西川善司の大画面☆マニア

第224回

PS VRを大画面マニア的にいじり倒す。映画で使える? PS4以外は? HDRパススルー問題?

 発売日に購入することは叶わず、結局、アメリカのAmazon.comから個人輸入する形でなんとか「PlayStation VR」(PS VR)を手に入れることができた筆者。このあたりすったもんだは年末企画記事を参照頂きたい。さて、今回の大画面マニアは、このPS VRをお題に特別編としてお届けする。

PlayStation VRを装着した筆者

PS VRの源流? いつのまにか生産終了していたソニーHMZ-Tシリーズ

 発売から2カ月経この12月でも、標準価格(カメラ同梱版で49,980円)の1.5倍ぐらいの転売価格で販売されてしまっているPS VR。思い返すと、こんなソニー製のHMD製品を巡る争奪戦フィーバーは5年前の暮れにもあった。そう、ソニーの仮想大画面HMD「HMZ-T1」である。HMZ-T1は大画面☆マニアでも取り扱ったが、1,280×720ピクセルの有機ELパネルを二枚活用し、それぞれを接眼レンズを通してユーザーに見せるHMDで、画角は45°。ソニーのカタログ上のキャッチコピーでは「20m先に750インチの大画面」というキーワードが踊ったものだ。もっとも筆者としては、「プロジェクタユーザー的には、約2.67m先に100インチ大画面といったほうが、わかりやすい」と書いたが……。

「HMZ-T1」。2011年後半に発売され、当時は転売屋も出現するほどの人気商品に。

 かくしてHMZ-T1は、HMDガジェットとしてヒット商品となった。ヒットの裏には「仮想大画面」という目新しさの他に、「3D立体視対応」というのもあったように思う。2011年当時は、2010年に始まった3Dテレビブームがまだ継続中ということもあり、大画面3Dテレビがまだ高価だった時代。HMZ-T1は、そんな中、「3D立体視が楽しめる(仮想)大画面」機器でありながら実勢価格が6万円前後と相対的には安価だったのだ。

 翌2012年、HMZ-T2へと世代交代。3Dブームの落ち着きもあって、先代ほど話題にはならなかったが、使い勝手と機能に改善が見られた。さらに2013年にはHMZ-T3を発売。ワイヤレスモデルのHMZ-T3Wが新設されたことが話題になったが、この頃から、「新しモノ好き」の関心はVR-HMDの方に移っていたこともあってか、こちらも初代機ほどのヒット商品にはならず。ただ、表示遅延をさらに短縮するなど、機能的にはかなりの完成度であった。

2012年にはマイナーチェンジ版ともいえる「HMZ-T2」が発売に。使い勝手と一部の機能が改善された

 その後、HMZ-Tシリーズはモデルチェンジを停止。2015年4月にはHMZ-T3シリーズの生産終了を持って、HMZ-Tシリーズは惜しまれつつ終焉を迎えた。

ソニー「HMZ-T3」

 残念だったのは、HMZ-Tシリーズの約5年間の製品ライフタイム中、映像解像度が1,280×720ピクセルで停滞してしまったこと。私見だが、同じ10万円もする上位モデルを設定するならば、ワイヤレスモデルではなく、フルHD(1,920×1,080ピクセル)モデルにしたほうが、商品力を高くできたのではないだろうか。

 まぁ、過ぎたことは置いておくとして、HMZ-T3の生産終了から約1年半の後にかくしてPS VRは登場したのである。2011年来のHMZ-Tシリーズのファンからすれば「PS VRってHMZ-Tシリーズ的に活用できるの?」という関心があるはず。今回は、そんな視点でPS VRを評価することにしたい。

PS VRはPS4以外の機器と接続して使えるのか?

 PS VRはPlayStation 4(PS4)と組み合わせて、VR体験ができるデバイスだ。つまり基本的に、PS4と組み合わせて使うもので、パッケージには、VRヘッドセットとプロセッサーユニット、VRヘッドセット接続ケーブル、HDMIケーブルなどが同梱される。PlayStation Camera同梱版であれば、PS Cameraも付属する。

PS4と組み合わせて使うPS VR
PS VRの同梱品

 といいながら、いきなり想定外の使い方の「PS VRは、PS4以外の映像機器に接続して使えるか」からチェックしてみた。

 結論から言えば、PS4以外のHDMI機器に接続してもPS VR-HMDに映像は映る。PS VRには、PS4でPS VRを利用したときに提供される「シネマティックモード」という動作モードがある。このシネマティックモードはPS4以外のHDMI機器に接続したときも動作してくれるようだ。ただし、当然公式サポート外の利用なので、必要がない人は普通にPS4との組み合わせで使って欲しい。

 シネマティックモードとは、「目の前に固定設置された仮想的な大画面があるかのように振る舞ってくれる」モードで、CG世界に入り込んだような「VRモード」とは違った振る舞いになる。PS VRのシネマティックモードは、HMZ-Tシリーズの動作に近いものだ。

 ただ、その動作はややクセがある。もっともPS4との接続を想定した機器を無理矢理そうせず接続しているのだから、そこに文句は言えない。

PS4ではなく、あえてPS3とPS VRを接続して対応しているディスプレイ出力モードを「自動設定」で調べて見るとこんな結果に。3Dには対応していない

 では、そのクセとはどういうものか。

 まず、PS VRのHMD側の加速度センサーやジャイロによるヘッドトラッキングが中途半端に動作してしまうということ、が挙げられる。本来は、PS VRのヘッドトラッキングはPlayStation Camera(PS Camera)との連携で正確性を維持しているので、PS Cameraが利用出来ないPS4以外のHDMI機器と接続した時には、やや頼りない動作となってしまうのだ。

 実際にどうなるかというと、PS VRに電源を投入したときに、PS VRのHMD部分の正面側に画面の原点が設定されてしまう。例えば、HMDの画面表示部分を床向けの状態で電源を投入し、そこからPS VR-HMDを被ると、HMDを通して見える表示画面が床側に定位してしまう。

 PS4接続時は、こうした原点調整はPS4コントローラの[OPTION]ボタンの長押しでいつでもリセットが出来るのだが、PS4以外のHDMI機器と接続しているときはこれができない。

 しかし、手の打ちようがないわけではない。PS VR-HMDを被って、姿勢を正し、「よし、この姿勢で見るぞ」という状態の時にPS VRの電源を入れればいいのだ。

 ただ、実際にこれで映像を見ていても、首の動かし頻度に応じて、電源投入時の原点から画面位置がずれていってしまう。その際は、再び、電源の入れ直しをすればいいのだが、PS VRの電源オフ/オンは数秒はかかり、その間、映像は非表示になってしまうので、不便さは残る。あたりまえだが、PS VRは基本的にPS4で使うHMDだ。

 本来の使い方ではないので、採用してもらえないだろうが、PS VR-HMDの本体側に、「PS4コントローラの[OPTION]ボタン長押し」と同等の操作があれば便利だろうと感じた。

 さらに、いろいろと実験してみた感じで分かったことがいくつかある。

 PS VRは、PS4と接続時にシネマティックモード時の画面サイズが「大・中・小」と設定できるのだが、これがどうやらPS VR側に記憶されるということ。なので、PS4側で、ひとたび画面サイズを「大」とすれば、その後、PS4やPS VRの電源を落とし、PS4以外のHDMI機器と接続しなおしてPS VRでシネマティックモードを利用しても、その画面サイズは「大」となってくれる。

 なお、画面サイズ「小」は、ヘッドトラッキングを無視し、常に正面相対位置中央に居続けてくれるので、PS4以外のHDMI機器と組み合わせた時には扱いやすい。ただ、解像感は一番低くなる点には留意したい。

PS VRのシネマティックモードの画面サイズ設定画面。小さい画面サイズほど解像度は低下していく

 PS4以外のHDMI機器と組み合わせた時には、サウンド面でも少々、ややこしい状況を確認している。

 PS4ではなく、PS3とPS VRを接続して、対応サウンドフォーマットを検出したところ、下のような結果になる。AACやPCMはその通りの再生が行なえるのだが、なぜか、ドルビーデジタル系のサウンドがPS VRのヘッドフォン端子から再生されないのだ。その代わり、DTS系のサウンドは再生される。

同じくPS3とPS VRを接続してPS VRの対応音声フォーマットを「音声設定」の「自動設定」で調べて見た結果。ドルビー系が再生できない

 なお、PS4と接続しているときには、ちゃんとドルビーデジタルも再生される。PS4以外のHDMI機器と組み合わせた時にサウンドが再生されない時には、こうしたクセがあることにも留意しておきたい。

PS VRをPS4と繋いでのシネマティックモードの実力を検証

 さて、続いては、本来の使い方。PS4と接続した場合のPS VRのAV用途(≒シネマティックモード)について見ていこう。

 PS4と接続した際の「シネマティックモード」は、画面位置の原点補正はPS4コントローラで手軽に行なえるし、サウンド再生時のクセもないので、汎用HDMI機器と接続するサポート外の使い方よりは、断然、使い勝手はいい。

 1つ、設定関連で迷うとすれば、前節でも紹介したシネマティックモード時の「画面サイズ」設定だ。

PS VRのシネマティックモードを利用するときに悩ましいのが「画面サイズ」の設定をどうすべきかという点

 SIE公式ブログでは、画面サイズの小・中・大の各設定はそれぞれ、以下のようなものだと説明されている。

・小:約2.5メートル先に117インチ相当、画角54度
・中:約2.5メートル先に163インチ相当、画角71.5度
・大:約2.5メートル先に226インチ相当、画角90度

 こうして見てみると、HMZ-Tシリーズの画角45度、すなわち「2.67m先に100インチ大画面」に近いのは画面サイズ「小」ということが分かる。ただ、HMZ-Tシリーズユーザーで、PS VRのシネマティックモードの画面サイズ「小」を見た人は、きっと「HMZ-Tシリーズよりも解像度がだいぶ低い」と感じたことだろう。

 これは仕方ないことである。

 というのもPS VRにおける「画面サイズ」設定とは、光学的な拡大縮小で実現しているモノではなく、PS VRの有機ELパネルの表示領域の大中小サイズで実現しているからだ。

 つまり、画面サイズが小さいモードほど、有機ELパネルの狭い領域で映像表示を行うことになるため、表示に利用できるピクセル数が少なくなる。つまり、画面サイズが小さいモードほど解像度が劣化するということである。

 PS VRは公式スペックでは、VRモード時の最大画角が100度と説明されているので、これがPS VRの有機ELパネルの1,920×1,080ピクセルをフルに見られる状態と仮定すれば、シネマティックモードの各画面サイズでの解像度は以下ぐらいと推察できる(あくまで仮説に基づく参考値)。

・大:1,728×972ピクセル、片目あたりは864×972ピクセル
・中:1,372×772ピクセル、片目あたりは686×772ピクセル
・小:1,036×583ピクセル、片目あたりは518×583ピクセル

 HMZ-Tシリーズは片目あたり1,280×720ピクセルで、表示総画素数は92万。PS VRのシネマティックモードは、画面サイズ「大」でも84万画素程度なので、PS VRのシネマティックモードの解像感はHMZ-Tシリーズには及ばないことになる。

 実際に、幾つかの映画ソフトを各画面モードで視聴して見たが、大画面感と解像感のバランスが取れているのは「中」設定ということになるだろう。正面を向いた状態でギリギリ全画面が視界内に入るのはこの画面サイズだ。

幾つかの映画ソフトをPS VRのシネマティックモードで視聴

 ただ筆者は、映画館で映画を見る時には結構前列に座りがち。全画面が視界内に入らないことにそれほど不快感を感じない。そんな筆者のような大画面マニアには、解像感にも優れる「大」はお勧めである。なお「大」モードは、正面を向いた状態だと画面外周が、ギリギリ視界外にクリップアウトしてしまうので、画面の隅々まで見ようとすると首を動かす必要がある。

 「小」は、PS4と接続した時にも、PS VR-HMDの正面中央に表示映像が固着するので、自由な姿勢で映像を見たいときなどにはお勧めだ。ただ、解像感は「大」「中」よりも低い。

 Blu-rayなどHD映像のハイデフ感が味わえるのは「大」がギリギリといったところで、「中」になると「高画質なDVD」といったくらいの見映えになる。「小」はQVGAよりはだいぶマシだが、HD感はない。

 あくまで目安的なガイドだが、映画のBDビデオは「大」で、DVDは「中」で、低ビットレートなネット系動画は「小」で…といった感じだろうか。

 シネマティックモードには、細かな画調モードはなく、「標準画調モード・オンリー」といったところ。

 その発色だが、やや彩度が高めの印象はあるが、純色の発色バランスはよく、中間色も自然だ。そして階調表現にもクセがない。大画面の有機ELテレビでは気になる暗部階調のチラツキも感じられず。さらに黒の沈み込みも良好で、色と階調性能に関しては合格点が与えられると思う。

発色も階調性も良好

 サウンド面についてもチェックしてみた。

 PS VRをPS4と接続している状態では、シネマティックモードにおいて、ドルビーデジタルもDTSも、ちゃんと音は鳴る。しかし、サラウンド再生には対応しておらず、5.1chも7.1chサラウンドサウンドも2chのステレオミックス再生になってしまっているようだ。

 面白いのは、シネマティックモードの画面サイズ「大」「中」モード時。PS VR-HMDを装着したまま首を動かすと、その2chステレオミックスされた音像が首の動きに呼応してちゃんと360度に定位するという点。例えば、画面に対して正反対の後ろを向くと、ユーザーの背後からちゃんと2chステレオ音声が聞こえてくるのだ。

 どういうことかというと、PS VRの音響システム自体は360度の全天全周音響再現に対応しているのだが、シネマティックモード時のサウンドは、2chステレオにミックスダウンされて、仮想的な大画面の左右付近に固定定位させられてしまっていると言うことだ。

 PS VRの音響モードは、かなりよく出来ていて、ゲームなどのVRコンテンツでは、本当に前後左右×上下の全方向から音像が再生されているかのような文字通りの「立体音響」が再現できている。

5.1chや7.1chのサラウンドサウンドテストを実施してみたところ、2chステレオにミックスダウンされてしまっていることを確認。PS VR自体は全天全周音響に対応しているだけにもったいない

 いずれアップデートで、BDやDVDのサラウンドサウンドを2chステレオミックスダウンせず、PS VRのネイティブ音響システムの方で再生できるようになれば、シネマティックモードの価値が一段上がると思う。そんな進化に期待したいところだ。

PS VRを快適に楽しむためのTIPS#1~PSVR-HMDのくもり止め対策

 ここからは、やや本題からずれるが、PS VRの活用術的なTIPSをお届けしようと思う。

 1つ目は、「接眼レンズが曇って困る問題」。筆者は汗っかきということもあるのだが、PS VRに限らず、HMDを被るとすぐに接眼レンズが曇ってしまう。

 「接眼レンズの曇り」は、原理的には「クルマの窓ガラスの曇り」とか「ヘルメットのバイザーの曇り」と同じで、空気中の水蒸気が、レンズやガラスやバイザーの界面で冷やされで水滴となってしまうため。

 水蒸気を界面で水滴にさせない最もシンプルな手段は、レンズ/ガラス/バイザーを暖めること。実際、PS VRは稼動させて数十分も経つと曇りにくくなる。それはそうした理由からだ。

 アグレッシブに「水滴化させない」手段としては、界面活性剤を用いる方法がある。曇りの原因の水滴は、水がある程度の大きさの塊になってしまった状態なので、水滴にさせないように界面に広げてしまえばいいのだ。こうした発想の下に開発されたグッズが「曇り止め剤」だ。

 筆者は、オートバイのヘルメットのバイザーの内側に使用するタイプの曇り留めを購入した。車のガラスに使用するタイプにしようかとも思ったが、比較的、目に近い位置での使用するとなれば、ヘルメットのバイザー向けの方が健康にも配慮しているはず、考えた。というわけで、購入したのはTANAX PITGEARブランドの「PG-235:スーパーくもり止め」だ。

TANAX社PITGEARブランドの「PG-235:スーパーくもり止め」。実売価格は約800円

 実際に使ってみたところ、効果は絶大。これまで、VR-HMDを脱いでは接眼レンズを拭いて……を繰り返していたことが夢だったかのようだ。

 使い方は簡単。PG-235はスプレータイプなので、液剤を接眼レンズに吹き付けて適当な布で拭くだけ。汗っかきのPS VRユーザーは是非ともご活用頂きたい。

 これから寒い季節になるのでVR-HMDの接眼レンズは曇りやすくなるので、こうしたくもり止め剤をVRアトラクション運営側で常備しておいてくれると嬉しいかも。

PS VRを快適に楽しむためのTIPS#2~両眼距離の調整

 PS VR-HMDをどう被っても、表示映像がぼやけたり、歪んで見える…という人がいる。筆者も若干その傾向があったのだが、そんな人にお勧めしたいのが、「瞳孔間距離(両眼距離)最適化」だ。

 VR-HMDのうちOculus RiftやHTC VIVEは、二枚の独立した映像パネルを採用したことにより、ユーザーの両眼の接眼レンズをVR-HMD側に実装されたツマミでメカニカルに調整することで、ユーザー毎の両眼距離の最適化が可能だ。

 だが、PS VRの映像パネルは1枚構成のため、メカ的にではなく、表示映像を操作するような、ソフトウェア的な処理でこの両眼距離を調整しなければならなくなっている。

 この調整には、PS4のホーム画面の「設定」-「周辺機器」-「PlayStation VR」階層下の「目と目の距離を測定する」メニューを利用する。

一度はやっておきたい瞳孔間距離(両眼距離)の最適化

 やり方はシンプルで、PS Cameraの前に近づいて、顔面を撮影するだけ。撮影が終了すると自動顔面認識で目と目との位置にマーカーが合うので、それでよければOKを、ずれていれば手動で微調整が可能となっている。

 筆者もやってみたが、デフォルト設定の63mmに対して、筆者実測値は69mmだった。

 これを実際に行なったあとでは、たしかに映像の歪みが解消されたように見える。

 ただ、Oculus RiftやHTC VIVEのような、光学的な補正ではなく、画像処理で実践されるもののため、画面外周で起きがちなピントズレが解消されたりはしない。あくまで、簡易的なモノという割り切りは必要だが、見え方が改善することは間違いないので、ぜひ設定しておきたい。

PS Cameraの2眼カメラで自分の顔面を写真撮影して、2枚の写真に対して眼球の中心点を指定すると瞳孔間距離が測定される。測定値はPS4のアカウントに紐付けられる。初期値にリセットすることはいつでも可能
PS VRを快適に楽しむためのTIPS#3~どうするHDRパススルー問題

 PS VRを、PS4と接続して使う場合、PS4側のHDMI端子をPS VR側のプロセッサーユニットに接続する必要がある。そしてこのプロセッサーユニットにはテレビに映像を出力するためのHDMIパススルー出力端子があり、ここに接続したテレビは、PS VRを使っているときには、PS VR側のソーシャルスクリーンとして活用され、PS VRが電源オフの時は、PS4側から出力された映像をそのままパススルーできる仕様になっている。

 と、「なっている」はずだったのだが、実は、PS VRのプロセッサーユニットはHDMI2.0以降のフルスペック仕様となる18Gbps HDMIには対応しておらず、「HDR映像信号のパススルー不可」「4K映像の上限はYUV420/60fpsまで」という仕様になっていることが判明。SIE公式ブログでは「HDR映像や18Gbps HDMIを利用する際にはPS VRの接続を外して欲しい」という説明と、「これは仕様である」と言及していることもあり、状況が改善する見込みは薄いと見られる。

 HDR対応は標準PS4も対応する待望の新映像方式であり、18Gbps HDMI対応は、PS4 Proの特徴的機能の1つだけに、同じSIE製品間で映像フォーマット対応の足並みが揃っていないことには残念だが、こうなってしまった以上は、ユーザー側の工夫で対策を模索するしかない。

 そこで、1つの案として筆者が思いついたのは、HDR対応でなおかつ18Gbps HDMI対応のAVアンプを用いる方法。

 奇しくも、筆者は12月に、4K時代本格化に伴い、HDR対応、18Gbps HDMIに対応したAVアンプを新調したのだ。機種はヤマハの「RX-A3060」。

ヤマハ「RX-A3060」

 実際に、PS4 ProのHDMI出力をRX-A3060のHDMI INに入力し、RX-A3060に2つあるパススルー端子(MONITOR OUT端子)の1つを4K/HDR対応テレビのREGZA 55Z700Xに、もう一つをPS VRのプロセッサーユニットに接続して実験を試みた。なお、RX-A3060は、18Gbps HDMIの入出力/パススルー設定済みの状態。

 PS VR(HMD)の電源を落ちている状態でPS4 Proを起動し、4K/HDR対応ゲーム「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」(アンチャーテッド4)を起動してみたところ、なぜか、4K/HDRとはならず「4K/非HDR/YUV420/8bit(24bit)/60fps」として出力が行なわれた。

 PS VR-HMD側の電源が落ちていても、PS4 ProとPS VRのプロセッサーユニットを接続している状態でPS4 Proの電源を入れるとPS VRのプロセッサーユニットの電源は入ってしまう。RX-A3060側の2つのMONITOR OUT端子は、そこに接続されている2台のHDMI機器の最大公約数的な映像信号を出力するらしく、その影響でこのような状態になるようだ。

 試しに、PS VRのプロセッサーユニットのAC電源を抜いて、再実験してみたところ、今度はめでたく「4K/HDR/YUV422/12bit(36bit)/60fps」の出力が行なえた。

AVアンプを分配的に活用してPS VRと4K/HDRテレビを接続して実験している様子

 プロセッサーユニットのAC電源を通電のオン/オフ制御が可能なスイッチ付きマルチタップに挿しておけば、スイッチを押すだけで、この問題を回避できるかもしれない。が、実質的には、HDMIケーブルの接続の抜き差しとやっていることは変わらない気もする……。

 とはいっても、RX-A3060の2つのMONITOR OUT端子はテレビとプロジェクタに割り当ててしまう。結局のところ、筆者宅では、当面HDMIケーブルの抜き差しで対応することになりそうだ。

PS VRのシネマティックモードには進化の伸びしろはある!

 いろいろ評価して見た結果、PS VRのシネマティックモードは、映像の表示解像度がHMZ-Tシリーズを超えられていないという弱点はあるが、カジュアルに映像コンテンツを楽しむためには必要十分な機能を有していると思う。

 ただ、コアなAVファンにAV用途としてお勧めできるか、といえば「YES」と即答はしがたい。特にPS VRのシネマティックモードが3D立体視に対応していない点は、3Dに強いHMZ-Tシリーズの後釜と考えると残念だ。たしかに3Dテレビブームは終了したが、大作映画のBlu-ray 3Dは、現在もコンスタントに出ている状況。筆者も、「ジュラシック・ワールド」「ファインディングドリー」「スターウォーズEP7/フォースの覚醒」「インディペンデンスデイ:リサージェンス」「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」「バットマンvsスーパーマン」などなど、2016年も20本以上の3D作品を購入した。

 PS4も発売当初は、Blu-ray 3Dの再生に対応していなかったが、2014年7月のアップデートで対応済み。PS4自体に再生能力はある状態なのだ。今後のアップデートでPS VRへの対応に期待したい。それと、合わせて、サラウンドサウンドの立体音響出力対応についてもお願いしたいところ。

 Blu-ray 3D対応、サラウンド対応となれば、シネマティックモードの価値は今よりは数段高まるはず。そうなったときに、再び、PS VRをAV機器目線で再評価してみたい。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら