藤本健のDigital Audio Laboratory

第533回

続々登場のDSD対応USB DACを支える会社とは?

キー技術を各社に提供するシステムハウスに聞く最新事情

 ここ最近、DSD対応のUSB DACが続々と登場している。確かにe-onkyo musicやOTOTOYなどがDSDの配信を強化しており、コンテンツがそろってきたというマーケット上の理由もあるのだろうが、なぜ急に増えてきたのかはちょっと不思議にも思うところだ。

 DSDを採用したSACDは1999年に登場しているし、2005年のVAIOにはDSDを再生できるソフトやハードを備えていたのに、その後ほとんど製品が存在していなかったのだ。それがなぜ、ここにきて急にいろいろと登場してきたのか。その背景にはある日本のシステムハウスが作り出した技術があったのだ。もちろん、すべての製品がこのシステムハウスの技術を使っているのかは分からないが、この技術がキーになって多くの製品が登場してきたことは間違いなさそう。

 そのシステムハウスとは、東京都立川市に東京技術センターがあるインターフェイス株式会社。ここに取材することができ、いろいろと話をうかがってきたので紹介してみよう。今回対応してくれたのは技術部課長の根岸智明氏と第1営業部主任の守屋光海氏のお2人だ(以下、敬称略)。

根岸智明 技術部課長
守屋光海 第1営業部主任

USBで10年培った技術をオーディオに活用

同社の東京技術センターで話をうかがった

 実は、このインターフェイスという会社を知ったのは、今年の5月。20数年前のパソコン通信仲間の同窓会を久しぶりに開いた際、某大手メーカーの友人から「USBオーディオの技術を持っているすごい会社があるから、一度会ってみるといいよ」と教えられたのだ。「ぜひ紹介して欲しい」とお願いしたものの、お互い忙しく半分忘れかけていたのだが、最近のDSD機器に関する話題の中でもこの会社の名前をよく聞くようになったのだ。

 そこで、先日改めて、彼を通じて、正式に取材を申し込んだところ、あっさりとOKがもらえた。同社のホームページを見ると、本社が長野県諏訪市にあり、東京都立川市に東京技術センターがあるという55人の中堅企業。事業内容を見ても「マイコン応用システム開発・設計・研究、ソフトウェア開発・設計(ファームウェア、ドライバー、アプリケーション)、ハードウェア開発・設計(アナログ回路、デジタル回路)」とあり、とくにオーディオに特化した会社というわけでもなさそうだが、東京技術センターに行き、話を聞いてみると、USB DAC事情に関するあまり知られていない興味深い話が数多く飛び出してきたのだ。

――本論に入る前に、まずインターフェイス株式会社という会社概要について簡単に教えてください。

インターフェイスのホームページ

守屋:当社は1984年に設立した会社で現在約50人の規模となっています。もともとマイコンを使ったシステム開発を行なうところからスタートし、ファームウェアやドライバのソフト、また電子基板の受託開発を行なってきています。当初は本社のある諏訪ですべてを行なっていましたが、東京でのニーズが増えてきたため、東京技術センターを作り、現在、技術開発は基本的に東京、製造は諏訪でという分業になっています。そのためオーディオ関連の開発も東京で行なっています。

――オーディオ系だけを専門にしているわけではないのですよね?

守屋:分野的には幅広く扱っており、マイコンを使うものであれば何でもやっています。その中のひとつが、オーディオ、音楽となっています。ただ、USB技術については比較的早い時期から会社の意思として強力に取り組んでいこうと開発をしてきた経緯はあり、さまざまなミドルウェア、ドライバを作り、多くの機器に納めてきました。

――オーディオについてはいつごろ、どんなキッカケだったのですか?

守屋:2007年ごろ、ある展示会でお会いしたお客様から、「WindowsのUSB Audio Class 2.0のドライバが作れないか? 」と持ちかけられたのです。正直なところ、USBはいろいろと取り組んできたものの、オーディオはやったことがなかったのですが、それをキッカケに取り掛かったのです。

根岸:USBについては10年近い経験もあり、他社にはない知識、技術力があると自負していたのですが、このオーディオ、当初は大変でした。実際のところ、本当にいろいろと調べながらの試行錯誤で、開発現場的には、かなりの産みの苦しみがありました。結果的には約半年ほどで完成させることができました。

――それはWindows用という理解でいいですか?

ITF-Audio for Windows

根岸:そのとおりです。USB Class Audio 2.0はMacについては標準ドライバで動作しますからWindows用のものを作っており、ASIOドライバとUSB Audioカーネルドライバを提供しております。評価ソフトとしてはSteinbergのCubase5を使っておりましたが、一般的なカーネルストリーミング方式のASIOドライバと比較して、平均で4msec程度レイテンシーを詰めることができるのが特徴で、これを2009年に納品したのが第1号になります。それが当社製品としての「ITF-Audio for Windows」というものです。

――ちなみにその納品先というのはどちらになるのでしょうか?

守屋:NDA(秘密保持契約)があるので、社名を申し上げることはできませんが、国内の楽器メーカーで、エフェクタやミキサー用として提供させていただきました。

――製品ということは、ここで開発したドライバをソースコードの形でその楽器メーカーに提供したわけではないという理解でいいですか?

守屋:そうですね、提供しているのはバイナリファイルおよび、ユーザーマニュアルという形です。インストーラも含め当社のほうで開発をおこなっています。この製品を横展開していこうと、他の楽器メーカーのミキサーなどの製品への転用を狙っていたのですが、そちらのほうはなかなか広がりが見れなかったというのが実情です。ところが、2010年春くらいに、いわゆるHi-Fiオーディオを扱うお客様から、アシンクロナス(Asynchronous=非同期)通信ができて、24bit/192kHz、32bit/192kHzをビットパーフェクトで再生できるASIOドライバを……という要望をいただくようになったのです。その結果、ITF-Audio for Windowsを、現在多くのオーディオ機器メーカーさんとお取引させていただいております。

――ということは、普段、何気なく使っているUSB DACのドライバの中にはインターフェイス製ドライバが結構あるということですね。

守屋:そうだと思います。そうした営業活動をしている中で、2010年の夏ごろだったでしょうか、「これからDSDが流行るから、それをUSBで鳴らす方法はないだろうか? 」とあるお客様から相談を受けたのです。ちょっと調べてみたところ、一筋縄ではいかなそうだし、マーケットニーズについてもハッキリは分からなかったのですが、ダメ元で技術に投げてみたのです。

根岸:ITF-Audio for WindowsはUSB Audio Class 2.0という標準のハードウェアがあり、お客様側の作ったハードで動作するドライバを開発していくという形であったの対し、DSDについてはハードが存在しないので、そこから着手する必要がありました。またこれまでの開発経験から、技術的要素はある程度分かっていましたが、今までとはかなり違う流れであるため、当初、うまくまとめ上げることができるかな、という不安はありました。

――2010年、2011年というとDSD再生可能な機材が海外でちょっと出てきたころですよね? でもドライバとの受け渡しとして、Playback Design方式だとかdCS方式だとか、ぐちゃぐちゃしていたころでした…。

守屋:そうですね、その後これらがまとまってDoP(DSD Over PCM)となっていったわけですが、われわれが取り組みはじめたのはdCS方式が出てくる前の段階でした。もともとASIOの経験を持っていただけに、まずはASIOに取り組んでいて、とりあえず音を出すこと自体は2011年末には成功していたのです。ただ、dCS、DoPといった規格が出てくると「そちらに切り替えたほうがいいのか? 」、「ホントにDoPが主流になるのだろうか? 」と社内でもいろいろと議論していました。

根岸:問題としてあったのは、ASIOは非常にいい規格ではあるけれど、Macで使うことができないという点でした。MacでDSDを鳴らすには、DoPを使わざるを得ないのです。そのためASIOでもDoPでもどちらでも選択できますよ、という形で作っていったのです。

守屋:このようにして、ようやく製品化できたのが今年の2月です。それ以前からデモ機を使って営業活動は行なっていたのですが、2月時点から供給可能になったので、そこからお客様側での開発がスタートし、製品化できたのが今秋のタイミングだったということだと思います。

アナログ部分が各社の大きな違いに

――先ほどの話のITF-Audio for Windowsにおいては、製品としてはドライバということでしたが、このDSDのソリューションというのは、どういう製品になるのですか?

守屋:こちらは製品名としては「ITF-DSD vis USB」となっており、基本的にはハードとソフトのセットとなっております。当社で開発した専用のデジタルハードウェア、それを動かすためのファームウェア、さらにドライバという組み合わせですね。ですからお客様のほうでは、アナログ回路を作っていただければ、DSD対応のUSB DAC製品が完成するわけです。製品スペック的には、表のようになっています。

ハードの表と裏
製品スペック

――ということは、インターフェイス社のソリューションを使っているハードウェアを開ければ、この基板が入っているわけですね。

守屋:当初はそのつもりだったのですが、お客様からもいろいろと要望があり、少し製品構成を変更しました。基本的にはこの基板を提供するのですが、そのほかにファームウェアを焼いたチップを供給するという方式、さらにはファームウェアのプログラムだけをお渡し、お客様側で焼いてもらうという方式の3つです。

――この場合、ソースプログラムは渡しているのでしょうか?

守屋:いいえ、納品させていただくのはあくまでもオブジェクトプログラムになっており、なんらかの仕様変更をする場合は、当社側でということになります。ドライバのほうも同様でインストーラ付のプログラムファイルを納品しております。

――すごいですね。ということは、各メーカーが行なっているのはアナログ回路と筐体のデザインであって、仕様は各社とも同じである、と。完全にコア部分をすべてインターフェイス社が握っているということですね。

守屋:仕様がすべて同じになるかは分かりません。当社としては、フルスペックを納めますが、そのすべて入出力を使うかどうかは、お客様次第。チャンネル数やS/PDIFを利用するかなどで違いが出てくると思います。また、音決めはやはりアナログ部分であり、当社が作っているのはあくまでもデジタル回路部分のみです。したがって、アナログ部分は各社それぞれであり、非常に大きな製品差別化のポイントになると思います。

――ちなみに、採用しているコントローラチップは何になるのでしょうか?

根岸:TIのTMS320C674xというものになります。これをそのファームウェアでコントロールしているわけです。DSDとしては2.8MHzも5.6MHzも扱えます。またPCMも当然扱うことができ、24bit/192kHzさらには32bit/384kHzなどのやりとりも可能です。さらに入力もサポートしているので、オーディオインターフェイスとして活用することもできる仕様になっているので、どのようなスペックの製品にするかはお客様次第ですね。

3つの設計事例

――もうひとつユーザーとして気になるのは、プレーヤーソフトについてです。これについては、どう考えていらっしゃるのでしょうか?

ITF-Audio ToolkitはWindows用/Mac用を用意

守屋:当初はDSDについてはfoober2000などのソフトで再生することを想定していました。しかし、foober2000はかなり不安定な面もあるし、これをDSDで再生するためには、プラグインが必要であり、それぞれ開発者が違って、どこに責任があるのかなどがハッキリしません。設定も一般ユーザーには難しい面などもあるため、お客様側からは「簡単にDSD再生できるアプリケーションが欲しい」という声がありました。

 そこで、DSD再生アプリケーションも用意しました。それが「ITF-Audio Toolkit」というもので、Windows用、Mac用の両対応としました。WindowsはASIOとDoPのそれぞれが使えるようにし、Mac用ではDoP対応となっています。ただし、アプリケーションのGUIはお客様側で自由に開発可能という仕様になっているため、エンドユーザーからは同じものだとは分からないと思います。

――なるほど、それで各社からASIO対応プレーヤーやDoP対応プレーヤーが同時に出てきたというわけですね。やはり、これもソースコードは渡していないわけですよね?

守屋:そうですね。GUIを開発するためのサンプルソースコードは提供していますが、コアとなる通信ライブラリについては、バイナリオブジェクトとしての納品となります。

――ここで1つエンドユーザーとして気になることがあります。いくらアナログ回路が違い、見た目のデザインが違うといっても、これを使った機材はPC側から見れば同じデバイスですよね? ということはA社製品のドライバとプレーヤーソフトをインストールしたマシンにB社製品を接続しても、普通に動いてしまうということですか?

守屋:これはDSD製品だけでなく、先ほどのUSB Audio Class 2.0の話でも同じなのですが、USB製品に埋め込まれているメーカーのベンダーIDをチェックする形になっているので、当社製品を使っているデバイスであっても、基本的には動かないようになっています。

根岸:USB Audio Class 2.0の製品では、お客様側のインプリメントのミスで、他社製品でも動く状態のものもいくつかあったようですが……。

――徹底した管理がされているんですね。Windows8でも標準ドライバにUSB Audio Class 2.0搭載はされませんでしたが、1社のドライバをインストールすれば、どれでも使えるようになるのでは……と考えていたのは甘かったわけですね(笑)。別の見方をすると、A社とB社の製品を持っている人が、両方のドライバをインストールしたり、両方のハードを接続してトラブルにはならないのでしょうか?

根岸:両方を接続しても問題が起こらないようにし、エンドユーザーの混乱が起こらないような仕組みにしてあります。

サラウンドやUSB 3.0への対応は?

――最後に今後の展開についていくつかお伺いします。現在の仕様ではDSDはステレオ2chの出力となっていますが、今後サラウンドへの対応などはいかがでしょうか?

根岸:転送レートなどの問題があるので、確実なことはまだ言えませんが、できるだろうと考えております。

守屋:とはいえ、当社はあくまでもお客様ありきでの開発を行なっている企業なので、まだしばらくはDSDが本当に普及していくのか様子見だろうと思っています。

――USB 3.0対応のデバイスやThunderbolt対応のオーディオデバイスというものを開発していく予定はありますか?

守屋:まだお客様から直接のニーズとしては出てきていませんね。また技術的にも安定していない状況ですので……。

根岸:これはPCに依存する話だろうと思っています。以前は標準であったRS-232CのインターフェイスがなくなってUSBへと移り変わっていったのとおなじように、通信のインターフェイスもいずれ変わっていくと思います。それに伴いそのタイミングで変わっていくのだろうと思います。

――顧客は日本のメーカーがほとんどのようですが、海外への展開はされないのでしょうか?

守屋:現在のところ国内のみで、海外へという展開は考えておりません。これはオーディオに限らず、当社製品のすべて同様です。

――反対に海外を含め、同様のソリューションを持っている競合他社というのはないのですか?

守屋:国内でUSBベンダーはいますが、オーディオをやっているところというのは聞いていません。いっぽう海外では3、4社あるようですね。ただ、海外から技術を買うとすると、開発だけでなく、サポートの面で大変になると思いますし、そこが当社の強みだと考えております。たとえば何かトラブルがあった場合、日本では平日であっても、向こうはクリスマス休暇で1週間放置されてしまうというケースもあるでしょう。当社は、そうしたケースでは場合によっては、お客様の現場に乗り込んで、問題点の切り分けを行なったりもしています。

――なるほど、よくわかりました。今後の技術開発、製品展開を楽しみにしております。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto