第444回:「Pro Tools Mbox Pro」のハードウェア性能をテスト

~使いやすく進化したシリーズ最上位モデル ~


 9月にAvid Technologyから発表された新Pro Tools Mboxシリーズ。3モデルあるうちの下の2つ、Pro Tools MboxおよびPro Tools Mbox miniは先に発売されていたが、最上位であるPro Tools Mbox Proがようやく発売された。機能的にもデザイン的にも大きく変わったMbox Proが、どんな製品かチェックした。

Pro Tools MboxPro Tools Mbox mini今回レビューする最上位のPro Tools Mbox Pro


■ 最大192kHzに対応したMbox Pro

 ハードウェア、ソフトウェアがセットになったDTM製品として非常に高い人気を誇るMboxシリーズ。2003年に初代製品がリリースされた後、2005年には大ヒット製品となったMbox 2シリーズが登場し、国内外含め多くのユーザーに使われてきた。Mboxというオーディオインターフェイスと、Pro Tools LEというDAWを組み合わせたMboxシリーズは、プロのレコーディング現場でのデファクトスタンダードであるPro Toolsが家庭のPC環境でも使えるということで、広く使われていった。

 そのMboxシリーズが、大きくリニューアルし、第3世代の製品に切り替わった。従来のMbox 2は青を基調としたデザインだったのが、ダークグレーに変わるとともに、「Digidesign」のブランドが消えた。「Digidesign Mbox 2」からAvidの「Pro Tools Mbox」へと製品名的にも切り替わっているのだ。製品のラインナップも少し変化している。これまで上からMbox 2 Pro、Mbox 2、Mbox 2 mini、Mbox 2 Microの4種類があり、上位2つに関してはプラグインを追加したMbox 2 Pro Factory、Mbox 2 Factoryを含む計6製品となっていたが、今回発売されたのは3製品で、MicroおよびFactoryは現在のところ発表されていない。


ソフトウェアは8.0.4にアップデート

 一方、バンドルされるソフトウェアは、Pro Tools LE 8.0と従来製品とは変わっていない。正確には8.0.3から8.0.4へとアップデートされているが、DAWとしての機能はほとんど変わっておらず、サポートするハードウェアウェアやドライバ部分が少しアップデートされた形となっているようだ。

 では、この新Mboxシリーズ、従来との違いはブランドとデザインだけかというと、もちろんそうではない。いろいろなところで機能強化が図られている。ハードウェア的にいうと、Mbox miniは基本的に従来のものを踏襲しているが、上位2つはかなり進化している。まずはサンプリングレートだが、Mboxは従来48kHz対応だったものが96kHzに、Mbox Proは従来96kHzだったのが192kHz対応となった(Pro Tools LE 8が96kHzまでの対応なので、セットとして使う場合は96kHzまでとなる)。

Mbox Proの背面

 また、両機種ともDSPを搭載し、CPUパワーを使うことなくリバーブが利用可能となった。加えて、Pro Tools HDのオーディオI/Oの192と同様のソフトクリップリミッターを搭載したり、マルチ・ファンクション・ボタン、Dimボタンを搭載している。

 さらに大きいのがドライバの強化。WindowsではASIO、WDM、MMEに、MacではCoreAudioに対応するとともに、性能面でも強化されている。

 今回は、Pro Tools Mbox ProをWindows 7環境で使ってみたので、主にハードウェアに関してみていくことにしよう。



■ WDM/MMEドライバに対応

 アルミボディーでかなりガッチリとした筐体のMbox ProはFireWire接続の8IN/8OUTのオーディオインターフェイス。アナログが6IN/6OUTおよびS/PDIFコアキシャルで2IN/2OUTの計8IN/8OUTという構成だ。入力チャンネルの1および2はフロントにコンボジャック、リアにTRSフォンのライン入力が切り替えで使える。3および4チャンネルはリアにXLRとTRSが切り替え、さらに5/6はステレオミニとRCAが切り替えで使えるという仕様。1~4に関してはインサーションも可能となっている。この1~4chへの入力はフロントパネルのLEDによるレベルメーターでも確認することが可能となっている。

入力1/2の前面コンボジャック背面のTRSフォン入力入力3/4は背面のXLRとTRSで切り替え
入力5/6はステレオミニとRCAの切り替えフロントパネルに備えたLEDのレベルメーター

 一方、S/PDIFの入出力はD-SUB端子に付属ケーブルを使って利用する形で、このケーブルにはMIDI入出力、ワードクロック入出力も搭載されている。アナログ出力はリアに6つのTRSフォンのライン出力が並ぶほか、フロントには2系統独立したヘッドフォン出力が用意されている。

 スペック的に見れば先日レビューしたRolandのOctaCaptureと近いが、これよりもだいぶ大きく、ガッチリとした印象。液晶がないだけにノブやボタンが多く、その分、より直感的な操作性ともいえそうだ。

付属のケーブルアダプタ装着時2系統のヘッドフォン出力
RolandのOctaCapture(写真上)と比較

 Mbox ProをWindows 7で使うにあたり、まずは付属のDVD-ROMを用いてPro Tools LE 8をインストールした。8.0.4というバージョンは前述のとおり、Pro Tools Mboxシリーズのドライバが入っているのだが、ちょっと不具合があるのか、ドライバの設定画面を開こうとするとエラーで落ちてしまう。しかし、既にアップデータがAvidサイトにあったので、1.0.11というドライバをインストールしてみると問題なく動作するようになった。このドライバは、Windows 7の32bit、64bitの双方に対応しているため、どちらの環境でも問題なく動作する。またPro Tools LE 8もどちらの環境でも動作するが、アプリケーションとしては32bitとなっている。

 実はこのドライバこそ、今回の最大のバージョンアップポイントといっても過言ではない部分。先日のPro Tools 9のレポートでも書いたとおり、Avidはオープンな方向へと舵を切っており、それがこのドライバにも現れている。まずWDM/MMEドライバに対応したのが、大きい。

 もちろん、Windows用のオーディオインターフェイスとしては当たり前ともいえる機能であり、従来のMbox 2でも完全に非対応であったというわけではない。実際、これまでもDigidesign Wave Driverというものがあり、MMEには対応していたのだが、マルチクライアント対応でなかったため、Windows Vistaなどではまともに動作せず、トラブルが多かった。今回そうした問題が解決されたので、普通のオーディオインターフェイスとして使えるようになった。また、ASIOドライバとしての性能も大きく向上し、互換性も高まったとのことで、多くのDAWともセットで使えるようになったという。試しに、Cubase 5およびまもなく発売されるSONAR X1で使ってみたところ、なんら問題なく使うことができた。

Ver.1.0.11ドライバで正常に動作したWDM/MMEドライバに対応

 ここで、ドライバの設定画面を開いてみると、ミキサー画面が表示される。左8つが外部からの入力チャンネル、右8つがPCから再生されるチャンネルで、それぞれ8つずつとなっている。また、この画面はアナログの1/2チャンネルの出力を現すものだが、上のタブを切り替えることで3/4チャンネル、5/6チャンネル、さらにはS/PDIFのLとR、またHeadphone A、Headphone Bがそれぞれ独立して設定できるようになっている。また、このミキサー、デザインレイアウトを変更できるのもユニークなところ。横に並べての表示のほか、縦に並べての表示、レベルメーターだけの表示もできるようになっているので、必要に応じて切り替えることができる。

ドライバ設定でのミキサー画面S/PDIFのLとR、Headphone A/Bを独立して設定できる縦方向にレイアウトして表示することも可能
レベルメーターだけの表示も

 またSetup画面を見てみると、サンプリングレート、バッファサイズ、クロックソース(InternalかS/PDIF、WordClockか)といった設定ができる。ほかにも、いろいろな項目がある。珍しいのが「Disable Host Control」。これはPro Tools側から直接オーディオインターフェイスをコントロールするのを禁止するためのもので、ミキサーを直接コントロールできるほか、後述するDSPコントロールが可能となる。また、ハイパスフィルタの有効化、メーターをプリフェーダー信号で動かすか、ポストフェーダー信号で動かすかといったものがある。

 さらに、「Standalone Setings」という項目で、Mbox ProをPCとの接続を切り離した状態でも駆動させることが可能で、ここでの設定でクロックソースやサンプリングレートを決められるほか、Mbox Pro自体をAD/DAとして使うか、プリアンプとして使うか、ミキサーとして使うかといったことの設定もできるようになっている。

Setup画面Mbox Pro自体をAD/DAとして使うか、プリアンプとして使うかなどの設定も可能


■ 音質/レイテンシーも良好。より強力な製品へ進化

 ここで試してみたのが、いつものRMAA Proを使っての音質テストだ。Mbox Proはいろいろな入出力端子があるが、ここではリアにあるTRSフォンの1/2チャンネルの出力と1/2チャンネルの入力を直結させてテストした。

 48kHz、96kHz、192kHzでの結果をご覧いただきたい。いずれも、かなりな好成績となっているのが分かるだろう。192kHzでのテストがうまくできないというオーディオインターフェイスが少なくないが、Mbox Proではこれもまったく問題なく行なうことができた。

RMAAでの音質テスト(24bit/44.1kHz)24bit/48kHz
24bit/96kHz24bit/192kHz

 続いて行なったのがレイテンシーに関するテスト。これは以前OctaCaptureで行なったのと同じテストであるが、RMAA Proでのテストと同様に入出力をループ接続させた状態で、インパルス信号を発生させ、戻ってくるまでにどれだけの時間差があるかを測定した。44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzの4つのサンプリングレートで試してみたが、いずれの場合もバッファサイズを最小の64Samplesで問題なかったので、それで試してみた。また44.1kHzだけは“お約束”として128Sampleも測定してみたが、いずれも非常にレイテンシーが小さいことがわかるだろう。

レイテンシーのテスト(44.1kHz/64Samples)44.1kHz/128Samples48kHz/64Samples
96kHz/64Samples192kHz/64Samples

 再度、ミキサー画面に戻ってみよう。この一番下の項目にEFFECTというものあるのに気づくだろう。またそのエフェクトへ送るセンド量を決めるノブが、その上の段に16個並んでいる。また、一番右にはリターンがあるが、これが従来のMbox 2 ProになかったDSPによるものだ。Pro ToolsでDSPというと、Pro Tools|HDに搭載されているTDMプラグインなどを動かすための心臓部のDSPを想像してしまうが、それとこれとはまったく異なる。

 Mbox ProおよびMboxに搭載されているDSPは、内部エフェクトを動かすだけのものであり、TDMなどのプラグインを動かすものではない。あくまでもハードウェア内で完結する独立したものであり、入力する信号およびPCからの信号にかけて、そのまま出力するためのもので、掛け録りをするためのものでもない。エフェクトの種類としてはRoom、Hall、Plate、Delay、Echoなど8種類。パラメータはDuration、Feedback、Voloumeの3つとなっているが、用途としてはボーカルなどのモニターバックに利用するのが中心になるだろう。

ミキサー画面の一番下にあるEFFECTエフェクトは8種類

 もうひとつオマケ機能として搭載されたのがチューナー。画面で見ると、DAWなどに搭載されているのと同様のものに見えるが、これも本体側が搭載した機能となっている。この機能はマウスで起動できるほかに、本体フロントの右側にあるDim/MuteとMonoの2つのボタンを同時に押すことでも起動でき、LEDによるレベルメーターでも調整可能になっているのだ。このように、本体側で操作できるボタンはほかにもある。Multiというのがそれで、このボタンの操作でPro Tools側を動かすことが可能になっているのだ。これはPro Toolsの「ハードウェア設定画面」で設定できるようになっており、デフォルトでは普通に押すと、レコーディング開始およびストップ、長押しするとトラックを追加する機能が割り当てられているのだ。こうした操作内容は必要に応じて調整することもできるようになっている。

チューナー画面本体ボタンでも調整可能
ハードウェア設定画面で機能の割り当てなどが可能

 以上、主にPro Tools Mbox Proのハードウェア機能に絞って見てみたが、 確かにDAWソフトウェアであるPro Tools LE 8とセットとなった製品ではあるが、従来のようなクセがなくなり、素直にオーディオインターフェイスとして使える製品に生まれ変わった。さらに、より高性能なハードウェアに進化しているように感じられた。クロスグレードという形で追加料金はかかってしまうが、Pro Tools 9へのアップグレードも可能なので、かなり強力なDAWシステム製品であると考えてよさそうだ。このPro  Tools Mboxシリーズの登場をキッカケに、オーディオインターフェイスの機能、性能、価格面での競争が激化していくことになるかもしれない。


(2010年 12月 13日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]