第392回:ビクターのリニアPCMレコーダ「XA-LM1」を試す

~充実の楽器練習機能搭載「レッスンマスター」 ~


XA-LM1。愛称は「Lesson Master」

 先日、日本ビクターから新たなリニアPCMレコーダ「Lesson Master XA-LM1」が発売された。この名称からも想像できるとおり、音楽レッスン用を主目的としてレコーダで、従来各社が発売してきたリニアPCMレコーダとは少し趣の異なる製品だ。

 価格もメーカー希望小売価格26,250円、実売価格が20,000円前後と、ほかと比較して安価だが、どんな製品なのか実際に使ってみた。



■ “ほかとチョット違う”デザインのリニアPCMレコーダ

iPod touchよりちょっと大きいサイズ

 各社のリニアPCMレコーダは、デザインについても、音質にこだわるマニア向けレコーダという雰囲気を醸し出しているのに対し、XA-LM1は一見して初心者向けレコーダといったデザインとなっている。大きさ自体はiPod touchより少し大きい程度で、あまり変わらないのだが、約94g(電池含まず)と非常に軽く、プラスティックの質感的にもAMラジオかな? という雰囲気で、気軽に触れるイメージだ。

 Rolandの「R-09HR」、ZOOMの「H2」と並べてみると、同程度の大きさではあるものの、違うジャンルの製品であることが見て取れる。これはリアにあるスタンドからも、そう感じさせる。多くのリニアPCMレコーダにはガッチリと固定させるための三脚穴が装備されているのに対し、XA-ML1には簡単に斜め設置できるようにするためのスタンドが飛び出す構造になっている。とりあえず机の上や椅子の上などに置いて使ってみようというスタンスなのだ。

R-09HRやH2との比較。左から2番目がXA-LM1リアのあるスタンド。三脚用ネジ穴は備えておらず、飛び出す構造のスタンドを搭載

 電源は単4電池2本で駆動し、アルカリ電池なら約12時間の録音ができる。ニッケル水素電池の使用も可能でメニューで設定の変更ができるようになっている。

 また、記録メディアはmicroSD/SDHCとなっており、本体左横のゴムカバーの内側にセットする。またその横にはUSB端子もあり、これを使ってPCと接続することで、USBマスストレージデバイスとして、microSD/SDHCの中身にアクセスすることが可能となる。

単4電池2本で駆動記録メディアはmicroSD/SDHC

■ 音質をチェック

 さて、やはり気になるのはレコーディングのスペック。ここでも、ほかのリニアPCMレコーダとはコンセプトが違うようで、最高が16bit/48kHzのリニアPCMという仕様。もっとも、「録音品質設定」として選べるのはMP3 128kbps/192kbps、リニアPCM(16bit/48kHz)の3種類のみ。デフォルトはMP3 128kbpsになっている。

録音モードはMP3(128kbps/192Kbps)とリニアPCM(16bit/48kHz)の3種類

 レコーディングのレベル設定も通常のリニアPCMレコーダであれば、マニュアルが標準であるが、XA-LM1ではオートのHIGHレベルというのがデフォルトとなっている。設定を終えた後、RECボタンを押せばマイクで捉えた音をヘッドフォンでモニターできるとともに、レベルメーターが動き出す。レベルメーターの動きはスムーズで、ピークを越えると左右それぞれのLEDが赤く点灯する仕組みになっている。

録音レベル設定ではマニュアルが標準録音時はレベルメーターも動作する

 

マイクに「ブースト機能」を搭載

 デフォルトはとにかく初心者が簡単に使えるという設定になっているが、リニアPCMを選択し、レコーディングレベルはマニュアルに設定。またマイクにブースト機能というものがあり、これをオンにすることで、より小さな音も拾えるとなっており、デフォルトでオンとなっていたが、まずは野外で小鳥の声を拾うため、オンの設定のまま外へと持ち出した。

 初心者用機材ということで、あまり期待もせずに録音をスタートさせたのだが、思っていたよりキレイに周囲の音を捉えている。マニュアルでのレベル調整0~16という段階であまり繊細な調整ができるわけではないが、14という少し大きめの設定にしたまま録音した結果がここに掲載したものだ。

 

録音サンプル
鳥などの鳴き声を収録bird1648.wav(5.6MB)
編集部注:録音ファイルは、16bit/48kHz設定のWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 16bitの分解能なので、加工処理すると音質が損なわれるかなとは思ったものの、やはりレベルが小さかったので、ノーマライズをかけ約6dBほど持ち上げている。これを聴いてみると、かなりさまざまな音を捉えているのがわかる。

内蔵マイク

 ヒヨドリたちの鳴き声のバックに最初の時点から約500~600m先の踏み切りの音を捉らえている。また、200mほど離れたクルマの走る音も聴こえてくるが、ステレオ感はちょっと弱い。約10秒のところで頭上4、5mのところをヒヨドリが左から右へ飛び去っていくがその動きは分かりにくい。また踏み切りやクルマの音は左方向から聴こえてきていたのだが、そうした方向感もよくわからない感じである。これは内蔵マイクの設置位置や角度というところに問題があるのかもしれない。

 次に、音楽をレコーディングしてみた。 もちろんリニアPCMの設定のレベルもマニュアル設定ではあるが、今度は大音量なのでマイクブーストをオフにしたうえで、いつものようにTINGARAのJupiterを録音した。

music1644.wav(7MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、16bit/48kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回は三脚に取り付けることができなかったので、XA-LM1のスタンドで斜めに立てて録音した。やはり16bitでのレコーディングということもあって、音の繊細さが欠けてしまっているのは事実。表現力が弱いなと思うところだが、音のトーンという面では、かなりフラットでキレイに感じる。

 WaveSpectraで周波数分析してみても、その特性はほかのリニアPCMレコーダとそう大きくは変わらない。強いていえば、中高域がやや弱めではあるが、16bit/48kHzのレコーダとしては、結構優秀な結果といえる。 ただし、ステレオ感が弱いのは、ここでも同様であった。



■ 音楽レッスン用の機能を搭載

 単純にリニアPCMでのレコーディング機能だけで比較してしまうと、スペックが低い分どうしても負けてしまうが、製品のコンセプト的に一番重点を置いているのがレッスン機能。これがどんなものなのかについても紹介しよう。

液晶の下にKORGのロゴ

 まず最初に気になるのは、液晶の下に書かれたKORGのロゴ。「TUNER ENGINE by KORG」とある。KORGもMR-1というDSD/リニアPCM対応のポータブルレコーダを出しているので、競合メーカーのようにも思えるのだが、チューナ部分に特化した形で技術提供しているようだ。

 XA-LM1にはギターなどのチューニングが行えるクロマティックチューナが搭載されており、ギターに限らず各種楽器で利用できる。内蔵のマイクから音を拾ってもいいし、本体右側にある標準PHONE入力にギターなどの電子楽器を接続して行なうこともできる。


クロマティックチューナを搭載標準PHONE入力を備え、ギターなども接続可能

 またチューナとは反対に基準音を発生させるトーン機能、つまり音叉の役割をする機能も搭載されているので、これを使ってチューニングすることも可能だ。この音はヘッドフォンでモニターしてもいいし、本体内蔵のスピーカーから出すのもよさそうだ。

 また楽器練習に必須のメトロノーム機能も装備されている。テンポと拍子を設定して鳴らす単純なものだが、これも内蔵スピーカーから鳴らすことで、いろいろなシーンで利用できるだろう。

トーン機能も搭載するメトロノーム機能も利用可能

 

「聴き比べレッスン」機能

 一方、ビクターが現在特許申請中というユニークなレッスン機能もある。「聴き比べレッスン」という機能がそれで、お手本と自分の演奏を聴き比べることで演奏の腕を上げようというものだ。

 XA-LM1は本体でレコーディングするだけでなくMP3、WMA、WAVのプレーヤーとしての機能もあるため、予めお手本とする曲を入れておく。また必要によって、AB区間設定によって、練習する場所を決めておくこともできるようになっている。

 準備ができたらスタート。するとまずはお手本部分が再生され、それを聴くことができる。再生が終わると今度は自分の番となり、自動的に録音がスタートされるので、お手本と同様に演奏をするのだ。お手本の時間より10%長くまで録音可能だが、先に演奏が終わったらストップボタンを押せば終了。その後、再生ボタンを押すと、お手本、自分の録音、お手本、自分の録音という順で交互に再生されるため、それを聴き比べることで、自分の演奏を客観的に捉えて上達しようという趣旨の機能なのである。

まずお手本部分が再生される再生が終わると自動的に録音スタート

 ちなみに、ここで録音したデータは、その場限りのものであって、ファイルには保存されない。ファイルに保存したい場合は、通常のレコーディングを行なう必要があるようだ。

 また練習用という点では、本体右側にあるボタンを使って簡単に再生スピードを変更できるのも特徴。50~150%の範囲で変化させることができ、もちろんスピードを変えてもピッチ、フォルマントは変わらないようになっている。ただ、再生スピードを50%まで落としてしまうと、かなり音質が落ちてしまうため、75~125%程度の範囲で使うのが無難なようだ。


■ 自分で録音したタイトルを再生可能な「音声タイトル」機能も

「音声タイトル」機能

 こうした練習機能とは関係ないが、もうひとつほかのレコーダにはないユニークな機能といえるのが「音声タイトル」。前述のとおりXA-LM1はmicroSD/SDHCにレコーディングするのだが、このメディアに何のデータが入っているのか、音声でタイトルを入力できるようになっているのだ。

 そしてこの付けたタイトルはXA-LM1にメディアをセットするとスピーカーから再生されるため、何を録音したメディアなのか、中身を聞かなくてもすぐに分かるし、PCでわざわざタイトルを入力する必要もなく便利というわけだ。こうした点からも初心者用、または年配者向けとしてうまく設計できているように思える。

 以上、XA-LM1についてみてきたがいかがだっただろうか? レコーディング用途としてみると、性能的に見て少し苦しいところがあるのは事実だが、レッスン用の機材と考えると便利に使えそうだ。

 楽器を習っているのであれば、先生がお手本を弾くところを録音し、自宅に持ち帰って練習するというのにもいいだろう。価格的にも手ごろなので、ピアノ教室やギター教室、また比較的年配者を対象にする三味線教室といったところで注目されるかもしれない。


(2009年 11月 2日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]