藤本健のDigital Audio Laboratory

第568回

MOTUの新USBインターフェイス「MOTU 8pre USB」を試す

音質/レイテンシともに優秀な新モデル

MOTU 8pre USB

 MOTUから新たなUSBオーディオインターフェイス、MOTU 8pre USBが発売された。8chのマイクプリアンプを搭載した16IN/12OUTの1Uラックマウントタイプのオーディオインターフェイスで、最高で24bit/96kHzで扱えるというものだ。

 国内ではハイ・リゾリューションが9月14日に発売しているが、オープン価格で実売75,800円前後。ただし、初期ロットにおいては、数量限定キャンペーン価格ということで59,800円で発売されている。プロユーザーにも評価の高いMOTUのオーディオインターフェイスの新製品を試した。

シンプルなUSBオーディオインターフェイス

 MOTU 8pre USBは、これまでMOTUが出していたFireWire接続のオーディオインターフェイス、MOTU 8preをUSB接続にリニューアルしたもの。見た目のデザインを含め従来機種のものが引き継がれており、すでにFireWire接続版のほうは、生産終了になっている模様だ。どのメーカーも、オーディオインターフェイスのFireWireからUSBへの置き換えの動きは加速しており、FireWireオーディオインターフェイスで大きなシェアをとってきたMOTUも例外ではないようだ。筆者自身のマシン環境においても、FireWireが即利用できるマシンがMac Miniくらいになってしまった。半年前まではWindows PCにも必ずIEEE 1394カードを刺して、いつでも使えるようにしていたが、最近まったく使う機会がなくなったので、抜いてしまった。

各入力レベルの調整はフロントに8つ並ぶトリムコントロールを用いて行なう

 さて、まずはMOTU 8pre USBの概要から見ていこう。写真のとおり、1Uのラックマウントの機材で44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzの4つのモードで動作する。名前のとおり8つのマイクプリアンプが搭載されており、各入力レベルの調整はフロントに8つ並ぶトリムコントロールを用いて行なう。この回路自体はアナログではあるものの、このノブはカタカタカタと回していくデジタル制御のものとなっており、1つ動かすと3dBずつ大きくなっていくようだ。

 また各ノブの横にはPAD、48Vと書かれたボタンがあり、PADボタンを押すと青く光るとともにPA=アッテネータがオンになる。この際、カチッというリレースイッチの音がするので、回路自体をアナログで切り替えているようだ。また48Vボタンを押すと、XLRの端子へとファンタム電源の供給がされ、各端子ごとの設定となっているわけだ。8つのトリムコントロールの右側にはヘッドホン端子とボリューム調整ノブが用意されている。フロントパネルにある入出力端子はこのヘッドホン出力のみとなっている。

リアパネル。アナログのコンボジャックが8つ並んでいる

 リアパネルを見ると、アナログのコンボジャックが8つ並んでいる。このコンボジャック、XLRで接続した場合と、フォンで接続した場合では、信号の流れが大きく異なる設計になっている。まずXLRで接続した場合は、マイクプリアンプへと信号が流れていく。またXLR接続されてる場合は前述のPADボタン、48Vボタンが有効になるが、フォンで接続すると無効になる仕様。つまりライン信号をXLRで入力する場合は、手動でPADをオンにせよ、というわけなのだ。一方、フォン接続のほうはバランス型で3接点のTRSフォン、アンバランス型で2設定のTSフォンのどちらも利用可能になっている。ハイインピーダンス/ローインピーダンスの切り替えスイッチは用意されていないが、シンセサイザや外部のプリアンプなどラインレベルの信号も、エレキギターやベースなどの楽器も接続O。いわゆる「ハイ受け」となっているようだ。

出力端子はTRSフォンのみのシンプルなもの

 これに対し、アナログの出力はその左にある金メッキされたTRSフォンのメイン出力。つまりアナログにおいては基本的に8IN/2OUTというシンプルな仕様なのだ。ただしフロントにあるヘッドホン出力はメイン出力とは独立したチャンネルとして扱えるため、コンピュータ側から見ると、8IN/4OUTという仕様となる。

 しかし、カタログを見るとMOTU 8pre USBの仕様は16IN/12OUT。これはどういうことなのか? それを表すのが一番左側にある光デジタル端子だ。そう一般的な角形のTOSLINKの端子となっているわけだが、ここが他社のオーディオインターフェイスと比較してもなかなか特徴的になっている。

 これはadat接続のための端子であり、1本のケーブルで8ch分の入力または出力ができるという仕様。adatに関する詳細はここでは割愛するが、一般に使われている光ケーブル1本で8ch分の信号を送れるというのはなかなか便利なものだ。ただしadatで8ch分の送受信ができるのは44.1kHz、48kHzのときに限られる。96kHzにするとS/MUXという拡張フォーマットにより4ch分の送信または受信に制限されてしまうのだ。そのため、多くのadat対応のオーディオインターフェイスの場合、スペック通りの入出力チャンネルになるのは44.1kHzまたは48kHzでの動作時のみで、96kHzにするとチャンネル数が減ってしまう。それに対し、MOTU 8pre USBでは96kHz動作時には、もう一つ用意されている光デジタル端子が機能するようになっており、2本のケーブルを用いることで8ch分のやりとりが可能になっているのだ。これにより、どのサンプリングレートにおいても16IN/12OUTを実現できるわけだ。

 ただし、adatのチャンネルが有効になるのはドライバーの設定でオンにした場合。そのため、たとえばCubaseからadatがオンとオフの場合でのポート数を比較すると、明らかに違っているのが見えるのだ。

adatのドライバ設定
adat ON時
adat OFF時

 ところで、このadatの端子、物理的には、S/PDIFとまったく同じものであるため、多くのオーディオインターフェイスでは、adatとS/PDIFの切り替えになっている。MOTU 8pre USBもそうなっているものと思っていたが、実はS/PDIFはサポートしないという潔い割り切りをしているようだ。先ほどのCubaseの画面を見ても分かる通り、adatをオフにすると、完全にポートが見えなくなってしまい、S/PDIFとしては見えないのだ。一方、そのデジタル端子とは別に、Mix 1 Returnというモノラル2ch分のポートがあり、Cubaseからは10IN/4OUTに見えていることがわかる。これはMOTU 8pre USBでのミックス結果、つまりメイン出力がそのままループバックされるというものとなっている。

 以上が、MOTU 8pre USBの仕様であり、使ってみると非常にシンプルな機材で分かりやすい。フロントにはレベルメーターがあり、ここで各チャンネルの入力状況がチェックできるほか、隣のボリュームで出力音量調整などもできるようになっている。

前面のレベルメーター
ボリューム操作
CueMixDSP

 また、ほかのMOTU製品と同様にドライバー兼コントローラソフトである、CueMixDSPが用意されており、メイン出力へ送る信号レベルの設定やパン、トリム調整など、すべてここでできるようになっているし、信号入力レベルをチェックすることも可能だ。

 また入力している信号のFFT解析、オシロスコープ、X-Yプロット、位相解析といったこともできるので必要に応じて使うことが可能だ。さらに、おまけ? としてチューナー機能も搭載されているので、ギターを接続している場合などには重宝しそうだ。

入力信号のFFT解析
オシロスコープ
X-Yプロット
位相解析
チューナ機能

音質/レイテンシともに優秀

 では、ここでいつものようにRMAA Proを用いて音質テストを行なってみた。ここでは、メイン出力を入力の1ch/2chにTRSフォンでループバックさせる形で接続して実験。44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzの各モードで行なった。

RMAA PROでのテスト結果(24bit/44.1kHz)
RMAA PROでのテスト結果(24bit/48kHz)
RMAA PROでのテスト結果(24bit/88.2kHz)
RMAA PROでのテスト結果(24bit/96kHz)

 結果を見てみると、非常にいい特性となっていることが分かる。ただ、どのサンプリングレートでも、f特=Frequency respionseだけVery goodとオシイ結果になっていたので、確認をしてみたところ、どうも右チャンネルだけ10kHz以上で欠けてしまっているようなのだ。これに引っ張られる形で総合成績もExcellentではなくVery goodとなっている。もしかしたら、ケーブルに問題が起きているのではないかと、左右チャンネルを入れ替えてみたが結果は同じ。考えられるのは、借りた機材の右チャンネルに微妙な不具合があったということだが、左チャンネルを見ると非常にいい特性となっているので、おそらく右チャンネルの不具合さえなければ、すべてでExcellentがつく非常に優秀な機材なようだ。

 ではレイテンシーはどうだろうか? これもいつものようにCentranceのASIO Latency Test Utilityでテストをしてみた。このソフトの場合、44.1kHz、48kHz、96kHzでのテストができるが、いずれの場合も一番小さいバッファサイズ(64)で行なうと同時に44.1kHzのみは、他のオーディオインターフェイスとの比較の意味もあり、バッファサイズ128でもテストを行なった。

 結果を見ると、そこそこいい値だ。44.1kHz、バッファサイズ64サンプルで往復7.23msecなので、好成績。こうしたテストの結果から見ても、音質、レイテンシーともによく設計された機材といえるのではないだろうか。

44.1kHz(128サンプル)
44.1kHz(64サンプル)
48kHz
96kHz

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto