藤本健のDigital Audio Laboratory

第787回

ソニーの小さな本格PCMレコーダ「PCM-A10」で録音。スマホ連携で機能進化

先月ソニーから発売された小型/軽量のリニアPCMレコーダー「PCM-A10」。可動式のステレオ・エレクトレットコンデンサマイクを装備し、96kHz/24bitに対応。16GBのメモリを内蔵した製品だ。実際、どんな音質で、これまでのソニー製品、また他社製品と比較してどう違うのか、実際に試してみた。

PCM-A10

小型ボディでも本格録音。可動式マイク付き

ソニーでは、DATウォークマンの後継的な位置づけとしてPCM-D1を2005年に発売したのち、PCM-D50、PCM-D100、PCM-M10などを出してきたが、その最新モデルであり、小型・軽量のエントリーモデルとしてPCM-A10を発売した。DSDにも対応するPCM-D100はソニーストアで95,048円という価格に対し、PCM-A10は19,880円と1/5程度で手ごろな価格。

以前レビューしたPCM-M10が生産終了となっているので、型番からするとPCM-M10の後継製品ととらえていいのかもしれない。ただ、見た目や構造、スペック的には、'16年に発売されたソニーのICレコーダーであるICD-SX2000に近い感じではある。もっとも、ICD-SX2000は約120×44×14.5mm(縦×横×厚さ)で約98gなのに対し、PCM-A10は約109.5×39.2×16mm(同)で約82g。写真で見ると似ているけれど、数字で見ると明らかに一回り小さい製品になっていることが分かる。

'16年モデルのICD-SX2000
新モデルのPCM-A10

PCM-A10の一番の特徴は、本体上部にあるエレクトレットコンデンサマイクのユニットが可動式であること。つまり、2つを向い合せたX-Yポジションと、広げたワイドステレオポジション、さらに平行にしたズームポジションの3つのフォームがあるのだ。

マイクは可動式
X-Yポジション
ワイドステレオポジション
ズームポジション

ソニーによるとX-Yポジションは奥行きのある音を録音するのに適した使い方でスタジオでのバンド演奏を録るのを得意としているという。ワイドステレオポジションは広がりのある録音を得意とし、ホールでの演奏などを録るのに適しているとのこと。さらに、ズームポジションは狙った音をクリアに録音するのを目的としており、ボイスメモやインタビューで利用しやすいとのことだ。この設定はマイクを手で動かすだけで、特に設定は不要。X-Yポジションにすると、自動的にマイクの左右が反転する形になっている。

この搭載マイクでレコーディングするのが基本だが、左サイドにはステレオミニのマイク入力端子も装備しているので、外部マイクも利用可能。もちろんプラグインパワーに対応している。またその右にはmicroSDカードスロットも装備されており、内蔵の16GBメモリーのほかにもmicroSDにレコーディングすることも可能になっている。なお、このmicroSDを入れた状態だと、クロスメモリー録音が可能になる。基本的には内蔵メモリーに録音するか、microSDに録音するかを指定しておくのだが、録音している途中で満タンになった場合、シームレスにもう一方のメモリーに続きが録音できる機能で、いざというときに安心して使えそうだ。

マイク入力端子も装備
microSDカードスロット

スマホ連携で大きく進化

電源は内蔵バッテリーを使う構造で、スペックを見るとリニアPCM 96kHz/24bitで15時間録音のスタミナを持っているとのこと。そのバッテリーの充電やPCとのデータのやりとりにはUSBを使うのだが、多くのリニアPCMレコーダーのように、ケーブルを使って接続する形ではない。USBと書かれた部分のスイッチをスライドすると端子が出てくる構造になっており、これを使って充電したりPCと接続する。これならケーブルを持ち歩く必要もなく便利でもある。こうした辺りも、ICD-SX2000とそっくりである。

USB端子はスライド収納式

さて、その録音フォーマットはリニアPCMとMP3のそれぞれが用意されており、リニアPCMにおいては96kHz/24bitのほか、48kHz/24bit、48kHz/16bit、44.1kHz/24bit、44.1kHz/16bitのそれぞれ。一方MP3は最高で320kbpsで、192kbps、128kbpsがあるほか、モノラルの48kbpsが選択できるようになっている。

録音モード(PCM)
録音モード(MP3)

もうひとつ、PCM-A10にはICD-SX2000と同様の特徴がある。それはスマートフォンと連携したリモコン操作が行なえるという点。iPhoneやAndroidとBluetoothで接続した上で、REC Remoteというアプリを使うと、スマートフォン側の操作で録音の開始や停止ができるだけでなく、現在レコーディング中の音をレベルメーターや波形で表示させて見ることが可能になっている。また、このREC RemoteにはVUメーター風な画面も用意されているのも楽しいところだ。

スマホアプリ画面(右)
レベルメーター風の表示も

なお、REC Remoteにはリハーサル機能というものが用意されており、これを使うことで、リハーサル中に入力される最大音量を元に入力レベルを自動的に設定することができ、これはICD-SX2000でも使えた。しかし、PCM-A10では本体にリハーサルボタンが用意され、これを押すとリハーサルモードに入り、REC Remoteを使わなくても入力レベルを自動調整してくれるようになったのは大きな進化点といえそうだ。

側面のリハーサルボタンを押すと、アプリを使わなくても入力レベルを自動調整できる

一方、ICD-SX2000にはなかった再生側のBluetoothにも対応している。BluetoothスピーカーやBluetoothヘッドフォンとペアリングすれば、そちらから音を出せる。

Bluetooth接続に対応
Bluetoothスピーカー/ヘッドフォンとワイヤレス接続できる
NFCでもペアリング可能

実際に録音してみた。X-Yとワイドステレオの違い、音質の特徴は?

PCM-A10を使って、まずはいつものように、屋外に出て野鳥の鳴き声を録りにいくことにした。あらかじめ録音フォーマットはリニアPCMの96kHz/24bitに設定、また録音フィルターとしてNoise CutおよびLow Cutが用意されているが、これらはオフに。リミッターもオフの状態だ。

Noise Cut/Low Cutはオフに
リミッターもオフ

外は、それほど風があるわけではなかったが、微風であってもマイクカプセル部分が吹かれると、風切り音が大きく乗ってしまうので、付属のウインドスクリーンを取り付けて外へ持ち出した。公園の同じ場所でX-Yポジションおよびワイドステレオポジションで録ったのが以下のものだ。まあ、同じ場所とはいえ、スズメやヒヨが同じ場所にいるわけではないので、比較しにくい面はあるが、周りの環境音を含め、ワイドステレオのほうが明らかに広がった感じがする。

付属のウインドスクリーンを装着

【録音サンプル】
野鳥の声(48kHz/24bit)
X-Yポジションa10_xy_bird.wav(29.37MB)
ワイドステレオポジションa10_wide_bird.wav(36.17MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

さらにそのステレオ感がクッキリするのが線路沿いの道で電車が通過する音を捉えたもの。入力レベルは絞ったものの、鳥の鳴き声と同様の96kHz/24bitでX-Yポジション、ワイドステレオポジションのそれぞれで録音した。

【録音サンプル】
電車の通過する踏切の音(48kHz/24bit)
X-Yポジションa10_xy_train.wav(17.15MB)
ワイドステレオポジションa10_wide_train.wav(19.81MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

X-Yポジションでは電車が左から右へ、ワイドステレオポジションでは右から左へと走っていくが、右側から聴こえる踏切の音だけを比較しても、ステレオワイドポジションのほうが、広がった感じになっている。

以上の音を聴いただけでも、結構高品位なレコーディング機能を持っていることが分かったと思うが、ほかと比較しての音質性能となると、やはり音楽を録音した場合の音の違いで比べるのが良さそうだ。というわけで、いつものように、44.1kHz/16bitの素材であるTINGARAの夜間飛行をモニタースピーカーで再生した音を録音してみた。ここではモニタースピーカーの距離が50cm程度ということもあり、あえてワイドステレオポジションではなく、X-Yポジションで録音している。

実際には96kHz/24bitで録ったが、それをSoundForge Pro 12を用いて44.1kHz/16bitにダウンサンプリングした。

【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(44.1kHz/16bitにダウンサンプリング)
a10_music_1644.wav(6.94MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます

また、別途48kHz/24bitにダウンサンプリングしたものをWaveSpectraで分析してみた。

48kHz/24bitにしてWaveSpectraで分析

これ単独で聴いてみると、キレイに録れているという感想になると思うが、過去に数多くのリニアPCMレコーダーで録った音と比較してみると、やはり結構違いがあることが分かる。その中で近いものと……と探してみるとやはり、ICD-SX2000(音声サンプル)とはソックリな音であり、PCM-M10(音声サンプル)とも近いニュアンスの音だ。ズームやローランド、TASCAMなどの機種の音とはやはり異なり、ソニーの音であるということなのかもしれない。

波形で比較してもICD-SX2000とソックリ。ただ、聴き比べてみると、PCM-A10のほうが少し高域が出ているように思えたが、いかがだろうか?

ICD-SX2000の波形

以上、ソニーのリニアPCMレコーダーの新製品PCM-A10について見てみた。試した感じからすると、ICD-SX2000のアップデート版という印象だが、さらに小さくなっているし、音質や機能的にも少し向上するとともに、価格も安くなったという点では素直に歓迎したい。いつもカバンに入れて持ち歩くアイテムとしてもいいのではないだろうか。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto