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第526回:コルグからDSDネイティブ対応USB DACが登場

〜ASIOとAudioGateを連携。開発の背景を聞く 〜


 コルグからDSDファイルのネイティブ再生ができるUSB DAC「DS-DAC-10」が発表され、11月中旬に発売される。今年に入ってから国内外のメーカーからDSD対応製品が次々と発表される中、ついに長年DSDに積極的に取り組んでいるKORGからもUSB DACが登場したといった印象だ。価格的にも実売で50,000円前後とのことなので、すでに発表されている製品と比較しても手ごろ。

 とはいえ、まだDSDネイティブ対応のUSB DACは、ドライバや設定やソフトの環境などの面で、分かりにくい点が多いのも事実。そこで、このDS-DAC-10とはどんな製品であり、他社製品と何がどう違うのかなどを、製品の企画・開発担当者に話を伺った。対応してくれたのは開発担当マネージャーの永木道子氏、開発担当の石井紀義氏、そして企画担当の坂巻匡彦氏の3人だ(以下、敬称略)。

DS-DAC-10 左から坂巻氏、石井氏、永木氏


■ AudioGateを活かし、使いやすいプレーヤーに

――以前から話題になっていたDSDネイティブ再生に対応したUSB DAC、DS-DAC-10。改めてこれがどんな製品が、どんな背景で開発されたのかを教えてください。

坂巻:コルグはプロフェッショナルユース、ということで録音した音の再現性が非常に高い1bitオーディオに力をいれてきました。お蔭様で当社のMRシリーズの音は大変高く評価されてきたのですが、当社として少し想定外だったのは、オーディオ系の方々へのウケが非常によかったことです。実際、e-onkyo musicやOTOTOYなどで配信されているDSDの楽曲をMRシリーズで聴くという人が多数いらっしゃるのです。一方でプロのレコーディングエンジニアなどからも、録音した音をプレイバックできる機材が欲しいという要望も寄せられていました。そもそも、DSDのデータはPC内にあるわけですが、これをネイティブに再生できる機材を出そうといって開発したのがDS-DAC-10なのです。


坂巻匡彦氏 リアはシンプルにUSB端子とデジタル出力、アナログのステレオ出力があるのみ

永木:実はとりあえず再生できる機材を作ってみようと、昨年の4月ごろに試作機を作っていました。当時は、とくに商品化といったことは考えてもいなかったのですが、開発用のツールとして利用していたのです。ところが今年5月にあった「春のヘッドフォン祭」でこれを参考出品してみたところ、非常に評判がよくて驚きました。


永木道子氏 シルバーが試作機、黒がDS-DAC-10

坂巻:僕自身は、もう少しいろいろと工夫すべきところがあるとは思っていました。たとえば、液晶表示を搭載するとか……。ところがヘッドフォン祭にいらしていたお客さんの要望を聞くと、とにかくこのまま出して欲しいという声が多かったので、本当に試作機をそのまま製品化してしまいました(笑)。まあ、正確にいえばシルバーのボディーをブラックにし、ジャックをしっかりしたものにするとともに、ノブをちょっと大きくしたというくらい。サイズ的には横幅が少しだけ広がりましたが、中身は試作機そのものです。

永木:あとはボリュームをデジタルコントロールのボリュームに変更したくらいですね。

――なるほど、試作機をそのまま製品化したということは分かりましたが、そもそもこれはどんなコンセプト、仕様の製品なのですか?

坂巻:MR-1000、MR-2000Sの音をそのまま再現できるようにするとともに、より使いやすく気軽に再生できるようにする、というのがコンセプトです。だから2つの製品と同じDACを採用しており、出力回路もMR-1000とMR-2000Sの中間のような回路となっています。ハードウェアはこれらの製品と同じエンジニアが設計しています。

石井:はい、MR-2000Sで録った音をそのまま聴けるようにし、できる限り同じ回路にするようにしました。「気軽に」という部分ではAudioGateとのマッチングをよくし、できるだけ、誰もが使いやすいものにしました。

石井紀義氏 AudioGate

――なるほど、データの再生はAudioGateを使うわけですね。以前、DSDネイティブ再生できる他社のUSB DACを使いましたが、なかなか設定が難しく、再生できる環境に整えるのにちょっと苦労した覚えがあります。このDS-DAC-10はその点はどうなのでしょうか?

坂巻:そうですね、最近になってDSDネイティブ再生できる機材がいくつか出てきましたし、我々もチェックはしています。しかし、まず設定が大変なので、一般ユーザーにはかなりハードルが高いという印象を持っています。そうした難しさを排除し、AudioGateをインストールすればすぐに動くように、使いやすさという面で注力しています。そのためにドライバ開発と、ファームウェア開発にこだわりました。結果としてこれをASIOドライバ対応させています。

――既存製品の多くはDoP(DSD over PCM)対応ですよね。

AudioGateの設定画面

石井:そうですね。DoPはPCMにDSDを通す手法であり、注意が必要な面も多々あります。もし、何かで音の流れにトラブルが生じると、それを受け側のオーディオ機器やスピーカーで対応させるのは困難なので、機器にダメージを与える可能性も考えられます。そうしたことにならないよう、安全に管理できるASIOを選択するとともに、それに対応するアプリケーションであるAudioGateとの連携をしっかりさせているのです。

――DSDが通るASIOというと、ASIO 2.1ですよね。DTM系の機材では現在もASIO 2.0が使われており、ASIO 2.1はソニーのVAIOでのSound RealityつまりDSDサポートの終了とともに終わってしまった印象があります。これを改めて復活させたということですよね。でもアプリケーションは、当時のVAIOに搭載されていたSonicStage Mastering StudioやDSD Direct Playerくらいしかないのではないですか?

石井:foober2000やHQPlayerでも対応しているようです。foober2000の場合はプラグインをインストールするなど結構大変ではありますが、実際にこれらのソフトでDS-DAC-10を鳴らすことはできました。ただし、ここで再生できるのは2.8224MHz(以下2.8MHz)のデータまでのようです。DS-DAC-10は5.6448MHz(以下5.6MHz)にも対応しており、AudioGateを利用すれば、5.6MHzのデータの再生も可能になります。

――でも、昔のVAIOやDS-DAC-10以外でASIO 2.1に対応している機材ってあるのでしたっけ?

コルグのスタジオにある、DSDのマルチトラックのレコーディングシステム

坂巻:VAIOを別とすれば、最初に実現したのは当社が開発したMR-0808UとClarityのセットだと思います。これは、2010年にアメリカ・サンフランシスコで行なわれたAESショーで参考出品したDSDのマルチトラックのレコーディングシステムです。結局、これはそのまま市場に出すにはまだ早いという判断から製品化はしておらず、当社が運営しているレコーディングスタジオにおいて利用いただけるような形にしております。その後、他社でもMYTEK DIGITALなどが対応させているようなので、必ずしもDS-DAC-10のみというわけではないですね。



■ DoPは「あえて対応しない」

――DSDファイルが再生できるプレイヤーとしてAudioGateが幅広く使われていますが、考えてみればこれまではDSDファイルをPCMに変換して再生させるものでした。でも、これはDSDのまま再生することもできるわけなんですよね。

石井:はい、今回AudioGate 2.3になり、DSDネイティブ出力に対応します。もちろん、従来と同様にPCMで再生することも可能であり、これまでのAudioGateの使い勝手をそのままに、DSDリアルタイム変換とDSDネイティブ対応の機能を追加しています。

――AudioGate 3.0ではなくて2.3とは、また控えめなバージョン番号ですね(笑)

石井:3.0については、すでに次のことを考えていますので! DSDリアルタイム変換というのはCDやWAVなどのPCMデータをリアルタイムに2.8224MHzや5.6448MHzといったハイレゾリューションのDSDへ変換し、再生させようというものです。

――それこそ先ほどのVAIOに搭載されていたDSD Direct Playerのような機能ですね。確か、当時ソニーもCPUパワーと処理速度についていろいろと苦労されていたようです。演算量が多くなれば音質も向上するというような説明を聞いた覚えがあります。

石井:そうですね、演算処理を多くすることで音質を向上させることは可能になりますが、その分CPUパワーを喰うので、マシンスペックが低いとリアルタイム処理ができなくなってしまいます。そこで、AudioGate 2.3では2つの変換アルゴリズムから選択できるようにしました。ひとつはCPU負荷の軽い変換アルゴリズムで、もうひとつはより高音質な変換アルゴリズムです。Core2Duoクラス以上であれば、高音質な変換アルゴリズムをリアルタイム変換で使えるはずです。ぜひ、この機能を利用して、CDのアップサンプリング効果を楽しんでもらえればと思っています。

――話がまた戻ってしまいますが、DS-DAC-10がASIO 2.1対応であることは分かりましたが、DoPにも対応しているのですか?

永木:いいえ、DoPにはあえて対応させておりません。先ほどの話のとおり、DoPは色々注意が必要な仕様であり、弊社の判断として対応を避けました。単純に考えても、DSDの再生をプレーヤー側でポーズ処理をして、止めるだけでも、危険です。もしもずっと0が出力されるとしたら、とんでもない音になってしまう可能性がありますからね。このようなポーズ一つとっても、AudioGateとDS-DAC-10の組み合わせにおいては、きちんとフェードアウト処理をかけるなど、細かな対応をしているのです。

坂巻:ただDoP非対応のデメリットとして大きいのは、Macに対応できないことですね。Macの場合、現在オーディオドライバはCoreAudioだけでASIO対応はしていません。

――なるほどよく分かりました。こうした高音質でかつ、扱いやすいDSDネイティブ対応DACが5万円で登場してくれたことは、非常に大きな意義がありそうですね。改めて、これをどんな人達に使ってもらいたいと思っているのでしょうか?

坂巻:大きく分けてユーザーは3タイプだと考えています。まずはこれまでMR-2000Sなどを使ってくれていた方がプレイバック用として利用するというもの、そしてe-onkyo musicやOTOTOYなどを利用するHiFiなオーディオファンがDSDを再生するときに利用するDACとしてです。そして3つ目は1bitの力でCDをよりいい音で再生したいというDSDライトユーザーです。まずは、CDやPCMファイルのリアルタイムDSD変換再生から入りつつ、DSDの音の良さを存分に味わってもらえるよう活用いただけたらいいなと思っています。

――ありがとうございました。


(2012年 10月 29日)

= 藤本健 =  リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by 藤本健]