藤本健のDigital Audio Laboratory

第569回:DSD録音にも対応した「PCM-D100」を試す

第569回:DSD録音にも対応した「PCM-D100」を試す

6年ぶりの最高峰モデル。新マイクなど高い録音性能

PCM-D100

 既報の通り、ソニーからリニアPCMレコーダの最上位機種「PCM-D100」が11月21日に発売される。6年前に発売された「PCM-D50」の後継モデルで、店頭予想価格は10万円前後と、現在ある各社のリニアPCMレコーダの中ではかなり高価な部類に入る。

 最高24bit/192kHzのリニアPCMレコーディングに加え、DSD 2.8MHzにも対応しているのが大きな特徴だ。現在DSD対応のポータブルレコーダとして存在しているのはコルグのMR-2のみだが、これと比較してどうなのか、また見た目には前モデルのPCM-D50とかなり近いが実際、音や使い勝手はどうなのだろうか? 発売に先駆けて実機を試すことができたのでレポートする。

PCM-D50とそっくりの本体でDSD対応/新マイク搭載

 PCM-D100はPCM-D1('05年発売)、PCM-D50('07年発売)の流れを汲む、ソニーの最高峰のリニアPCMレコーダ。最近は小型のモデルも増えているリニアPCMレコーダの中では少し大きめで、ゴツい感じはするが、片手で持って持ち歩ける範囲の大きさだ。iPhone 5sと、ローランドのR-05と並べてみた写真を見ると、だいたいの雰囲気はお分かりいただけると思う。外形寸法は約156.8×72×32.7mm(縦×横×厚さ)、電池を含む重量は約395g。

PCM-D100を手に持ったところ
左から、iPhone 5s、PCM-D100、R-05

 パッと見は、前モデルのPCM-D50とそっくりだし、大きさもほぼ同じだが、実際に並べてみると、マイク部など、違う点もいろいろ。PCM-D50を改良して作ったというよりも、PCM-D50そっくりな形に作った、全く新しい設計の機材とのことだ。この辺の話はソニーの開発者に行なったインタビューを次回掲載する予定なので、そちらをご覧いただきたい。

左から、PCM-D1、PCM-D50、小型ボディが特徴のPCM-M10、新モデルのPCM-D100
PCM-D100(左)とPCM-D50(右)のマイク部比較
PCM-D100のマイク部

 今回のPCM-D100の最大の特徴といえるのは、やはりPCMの24bit/192kHz対応とDSD対応だろう。ただ、そもそも、こんな大きさのレコーダで、24bit/96kHzとの違いが実感できるのか……という疑問もあるが、試してみると確かに違う気もするから不思議だ。その音を捉えているのが、新たに開発されたという専用のマイク。見た目はPCM-D1に近いもので、口径は15mm(D50は10mm)。性能はさらに向上しているようだ。

【マイク性能比較】

製品ユニット径感度固有雑音最大入力音圧
PCM-D10015mm-31dB/Pa19dB SPL(A)約128dB SPL
PCM-D5010mm-35dB/Pa20dB SPL(A)約120dB SPL
PCM-D115mm-32dB/Pa20dB SPL(A)約130dB SPL

 このマイク、手で動かすことにより角度を変えることができる。XY型にすることで、90度の集音範囲に、左右に開くことで、マイクのL/Rが反転した上で120度の集音範囲に設定することができる。両方を正面にすることも可能ではあったが、マニュアルを見る限り、こうした設定はないようだった。

手で動かして角度調整できる。写真はXY型にした状態
120度に広げた場合
正面に向けた場合

 試しにPCM-D100を三脚に固定した状態で手を叩きながら回りを180度回ってみると、90度と120度の場合、それぞれでどのように音を捉えるのかを試してみた。とくに音質にこだわるわけではないので、ここではMP3を使ってレコーディングしてみた。これを聴き比べてみると、90度のものも、結構広く音を捉えている感じがしたが、確かに120度のほうが、動きが鮮明に感じられる。

録音サンプル(手を叩いて1周/MP3)
XY配置(90度)d100_xy90.mp3(296KB)
120度配置d100_120.mp3(299KB)

※編集部注:24bit/96kHzの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 では、入出力端子はどうなっているのか。結構いろいろな入出力が可能になっているのだが、まずは右サイドから見てみよう。一番マイク側の端子がマイク入力でプラグインパワーにも対応している。その隣がステレオのラインインなのだが、これが光デジタルとの兼用になっているのもポイント。その2つの端子の下にあるのがメモリーカードスロット。SD/SDHC/SDXCカードが利用できるようになっている。

右側の入力端子
SDカードスロット部

 左サイドを見ると、こちらは出力。マイク側の端子がステレオのラインアウトで、入力同様に光デジタル出力も兼ねた端子になっている。また右側はヘッドホン出力。その下には、INPUTスイッチとMIC ATTスイッチというものがある。INPUTスイッチは先ほどのMIC入力端子を使うか、ラインインを使うかを選択するためのもの。両端子とも接続されていない場合は、当然標準搭載のマイクでレコーディングする形になる。またMIC ATTは標準搭載のマイクにアッテネータを入れるかどうかの設定。後述するが、このマイク、非常に感度が高いため、大きい音を録音する場合はアッテネータを使って入力ゲインを大きく絞ったほうがいい。

光デジタル/ライン兼用の出力端子
マイク/ラインの切り替えとアッテネータのスイッチ

 一番右側には青いREMOTEという端子があるが、これはリモコン操作用のもの。標準でリモコンの受信ユニットと送信ユニットが付属しているのだが、ここに受信ユニットを取り付けると、離れた場所から録音のスタート/ストップ、再生のスタート/ストップ、といったことができるのだ。この写真を見ても分かる通り、受信ユニットは折り曲げが可能なため、いろいろな体勢で利用できるのもユニークなところだ。

リモコン(左)と受信ユニット(右)を同梱
接続したリモコン受信ユニットの向きを調整できる

 リアを見ると、三脚穴が用意されているほか、下側にLOCK-RELEASEというスイッチがあるのは、バッテリ用のもの。ここを開くとバッテリボックスを取り出すことができ、ここには4本の単3電池をいれることができるようになっている。リニアPCMの24bit/192kHzで連続レコーディングする場合、モニターなしであればアルカリ電池で18時間、ニッケル水素電池なら16時間使えるとのことだ。

背面
バッテリボックス部
単3電池4本で動作する

使い勝手の良さと高音質を実感

左右の録音レベルを独立調整可能。カバーを付ければ、一度設定した位置から不意にずれることを防げる

 実際レコーディングをしてみて、やはり気持ちよく感じるのが右サイドにある録音のレベル調整。ダイヤル式ではなく、アナログボリューム的にスムーズに動くため、録音中に触ってもカタカタいう音が入ることもなく調整することが可能。またこの部分、通常はアルミのカバーがかかった状態になっているが、これを外すことで、左右のレベルを別々に設定することも可能になっている。普段カバーをしている状態なら左右が同時に動くようになっており、こうした細かな使い勝手への配慮も嬉しいところだ。

 というわけで、実際にレコーディングを試してみよう。録音を始める前に、あらかじめ録音モードの設定として、リニアPCMかMP3か、DSDかを選択しておく。ここではDSDおよびリニアPCMを試してみたが、リニアPCMの場合はさらに、サンプリングレートなどの設定を行なう。またリニアPCMレコーディングを行なう場合、デュアルレコーディングというモードがあるのもユニークなところ。これはリニアPCMとMP3を同時に録音するという方式だ。またリミッターやローカットフィルターも用意されている。

録音モード選択画面
PCMの量子化ビット数/サンプリング周波数選択
PCM/MP3のデュアルレコーディングも可能
リミッターやローカットフィルターも装備
ウィンドスクリーンを着けた状態

 ここではリミッターもローカットフィルターもオフの状態で、外に出て、いつものように鳥の鳴き声を録音してみた。若干、風があったので、付属のウィンドスクリーンを取り付けておいた。24bit/192kHzのリニアPCMで、XY型で録ってみたのがこれだ。電信柱の上にいるスズメを捉えていたのだが、遠くで踏切の音が聴こえたり、カラスやヒヨ鳥が飛んで行ったりと、音を聴いているとかなりリアルに雰囲気が伝わるのではないだろうか?

録音サンプル(24bit/96kHz)
野鳥の声d100_bird.wav(16.2MB)
※編集部注:24bit/96kHzの録音ファイルを掲載しています。
 編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 続いて、やはりいつもと同様にCDをモニタースピーカーで再生したものを録るという実験も行なってみた。こちらは、もちろん室内で行なうのだが、先ほどもちょっと触れたとおり、マイクの感度の高さをすごく実感した。というのも、今までとりあげてきたリニアPCMレコーダと全く同じ場所で行なっているのだが、3mほど離れたところにある壁時計の秒針の音が大きすぎて、そのままでは実験ができなかったのだ。

 確かに、ときどき、この音が大きく感じられて時計を取り外すことはあったことは確かだが、ここまで大きく捉えてしまうケースはあまりなかったように思う。もちろんアッテネータをオンにすれば気にならないのだが、ここではあえて、アッテネータはオフにし、ボリュームをやや絞り気味で録音した結果がこれだ。このファイルは、いつもの手法にならって24bit/192kHzでレコーディングした音を波形編集ソフトを使って16bit/44.1kHzに加工したものだが、ほかの各社のリニアPCMレコーダの音と比較しても、かなり高音質に感じられた。

録音サンプル(16bit/44.1kHz)
CDプレーヤーからの再生音d100_music1644.wav(7.98MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:編集部では掲載したファイルの再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますので
ご了承下さい

 また、この音を周波数解析した結果が下の図だ。これを見ても、また実際の音を聴いても、以前に取り上げたPCM-D50とかなりニュアンスが近いように感じられた。

周波数解析の結果
Sound Forge Audio Studio 10を同梱

 なお、こうした加工するためのソフトとしてSony Creative SoftwareのSound Forge Audio Studio 10がバンドルされているのもPCM-D100の大きなポイントといってもいいだろう。ただし、同ソフトで編集できるのはWAV/MP3ファイルで、DSDファイルは再生/編集できない。

他社レコーダとのDSD再生互換性もチェック

 ところで、DSDでレコーディングする機材としてはコルグのMR-2があるわけだが、こちらと比較すると、やはりマイク性能の違いがあるのか、PCM-D100のほうがより高域まで捉えているように感じられた。ただこの辺は、好みというところもあるので、一概にはいえない。また、現在の実売価格で見て3倍程度の違いがあるので、単純比較すべきものではないのかもしれない。

ダウンロード購入したDSFファイルも再生できた

 なお、DSDでレコーディングする場合の形式はDSFとなる。試しにDSFファイルをMR-2に持っていったところ問題なく再生できたし、TASCAMのDA-3000でも再生することができたので、互換性のほうも大丈夫そうだ。反対に手元にあるダウンロード購入したDSFファイルをSDHCカードにコピーし、PCM-D100で再生してみたところ、こちらもキレイな音で再生することができる。この場合、PCM変換しているわけではなく、ネイティブでDSD再生しているので、DSDのプレーヤーとしてみてもよさそうだ。

【10月29日訂正】記事初出時、録音ファイル形式について「DSFファイルとDSDIFFファイルの2方式を選択できる」としていましたが、正しくは「DSFファイルのみ」でした。お詫びして訂正いたします(編集部)

 以上、ソニーのリニアPCM/DSDレコーダのPCM-D100についてみてきたが、いかがだっただろうか? 最近、どんどん安くなっているリニアPCMレコーダの中で、かなり高価格で登場してきた機材だが、その分、かなり音質に力をいれた高性能な製品に仕上がっている印象だ。次回は、PCM-D100の開発者に、設計のコンセプトや、なぜDSDに対応させたのかなどを聞いたインタビューを掲載する予定だ。

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PCM-D100

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto