藤本健のDigital Audio Laboratory

第980回

USBオーディオでレコードが高音質再生!? RMEの新作AD/DAコンバータが凄い

ADI-2/4 Pro SE

RMEから、ADI-2 Proシリーズのフラッグシップモデル「ADI-2/4 Pro SE」が発表・発売され、先日発表会が行なわれた。実売396,000円という高価な機材ながら、国内でも即日完売で当面品薄状態が続くという。

これまでのADI-2 Proシリーズ同様、PCM 768kHz/32bit、DSD 11.2MHzの録音・再生に対応するAD/DAを持ち、ジッターを極限まで抑制するSteadyClock FSを搭載。新モデルでは、SteadyClock FSの精度が更に向上したのに加え、バランス出力に対応したExtreme Powerヘッドフォン端子や4.4mm 5極バランス・ヘッドフォン端子(Pentaconn採用)の搭載、マルチチャンネルモードでの6in/8out対応など、さまざまな強化が図られた。

そして、大きな目玉がRIAAモードの搭載。MM型カートリッジ搭載のレコードプレーヤーからの信号を入力し、最高性能のフォノイコライザーとして機能させることができるというもの。ADI-2/4 Pro SEとはどのような機材なのか、紹介していこう。

即日完売の注目コンバータ「ADI-2/4 Pro SE」とは

RMEのADI-2 Proは2016年4月にドイツで開催された「musikmesse 2016」で発表され、その後、国内でも大きな注目を浴びた製品。第715回でも取り上げているが、PCM 768kHz/32bit、DSD 11.2MHzの録音・再生や、DSPによるパラメトリックEQやラウドネス測定、アナライザー機能など、他社にないユニークな製品であった。

その後、2018年にはSteadyClock FSに対応した「ADI-2 Pro FS」をリリース、さらに同年DAC変換専用のデバイスである「ADI-2 DAC FS」もリリース。高性能・高音質の再生用デバイスとしての地位を確立し、プロのマスタリングの現場で導入が進む一方、ハイエンド・オーディオユーザーの間でも定番となっていった。

そして今年3月、「ADI-2/4 Pro SE」が誕生。ユーザーからの要望を実現する形でリリースしたADI-2 Proシリーズのフラグシップモデルとなっており、現行のADI-2 Pro FS、ADI-2 DAC FSは継続販売される。

ADI-2/4 Pro SE

型名ADI-2/4 Pro SEの“2/4”は“2in/4out”を表わしており、これまでバランス出力が2系統のみだったADI-2 Proから進化し、バランス出力4系統となった。SEはSpecial Editonの意味。加えてADI-2/4 Pro SEは、最高音質での音楽再生のために設計されたのと同時に、測定器として使えるだけの性能を持たせた機材というのもユニークな点だ。

国内で行なわれた発表会において、ビデオメッセージを寄せた開発者のマティアス・カーステンズ氏は「開発当初は500台限定販売のつもりで、Special Editonとしたのです。ADI-2 Pro FSの上位機種となるため、日本円で396,000円と価格も高く、さすがに反響も少ないのでは? と考えていました。ところが実際に発売したところ、我々の予想を遥かに上回る売れ行きとなったことから、継続的に販売していく方針に変更しました」と話す。

開発者のマティアス・カーステンズ氏

発表会には「ADI-2/4 Pro SE」「ADI-2 Pro FS」「ADI-2 DAC FS」があったので、3機種を撮影してみたが、パッと見はどれもソックリ。縦に積んでみて、ようやくその差がわかるくらいだ。

写真上から、ADI-2 DAC FS、ADI-2 Pro FS、ADI-2/4 Pro SE

ADI-2 Pro FSとADI-2/4 Pro SEが違うのは、4.4mmの5極バランス・ヘッドフォン端子の有無。後者はバランス・ヘッドホンを簡単に接続でき、接続が検出されると自動的にバランスモードに切り替わる仕掛けになっている。

ただ、従来のADI-2 Pro FSでもバランスヘッドフォン出力ができなかったわけではない。PH1/2、PH3/4の両方を使い、変換アダプタを使うことで実現できたのだが、変換アダプタがやや特殊で入手し難かったこと、そして2基のDACを使用してしまうため、リアのXLR出力が使えない、という問題があった。

しかし、ADI-2/4 Pro SEでは、2基のDACを使う必要はない。XLR出力もできるし、そもそも簡単に接続できるようになったのが大きなポイントだ。

リアもソックリだが、一番下のADI-2/4 Pro SEのXLR端子が金メッキされているとともに、「(3/4)」と表示されている。

背面部。写真上から、ADI-2 DAC FS、ADI-2 Pro FS、ADI-2/4 Pro SE

ADI-2 Pro FS(写真中央)のTRS出力は、XLR出力とは同じ1/2ch信号を出力していたが、ADI-2/4 Pro SEのTRS出力は、それとは別チャンネルの3/4chを出すことができるようになった。

このような仕様の背景には、主にスタジオユーザーからの要望らしく、外部のアウトボードへ送るためのものとして使うそうだ。これまでもフロントのヘッドフォン端子から3/4chを出力することは可能だったが、やはりアンバランスのヘッドフォン端子では音質的に問題が出るので、TRS出力は念願の仕様だったとのこと。アウトボードを経由した音はフロントの入力に戻すことで、聴き比べたり、マスターとして取り込むことができるのだ。

もう一つ、リアに追加されているのが、USB 2.0端子の上に搭載されている「Trig Out」という端子。これはパワーアンプなどの外部機器の電源オン・オフをADI-2/4 Pro SEからコントロールするためのものだ。こちらはオーディオリスニングユーザーからの要望を反映させたもの。

ちなみに、奥行を比較してみると、ADI-2/4 Pro SEはADI-2 Pro FSやADI-2 DAC FSと比較して、3cmほど長くなっている。やはり、いろいろと機能を追加するとともに、高性能化するために内部回路も大規模かしたことにともない、サイズが大きくなっているようだ。

写真左からADI-2/4 Pro SE、ADI-2 Pro FS、ADI-2 DAC FS
ADI-2 DAC FS、DI-2 Pro FSに比べ、新作のADI-2/4 Pro SEは、奥行きが3cmほど長い

USBオーディオなのに、高性能なフォノイコになる!?

ADI-2/4 Pro SEのADコンバータチップには、ESS Technology製の「ES9822Pro」が採用されている。ES9822Proは高入力レベルでの極めて低い歪みとSNの良さで定評があるが、RMEではチップ性能を存分に引き出す設計にすることで、ADの周波数特性で200kHzまで完全にフラットを実現している。

一方、DAコンバーターチップは2基の「ES9038Q2M」を採用。ここでもRME独自の技術が盛り込まれており、シンクロナスモードを使用し、ミュートやドロップアウトのない、完全なバリピッチ動作を実現したという。周波数特性も非常に優れており、DA変換では285kHzまで伸びるカーブを実現。RMEの資料では、ADとDAを直結させた測定でも、約200kHzまでフラットな特性が得られている。

ところで、今回のADI-2/4 Pro SEはアナログ入力段でも大きな改良が図られ、高い入力インピーダンスを実現した。

もともとADI-2 Pro FSの入力インピーダンスも10kΩ程度とハイインピーダンスだったが、今回の機材では測定機器として使える性能を目指し、アンバランスで45kΩ、バランスで90kΩという超ハイインピーダンス仕様に変更されている。業務用の測定器が100kΩなので、ほぼ同等のレベルだ。

が、このハイインピーダンス対応と、入力段において極めてノイズレベルが低いことが、、もう一つ大きな意味を持つ。冒頭で触れた通り、ここにMM型カートリッジを搭載したレコードプレーヤーを直結できるようになっているのだ。

Technicsのレコードプレーヤーと接続

ご存じの通りMM型カートリッジの場合、フォノイコライザーを使って周波数特性を変換する必要がある。一般的にはRIAAカーブと呼ばれる周波数特性カーブにしたがって、本来の音に戻す。その補正をADI-2/4 Pro SE内部のDSPを使って行なえるようになっているのだ。

つまり、ADI-2/4 Pro SEを超高性能なフォノイコライザー+アンプとして利用可能になっているのである。

RIAAモードを搭載
システムブロック

実際、Technics「SL-1200G」というターンテーブルに、カートリッジ「ortofon 2M Black」をつけた状態でADI-2/4 Pro SEに接続。これをモニタースピーカーとしてGENELEC 8351Bに接続した環境で試聴させてもらったが、まさに超高級オーディオシステムという感じで聴くことができた。

一方で、USB端子でPCと接続されているため、そちらに切り替えて96kHz/24bitのサウンドを再生させると、やはり現代の最高のサウンドとして鳴らすことができる。396,000円という価格は、そう簡単に手が出せるものではないが、個人的にはまさに測定器として欲しい……と思う一方、最高音質を求めるオーディオファンにとっては、そう高くはない買い物ともいえるので、品不足は当面解消しないかもしれない。

オーディオユーザー待望!? 専用ACアダプターが開発中

最後に、ちょっとオマケ情報だが、マティアス・カーステンズ氏のビデオの中に、ちょっと見慣れないものが映っていた。

拡大してみるとADI-2/4 Pro SEの隣にRMEロゴのある黒いボックス。

マティアス・カーステンズ氏のビデオの中に見慣れないものが……
……拡大すると、RMEロゴの付いた黒いボックスが!!

実はこれ、まだ未発表だが、RMEが近いうちに発表を予定している“ACアダプター”の模様。ADI-2/4 Pro SEにも新開発のスイッチング電源アダプターが付属しており、IEC入力ソケットが採用されているのが特徴。が、それよりもさらに音質的に効果の高いものをリリースする予定のようだ。以前からRMEユーザーの間では、ACアダプタをより高性能なものに変えて使うことが流行っていたが、RME本家からそのための機材が出るようなので楽しみにしたい。

以上、今回はADI-2 Proシリーズの最高峰となるADI-2/4 Pro SEについて紹介してみた。品薄で入手できるようになるには、結構時間がかかりそうなので、必要という人は早めに予約しておくのがよさそうだ。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto