藤本健のDigital Audio Laboratory

第671回:スマホ連携で本領発揮? ソニーのBluetooth搭載PCMレコーダ「ICD-SX2000」を試す

第671回:スマホ連携で本領発揮? ソニーのBluetooth搭載PCMレコーダ「ICD-SX2000」を試す

 ソニーから96kHz/24bitのレコーディングに対応した小さなリニアPCMレコーダ、「ICD-SX2000」が発売された。実売価格が30,000円前後というこの機材、先日紹介したオリンパスのリニアPCMレコーダ、「LS-P2」と同様Bluetoothを用いてスマホからリモートコントロールできるのが大きな特徴となっている。実際、このリモートコントロール機能とともに本体の使い勝手や、実際どんな音で録音できるのかという点をチェックした。

ICD-SX2000(左)

可動式マイク搭載。96kHz録音は本体メモリのみ

 ICD-SX2000は、手のひらサイズのコンパクトなレコーダ。ICDという型番からもわかる通り、PCM-D100やPCM-M10など音楽録音向け「リニアPCMレコーダー」の括りではなく、会議録音などの「ICレコーダー」のラインナップに含まれているが、96kHz/24bitで非圧縮のWAVで録音が可能。

ICD-SX2000

 先端に搭載されている新たに開発されたマイクは可動式になっており、標準のX-Yポジションのほかに、より広域に音が録れるワイドポジション、そして狙った音を捉えるためのズームポジションという3つのモードが用意されているのが一つの特徴となっている。このマイクユニットの先端を見ると真鍮を使っているのか金色に光っているのが目立つが、このマイクユニットは指向特性を最適化するために空気穴をアルミ切削部品のみで実現しているという。

マイクがX-Yポジションの状態
ワイドポジション
ズームポジション

 このICD-SX2000は16GBのストレージメモリが搭載されているほか、microSD/SDHCカードスロットも装備されており、64GB以上のmicroSDXCカードにも対応している。ただし、この記事の目的である96kHz/24bitでの録音は、なぜか内蔵メモリにしか録音できない仕様となっているのはやや納得のいかないところ。このICD-SX2000はハイレゾ音源再生機としても使える機材なので、再生用にはカードを使い、録音用は内蔵メモリを使うといった使い分けをするとよさそうだ。なお、内蔵メモリに録音してmicroSDにコピーすることは可能。

側面にmicroSDスロットを装備

 一方、バッテリは内蔵のリチウムイオン充電池で、USB経由で給電する。そのUSB端子は本体収納型となっており、USBと書かれたスイッチをスライドさせることで飛び出してくる。PCと接続すれば内蔵メモリやmicroSD/SDHCカードスロットがマスストレージとして見える形となっているほか、充電にも使える。スペックを見ると96kHz/24bit録音時で約15時間、44.1kHz/16bitで約30時間の録音が可能となっている。

USBと書かれた部分のスイッチをスライドすると端子が出てくる

好みが分かれるUI

 各操作ボタンは日本語で表記されているので、見やすくなっているが、ユーザーインターフェイスは好き嫌いも分かれそうだ。日本語表記で操作は簡単そうに思えるが、マニュアルなしでは設定方法などがなかなかつかめず戸惑った。

ボタンの配置

 まずオプションボタンを押しても、録音モードを設定する画面になかなかたどり着けず、手探りで試してみる中、ようやくその設定画面になった。オプションを押しても「再生モード」時(再生を押した直後など)は再生に関する項目しか表示されず、一度録音をしてからでないと、録音の設定画面を呼び出せないので注意したい。

録音設定画面

 録音モードにおいては96kHz/24bit、44.1kHz/16bitのほかに48~320kbpsのMP3が選択できるようになっているので、ここでは96kHz/24bitを選択。ただこれを選択すると、録音画面まで戻ってしまう。別の項目の設定するには、再度オプションボタンを押して操作しないといけないのは、かなり使いにくい印象。内蔵マイク感度設定をAGC(オートゲインコントロール)ではなくマニュアルに設定し、録音フィルターはノイズカットもローカットもオフに、リミッターもオフにして録音を準備した。

録音モード選択
内蔵マイク感度設定をAGC(オートゲインコントロール)からマニュアルに変更
フィルター設定
リミッター設定

 しばらく使ってみると、オプションボタンではなくホームボタンを押してから各種設定画面というところにいくと、画面遷移の問題はなく設定できることは分かった。ただ、このホームボタンは「戻る」と同じボタンなのが特殊(ウォークマンAシリーズなどと同じ)で、このホーム画面を押して出てくるメニューはシンプルだが何を意味しているかわかりづらく、直感的に理解できなかった。録音設定画面にはすぐ入れるようにして欲しいと思う。

 準備が整ったので、ここではマイクはX-Y型に固定した状態でICD-SX2000を外へ持ち出した。金メッキされたヘッドフォン端子にヘッドホンを接続し、野鳥の鳴き声を録りに公園へ向かうと、鳴き声が聴こえてくる。さっそく録音ボタンを押すとヘッドホンにモニター音が聴こえてくるのだが、録音レベルの調整は無く、いきなり録音がスタートする。録音しながらカーソルキーの上下を押すと録音レベルの調整はできることは確認できたが、録音ボタンの上には「録音/一時停止」とあるし、最初はここを押せば録音待機状態になり、さらに押すと録音スタートになると思っていたのだが。後で気づいたのは、最初に録音ボタンを長押しすれば録音待機状態になるということだった。

 ICD-SX2000はソニーのカテゴリーとしてはリニアPCMレコーダではなく、ICレコーダであり、デフォルトの「内蔵マイク感度設定」もAGCであったことを考えると、やはり普通ICD-SX2000は会議録音などの一般的なボイスレコーダとして使うものだから、録音ボタンを押せばすぐスタートするというのが自然なのかもしれない。

 公園についたとき、ちょうど無風状態だったので、キレイに録ることができ、X-Yポジションにおいて、ステレオ感もクッキリと立体的な音に録れているのが分かると思う。ただ、非常に高感度なマイクだけに微風でもすぐに、大きなノイズになってしまう。製品にはウインドスクリーンが付属しているので、屋外ではそれを使った方がよさそうだ。

録音サンプル(96kHz/24bit)
野鳥の声bird2496.wav(26MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

Bluetoothでスマホからの操作を試す

 室内に戻ってきてから試したのが、ICD-SX2000の一番の特徴ともいえるBluetoothでのリモートコントロール。AndroidもiPhoneも対応している(Android 4.0.3以降/iOS 7以降)とのことだったので、ここではiPhone 6sを使い、「REC Remote」というアプリをダウンロードして試した。起動すると、「Bluetoothでレコーダと接続してください」とメッセージが表示されるので、iPhoneから設定を行なった後でアプリを再度起動すると、まさにリニアPCMレコーダという画面が出てくる。これは先日レビューしたオリンパス「LS-P2」のアプリとは違い、もっとインタラクティブに動作する。

離れたレコーダをスマホからBluetoothで操作
アプリを起動するとBluetooth接続を促すメッセージ
iPhoneのBluetooth設定でICD-SX2000を選択して接続
リアルタイム表示するレベルメーター

 レベルメーターはICD-SX2000がとらえている音をリアルタイムに表示し、それが波形となって左側に表示される。入力レベルもここから調整できるほか、リハーサル機能というものが用意されており、録音前の状態で入力レベルを感知しながら、リハーサル中に入ってきた最大音量に合わせて最適な入力レベルを自動設定してくれるのだ。また、モードを切り替えると、VUメーター風な画面になるのも面白いところだ。リモコン操作も、一時停止などを含めICD-SX2000本体よりも使いやすい印象。

リハーサル機能の画面
VUメーター風の画面も

 このREC Remoteを使えば、ステージ脇に事前に仕掛けておいたレコーダを観客席から操作できたり、草むらに仕掛けておいたレコーダを遠くから操作するといった使い方ができるなど、さまざまな利用法が考えられそうだ。Bluetooth接続の距離は最大10m(障害物や電波状態によって接続有効範囲は変動)。また、遠くにいても、実際どれくらいのレベルの音が入っているかも見えるし、ピークレベルに達すると赤くアラート表示されるという面でもわかりやすいし、そこを調整するために入力レベルの調整もできるようになっているほか、録音しながらマーカーを打っていくことも可能になっている。

 ただ、せっかくBluetooth接続するなら音も一緒に送ってもらえるとよりよかったように思う。もちろん、ここでの伝送はリニアPCMでなく、低ビットレートのMP3などでもいいし、多少のレイテンシーはあってもいい。これができれば、かなり使える機材といえそうだ。

従来モデルから音質の傾向が変化

 最後に試してみたのがいつもリニアPCMレコーダでテストしている音楽を録音しての評価だ。手法はこれまでDigital Audio Laboratoryで行なってきたのとまったく同じだ。

WaveSpactraでの測定結果
録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)
44.1kHz/16bitmusic1644.wav(7MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 このサンプルだけを聴くと、すごくキレイに音を捉えていると思うが、過去にテストしたほかのレコーダの比較してみると、やや高域が弱い落ち着いた音に感じられる。このICD-SX2000は2013年にリリースされたICD-SX1000の後継とのことなので、これと比べてみると面白い。ICD-SX1000の場合は3つのマイクを使う構造になってズームマイクモードとステレオマイクモードというのがあったが、そのステレオマイクモードと比較してみると、波形も明らかに傾向が違うのが分かった。

 ICD-SX2000の音を聴いてみると、マイクの口径が大きくなったためか、低域は結構よく出ている一方で、高域が抑えられた印象で、だいぶ違う音に聴こえてくる。前機種のほうが音の輪郭はクッキリ見える一方、今回のSX2000のほうがおとなしい音だけど、バランスは良くなっていると思う。

 以上、ICD-SX2000について見てきたが、いかがだっただろうか。このコンパクトさでありながら、音も性能もしっかりしているけれど、音楽用のリニアPCMレコーダとして捉えると、操作面で今一つというのが率直な感想。ソニーとしてはPCM-D100などの本格的リニアPCMレコーダとはまったく別ジャンルの製品という位置づけだから、リニアPCMレコーダ的な機能を省いた結果、こんな操作性だったのかもしれない。ただ、Bluetoothで外部からコントロールすると、その辺の問題もほぼクリアされるので、うまく使えそうだ。

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ICD-SX2000

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto