藤本健のDigital Audio Laboratory

第538回:コルグとローランドのNAMM新製品をチェック

第538回:コルグとローランドのNAMM新製品をチェック

MS-20 miniやKAOSSILATOR新製品、CAPTURE最上位など

 世界最大の楽器の展示会、NAMM SHOW 2013がアメリカで開催されてから半月。日本でもNAMM製品のお披露目会ともいえる発表会を先週コルグ、ローランドがそれぞれ行なった。日本メーカーの2社がどんな製品を発表したのか見てきたので、紹介していこう。

コルグの発表会
ローランドの発表会

コルグはアナログシンセ「MS-20」の復刻版やKAOSSILATOR新機種など

 まずはコルグの発表会から。筆者自身はNAMM SHOWには行っていないので、期間中は、TwitterやFacebookのタイムライン、またニュースサイトの情報などを追いかけていたのだが、やはり最大のニュースになっていたのは、コルグのMS-20 miniだったように感じた。今年50周年を迎えたコルグが、35年前に発売したアナログシンセサイザ、MS-20をそのまま復刻したのがMS-20 miniなのだ。

 これまでもMS-20はコルグの自らの手によっていろいろと復刻されている。その最初は2004年にソフトシンセとしてリリースしたKorg Legacy Collectionであり、このDigital Audio Laboratoryでも記事にしている。単にソフトシンセとして復刻させただけでなく、MS-20 ControllerというUSBフィジカルコントローラをバンドルし、MS-20さながらの操作ができるというのが大きな売りになっていた。さらに、一昨年にはiMS-20というiPad用のソフトシンセをリリースするなどしていたのだが、ついに今回、原点に立ち戻り、シミュレーションではなく、本物のアナログシンセサイザとして復元してしまったのだ。本体の説明書も35年前のものをそのまま復刻といったこだわりようだ。

MS-20 mini
説明書も当時のものを復刻

 大きさは当時のMS-20の約86%のサイズと、若干小さく、鍵盤が奥行きの長いミニ鍵盤となっているが、中の回路は本当にアナログ。さすがに35年前の部品すべてが手に入る状況ではないので、ある程度のアレンジはしているようだが、できる限りそっくりに再現できるように、トランジスタやコンデンサ、抵抗などの部品を吟味に吟味を重ねて設計したのだそうだ。しかもその再現にあたったのは、35年前にMS-20を設計した2人。

西島裕昭氏

 そのうちの1人、西島裕昭氏も展示フロアに来ていた。少し話を伺ったところ、「オペアンプは当時使っていたJRC(新日本無線)のNJM4558が、今でも入手できたので、これを採用しました。4558は互換品がいろいろなメーカーから出ていますが、聴き比べたみたところ、やはりJRCのがベストなんですよ」と嬉々として語ってくれた。トランジスタなどの部品の話に入っていくと、立ち話ではもうメモし切れないほどだったし、ほかにも多くのメディア関係者、代理店の方々が待ち構えていたので、いったん切り上げて、改めてのインタビューを約束してきた。ぜひ、近いうちにMS-20 miniの開発インタビューを実現させたいと思っている。なお、MS-20 miniの発売は4月中旬の予定で、価格は52,290円。すでにネットショップなどでは42,000円前後での予約を開始しているようだが、かなり品薄が予想される。入手したい人は早めの予約が必要かもしれない。

 そんなアナログシンセサイザと対比するようで面白いシンセサイザ、KingKORGも発表された。こちらはステージで使えるように設計された、アナログ・モデリング・シンセサイザだ。そう、こちらはデジタル技術でアナログシンセサイザをモデリングするタイプのもので、MS-20はもちろんのこと、MoogやOberheimなどのビンテージシンセの音を再現させている。

 3オシレーター×127タイプという構成で、真空管ドライバー回路なども搭載されている。また16バンドのボコーダーとしても使用することができ、MS-20などのリアルなアナログシンセをコントロールすることができるCV/GATE OUT端子が装備されているのもユニークなところだ。CV信号もOct/V、Hz/V、2Oct/Vから選択でき、他社アナログ・シンセとの互換性も備えている。こちらは2月23日発売予定で、価格は126,000円となっている。

KingKORG
CV/GATE OUT端子を備える

 KORGの大人気製品、KAOSSILATORやKAOSS PADにも新製品が投入された。

 2010年に登場したKAOSSILATOR PROをさらに進化させたのが、KAOSSILATOR PRO+だ。まったく楽器の演奏ができない人でも、タッチパッドに触れるだけで自由自在に、カッコいいフレーズでのシンセサイザの演奏ができるというコンセプトはそのままに、多彩なジャンルの音楽に対応できるサウンドプログラムを追加し、全250種を搭載。直感的にパフォーマンス/トラック・メイクができるループレコーディング機能も健在だ。手のひらサイズのKAOSSILATOR2との連携も可能となっている。

 一方、エフェクトとサンプラー機能を持つKAOSS PAD KP3をバージョンアップしたのがKAOSS PAD KP3+。タッチパッドで操作するUIはKAOSSILATOR PRO+と同様だが、こちらはエフェクトをリアルタイムにコントロールするというもの。DJミックスや音楽制作にマッチするエフェクトプログラムを新規42種を含む全150種を搭載している。

 KAOSSILATOR PRO+、KAOSS PAD KP3+ともに2月23日の発売で、価格はそれぞれ50,400円、42,000円となっている。

KAOSS PAD KP3+(左)とKAOSSILATOR PRO+(右)
KAOSSILATOR PRO+
KAOSS PAD KP3+

 さらにWAVEDRUMも新バージョン、WAVEDRUM Global Editonが登場した。その名のとおり、世界中のさまざまなパーカッションを搭載したパーカッションシンセサイザであり、DSP技術による60種類のアルゴリズムに400種類のPCMインストゥルメントを組合せれば膨大なサウンドバリエーションを実現している。1994年の発売当初のオリジナルWAVEDRUMでは100音色だったプリセットが、2009年に復活したWAVEDRUM Orientalで150音色に拡張され、今回のWAVEDRUM Global Editionでは200音色に。またバリューツマミでのプログラムチェンジを行なった場合、読み込みに結構な時間がかかっていたのが改善され、2拍分程度の時間で切り替えられるようになった。これはすでに2月10日発売されており、オープン価格。実売価格を見ると40,000円前後となっているようだ。

 そのほかにもデジタルピアノやポリフォニックチューナー、VOXのアンプやギター、WARWICKのアコースティックベースなども新製品が発表され、なかなか活気のある発表会となっていた。

WAVEDRUM Global Editon
ポリフォニックチューナーや、WARWICKのアコースティックベースなどの新製品が展示された

ローランドはCAPTUREシリーズの最上位やコンパクトなギターアンプなど

 もう1社、ローランドの発表会のほうも1つずつ紹介していこう。

 Digital Audio Laboratoryの観点からの最大のトピックスはやはりCAPTUREシリーズ最高峰のオーディオインターフェイス、STUDIO-CAPTUREの登場だろう。計12個のマイク・プリアンプ「VS-PREAMP」を搭載し、最大で24bit/192kHz、16IN/10OUTの入出力を装備したという大規模なUSBオーディオインターフェイスだ。

STUDIO-CAPTURE

 RMEやMOTUなど、多チャンネルの入出力を持つオーディオインターフェイスは存在しているが、ADATでチャンネルを稼ぐのではなく、アナログで多くのチャンネルを持つ機材として稀有な存在といえるだろう。しかも1台のPCに2台のSTUDIO-CAPTUREを接続することができ、この場合は最大で32IN/18OUTが可能になるとのこと。STUDIO-CAPTUREにはBNC端子のWord Clock入出力は搭載していないものの、この2台連携においてS/PDIFを使った接続によってデジタル的な同期を実現する。またこの際、PCからは1つのオーディオデバイスとして見えるようになっているため、クロックについて気にすることなくレコーディングすることが可能になっている。

 形状的にはOCTA-CAPTUREを2台重ねた2Uサイズとなっているが、フルのラックマウントサイズではないというのも1つのポイント。A4ノートPCとセットでリュックに入れて持ち運べるサイズとのことで、スタジオでのバンドの一発録りや、ライブでのレコーディングといった用途を意識したシステムとなっている。

OCTA-CAPTUREとの仕様比較

 OCTA-CAPTUREやQUAD-CAPTUREで好評の入力レベルを自動設定できるAUTO-SENS機能はもちろんSTUDIO-CAPTUREにも搭載。また全入力チャンネルに対するレベルメーターが搭載されているため、視認性もよくなっている。

 ちなみに、VS-PREAMPというのは総称であって、機材によってその性能は異なっているとのこと。STUDIO-CAPTUREに搭載されているものが最高スペックとなっており、OCTA-CAPTUREのものと比較すると、ゲイン幅やヘッドルームなどにも違いがあるようだ。

 このSTUDIO-CAPTURE、発売は3月下旬でオープン価格。実売価格は10万円前後の見込みだ。

DUO-CAPTURE mk2

 もうひとつ発表されたオーディオインターフェイスは、ローランドとしてはローエンドに位置するDUO-CAPTURE mk2だ。従来からあったDUO-CAPTUREと形状は同じだが、USBクラスコンプライアントのモードを備え、iPadとも接続できるようになったのが特徴。

 従来どおり最大24bit/48kHzで2IN/2OUTといったあたりも同じで、USBからの電源供給となる。ただし、iPadからの電源供給では動作しないため、iPad Camera Connection KitまたはLightning-USBカメラアダプタとDUO-CAPTURE mk2との間に電源供給可能なUSBハブを挟む必要がある。こちらは2月下旬発売予定でオープン価格(実売8,000円前後)。

 レコーディング関連のデバイスがあと2つ。PC不要のレコーダ、CD-2u(2月下旬発売、実売60,000円前後)とSD-2u(2月下旬発売、実売45,000円前後)だ。これはこれまであったCD-2iの後継機となるもので、見た目も機能も基本的にはまったく同じもの。ただし、ここに搭載されている信号処理チップをローランド独自のカスタムチップに積み替えたことにより、性能が大きく向上しているという。

CD-2u
SD-2u
搭載チップを変更している

 それが顕著に現れるのがテンポチェンジとピッチチェンジだ。CD-2iではレコーディングした音、またはCDを再生する際にピッチをそのままにテンポを変更することができたが、遅くしていくと、どうしても音が不自然になり、プチプチ途切れたような感じになっていたが、CD-2uでは非常に自然な音になっている。ピッチ変更においても同様だ。

 さらに、センターキャンセルによってカラオケを作るという機能があったが、その性能も大きく向上し、よりきれいにボーカルだけが抜けるようになっている。というのは、従来は左右チャンネルで位相反転させた音をミックスすることでセンターキャンセルを行なうという手法であったため、どうしても位相がずれた妙な音になっていた。しかし、今回のCD-2uでは、ローランドのR-MIXに採用されているV-Remasteringをここにも使っているため、位相をいじることなくカラオケ化を実現し、キレイな音になっているのだ。

 なおSD-2uはCD-2uと機能的にはまったく同じだがSDカード専用モデルとなっているため、CDドライブを搭載していない。その分、価格も安くなっているというものだ。

 ローランドもシンセサイザキーボードを発表している。こちらは完全なデジタルシンセであり、ステージ即戦力重視のキーボード、VR-09(3月下旬発売、実売10万円前後)。ピアノ、オルガン、シンセの音源を備え、音源ごとにブロック化された直感的操作性を実現しているのが特徴。本体に装備されたリアルタイム・パフォーマンス重視の操作子で手軽に音作りができるほか、iPadエディタを利用しての音作りができるのも大きな特徴だ。iPadとの接続はiPad Camera Connection Kitなどを使ってUSB接続で行なうか、VR-09のUSB端子に無線LANアダプタを取り付けることで、Wi-Fiでのやりとりも可能になっている。

シンセサイザキーボードのVR-09
iPadエディタを利用して音作りができる

 さらにテーブルトップタイプのコンパクトなギターアンプのCUBE Lite(2月16日発売、実売15,000円前後)、モニターアンプのCUBE Lite MONITOR(2月16日発売、実売16,000円前後)も発表された。いずれもステレオスピーカーとサブウーファから構成される2.1チャンネルのもので、出力は10W(ステレオスピーカー3W×2ch + サブウーファ4W)、1.7kgという軽量なものだ。ギターアンプであるCUBE Liteのほうは3色のカラーバリエーションが揃い、クリーン、クランチからハイゲインなひずみまでをローランドのモデリング技術、COSMによって実現。一方のCUBE Lite MONITORには空間系エフェクトであるリバーブとボーカル用エコーが搭載されている。

テーブルトップタイプのギターアンプ「CUBE Lite」
モニターアンプ「CUBE Lite MONITOR」

 そして両モデルともにi-CUBE LINKという4極のミニ端子を装備し、iPhoneやiPadなどと接続することによって、iOSデバイスのオーディオインターフェイスとして機能するというのが大きな特徴。たとえばCUBE Liteを使ったギターの演奏をiPhoneに録音したり、任意のエフェクトアプリを経由したサウンドをスピーカーでモニターすることもできる。なお、iPhoneアプリとして「CUBE JAM」が無料配布されており、これを用いることで、iOSデバイス上の音楽ライブラリをバックにギター演奏やカラオケなどを楽しむことができる。この際、センターキャンセル機能によってボーカルを消したり、ソロギターを消すことができるほか、CUBE JAMに演奏結果をレコーディングすることなども可能になっている。

 そのほかにもローランドの発表会では新デジタルテクノロジー「MDP」を搭載したBOSSブランドのギター用コンパクトエフェクトが3種類発表されたり、SuperNATURALピアノ音源を搭載した軽量なキーボード、学校での利用を想定したキーボードなども発表された。

iPhoneアプリ「CUBE JAM」
BOSSのギター用コンパクトエフェクト

 以上、コルグおよびローランドの発表会の内容を紹介してみたがいかがだっただろうか?なかなかユニークな製品がいっぱいだが、この中からMS-20 mini、またSTUDIO-CAPTUREなどは改めて詳細な内容を記事にしていく予定だ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto