 新製品発売後のシェアは、10月がアップルの49.6%に対して、ソニーは43.6%。11月の集計ではアップルの46.8%に対して、ソニーは45.5%と、アップルが優勢だが、例年に比べると確実にシェアの差を縮めている。

 栗田社長は、「12月の最終週で、トップシェア奪取を目指す」と強気の姿勢を崩していない。実際、BCNの集計では12月13日~19日に、ソニーのシェアが51.8%と、初めて50%を突破した。12月単月の結果が果たしてどうなるかが注目されるところだ。

 栗田社長が今年の年末商戦のシェアにこだわるのは、瞬間的なシェア上昇という観点からのものではない。

 「これらは、中期的な戦略を達成するためのマイルストーン」と栗田社長は位置づけ、「これからどんな提案ができるのか。それが次代のソニーにとって重要な意味を持つ」とする。

 続けてこうも語る。

 「ソニーのなかで、日本の売上げ構成比は、かつてに比べると減少している。しかし、次代の利用提案を発信していくのは、日本市場で展開するソニーマーケティングの重要な役割。それぞれの製品の存在感を高め、それらをネットワークでつないで利用してもらう、という次代の使い方を、日本から提案していかなくてはならない。これは、デジタルテレビが普及し、プロードバンド先進国である日本だからこそ創出できるもの。ソニーは、そのために、日本市場における存在感を高めていく必要がある。2011年の取り組みをベースに、次の飛躍につなげたい」とする。

 ソニーが、2011年以降のAV/IT市場の成熟期において、どんな飛躍を見せるのか。その試金石が、2010年の年末商戦ということになる。

(2010年 12月 24日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など