第140回:International CES特別編

CES 2011に見た最新プロジェクタ事情
~三菱初のSXRD採用機やビクター「X9」など~




■CES 2011に見た最新プロジェクタ事情

International CESの会場となっているラスベガス・コンベンションセンター

 3Dテレビ・ブームの追い風もあって、映像機器の主役は完全に直視型のテレビ製品となっているが、今回のCESで、プロジェクタ製品のアップデートが全くなかったわけではない。

 ここでは、プロジェクタ関連の話題を総ざらいしたいと思う。



■三菱は、SXRDプロジェクタ「LVP-HC9000D」の実機デモ

 三菱電機は、日本でも1月7日に発表されたばかりの新型SXRDプロジェクタ「LVP-HC9000D」の実機投写映像を、ブース内シアターで公開していた。

 LVP-HC9000Dの特徴は、なんといっても、映像パネルにソニーの反射型液晶パネルである「SXRD」(Silicon X-tal Reflective Display)を採用している点だ。これまで、三菱ではエプソン製の透過型液晶パネルや、TIのDMD(Digital Micro-Mirror Device)チップを採用したプロジェクタを投入してきた実績はあるが、SXRDを採用したプロジェクタ製品は、LVP-HC9000Dが初となる。また、同社のホームシアター向け"3D"プロジェクタとしても初号機であり、注目度は高い。

 さらにいえば、2010年末、SXRD本家本元のソニーも、SXRDベースの3D対応のフルHDプロジェクタ「VPL-VW90ES」を発売したばかりであるため、否応なしに、LVP-HC9000Dには注目が集まるのだ。

三菱「LVP-HC9000D」。ソニーSXRDを採用した3D対応のフルHDプロジェクタだリモコンはこれまでの三菱LVPのものと同じ。できれば専用のものが欲しかった

 価格はソニー「VPL-VW90ES」が724,500円で、実勢価格が60万円前後。LVP-HC9000Dは、オープンプライスで実売が598,000円と想定されることから、まさしく正面切ってのライバル製品となる。

 輝度スペックは1,000ルーメンで、これもまたVPL-VW90ESと同じ。3D表示はフレームシーケンシャル方式で、これも同仕様だ。

接続端子パネル。3D眼鏡と同期用の3Dエミッタは別売。右端の3D SYNC端子が3Dエミッタ接続用100インチオーバーに拡大投影しても、粒状感かなく面表現の美しい映像が楽しめるのが反射型液晶パネルベースのプロジェクタの良いところLVP-HC9000Dのメニュー画面の一部。最下段「Frame Rate Conversion」にて、True Filmモードが選択できる

 実際に筆者も、三菱ブース内シアターで実機投写映像を視聴したが、SXRD特有の粒状感のない面表現の美しさと、ハイコントラストな画調を十分に感じ取ることが出来た。初のSXRDプロジェクタながら、うまくチューニングされていると思う。ソニーが作ったVPL-VW90ESの映像と見比べても特に負い目は見当たらず、競争力はかなり高そうだ。

 では、VLVP-HC9000Dが、完全なVPL-VW90ESクローンかというとそういうわけでもない。細かい点を見ていけば、いくつもの相違点が見当たるが、中でも三菱が強く訴求しているのは、LVP-HC9000D特有の映像モード「True Film」モードだ。

 これは、内蔵されたNXP製の映像プロセッサの機能を、三菱電機が独自チューニングして提供する表示モードになる。具体的には、残像低減のために生成した補間フレームと、オリジナルのリアルフレームの内容を適応型処理でブレンディングすることで、ホールドボケを低減しつつも、24fpsのような映画コンテンツ特有のフィルムジャダーを不快にならない程度に残すというもの。

ブース内シアターに設置されたLVP-HC9000D。デモでは3D映像が楽しめた

 補間フレームの効果を「弱」設定にすることで、VPL-VW90ESでも似たような事はできるが、その際はディテール表現部分のホールドボケは大きく残ってしまう。

 「倍速駆動技術などで実現される補間フレーム挿入による“うねるようなスムーズさ”は嫌いだが、かといってテクスチャやディテール表現がぶれて見えるホールドボケも嫌い」というわがままな人には“丁度いい案配の見せ方”にしてくれているので、一度見てみることをオススメする。



■ビクター、同社初の3D対応フルHD・プロジェクタ「DLA-X3/X7/X9」

 ビクター(JVC)ブースでは、日本でも昨年発売したばかりの3Dプロジェクタ「DLA-X」シリーズを大きく取り扱っていた。

 独自の反射型液晶パネル「D-ILA」(Direct-Drive Image Light Amplifier)を映像パネルとして採用しており、最新ラインナップは「DLA-X3/X7/X9」の3モデルで構成されている。

 昨年、THXは、同社が認証しているホームシアターの品質規格を立体視(3D)にまで拡張した「THX3D」認証プログラムを開始したが、DLA-X7とDLA-X9は、このTHX3D認証を、世界で初めて取得したホームシアター向け3Dプロジェクタとなる。

 下位機DLA-X3と上位機のDLA-X7/X9は、フルHD解像度/ピーク輝度1,300ルーメンというカタログスペックの点では仕様が共通するが、X7とX9は、THX3D認証を取得したという部分が大きな訴求点となっている。細かいスペックは、昨年のニュース記事に譲るが、X9は、実質的にはX7のエリート選別品という位置付けになる。

 北米では、X7が7,995ドル(日本での価格は84万円)、X9が11,995ドル(同105万円)と、日本とほぼ同等の価格差に与えられている。なお、日本ではX9については初回限定100台にシリアルナンバーを刻印したエンブレムを添付し、プレミアム感を煽るが、北米仕様にはこの措置がない。というのも、現地のJVCスタッフによれば、北米市場では毎月100台ペースでX9が売れてしまうからだそう。このあたりの話を聞かされると、改めて北米のホームシアター市場の大きさに気づかされる。


シアター・デモの様子DLA-X9が2台あるのは、2D、3Dの二種類のデモ映像を見せる際に素早く切り替えられるようにするため

 ブースでは、DLA-X9のデモ投写が行なわれているシアターが特に人気を集めており、CES会期中は多くの来場者が長蛇の列をなしていた。筆者もDLX-X9の実機投写映像は初めて見たが、3D映像が予想よりも明るく、またクロストークも少ないと感じた。また、DLA-HD350/550/750/950シリーズで指摘されてきた、動きの激しい部分で知覚される擬似輪郭は、確かにX9では、巧く散らされていて分からなくなっている。

 DLAシリーズでは、D-ILAパネルをデジタル駆動していたため、ネイティブ・コントラストの面では競合ソニーのVPL-VWシリーズを上回っていたが、階調表現の滑らかさ(アナログ感)の面では、少々及ばない部分があった。この負い目は、DLA-X9(X3/X7)で採用された新駆動方式(仕組みの詳細は非公開)では、かなり劇的に改善されたと言う手応えをがある。

手前がDLA-X3、奥がDLA-X7。DLA-X7の上に乗っているのは3D同期用トランスミッタ「PK-EM1」。北米での価格は79ドル。DLA-X3/X7では別売り。また3D眼鏡「PK-AG1」(179ドル)も別売り。DLA-X9には両方が付属する(3D眼鏡は2つ付属)DLA-X9に組み合わされたPanamorph製のアナモーフィックレンズ。シネスコサイズで映像を投射するためのサードパーティ製オプション

■シャープ、3D対応単板式DLPプロジェクタ「XV-Z17000」

 「液晶のシャープ」というイメージが色濃いシャープだが、実はプロジェクタ製品に関してはDLPに注力している(1990年代は液晶プロジェクタ製品も手がけていたが)。

 そんなシャープが手がけた「XV-Z17000」は、同社初の3Dプロジェクタとなる。単板式DLPで、フルHD(1,920×1,080ドット)DMDチップを採用(パネル世代は不明)し、今期の3Dプロジェクタの中では最も明るい部類に属する1,600ルーメンのスペックを誇る。

シャープブース内に設営された3Dホームシアター。XV-Z17000の実機投写デモを公開

 3Dはフレームシーケンシャル方式で、同期用のエミッタはプロジェクタに内蔵されている。また、商品セットには3D眼鏡が2つ同梱されるとのこと。

 DLPプロジェクタで3D対応というと、DLP-LINK方式を連想する人も多いと思う(DLP-LINK方式については後述)が、XV-Z17000の3D対応様式は、DLP-LINKではない。HDMI1.4a準拠なので、PC経由ではなく、一般的なブルーレイ3Dプレイヤーなどを接続して、3Dコンテンツを楽しむことが出来る。

 実際に、映像をブース内のシアターで見てみたが、なるほど、明るさはかなりのものだ。部屋を完全暗室にせずとも、カジュアルに立体視でゲームコンテンツなどを楽しむことも十分可能だと感じた。もちろん、1,600ルーメンの最大輝度はランプ高輝度モードでの値であり、2Dコンテンツや、完全暗室で楽しむ場合には、低輝度ランプモードを利用すれば、黒浮きを抑えたハイコントラストなDLPらしい画質を楽しむこともできる。

1,600ルーメンの高輝度性能が明るい3D映像を実現するXV-Z17000。日本での発売の可能性は低い

 北米での想定価格は4,999.99ドルで、発売時期は2月とアナウンスされている。 日本での発売については公式には「未定」とのことだったが、現地で関係者を取材して回ると「多分日本では発売しない」という声も聞かれた。ちなみに、先代XV-Z15000も、欧米地区のみで発売され、日本では発売されていない。フルHD×3D×DLPにこだわりたいファンは円高を利用して個人輸入するといいかも!?


■OPTOMA、HDMI 1.4aベースの3D映像をDLP-LINKに変換するモジュール

OPTOMAブース

 OPTOMAは、今年、新規のプロジェクタ製品はポータブル系を除いては特になし。しかし、OPTOMAらしいユニークな製品を発表していたので紹介しよう。それは、既存のDLP-LINK対応の3D対応DLPプロジェクタを、最新のHDMI1.4aベースの3Dフォーマットに対応させるアップグレードモジュール「3D-XL」だ。

 DLP技術を手がけるTexas Instruments(TI)は、現在の3DフォーマットがHDMI仕様に盛り込まれる遙か前から、PCベースの立体視ソリューションとして「DLP-LINK」を提供していた。これは、3D実現様式としてはアクティブシャッター内蔵の3D眼鏡を用いたフレームシーケンシャル方式になるが、その3D映像伝送様式はTIの独自仕様となっていた。

 そこで、Blu-ray 3Dソフトを初めとする、民生向けにHDMI1.4aで規定された3DフォーマットをDLP-LINK方式に変換する機能を提供するのが3D-XLというわけだ。

HDMI 1.4a→DLP-LINKコンバータ「3D-XL」背面側の接続端子パネル既発売のゲーミング向け3Dプロジェクタ「HD66」と3D-XLのツーショット。3D-XLの大きさは280×190×30mm。重さは約1.0kg

 使い方はシンプルで、3D対応BDプレーヤーを3D-XLにHDMI接続し、3D-XL側のHDMI出力を手持ちのDLP-LINK対応DLPプロジェクタに接続するだけだ。

 3D-XL側の入力対応信号はHDTV (720p、1080i/p)のHDMI 1.4a準拠の3Dフォーマット以外に、NTSC/PAL/SECAM/SDTV(480i)/EDTV(480i)などのサイドバイサイドフォーマットにも対応してくれる。

 ただ、3D-XLが出力するDLP-LINK対応3Dフォーマットは720p(120Hz)までとなる。つまり、1080/24pの映画は720pにダウンコンバートされることになる。

 1080pのまま出力するには、3D-XLを2台用意して、2台のDLP-LINK対応DLPプロジェクタをスタック投影する必要があるそうで、1080pにこだわる使い方はあまり現実的ではない(HDMI 1.4aベースの3Dプロジェクタに買い替えた方がマシ)。

 OPTOMAの担当者によれば、基本的には、OPTOMA製のDLP-LINK対応DLPプロジェクタ向けの純正オプション製品という位置づけだが、他社製のDLP-LINK対応DLPプロジェクタでも利用出来ているとのこと(動作保証はしない)。想定価格は399ドル。1月より出荷開始予定となっている。会議室や学校など、おいそれと機材の買い換えが出来ない市場への販売を見込んでいるとのことだが、なかなかユニークな製品だと言える。

 なお、変換に伴う表示遅延については「非公開」と言うことだが、「ゲームプレイにも対応できるほと低遅延である」と担当者は述べていた。実際、ブース内では、PlayStation 3と3D-XLを接続し、3D-XLとDLP-LINK対応のOPTOMA製エントリークラスのプロジェクタとを接続して、PS3のゲームを立体視で楽しめるというデモを行なっていた。

PS3と3D-XLが接続されている様子。PS3の下にあるのが3D-XL。PS3の3D出力はHDMI 1.4aベースのフォーマットになる」PS3のレーシングゲーム「グランツーリスモ5」が3D-XLで変換されて、OPTOMA製DLP-LINK対応DLPプロジェクタ「GT700」で3D投影されている様子。レーシングゲーム程度ならば問題なく遊べるようだ

(2011年 1月 9日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。