大河原克行のデジタル家電 -最前線-

シャープ、3Dテレビで一気に50%超えのシェアを獲得

~3D戦略、クアトロン戦略などをSEMC・山田社長に聞く~


シャープ国内営業本部副本部長兼シャープエレクトロニクスマーケティング取締役社長の山田達二氏

 シャープが、7月30日にクアトロン3Dを発売して、まもなく1か月が経過しようとしている。パナソニック、ソニーに続いて3社目の市場投入となったものの、8月1日から19日までの3Dテレビにおける市場シェアは、51.2%(BCN調べ)と過半数を突破(BCN調べ)。液晶テレビ並の市場シェアを一気に獲得した。

 シャープ国内営業本部副本部長兼シャープエレクトロニクスマーケティング(SEMC)取締役社長の山田達二氏は、「AQUOSユーザーを中心に、シャープの3Dテレビを待っていただいたユーザーや、クアトロンならではの3D画質に対する評価が高い」とする。同社が投入した4原色のクアトロンシリーズは、3Dテレビに限らず高い評価を得ており、同社の40型以上の液晶テレビのうち、すでに2割に達しているという。山田氏にシャープの液晶テレビ戦略などについて聞いた。



■ クアトロンパネルが高付加価値に。3Dコンテンツとのコラボも

―7月30日から出荷したクアトロン3Dの売れ行きはどうですか。

山田:私は順調なデビューができたと自己評価しています。8月における3Dテレビの市場シェアは、シャープが液晶テレビ市場全体で獲得しているのと同等規模のシェアとなっています。正直なところ、クアトロンでなければもっと早く3Dテレビを市場投入することもできましたた。しかし、経営幹部をはじめ、3Dテレビを投入するならばクアトロンしかないと判断をした。結果として、3Dテレビの市場投入が3番目となり、ワールドカップ需要や夏商戦が終わったあとの市場投入となりました。しかし、お客様にはお待たせをしたという反省があるものの、その一方で、クアトロンによるすばらしい画質の3Dテレビを投入できたと考えています。

7月より発売されたクアトロンLX/LVシリーズ

―シャープの3Dテレビにおける差別化ポイントはどこですか。

山田:最大の特徴は、いまお話ししたように、やはりクアトロンパネルであるという点です。RGB(赤・緑・青)に、Y(黄色)を加えたことで、3Dにおける表現力の幅が広がりましたし、UV2Aパネルによって、明るさや、高精細を実現しながらも、低消費電力であるという点も評価していただいている。店頭でも見て、その良さがわかっていただける3Dを実現できたと自負しています。また、AQUOSに対するブランドの安心感というものもあるでしょう。そして、見逃せないのが音に対する評価が高いという点です。3Dの迫力ある映像を、音の観点からもサポートする。先行メーカーの製品に比べると、実売価格は数万円高いが、それでも当社の3Dテレビを選んでいただいている理由は、こうしたところにあります。

 さらに、売り場において一貫性のある提案が可能になっている点も大きな特徴です。クアトロンという製品を提案する延長線上で3Dテレビを提案できる。販売店からは、その点で勧めやすいという声をいただいています。この8月においては、シャープの場合、40型台では3Dテレビの構成比は1%強ですが、50型台では10%弱、60型台では30%を越えています。AQUOS全体をみた場合、40型以上に占める50型以上の構成比は約8%ですが、これを3Dだけで捉えると、50型以上の構成比が40%弱にまであがる。3Dテレビによって、大画面モデルの販売が増加し、これが平均単価の引き上げにもつながっている。

3Dに対応したLVシリーズ

 次のステップとしては、高齢者の方々にも3Dの良さをご理解いただけるような提案をしていきたい。飛び出すという観点からの3Dの面白さだけではなく、奥行き感のある自然の映像を楽しんでいただくような提案をしたいと思っています。

―3Dテレビの訴求においては、競合他社がビデオカメラやデジタルカメラ、3Dコンテンツと連動した提案を行なっていますが、シャープは製品ラインアップの関係からも連動提案はBDレコーダーに限定されますね。そのBDレコーダーも高級ゾーンだけの品揃えです。

山田:シャープ自らが入力系の3Dデバイスを持たないということは、裏を返せば、他社との連携がしやすいともいえます。デジタルカメラの領域では富士フイルムと連携し、店頭訴求を行なっていきますし、3Dコンテンツでは、ワーナー・ブラザーズと連携し、店頭では「タイタンの戦い」の3D映像放映したプロモーションや購入者ヘの3Dソフトのプレゼントキャンペーンを行なっている。

 このように各社とコラボレーションを展開していますが、これはまだ入口の段階です。当社から技術供与をすることで、連携の度合いをさらに進め、ファミリンクのなかでこうした製品群との連動を図るといったことにも取り組み、さらにはビデオカメラに関しても他社との連携を踏まえた提案を行なっていきたい。それにより、他社に比べて遜色がない3Dワールドを実現することができるようになります。そして、BDXL対応として高級ゾーンで展開しているBDレコーダーも、年末に向けては普及ゾーンへの展開も視野に入れて、そこでシャープならではの強みを訴求したい考えています。



■ クアトロンの構成比を3割まで拡大へ

―ソニーでは、3Dレディのテレビを用意していますが、シャープではどう考えていますか。

山田:市場をみてみますと、3Dレディ製品の動きが非常にいい。将来のために、今から3Dに対応できるものを購入しておこうという動きが明確にあります。そうした意味では、当社でも前向きに考えていきたいと思っています。

―競合他社をみると、この夏商戦では3Dテレビを核としたマーケティングを展開し、3Dの先行イメージを徹底して訴求しています。シャープではそこまでの「焦り」のようなもの(笑)は感じませんね。

山田:もちろん、シャープのクアトロンは、3Dテレビでも最高の画質を提供できるという提案はしていきます。来年には、40型以上の液晶テレビでは、半数以上を3D機能搭載とする計画ですし、いまのシェアを長く維持していきたい。しかし最優先の課題は、「シャープ=3Dテレビ」ではなく、「シャープ=クアトロン」という訴求なんです。クアトロンというシャープならではの特徴をまず訴え、その先のクアトロンの特徴を生かせる機能として、クアトロン3Dを提案したいと考えています。

―クアトロンそのものの認知度はあがってきていると自己評価できますか。

山田:クアトロンは10年間をかけて完成させた自信のある技術ですから、その画質の違いを店頭でわかっていただくにはどうするかという点に力を注ぎました。また、デザインを一新したこともあり、登場感というものを大切にしました。発売が7月になったのは、夏商戦のピークを考えると明らかに1か月投入時期が遅い。購入を決定するまでにお客様が店頭に3回ぐらい足を運んで比較するといったことなどを考えると、やはり6月上旬には店頭に商品が並んでいなくてはならないですからね。遅れた分だけ、登場感の演出とともに、その画質の違いを明確にする必要があった。

 登場感という意味では、7月1日から吉永小百合さんを起用したクアトロンのテレビCMを放映し、8月からは本木雅弘さんを起用したクアトロン3DのテレビCMを放映しています。一方で店頭では、社内では「一目瞭然展示」と呼んでいますが(笑)、AQUOS AE7などと比較展示をして、3原色と4原色の違いを見せるとともに、消費電力でも優れていることなどがわかるようにしました。5万円程度の価格差があっても、クアトロンを選んでいただけるという良さを示したわけです。もうひとつ店頭で展開しているのが、「イエローマジック計画」と呼ぶ取り組みです。薄型の特徴を持つクアトロン・スタイリッシュのXF3シリーズ、音の迫力感を持たせたクアトロン・ハイグレードのLX3シリーズ、そしてクアトロン3DとしてのLV3シリーズを、一堂に展示するとともに、クアトロンならではのRGB(赤・緑・青)に、Y(黄色)を加えた特徴を生かし、金色のバルーンと、黄色いひまわりを施した展示を行ないました。

 そうした取り組みの成果もあり、クアトロンのブランドと画質の良さは着実に認知されています。40型以上、50型以上の液晶テレビでは、クアトロン効果もあり、単価下落が想定より進んでいない。ただ、現在、クアトロンの構成比率は2割程度になっていますが、今後の目標として、3割に引き上げることを掲げていますので、まだまだ拡大をさせていきたいと考えています。



■ 地デジ完全移行を前に、様々なユーザー層へ訴求

―下期に向けてどんなことを計画していますか。

山田:やはりクアトロンの認知度を高めることは重要な取り組みになります。この活動を積極化するとともに、将来的には32型クラスにもクアトロンを広げていくといったことも考えています。12月末にはエコポイント制度が終了するというのが今の前提です。駆け込み需要もあるでしょうし、当初は年間1,600万台とされていた国内の薄型テレビ市場の規模も、1,850万台程度の規模に達するとの見込みも出ています。シャープは国内で年間780万台の液晶テレビの出荷を目指しているが、市場規模が拡大すれば、当然、それにあわせて出荷計画も修正しなくてはならない可能性もある。そうした需要に耐えうる生産・供給体制を整えなくてはなりません。

クアトロンの認知度向上が重要と語る山田氏

 そのなかで、これからの液晶テレビの需要を考えたときに、リビングの薄型テレビはすでに地デジ対応になっているが、2台目、3台目のテレビがまだ地デジ化していないという需要、初めて地デジ対応テレビを購入するという家庭、1台目の地デジ対応テレビはリビングに入っているが、これをほかの部屋に回して、2台目に購入するテレビをリビングに置きたいという需要がそれぞれあり、これらに応えうるラインアップを整えていく必要があります。

 一方、政府では、地デジの普及台数として、液晶テレビやプラズマテレビで5,009万台、地デジに対応したブラウン管テレビで72万台、さらにデジタルチューナーを搭載したレコーダーで1,809万台、セットトップボックスで893万台がすでに利用されていると発表している。これに地デジチューナーを搭載したPCが約200万台あることから、8,000万台前後の地デジ化が終了しているとする。地デジ化が見込まれる1億台のうち、約8割というのもそうした数値からの算出です。

 しかし、デジタルチューナ搭載のレコーダを持っている人は基本的には地デジ対応テレビを所有していると考えるのが妥当であり、また、営業の観点からみれば、セットトップボックスとブラウン管テレビで地デジを見ているユーザーも、エコポイントを利用すれば、薄型テレビに買い換えてもらうというターゲットになります。単に1台目需要、2台目需要ということではなく、こうしたユーザー層に対する訴求を積極化していく必要があります。

 シャープは、液晶テレビのリーディングカンパニーですから、幅広いラインアップを揃え、あらゆる顧客ニーズに応えていなくてはならない立場にあります。そうした立場にあるという観点からの製品提供や、マーケティング施策を、下期に向けて打っていきたいと考えています。

(2010年 8月 25日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、Pcfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など