藤本健のDigital Audio Laboratory
第666回:電子カホンやギター用ボコーダ、USB/MIDI/Bluetoothコントローラに注目。Roland/BOSS新製品
第666回:電子カホンやギター用ボコーダ、USB/MIDI/Bluetoothコントローラに注目。Roland/BOSS新製品
(2016/2/8 13:01)
今年1月にアメリカで開催されたNAMM Show 2016では、数多くのメーカーからさまざまな新製品が登場した。ローランドは、そこで発表した新製品についての国内お披露目イベント「Roland/BOSS 2016春の新製品発表会」を2月2日、3日に都内で開催。ここではRolandブランド、BOSSブランドのさまざまな製品が発表されたが、今回はこの中から3製品をピックアップして紹介する。
なお、3製品以外にも様々な製品が披露されたが、そのうちギターアンプ「ジャズ・コーラス(JAZZ CHORUS)」のデザインを採用したBluetoothスピーカー「JC-01」も発表された。この製品については、既にニュース記事で紹介されている。
アコースティックのカホンに電子音を重ねて演奏
まず1つ目は、NAMMにおいて「Best in Show Award」を受賞した「EC-10 EL Cajon」について。これはカホンにエレクトロニック・サウンドを組み合わせたというユニークな発想の製品。発表会の冒頭でEC-10を使ったデモ演奏があったので、まずは、このビデオをご覧いただきたい。
カホンをご存じない方のために簡単に紹介しておくと、カホンは南米ペルーで生まれた直方体型の打楽器。通常、正面が打面となっていて、叩く場所や叩き方によって音が変わるのが特徴で、ドラムっぽい音が出せることから、ポータブルドラム的な使い方をされるケースも多い機材だ。
今回登場したEC-10は、これ自体、完全なアコースティックのカホンとして使えるものであり、見た目も普通の木製のカホンそのもの。ところが、そのアコースティックのカホンの中にセンサーやスイッチ、音源、アンプ、スピーカーといったものを埋め込んだことにより、電子カホンとして使えるようになっている。
リアには電池ボックスがあり、ここに単3電池6個を入れるか、ACアダプタを取り付けて電源を入れる。するとトップにあるLEDランプが光り、音のジャンルをCajon、Percussion、SFXの3種類から選べるようになる。さらにそれぞれのジャンルにある10種類のキットから音色を選ぶ。この状態でEC-10を叩くと、内蔵のスピーカーからはさまざまな音が出てくるのだ。たとえばPercussionのグループではタンバリン、シェイカー、スプラッシュ・シンバルといった音色キットが用意されているため、このカホンを叩くと、タンバリンなどの音が出てくるのだ。実際、デモンストレーターを務めていたドラマーの桝谷マリさんに叩いてもらったのが下の動画。
これを見ると、実際にアコースティックのカホンの音と電子カホンの音が同時に出ているのが分かるはずだ。このスピーカーの出力は3Wあるので、それなりの音量はある。またこのスピーカーからは電子カホンの音だけでなく、リアのステレオミニの入力端子に入れた音をミックスして出すことも可能。つまりiPodなどからの音を流しながら、カホンを叩くといったことができるわけだ。
ちなみに、リアには電子カホンの音を出力するためのモノラルのラインアウトがある一方、アコースティックカホンの音を拾うマイク機能などは装備されていない。そのため、最初の動画においては、このラインアウトをPAへ送ると同時に、EC-10の横にマイクが立ててあり、そのマイクの音もPAに送ってミックスしていたのだ。
このEC-10はすでに発売が開始されており、オープン価格で実売が45,000円前後となっている。
ギター演奏で“歌わせる”BOSSボコーダ
2つ目に紹介するのはBOSSブランドの「VO-1」という製品。見た目はストンプ型のコンパクト・エフェクターそのものだが、これがボコーダーとなっているのだ。まずは発表会のステージで行なわれたデモをご覧いただきたい。
一般的にボコーダーというとシンセサイザ・キーボードにマイクを取り付け、マイクからの入力信号をフィルターとして用いることで機械が歌っているようなサウンドを作り出す楽器だが、このVO-1はギター用としてもっと簡単に使えるユニークなものだ。VO-1にはギター入力とマイク入力が1つずつあるので、ここにギターとボーカル用マイクをそれぞれ接続。この状態でギターを弾きながら歌うだけで、先ほどのようなサウンドを作ることができるのだ。
ただ、デモからも分かるとおり、VO-1にはVINTAGE、ADVANCED、TALK BOX、CHOIRという4つのモードがあり、どのモードに設定するかによって、出てくる音や使い方も変わってくる。一番ベーシックなVINTAGEモードは、昔からのボコーダーそのもの。音程・和音はギターを弾いたとおりでありながら、その音色はシンセサイザっぽいものになるとともに、マイクに向かって歌ったように音質が変化する。この際、マイクからの入力のピッチは関係ないので、音程が外れていようが、しゃべるように入力しても、同等の結果となる。
ADVANCEDモードはVINTAGEよりも明瞭度を上げた新しいタイプのボコーダー。従来のボコーダーと比較してもクッキリとした声となり、何を歌っているのかが、もう少しハッキリと聴こえるようになる。そして3つ目のTALK BOXモードは、いわゆるトーキングモジュレーターを実現するものだ。トーキングモジュレーターとは1970年代に流行ったローテク(?)なボコーダーのようなもので、ギターの音を小さなスピーカーで鳴らし、その音をホースで口の中へ送り、口の中で共鳴させた音をマイクで拾うことで、しゃべっているような楽器音を実現するというもの。そんなトーキングモジュレーター風なサウンドを実現するのがTALK BOXモードなのだ。そして、最後のCHOIR(クワイヤ)モードはマイクを使わなくてもボコーダー的なサウンドを作り出してくれるというもの。ギターでコードを弾くと、合唱しているようなサウンドになるのだ。
このVO-1はギターだけでなくベースでも使うことが可能となっており、ベーシストが派手なパフォーマンスをする、といった使い方もできる。3月の発売予定でオープン価格だが、まだ実売価格がいくらになるかハッキリしないものの、25,000円前後になるものと思われる。
USB/MIDI、Bluetoothで様々な機器につながる「A-01」
最後に紹介するのは、ローランドのビンテージシンセであるJUPITER-8やJX-3P、JUNO-106を復刻したRoland Boutiqueシリーズのラインナップとして追加されたコントローラ「A-01」。これと合体するキーボードK-25mとセットとなった「A-01K」は、すでに1月29日から発売されており(現時点でA-01の単体発売はされていない)、実売価格は52,000円程度というものだ。
見た目はミニ鍵盤の小さなシンセサイザという印象で、実際、楽器として音を鳴らすことも可能なのだが、A-01の製品コンセプトはちょっと違ったところにある。まずは、システム接続図をご覧いただきたい。
このようにA-01はUSBでPCと接続できるのはもちろんのこと、MIDIでMIDIキーボードと接続したり、MIDI音源モジュールと接続できるほか、Bluetooth LEを使ってiPadやiPhoneとのMIDI接続も可能。さらに、A-01にはCV/GATE出力も備えているため、アナログシンセサイザと接続することもできるなど、さまざまな接続が可能になっているのだ。そして、単に接続するだけでなく、A-01を媒介として、接続した機器間で自由に信号を送りあうことができるため、まさに電子楽器のハブというかゲートウェイとして利用できるようになっているのが最大のポイントだ。
たとえば、K-25mを弾いて、iPad上で動いているシンセアプリを鳴らすことができるし、MIDIキーボードを弾いて、CV/GATE接続したアナログシンセを鳴らすことも可能。デフォルトでは、すべての信号がすべての機器に送られるようになっているが、MIDIチャンネル設定を行なうことにより、それぞれ別々に制御することも可能になる。発表会の会場では、3月に発売される予定のユーロラックに収まったアナログシンセサイザ「Roland SYSTEM-500 Complete Set」と接続してのデモも行なわれていた。
また前述のとおり、A-01自体も楽器として音を鳴らす機能を搭載している。具体的には8bit CPUを使ったアナログシンセのモデリング音源が搭載されており、モノフォニックで鳴らすことができる。この音はLINE OUT、ヘッドフォン出力から出せるだけでなく、A-01本体搭載の小さなスピーカーからも出すことができるので、簡易的に鳴らす音源としても便利に使うことができる。ちなみに、このモノフォニックのシンセサイザは、ローランドのOBであり、以前JX-3Pの開発を行なったエンジニアである松井朗氏が開発したもの。OBとはいえ、社外の人が開発に携わったことを公表すること自体、ローランドでは珍しいことにように思うが、新生ローランドとして、いろいろと変化してきているのかもしれない。
一方、A-01には16ステップのシーケンサも搭載しているのも大きな特徴。機能的にはとってもシンプルなシーケンサではあるが、16パターン(8パターン×2バンク)までメモリすることができるため、あらかじめパターンを仕込んでおいて、ライブなどで使うことができる。まあ、今の時代当たり前な機能ではあるけれど、ステップシーケンサでメモリ機能を持ったものって意外と少ないため、アナログシンセサイザのコントローラとしても便利に使えそうだ。
ちなみに、A-01のBluetoothを使ったMIDI接続機能は、ローランド独自規格というわけではなく、アメリカのMIDI協議会や日本のAMEIで合意されたばかりの標準規格。「MIDI over Bluetooth LE(BLE-MIDI)」と呼んでいるが、この規格はすでにiOSでサポートされているほか、Mac OS Xでも10.10のYosemite以降で対応しているので、これらの機器との接続が可能となっているが、現時点マイクロソフトが対応ドライバを用意していないためWindowsとはUSB接続が基本となる。
ただ、昨年の第660回の記事でも紹介したコルグのBLE-MIDI対応のUSB-MIDIキーボード「microKEY AIR」がWindows用のドライバを無料配布しており、このドライバをインストールすることでA-01でも利用できることが確認できた。ヤマハでもNAMM SHOW 2016のタイミングでBLE-MIDI対応デバイスが登場するなど各社続々と製品が登場してきている。今後、まだまださまざまな製品がBLE-MIDI対応すると思われるが、どんな製品が出てくるのか楽しみだ。
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JC-01 | EC-10 | A-01K (キーボード付き) |