藤本健のDigital Audio Laboratory

第680回:DSD 11.2MHz録音対応、RMEの最高峰USBオーディオ「ADI-2 Pro」が登場

第680回:DSD 11.2MHz録音対応、RMEの最高峰USBオーディオ「ADI-2 Pro」が登場

 ドイツのRMEから、録音/再生可能なオーディオインターフェイスで、現行スペックにおいて世界最高峰となる「ADI-2 Pro」がリリースされる。

ADI-2 Pro(試作機)

 PCMとしては最高で768kHz/32bit、DSDにおいては11.2MHzでの録音/再生を可能にするというもので、実売価格は18~19万円程度の見込み。発売は今年の秋になるとのことなので、まだちょっと先だが、試作機を見たので、これがどんなものなのかをレポートしたい。

RMEによる「リファレンスAD/DAコンバータ」

 Firefaceシリーズでオーディオインターフェイスの世界を常にリードしてきたRME。似たスペックの機種の新製品を毎年のように出して、リニューアルしていく日本メーカーと異なり、1つの機種を10年以上に渡って現行製品として発売し続ける姿勢には、安心感と貫禄を感じていた。

 RMEの高スペックと長寿命製品の背景にあったのはFPGA(プログラマブルなIC)をコアに搭載しているということがあった。FPGAはファームウェアを書き換えることで、ハードウェアの回路自体を変更することができる。そのため、形は同じでも、まったく異なる回路のシステムへと進化させられるため、コンピュータやOSが進化しても、それに合ったハードウェアへ変更でき、長期間現役製品として存在し続けられたわけだ。

 またFPGAでオーディオ信号処理を行なっているため、処理速度を高速化でき、結果として極めてレイテンシーの小さいデバイスを作ることができたのだ。ただ、ここ最近ではズームのオーディオインターフェイスが、RMEのレイテンシーより小さい値を記録するなど、競争が激しくなってきていた。そうした中、各社の製品からスペック面で大きく引き離すオーディオインターフェイスをRMEが打ち出してきたのだ。

 このたび発表されたADI-2 ProはPCMで768kHz/32bit、DSDで11.2MHzまでサポートするという、既存製品を圧倒的に引き離すスペックを持つオーディオインターフェイス。そもそも一般のオーディオインターフェイスで最高峰といわれるものが192kHz/24bitであり、DSDをサポートするオーディオインターフェイスとなると、以前に紹介したコルグのDS-DAC-10Rくらいしか存在していないが、DS-DAC-10Rが5.6MHz対応であったことを考えれば、ADI-2 Proの突出具合が見えてくるはずだ。

「The Reference class AD/DA converter」と書かれたADI-2 Proのパンフレット

 ADI-2 Proのパンフレットを見ると「オーディオインターフェイス」ではなく「The Reference class AD/DA converter」とある。単に呼び方の違いなだけで、オーディオインターフェイスだろうと、AD/DAコンバータだろうと実質的には同様なのだが、ある意味測定器的なニュアンスを出したくて、こうした呼び名にしているのかもしれない。

 PCとの接続はUSB 2.0となっており、USB 3.0ではない。RMEの考え方として、USB 2.0と3.0の違いは、あくまでも転送速度の違いであって、音質やレイテンシーに影響の出るものではないというものがある。そして、768kHz(PCM)でも11.2MHz(DSD)でも、このチャンネル数であればUSB 2.0で必要十分という見方から、USB 2.0対応のオーディオインターフェイスになっているようだ。

 ADCのチップには、AKM(旭化成エレクトロニクス)の「AK5574」を使用し、4チャンネル仕様のコンバータをデュアル・モノで使い、2chのアナログ入力で3dBのノイズ軽減を実現したという。DACもAKMで、「AK4490」を2系統のステレオ出力に1基ずつ搭載する。

リスニング用途も重視? Mac接続はドライバ不要

 入出力ポートから見ていこう。まずフロントにはヘッドフォンジャックが2つあり、PH 1/2、PH 3/4とある。実はちょっと面白い仕様になっており、2系統別々の出力が可能な一方、バランスモードに設定すると、1系統のバランス接続ヘッドフォン用として利用可能になっているのだ。ちなみに、出力インピーダンスは0.1Ωで最大出力レベルが+22dBu、最大出力は2.7W/ch。さらにヘッドフォン出力のSNも120dBと、ヘッドフォンにかなりのこだわりをもっているのだ。

前面にはヘッドフォンジャック2系統
バランスモードも用意

 リアを見ると、一番右にはアナログのコンボジャックの入力が2つ、中央にアナログにXLR出力が2つとTRS出力が2つある。このXLRとTRSは同じ信号が出るので、基本的にはアナログの2IN/2OUTを主軸としたオーディオインターフェイスである、ということが分かるだろう。なお、XLRは入出力ともにバランス/アンバランスを自動判別するとともに、4段階のリファレンスレベル切り替えが可能になっている。

背面端子

 さらにその左にはSPDIFと書かれたオプティカル(光デジタル)入出力とD-Sub 9pinのDigital I/Oというポートが用意されている。このうちオプティカルはADATとしても使えるので、44.1kHzまたは48kHzの16bitなら8chの入出力が可能になるわけだが、ADI-2 Proが本領を発揮する192kH/32bit以上になると、規格対象外となってくる。また、その下のD-Sub 9pinは製品に同梱されるブレイクアウトケーブルを接続して使い、これによってS/PDIFとAESの入出力ができるようになっているとのことだ。

 ちなみに、これだけの入出力があるのなら、それを駆使するために、RMEお得意のTotalMixというソフトウェアコントロールでのミキサー機能を利用するのかと思ったら、そうではなかった。なんと、USBクラスコンプライアントなデバイスとなっており、Macとであれば、ドライバ不要で接続できてしまうのだという。ただしWindowsの場合は、USBクラスコンプライアント用のドライバをインストールした上で接続する形になっている。このドライバは当然ASIO対応になっており、ASIO 2.1対応だからDSDも通るし、DoPにも対応している。実際、MacにUSB接続すると、すぐに認識し、利用可能になるのだ。そういう意味でも、従来のRMEのオーディオインターフェイスよりも、かなりリスニングユーザーを意識した製品のようにも思う。

Macとはドライバ不要で接続可能

 デジタル規格がいろいろと混在するADI-2 Proで面白いのは、S/PDIFとAESの同時使用が可能という仕様で、かつサンプリングレートコンバート機能が搭載されているため、デジタルクロックの同期を気にせずにデバイスのプラグ&プレイが可能になっているという点。たとえば192kHz/24bitの設定でレコーディングしている際、CDプレイヤーからの44.1kHzのサンプリングレートのS/PDIF信号が入力された場合、自動的に192kHzにアップコンバートされる仕様になっているのも面白いところだ。

 PCM 768kHz、DSD 11.2MHzに対応したということで、RMEもかなりこだわっていたのが回路周り。「すべてのコンポーネントにハイグレードなパーツを使用し、アナログ部はすべてバランス接続され、フロアノイズを極限にまで抑え込んでいる」とのこと。ディスクリート部品をかなり取り入れた設計になっているが、試作機では、天板に透明なアクリル板を設置。このアクリル板を通じて、ADI-2 Proの中身を見ることができるようになっていた。もちろん、製品版では、中身が見えなくなるとのことだ。

展示機では、内部が見えるようになっていた

 基本的には、入ってきたものをそのまま録音し、記録されているデータをそのまま出力するという“原音忠実”が第一となっているのだが、ADI-2 ProにはパラメトリックEQが搭載されており、入力側、出力側ともに、これを通すことができるようになっているのが、ひとつの特徴だ。これを利用可能なのは入出力ともにアナログチャンネルのみだが、5バンドのパラメトリックEQであり、さらにローカットも効かせられるようになっている。つまり、これでスピーカーやヘッドフォンの特性に合わせて最適化を可能にしているわけなのだ。

5バンドのパラメトリックEQが利用可能

スペックはどこまで上がっていく?

 このように、ADI-2 Proは現時点における最高スペックのオーディオインターフェイスであり、おそらく他社がすぐこれにぶつけた製品を出してくることも考えにくいほどの製品だ。ただし、ここにはいくつかの課題もある。最大の問題が録音側のソフトウェア環境が整備されていない、という点だ。

 再生においてはPCMの768kHzやDSDの11.2MHzに対応したソフトはいくつか存在しているようだが、現在、この録音に対応したものは存在していない。DAWなどを見る限り、PyramixやSequoia、SONAR PREMIUMが384kHzに対応しているが、768kHz対応というものはなかったはずだ。またDSDではPyramixが11.2MHzに対応していたはずだが、RME側もその動作を検証したわけではないようなので、ここは調整待ちといったところだろう。

 ただ、その一方で、感じてしまうのは、そもそも768kHzや11.2MHzなどというスペックが本当に必要なのだろうか、それを録音するほうも、再生するほうも、それを使いこなせる人がいるのか、そして本当にその威力を発揮できるオーディオ機器があるのか……という点だ。最近のハイレゾブームの流れを見ていると、コンテンツの充実の前に、スペックの向上があって、96kHzやDSD 2.8MHzもまだまだなのに、192kHz、384kHz、768kHz、DSDも5.6MHz、11.2MHzと上がってきてしまったように思える。

 確かに16bit/44.1kHzが、24bit/96kHzになると、「これはいい!」というのをある程度実感できるけれど、そこから先は正直なところ筆者の耳の能力では分からない。もちろん、できる限り最高の音質で録音して、保存しておきたいという思いがあるのが分からないでもないが、こうしたデータが流通しても、HDD容量ばかり消費して困るという思いも強い。これが広まるかどうかは、ユーザーの思い次第。この秋、実機がリリースされた後で、音質を含めてどのように評価されていくのかが気になるところだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto