藤本健のDigital Audio Laboratory

第612回:ズームのThunderboltオーディオ新機種「TAC-2R」登場

第612回:ズームのThunderboltオーディオ新機種「TAC-2R」登場

各DAWで快適に動作。Yosemiteではノイズ問題も

 ZOOM(ズーム)から、Thunderbolt接続で192kHz対応のオーディオインターフェイスに、早くも第2弾モデル「TAC-2R」が登場した。9月に発売されたTAC-2Rは、5月に記事で紹介していたTAC-2の姉妹製品。価格はTAC-2と同じ38,000円だ。このTAC-2RはTAC-2と何が違うのか、またMac OS Xの新バージョン、Mac OS X Yosemite 10.10で動作するのかなど、チェックしてみた。

TAC-2R

TAC-2と大きく異なるレコーディング向けデザイン。DIRECT MONITORスイッチも

 先日リリースされた新Macを見るとMac miniを含めFireWire端子は完全になくなり、周辺機器との接続端子は基本的にUSB 3.0とThunderboltという構成になった。まだWindows PCではThunderboltが標準とまでは言えないものの、少しずつ増えてきており、オーディオインターフェイスの接続端子としても注目度が高まっている。というのも、ThunderboltはUSBと比較して、供給できる電力が10Wと大きく、とかく電力消費が大きくなりがちなアナログ回路でも十分駆動できる能力を持っているからだ。

 ただ、現時点においてThunderbolt対応のオーディオインターフェイスを出しているメーカーは数少ない。ズームのほかは、Universal Audio、Apogee、MOTU、Lynxといった程度で、国産メーカーとしてはズームのみという状況。また再生専用のDACというのは見かけないし、海外メーカーの製品はかなり高価なものばかり。そのため気軽に導入できるものというと、ズームのTAC-2とTAC-2Rに限られるというのが実態だろう。

 また今のところ、各社製品ともにMac専用のものが大半であり、TAC-2、TAC-2RともにMacのみでの動作となっており、Windowsは非対応だ。そこで、MacのThunderbolt端子に接続して使ってみることにしよう。

 接続の前に、ハードウェア的なスペックから見て行こう。TAC-2とTAC-2R、基本的にはほぼ同じスペックとなっているのだが、2つを並べてみると、まったく違うデザイン、大きさであり、姉妹製品とは思えないほど。以前紹介したTAC-2は、リスニングにマッチしたユーザーインターフェイスとなっており、音量調整ができる大きいノブとLEDで光るレベルメーターが大きい特徴となったデザインだ。それに対しTAC-2Rは入力=レコーディング機能をフィーチャーした製品となっており、フロントに2つのコンボジャックを搭載しているのが特徴。それぞれの入力レベル調整のためのノブが独立して用意されているほか、両方ともにギターやベースと直結するためのHi-Zスイッチが用意されているし、両端子共通の+48Vのファンタム電源ボタンもある。TAC-2でも入力はあったが、Hi-Z対応は片チャンネルのみであったし、ファンタム電源は本体からはコントロールできなかった。またフロントパネル右側にはヘッドフォン出力もあり、そのレベル調整は上のノブで行なえる。

TAC-2(左)とTAC-2R(右)の比較
TAC-2Rは前面にXLR/TRSコンボジャックを装備
TAC-2Rの背面

 一方リアパネルにはThunderbolt端子、バランス出力のTRS端子がステレオであり、これはフロントの大きなノブで調整できるようになっている。このノブでコントロールするのはこのメイン出力のみであり、フロントのヘッドフォン出力の音量調整とは独立した関係だ。またDIRECT MONITORのスイッチを設定することで入力された信号をMacを通さずに出力へ送るかどうかの設定も可能。さらに、リアにはMIDI入出力もある。このDIRECT MONITORのスイッチやMIDI入出力もTAC-2にはなかったもので、この辺を見ても、TAC-2RはDTM、音楽制作用途の製品であることが見えてくる。

各DAWで快適に動作。Audirvana Plusとの連携には注意

 さて、まずは、これをMac OS X Marvericks 10.9に接続して使ってみた。これを利用するにはドライバのほかMixEfxというミキサーアプリをインストールする必要があるのだが、双方ともにTAC-2RがリリースされたときにVer.2となり、TAC-2、TAC-2R共通のものとなったので、これを改めてインストールしてみた。MacとTAC-2またTAC-2Rと接続した時点で、このミキサーアプリが起動してくるのだが、よく見るとTAC-2Rの場合とTAC-2の場合で画面が微妙に異なっている。最大の違いは画面右下でTAC-2ではメイン出力とヘッドフォン出力の音量調整をこのミキサー画面上で行なうようになっているのに対し、TAC-2Rでは本体側で行なうようになっており、ミキサー画面とは連動していない。一方で、入力のゲイン調整ノブはミキサー画面と連動しており、ツマミを動かすと画面のほうも動作するのが確認できるほかHi-Zボタン、ファンタム電源ボタンも連動している。

ミキサーアプリ「MixEfx」の画面。こちらはTAC-2R使用時
TAC-2の画面と比べると少し違いがある

 本体にはボタンなどが用意されていないが、ミキサーアプリ側でコントロール可能な機能もいろいろある。まず入力部ではLO CUTと書かれた低域カット用のスイッチがINPUT 1、INPUT 2独立で用意されているほか、PHASEと書かれたボタンによって位相反転も可能。またその右にはLOOPBACKというボタンもあり、これをオンにするとINPUT 1、INPUT 2からの入力に加え、Macの再生音もミックスしてレコーディング可能になる。USTREAMやニコニコ生放送などでiTunesの再生音をBGMにしたい……といったときに便利な機能だ。このときにミックスバランスおよび、最終的な出力調整には画面左下のミキサー部で行なう形となる。

 さらに画面右にはエフェクトの設定も用意されている。これはTAC-2、TAC-2R共通の機能だが、DSPによるエフェクトが搭載されており、ルームリバーブ、ホールリバーブ、プレートリバーブ、そしてエコーがそれぞれ2種類ずつ、計8つのモードが用意されており、出力に対してかけられるようになっている。ただし、これはループバックには影響せず、あくまでも出力専用であるため、このエフェクトのかかった音をレコーディングすることは基本的にできない形だ。

LOOPBACKをオンにすると、INPUT 1/2に加え、Macの再生音もミックスしてレコーディング可能
右側にはエフェクト設定

 TAC-2RをGragebandやLogic、Cubase、ProToolsといったDAWで動かしてみたところ快適に動作し、レコーディングも高音質に行なえた。もちろん、iTunesでの再生も問題なくできたのだが、1点、トラブルがあったのがハイレゾ再生アプリとして人気の高いAudirvana Plusとの連携だ。オーディオデバイスとしてTAC-2Rを設定して再生しようとすると「Initializing audio device...」と表示されたままで、再生することができなくなってしまったのだ。筆者の購入したAudirvana Plusのバージョンが1.5で、先日リリースされた新バージョンの2.0にアップグレードしていないのが原因かと思って試用版を使ってみたものの結果は同様。おかしいと思って、いろいろ試してみたところTAC-2Rがダイレクトモードに対応していないことが分かった。Direct Modeのチェックを外すと、問題なく再生できるようになった。

Grageband使用時
Cubase使用時
ProTools使用時
Audirvana Plusで、オーディオデバイスとしてTAC-2Rを設定すると「Initializing audio device...」と表示されたまま、再生できなくなってしまった
Direct Modeのチェックを外すと、問題なく再生できた

 このダイレクトモードというのは、CoreAudioを通さずにアプリから直接オーディオデバイスへと音を送ってしまうという、やや反則的ともいえるモードだ。Windowsでもオーディオエンジン(旧称カーネルミキサー)をバイパスする方法としてASIOやWASAPIの排他モードを利用するものがあるが、Macのダイレクトモードもそれに近い考え方だ。もっともMacのCoreAudioはWindowsのオーディオエンジンのように音が劣化するものではなく、Integer Modeを通すかどうか。しかもMarvericks以降、CoreAudioもInteger Modeをサポートするようになったので、あまり気にすることは無いと思う。

 本来ならここで音質チェックをしたいところだが、前述のとおりTAC-2RはWindows非対応であり、いつも使っている音質チェックの環境を使うことができないので、ここでは割愛する。が、実際に音を聴いてみた感じでは、ノイズが極めて少ないキレイな音であり、非常にフラットなモニターサウンド。いわゆるオーディオとしての味付けはされておらず、入った音とそのままに出す感じのものなので、素材の音を忠実に再現できるので、個人的には非常に好みの音。逆に各オーディオデバイスならではの味付けを求める人にとっては、そっけないものと感じてしまうかもしれない。

Yosemiteでノイズが入る問題。ユーザーはアップデートしないよう告知

 さて、ここでもう一つチャレンジを行なってみた。つい先日、新しくMac miniを購入し、Mac OS X Yosemite 10.10を動かしているので、これで使えるかを試してみたのだ。

 個人的にはノートPCを含めディスプレイ一体型のマシンは場所をとるのであまり好きではなく、WindowsでもMacでもデスクトップを基本に使っている。また、Macではそれほど大きなマシンパワーを必要とする作業をしないため、場所も取らないし価格も安いMac miniが好きで、初代Mac miniから何度も買い替えながら使ってきた。が、今まで使っていたのがMid 2011というCore i5のモデルで、Late 2012が出たときは、マイナーチェンジであったため見送り、次のモデルを待っていたのだ。そして先日ようやく待望のMac miniが発表されたので、即購入しようと思ってスペックを確認したところ、あまりにも嬉しくない内容でガッカリしてしまった。CPUは最高のスペックに変更してもCore i7のデュアルコアであり、Late 2012のクアッドコアに比較して劣るし、上位機では価格も大幅にアップしている。またこれまで簡単にメモリ増設できたが、今回のマシンはメモリ交換ができないとのことで、アキバで安くメモリを購入して増設する筆者にとっては、ここも大きなマイナス点。さすがに、これは使えないと、今さらながらLate 2012のCore i7クアッドコアのマシンを74,800円で購入。これにアキバで16,000円で購入した16GBのメモリを載せ、Yosemiteに無料アップグレードしたわけだ。

ズームのサイトでのYosemiteに関する案内

 このMac miniでTAC-2Rが使えるのかと思って、ズームのサイトを改めて見ると「TAC-2/TAC-2Rユーザーへの重要なお知らせ~Mac OS X Yosemiteへのアップデートをお控えください」というページが掲載されている。中身を読んでみると「オーディオ信号にプチノイズが発生する現象が確認されました」とのことだ。もしかしたら、アップデートではなく新規のYosemiteにTAC-2Rのドライバを入れて使うのなら、問題は起こらないのではないか……と期待しながら試してみた。

 さっそくドライバとミキサーアプリをインストールしてみたところ、あっさりと完了。Thunderboltケーブルで接続するとミキサーが立ち上がり、しっかりと認識するようだし、iTunesで音が鳴ることは確認できた。また、MIDIのポートも問題なく見えているようだ。

ドライバとミキサーアプリを入れて、Thunderboltケーブルで接続するとミキサーが起動。問題なく使えるように見えた

 先ほどは触れなかったが、DTM色の強いTAC-2RにはTAC-2にはなかったCubase LE 7のライセンスがバンドルされている。Steinbergのサイトからダウンロードして使うことができるので、これも試してみることにした。が、Cubase LE 7のインストールにおいて問題が発生。インストーラ自体がMac OS Xのバージョンをチェックしており、Yosemiteを認識できないために起動してくれないのだ。このトラブルについえは検索してみたところSteinbergが「Steinberg Application Installer Tool for Yosemite」というものをリリースしており、これを使うとあっさり解決し、Cubase LE 7をインストールするできた。TAC-2Rで試してみたところ、これも問題なく認識されてレコーディング、再生ともに行なえた。

Steinberg Application Installer Tool for Yosemiteを使うと、Cubase LE 7をインストールして録音/再生できた

 ということは、問題はないのか? プチノイズというのはどうなのか? もっとしっかり音を聴いてみよう。Audirvana Plusを使って聴いてみると……なるほど問題発覚。確かに、普通に再生できているのだが、ときどきプチプチというノイズが混じっていることが確認できる。改めてiTunesでの再生音を聴いても、Cubaseでの音を聴いてもノイズが混じっており、このまま使うのは難しそうだ。

 これがズーム側の問題なのか、YosemiteのThunderbolt回りの問題なのかは明らかではないが、ぜひ早い対応をお願いしたいところだ。YosemiteはユーザーインターフェイスがiOS 8などと同じフラットデザインになっているだけでなく、Bluetoothを使ってiPadやiPhoneとのMIDI接続が可能になったり、Bluetoothでのオーディオ伝送においてAACコーデックが利用可能になるなど、オーディオ、DTM分野においても進化が見られる。もっとも、他のオーディオインターフェイスやDAWなども、まだ正式対応できているものは少ないので、実際に多くの人が使うようになるまでは、多少時間もかかりそうではあるが、この辺の状況についても、進展があったら改めて紹介してみようと思う。

Yosemiteでは、BluetoothでiPhone/iPadとMIDI接続可能
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TAC-2R

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto