藤本健のDigital Audio Laboratory
第623回:DSDが身近に? リアルタイムDSD変換もできるAndroid/iOSアプリ「HF Player」
第623回:DSDが身近に? リアルタイムDSD変換もできるAndroid/iOSアプリ「HF Player」
(2015/2/16 12:35)
最近は徐々に海外でも流通されるようになってきたという話も聞くDSD。ハイレゾが大きな話題になる国内においても、まだまだマニアックな存在であることは確かだが、その再生手段のほうも裾野を広げてきている。基本的にはWindowsやMacなどのPCで再生するものだとばかり思っていたが、iPhoneやiPad、さらにはAndroidでの再生も可能になったのだ。そのタブレットやスマホで再生するためのキーアプリとなるのが、オンキヨーが先日メジャーアップデートした「HF Player」。本当にこれでDSD再生ができるのか、iOS、Androidのそれぞれで試してみた。
Androidもついに正式版にアップデートでDSD対応
すでにニュース記事にもあった通り、2月4日にオンキヨーがHF Playerの新バージョンをiOS用、Android用のそれぞれにリリースした。これまでも、iOS用とAndroid用があったが、iOS用は2.0にアップデートされ、Android用は従来のトライアル版から正式版の1.0へとアップデートされている。最大のポイントは、いずれもDSDのネイティブ再生ができるだけでなく、PCMからDSDへのリアルタイム変換出力機能が搭載されたのがポイント。つまりWAVやFLAC、さらにはMP3でもDSD化しての再生を可能にするのだ。
こうしたDSDへのリアルタイム変換は、以前取り上げたローランドのMobile UAのようにハードウェアで行なうものもあるが、オンキヨーのHF Playerはソフトウェア、しかもiOS、Androidのアプリとして実現する。もちろん、「44.1kHz/16bitのデータをDSD化したって、意味がない」、「MP3の音をDSD化なんてナンセンス」と思う方も多いとは思うが、いわゆるアップサンプリングと同様に、ある程度の音の変化はあるのは事実。もちろんMP3の音が、実際のDSDレコーディングの音のようになるわけではないが、以前試したMobile UAにおいてはCDの再生音が、そのままPCMで聴くよりもDSD化することで明らかに聴き心地をよくなったので、試してみる価値はありそうだ。
ただし、これを実現するにはいくつかの条件が必要となる。まず1つ目はDoP(DSD over PCM)に対応するDSDネイティブ再生ができるUSB DACを用意すること。そしてもう一つは、HF Playerに1,000円(税込)の支払をすることだ。いずれのアプリも基本的には無料なのだが、iOS版においてはアプリ内課金の形で「HFプレーヤーパック」を購入することでこれに対応し、Android版の場合は、Google Playから「アンロックアプリ」を購入することで、使えるようになるのだ。ただし、CPUパワーの問題なのか、iOS版においてはiPhone 5s以降の64bit CPU搭載の機器のみDSD変換へのリアルタイム変換に対応している。
というわけで、実際にDSDファイルの再生ができるのか、ネイティブ再生に対応しているのか、PCMファイルをDSDへリアルタイム変換して、音質的な向上が見られるのかをiOS版、Android版それぞれで試してみた。ここで利用したのはティアックが1月に発売したポータブルヘッドフォンアンプ/ハイレゾプレーヤーのHA-P90SD。これはPCMにおいては192kHz/24bit、またDSDでも2.8MHz、5.6MHzに対応したUSB DACとして機能する機材であり、Made for iPhone、iPad、iPodのロゴも習得している最新デバイスなので使ってみた。
まずは最新のデジタルオーディオの世界とはやや縁遠いという印象もあったAndroidから見ていこう。ここでは先日のLollipopの記事で用いたNexus 10を使っていく。以前からインストールしてあったトライアル版のHR Playerから正式版のHR Player 1.0へとアップデートすると同時に、HF Player-Unlock Keyというものを1,000円で購入して起動すると、ロックが解除される。
その上でいったんPCとUSB接続し、Nexus 10にあるMusicフォルダへ再生したファイルを転送。その後、HF Playerを起動して「同期」を実行することで、Musicフォルダ内のファイルがすべてHF Playerから見えて、再生できるようになる。とりあえず、HA-P90SDに接続する前に、読み込んだファイルを再生してみると、WAVファイルはもちろん、MP3、OggVorbis、FLAC、さらにはApple Lossless(ALAC)と一通り何でも再生することができる。そしてDSDのデータであるDSFファイルもNexus 10のスピーカーから鳴らすことができた。Nexus 10の内蔵スピーカーはステレオであり、iPadのものよりも、いい音だとはいっても、もちろんオーディオ的に見ればあくまでもオモチャのようなものでありハイレゾサウンドを楽しむためのものではない。ここでさっそくHA-P90SDと接続してみた。接続の方法としては、まずOTG(On The Go)ケーブルをNexus 10側に取り付けることで、Androidをホストに仕立てるという方法だ。
接続してみるとあっさりと認識され、Nexus 10での再生音は本体内蔵のスピーカーからHA-P90SDへと切り替わる。本体のヘッドフォン端子で再生する音と比較しても、圧倒的に高音質だが、44.1kHz/16bitの音と96kHz/24bitの音の違いがあまりないな……と思ったら、設定の問題だった。設定メニューのOnkyo USB HF Driverを有効にすることで、1,000円で購入したハイレゾ再生機能が使えるようになり、HA-P90SDが本領を発揮するようになるのだ。実際、明らかにハイレゾ再生の音質は向上する。
ここで、さらにその設定メニューをよく見てみると、さまざまなものがあるので、試してみた。まず、アップサンプリングをオンにするとHF Player側でアップサンプリングが行なわれるようになる。ここにはオンのほかに48kHzモードというものがあり、ここに設定すれば48kHz/96kHz/192kHzへとアップサンプリングされるようになる。またDSDの出力形式という設定においてはPCMとDoPがある。デフォルトではPCMとなっており、DSD非対応のUSB DACでもDSDフォーマットであるDSFファイルの再生が可能になっているが、ここではDSD対応のHA-P90SDを使うので、もちろん、ここはDoPに設定。この状態でDSFを再生すると、ネイティブ再生されるというわけだ。ネイティブ再生すると、画面右上の表示がPCMからDSDに切り替わっているのが確認できる。
さらに、ユニークなのは、冒頭でも述べたリアルタイムDSD変換という機能。デフォルトではオフとなっているが、4段階の設定があるので、ここでは「DSD 5.6MHz 高精度」を選んでCDからリッピングした44.1kHz/16bitのサウンドをオフの状態と切り替えながら比較してみた。PCM再生している場合は画面上部中央に「DIRECT」と表示されているのに対し、DSD変換の場合は「DSD CONVERT」という表示に切り替わる。結果的には、結構音に違いがあり、より抜けがよくなると同時に広がりがあるサウンドへと変化する。EQを使った音処理とは明らかに違うし、オーディオに慣れていない人でも、比較的すぐにわかるのではないだろうか?前述のローランドのMobile UAほど劇的な差ではなかったが、やはり同じ傾向のサウンド変化が起こる。おそらく十中八九の人がDSDリアルアイム処理をした音を好むのではないだろうか?
これだけ音の違いが出ているので、間違いないとは思うがNexus 10との接続時にはHA-P90SDの液晶に「USB connected」という表示がされるだけで、何kHzのオーディオ信号が流れてきているのか、PCMなのかDSDなのかといったことも表示されないので、ちょっと気になるところ。そこで手元にあるインジケータ付のUSB DACであるラトックのRAL-DSDHA1を接続して試してみたところ、確かにDSDの信号が来ていることも確認することができた。
iOSでもDSDへ変換再生可能。アプリ登場でDSDが簡単に使えるように
同様のテストをiPhone 6sでも行なってみた。iOS版のHF Playerは筆者もよくつかっているのだが、iOSデバイスをHA-P90SDと接続する場合はLightning-USBカメラアダプタを使わなくても、iPhone付属のUSB充電ケーブルで接続できてしまう手軽さが大きなポイント。その詳細については、以前HA-P50やオンキヨーのDAC-HA200について書いた「iOS/Android両対応のオンキヨー初ポータブルアンプ登場。開発の裏側を聞く」にあるので、ここでは割愛するが、なかなか便利なところだ。
さっそく、再生してみると、まずiTunes管理の楽曲は昔のDRM付きのもの以外は問題なく再生できる。リアルタイムのDSD変換も効くし、iTunesから直接HR Player用に転送したWAV、FLAC、ALAC、そしてDSDファイルであるDSFなどの楽曲も再生することができる。
Android版がバージョン1.0であったのに対し、iOS版は2.0となっているが、実際にそれほど大きな機能差があるわけではなく、目立った違いとしてはAirDropを使った、Macからのファイルを転送ができること(iOS 8以降を搭載したiOS端末と、Mac OS X Yosemiteを搭載し、Bluetooth 4.0に対応したMacが必要)くらい。各種フォーマットを再生し、DoP接続によりDSDのネイティブ再生を行なったり、PCMデータをリアルタイムDSD変換するといった機能は共通だ。あまり見たことはないが、DSDの3MHz、6MHzのデータのPCM変換再生およびDoP出力にもバージョン2.0は対応しているというが、この辺を使う機会というのは今のところはなさそうだ。ちなみに、最近ちょっとだけコンテンツが出始めた11.2MHzのDSDデータにはバージョン1.0のAndroid版も2.0のiOS版も対応しているようである。
以上、iOSおよびAndroidでハイレゾデータ、DSDを簡単に扱えるオンキヨーのHF Playerについて見てきた。実際に使ってみると、PCで扱うよりも、より簡単に利用できるのは大きなメリットだと感じた。まだDSDが市民権を得るまでには時間がかかりそうではあるが、手軽なアプリが登場してくれるのは嬉しいところだ。CakewalkのSONARがDSD対応したり、ローランドがMobile UAの上位バージョンともいえるSuper UAを発表するなど、今年もDSDのソフト、ハードがいろいろと登場してきそうなので、今後もDigital Audio Laboratoryで積極的に取り上げていく予定だ。
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