藤本健のDigital Audio Laboratory

第679回:国産音楽編集ソフトがハイレゾ対応で帰ってきた! 「DigiOnSound X」を試す

第679回:国産音楽編集ソフトがハイレゾ対応で帰ってきた! 「DigiOnSound X」を試す

 福岡に本社を持つソフトウェアメーカー、デジオンが久しぶりにオーディオ編集ソフト、DigiOnSoundの新バージョン「DigiOnSound X」をリリースし、DAWソフトの前線復帰を果たした。

DigiOnSound Xの画面

 前バージョンであるDigiOnSound 6('10年11月発売)はすでに2014年に販売を終了していたが、今回の復活の背景にはハイレゾ音源の盛り上がりやアナログレコードブームなどもあるようで、DSDへの対応やFLACのインポート/エクスポートへの対応など、ハイレゾというキーワードに関連した機能がいろいろ追加されると同時に、ユーザーインターフェイスもクールに、かつ使いやすく進化している。実際どんなソフトになっているのか紹介しよう。

DigiOnSound Xのロゴ

国産オーディオ編集ソフトがハイレゾ対応で帰ってきた

 音楽制作・音楽編集ソフトは海外モノが中心で、国内ソフトというとごくわずかというのが実情だ。オーディオ編集の国内ソフトとしては、この連載でも何度か取り上げているインターネットのSound it!があるが、DigiOn Soundが久しぶりに戻ってきてくれたことは素直に歓迎したい。

 今回発売されたのは上位版の「DigiOnSound X」(21,600円/税込)とDSD非対応で、最大6トラックまでの「DigiOnSound X Express」(7,560円/税込)の2種類。いずれも現時点ではダウンロード販売のみとなっており、対応OSはWindows 7/8.1/10。価格は、以前のバージョンであるDigiOn Sound 6のパッケージ版が47,250円、ダウンロード版が42,525円であったので、ほぼ半額になったわけだ。

 インストール時に、DigiOnSound Xのロゴが表示されると同時に、“Hi-Res AUDIO”のロゴが表示されることからも想像できるように、オーディオリスナー層、PCオーディオユーザーを大きなターゲットとしているようだ。そのため、今回のバージョンで初めてFLACおよびALAC(Apple Lossless)の読み書きができるようになった。そして、今回の新バージョンで大きく目立つのがDSDへの対応だろう。ファイル形式としてはDSDとDSDIFFの2種類で2.8MHz、5.6MHz、11.2MHzのそれぞれの読み書きが可能だ。

インストール時のロゴにハイレゾマークも
FLAC/ALACにも対応した

 現在、DSDに対応している波形編集ソフトとしては以前にも紹介したことがあるSONAR Premium、Sound it!8があるが、いずれも読み込みにかなりの時間がかかったので、DigiOnSound Xではどのくらいなのかを試してみた。それぞれ5.6MHzで8分59秒のDSFファイルを読み込ませてみたところかかった時間は以下の通り。

DSD読み込みの時間を計測

【5.6MHz/8分59秒のDSFファイル読み込み時間】

  • 「DigiOnSound X」25秒
  • 「SONAR Premium」2分2秒
  • 「Sound it! 8」2分44秒

 上記の数値だけで比較すると、DigiOnSound Xが圧倒的に速いわけだが、もちろん単純比較はできない。というのもいずれのソフトも読み込んだ時点で、PCMに変換される仕組みになっているので、その精度がどこまで高いのかという問題があるからだ。もっとも、ちょっと聴いただけで分かるほどの顕著な差があるわけではない。また、読み込む際、SONARやSound it!では基本的に192kHz/24bitとなるのに対し、DigiOnSound Xでは192kHz/32bitとなる。このことからも分かる通り、「DSDのサウンドを聴きたい」という目的であれば、DigiOnSound Xを含め、いずれのソフトもネイティブ再生ができないので不向きではある。

 一方で、DigiOnSound Xはサラウンドを扱えるというのも大きな特徴となっている。もっとも対応しているのは5.1chまでであり、最近の7.1chや9.1ch、11.2ch……といったものにまでは対応していないものの、これが利用できる一般的なソフトとしてはSound ForgeやWaveLabくらいしかないので、サラウンド編集をしたいという人にとっては大きな意味がありそうだ。すでに5.1chなどにミックスされたWAVファイルやAIFFファイルを開いた上で、サラウンドパンナーを使ってサラウンドのバランスを整えることができるだけでなく、マルチトラックのデータであれば、5.1ch各トラックのどのスピーカーから音を出すのかというバランスを設定した上で、サラウンドデータとして保存することができる。ただし、ドルビーデジタルやDTSといったコーデックは用意されていないので、保存できるのはWAV、AIFF、RAW、WMA、OggVorbisの5種類となっている。

サラウンド音声もサポート
サラウンドに対応するのはWAV、AIFF、RAW、WMA、OggVorbis

圧縮音源やアナログ音源をハイレゾでデジタル録音

 さて、今回の新バージョンで個人的に一番面白いと感じたのは、「DHFX」(Digion High Frequency Extension)という機能。これはMP3やAACなどの圧縮音源で欠けてしまった高域を補間したり、44.1kHz/16bitの音源を48kHz/24bitや96kHz/24bitのフォーマットへハイレゾ化する際に、高域成分を補間し、より自然なサウンドにするというもの。この手の機能は、かなり以前からあるものだし、ソニーの「DSEE HX」のようにウォークマンなどに標準搭載されていたりもするが、オーディオ編集ソフトで搭載しているものは、あまり見たことがない。

DHFXの画面
ハイレゾ化の設定

 DHFXはデジオンのオリジナル開発によるものとのことだが、試しにMP3に対して掛けてみるとかなり気持ちいいサウンドになる。実際に補間されていることは、DigiOnSound Xのリアルタイムな周波数分析の結果からも明らかだ。EQでハイを上げたという感じではなく、音像がクッキリして、音が広がった感じに聴こえるのが不思議なところ。

周波数分析の結果。補間を行なう前
補間した後

 もちろん、音を圧縮前の状態に戻すわけではなく、独自の演算で高域を作り出して加算しているのだが、かなりいい効果が得られるので、これだけのために購入しても損はないと思うくらいだ。このDHFXを使う際、効き具合を弱・中・強と3段階で選べるが、弱であっても十分な効果を感じられる。CDを96kHzなどにアップサンプリングして聴いている人も多いと思うが、単にアップサンプリングするのとはかなり違い、とっても効果的。また曲のジャンルによってクラシック、ポップス、ジャズ、ロックから選択できるようになっているほか、CD音源からハイレゾ化する際には、EQの設定ができるのも特徴だ。

CD音源からハイレゾ化する時はEQの設定も可能

 今回のバージョンアップにおいて、もう一つフォーカスを当てたのがアナログレコードやアナログテープのデジタル化というテーマだ。これまでオーディオ編集などはした経験がないけれど、アナログ素材のアーカイブをなんとかしたいと思っている人も多いので、そうしたニーズを取り込みたいという考えがデジオンにあったようだ。

 そのために、まずはユーザーインターフェイスを改善し、初心者でも使いやすい形にしている。その一つが「シナリオ」というランチャー機能。DigiOnSound Xを起動すると、まず最初にこの画面が出てくるのだが、ここで何をしたいのかを選択する。具体的には「録音する」、「曲を分割する」、「編集する」、「音楽CDを作成する」の4種類。たとえば「録音する」を選ぶと、マニュアルが表示されるとともに、録音準備状態に入るので、すぐに作業に入れるというわけだ。

「シナリオ」で、最初にやりたいことを選ぶ
マニュアルが表示
録音準備状態になる

 また、とても分かりやすくなっているのが「編集する」を選んでの編集作業。通常オーディオの編集というと、まず波形の必要部分を選択し、そこに対して各種処理を行なっていくのだが、ここでは基本的に波形全体に対して処理することを前提に、各種処理をボタン一つでできるようになっているのだ。具体的にはレベル調整、DCオフセット、ノーマライズといった基本処理から、EQやフィルタリング、コンプレッサ処理、ノイズリダクション、さらにはリバーブやピッチシフト、モジュレーション……といったエフェクト処理までいろいろある。

 ここでのエフェクト処理は、一般的なDAWでのリアルタイム処理とは異なり、波形全体に対して変換する形となる。ただし、どんな雰囲気になるのかはプレビュー機能によってチェックすることは可能だ。また、このボタンで簡単操作はできないが、VSTプラグインにも対応している。ただし、DigiOnSound X自体が32bitアプリケーションであるため、利用できるVSTプラグインも32bit版に限られる。

編集時の各種処理ボタンが分かりやすい
VSTプラグインにも対応

6種類のノイズリダクションや、楽曲情報取得機能も

 アナログレコードやアナログテープから取り込んで、ハイレゾデータとして保存したりCDに焼く上で重要になるのがノイズの除去だ。DigiOnSound Xにはそのためのエフェクトとしてノイズリダクションが6種類用意されている。具体的には「ノイズゲート」、「ヒスノイズ」、「ハムノイズ」、「クラックルノイズ」、それに「ノイズリダクション~取り込み」と「ノイズリダクション~削除」がある。

ノイズゲート
ヒスノイズ
ハムノイズ
クラックルノイズ
ノイズリダクション~取り込み
ノイズリダクション~削除

 これらはDigiOn Sound 6と違いはないようなので、詳細は割愛するが、「ノイズリダクション~取り込み」と「ノイズリダクション~削除」はセットで使うものとなっており、予め環境ノイズなどを取り込んでおいた上で、それを全体から削除するという使い方になる。

 もう一つDigiOnSound Xで追加された便利な機能が「楽曲情報取得」機能だ。これはGracenoteのMusic IDを使ったもので、アナログ素材から取り込んだ音であっても、判別できるのが大きなポイント。現在は1曲ずつ手動で情報取得する形になっているが、6月に予定されているアップデートでは、アルバムを丸ごと取り込んだ場合、アルバム単位で処理できるようになるという。

楽曲情報取得中の画面
取得結果

 なお、レコードプレーヤーで取り込んでデジタル録音した手持ちの音源の中には、DigiOnSound Xに読み込んでも楽曲情報取得できなかったものもあったので、オールマイティとはいかないのかもしれない。ぜひ、この精度向上を願いたいところだが、これはデジオンというよりもGracenote側の対応次第なのかもしれない。

該当曲が見つからなかった時のエラー画面

 以上、DigiOnSound Xについて新機能を中心に紹介してみたがいかがだっただろうか? この価格で、これだけのことができるのは非常に魅力だし、とくにDHFXはとても優秀なので、ぜひ積極的に使ってみたいと思った。数少ない国産のオーディオ編集ソフトなので、この先も頑張っていってほしい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto