藤本健のDigital Audio Laboratory

第591回

Thunderbolt接続のハイレゾ対応オーディオ、ZOOM「TAC-2」が生まれた理由

TAC-2

 ズーム(ZOOM)から、Thunderbolt対応のオーディオインターフェイス、TAC-2が間もなく発売される。USBオーディオインターフェイスが大半を占める中、最近になっていくつかのメーカーからThunderbolt対応製品が登場してきたばかりで、国内メーカーとしては、TAC-2が初。2IN/2OUTで、192kHz/24bitというTAC-2は、DTM市場だけでなく、PCオーディオ市場も意識して製品化したというもの。実際、どんなものなのか試してみるとともに、ZOOMの開発担当者に話を聞いてみた。

TAC-2を実際にセッティングしてみた

iPhone 5s(右)とサイズ比較

 ZOOMが発売するTAC-2はデスクトップに置くタイプのコンパクトなオーディオインターフェイス。AppleとIntelが共同開発した新世代の高速汎用データ伝送I/OであるThunderboltに対応したものだ。Thunderboltに対応する周辺機器はまだ一般的にも少なく、HDDやSSDなどのストレージデバイス、モニターディスプレイ、ビデオキャプチャシステムといったものがある程度だろう。そうした中、オーディオ系デバイスとしては、Universal AudioがApolloという製品を2年前に出して以来、どこも手を付けていなかったのが実情だった。

 しかし'13年秋にLynx Studio TechnologyがAurora TB、Hilo TBの2製品、そして今年1月のNAMM SHOWで新たに3製品が発表になり、にわかに活気づいてきた。その3製品とはUniversal AudioのApollo twin、MOTUが828x、そしてZOOMのTAC-2の3つ。中でも断トツに低価格な製品がTAC-2。他製品が8万円〜30万円程度であるのに対し、TAC-2の価格は38,000円。これなら手が出せる範囲内であり、より興味も湧くところ。ZOOMにお願いして、発売前のTAC-2を借りてみた。

 実物を見ると、なかなかコンパクトでありながらも、アルミのガッチリしたボディ。フロントの左にはヘッドホン出力、右にはINSTRUMENT(ギター)入力=Hi-Z入力がある。またリアにはコンボジャックによるTRS/XLRの入力が2つ、そしてTRSによる出力が2つあるが、2IN/2OUTという仕様であるため、フロントの入力かリアの1chの入力かは排他となり、フロントにケーブルが刺さっていればそちらが優先される形だ。また、電源はThunderboltからの供給となり、ACアダプタなどは不要だ。

側面
前面
背面

 Thunderboltのオーディオインターフェイスということもあり、対応しているのはMacのみ。手持ちのMac miniにドライバ、ユーティリティアプリケーションであるTAC-2 MixEfxをインストールの上、TAC-2を付属のThunderboltケーブルで接続してみたところ、あっさりと認識され、普通に使うことができる。ケーブルこそ異なるものの、USBオーディオインターフェイスを使うのと、特に違いもなく、特に戸惑うことがない一方、これだけだと驚きもない、というのが正直なところ。

ドライバのインストール画面
ユーティリティアプリケーションのTAC-2 MixEfxもインストール
TAC-2を付属のThunderboltケーブルで接続
TAC-2 MixEfxの画面

 TAC-2をフルコントロールできるという専用ソフトのTAC-2 MixEfxを起動してみると、これは秀逸。大きく分けて左が入力、右が出力となっている。本体のトップパネルのコントロールノブが入力ゲインと連動しており、ノブを回すと画面左上のマイクプリアンプのゲインも動くようになっている。またこのコントロールノブはプッシュ式になっており、モードを切り替えることでメイン出力音量の調整用、ヘッドホンモニター音量の調整用にも使うことが可能になっている。またこのプッシュ操作でファンタム電源のON/OFFも可能になっていた。

 TAC-2 MixEfxを使うことで、入力チャンネルのレベル調整だけでなく、位相反転をしたり、ローカットフィルターを有効にしたり、入力ゲインを自動調整できるようにするなど、本体だけではできない操作も可能になっている。さらに、ループバック機能も用意されており、これをONにすることでMacの再生音をミックスすることも可能になる。Ustreamやニコニコ生放送といったネット放送用途で使える機能だ。さらに、MixEfxという名称からも想像できるように、ここにはエフェクトも装備されている。

レベル調整、位相反転、ローカットフィルターなどが利用できる
ループバック機能を装備
エフェクトも備える

 エフェクトはリバーブ、エコーで、ルームリバーブ、ホールリバーブ、プレートリバーブとエコーのそれぞれ2種類ずつの計8種類。これはモニター用のエフェクトとなっており、レコーディングの際、リバーブを返しながらモニターできるけれど、DAW側にはエフェクトの入っていない素の音でレコーディングし、後で細かくエフェクトをかけて調整する……といった用途にはピッタリだ。

 試しにCubase7を使ってオーディオインターフェイスにTAC-2を指定してみたところ、簡単にセッティングすることができた。

Cubase7を使ってオーディオインターフェイスにTAC-2を指定すると動作した

Thunderboltを採用するメリットとは?

 さて、そんな2IN/2OUTのシンプルなオーディオインターフェイスだが、そもそもThunderbolt対応であることはどんな意味を持つのだろうか? ZOOMでTAC-2の開発を担当したI氏に、いろいろと話を伺ってみた。まずは、今回TAC-2を開発することになった経緯から聞いてみた。

 「当社では、これまでにエフェクタやレコーダ製品の付加機能としてオーディオインターフェイス機能を搭載したモデルを発売してきましたが、コンシューマーやディーラーから『ぜひZOOMブランドでオーディオ・インターフェイスの専用機を発売して欲しい』という声が聞かれるようになってきました。しかし、すでにUSBやFirewire対応のオーディオインターフェイスは各社から多数発売されていますので、新しく登場した最先端の高速インターフェイス規格のThunderboltを採用することにしました。規格の変わり目であるこのタイミングをビジネスチャンスと捉え、2013年初頭から情報を集めはじめました」とのこと。

 当初は、Thunderboltに関する情報そのものが少なく、詳細な規格がどうなっているのか、どこで対応チップが入手できるのかなど、一つ一つ調べていったそうだ。もちろん、目新しさという面でThunderbolt対応オーディオインターフェイスを作るという意味は分からないでもないが、192kHz/24bitの2IN/2OUTであれば、転送スピード的にUSB 2.0で十分過ぎるほど。高速であるThunderboltを使うまでもないように思うが、何かメリットはあるのだろうか? これに対して、I氏はオーディオインターフェイスを開発するにあたり、数々の優位点があるというのだ。

 「最大のメリットはThunderboltがPCI-Expressのバス接続と実質的に同じであることです。つまりThunderboltデバイスへのアクセスは、CPUから見てメモリーのリード/ライトという感覚で行なえるので、転送速度が圧倒的に速くなるのです」とのこと。

 そのため、TAC-2上のバッファはサイズは本当に必要最小限であり、サンプリングレートにもよるが、44.1kHzや48kHz動作時であれば2サンプル、それ以上になっても4サンプル、8サンプル程度と極めて少ない。その結果、レイテンシーを非常に小さくできるというのだ。もちろん、PC側でもバッファを確保することになるので、最終的なレイテンシーはPCのバッファサイズとTAC-2上のバッファサイズの総合で決まるが、他社のUSBオーディオインターフェイスと比較しても、最高の数値を叩き出しているという。普段、Digital Audio Laboratoryにおいても、IN/OUT往復でのレイテンシーを計測しているが、TAC-2の場合、Windowsをサポートしていないため、いつものツールが利用できない。ZOOMが社内で測定したところ以下のような結果になっているという。この通りであるとしたら、確かにかなり優秀だ。

ZOOMによるレイテンシー測定結果

44.1kHz → 3.0msec
192.0kHz → 2.1msec

 「各社のオーディオインターフェイスを調べた中、RME製品が音質面、レイテンシーの面でベンチマークにするのにふさわしいと考え、これに追いつき、超えることを目指していきました。そしてレイテンシーにおいてBabyfaceを超えることができました」とI氏。確かにこの連載で測定した結果でもRME製品はかなりいい結果を出していたので、TAC-2も期待できそうだ。

 ただ、実は上記の結果よりさらに高速化も可能だったが、あえてそちらを選択しなかったという。「レイテンシーを左右するのは、バッファサイズだけでなく、A/D、D/A変換の処理速度も重要です。それを調査している中、RMEのレイテンシーが小さい理由もここにあることが判明したのです。ただ、社内で音を徹底的に聴き比べた結果、RMEが採用しているものではないもの、具体的にはD/AはAK4396、A/DはPCM4202がいいと判断しました。これらのほうが、RMEが採用しているものよりもスピードは劣るのですが、音がよかったのです」とI氏は自信をもって語る。

 この音のチェックはアドバイザーにレコーディング・エンジニアの行方洋一氏にも加わってもらい、チップの選定を行なったのだ。たとえばFireface UCXの場合、A/D、D/A共通でAK4621EFを、Babyfaceでは、A/DにAK5385、D/AにPCM4104が採用されているが、ここでの処理速度ではやや劣るが、音質を選んだというのだ。

「ジッターの影響を受けない」理由。Windows対応は?

 もうひとつ、ZOOMのカタログを見ていて気になったのが、「Thunderboltテクノロジーを採用したTAC-2はコンピュータのジッターによる影響を受けない」という表現。USBやFireWireはジッターの影響を受けるけれど、Thunderboltは影響がないということなのだろうか? この点についても聞いてみた。

 「これはTAC-2にマスタークロックを置いており、そのクロックで再生したり録音をしている、という意味です」とのこと。ただし、他の製品でもRMEやRolandのオーディオインターフェイスなど、本体内にマスタークロックを持っているものは存在する。その意味では、Thunderboltだけがジッターの影響を受けないというわけではないのだろう。

 とはいえ、Thunderboltの場合、PCI-Expressそのものだから、そもそもバルク転送とかアイソクロナス転送ではなく、デバイスのすべてに直接CPUからアクセスできてしまうため、必然的にクロックを置く必要があり、結果としてジッターフリーが実現できているようなのだ。

 そのほかにも電源という面で、ThunderboltがUSBやFireWireに対して優位な点があるという。確かに、USBの場合、電圧5V±5%、消費電流500mA、消費電力2.5Wが最大と定義されているのに対し、Thunderboltの仕様を見ると最大10Wと、USBの4倍。これは一つのアドバンテージになりそうだ。

 「マイクプリとしてPGA2505というTI/バーブラウンの高性能チップを採用していますが、消費電力が大きいためUSBバス電源供給だとなかなか使うことができません。しかし10Wあれば、これが利用できるほか、コンデンサマイク用のファンタム電源もとれるというメリットがあります」とI氏は言う。

 ただ、Thunderboltの仕様上は10Wとなっているが、実際にはThunderboltケーブルには認証マイコンが搭載されている関係もあり、ケーブル自体が結構な電力を食うのだという。試しにケーブルのコネクタ付近を触ってみると、結構な熱を持っている。そのため10Wをフルに使うことはできないが、それでもUSBと比較すれば圧倒的に大きな電力を使えるというわけなのだ。

 ところで、TAC-2はMacのみのサポートと書かれているが、最近はWindows用のマザーボードでもThunderboltを搭載したものが増えてきている。筆者も愛用しているInterlのベアボーンNUCもThunderboltを搭載しているため個人的にはWindowsへの対応にも期待したいところ。今後、ぜひWindows用のドライバーも出してほしいところだ。その辺の予定はどうなっているのか聞いてみたが、残念ながらWindowsへの対応については現在未定とのこと。

 以上、ZOOMのTAC-2について見てきたがいかがだっただろうか? やはり、開発者だからこそ分かる貴重な情報もいっぱいで、非常に勉強になった。今後、TAC-2がThunderboltオーディオインターフェイスのけん引役として、広がっていくのか見守っていきたい。

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto