西川善司の大画面☆マニア
第172回:CES特別編 4Kに見る映像の未来【2】
第172回:CES特別編 4Kに見る映像の未来【2】
日本メーカーと韓国メーカー、それぞれの姿勢
(2013/1/11 23:40)
業界が考える「4Kの必然性」
東芝の“ミスターレグザ”こと、レグザ商品開発責任者の本村裕史氏(デジタルプロダクツ&サービス社 TV商品統轄部)は次のように語る。
「確かに昨年の4Kパネル採用の裸眼立体視対応のレグザ55X3は特別な存在だった。しかし、今後、レグザにとって4Kは特別な存在にするつもりはなく、ハイエンドクラスのレグザ、大型サイズのレグザでは4Kを当たり前の存在にしたい」。
「映像を大画面で見たい」という欲求は日本も含めて、世界中のユーザーが心に抱いている。パネル解像度をフルHD(1,920×1,080ドット)で固定させたまま画面サイズを大きくしていくとドットピッチは下がり、フルHD解像度では映像の表示品質が、解像感の面では相対的に下がっていく傾向にある。
この「解像感の相対的低下傾向」を抑える意味合いで4K(3,840×2,160ドット)解像度はむしろ必要になってくる…と、本村氏は言うのだ。
3~4型クラスの携帯電話の画面で見る限りはとても高密度で綺麗に見えたワイドVGA(853×480ドット)程度の動画が、30~40型クラス程度のフルHD解像度のテレビやモニタで見ても、粗く見えた経験があると思うが、ああいった現象が一般ユーザーにおいてもフルHD映像を大画面で見た時には起こりつつある…と考えるとイメージしやすいだろう。
「3Dの次は4Kですか? 」という冷ややかな捉え方をするユーザーも少なくないが、メーカーとしては「3Dは映像体験として新しいものを提供する」という方向性だったのに対し、「4Kは要求性能仕様」という考え方をとる。
換言すれば「テレビにおける4K」は、“車の安全性能向上”、“パソコンのHDD容量増量”、“デジカメの撮影素子の画素数の増加”と同じような類いの順当な進化なのである。
東芝ブースの4K展示~4Kゲーミング、RED社のネイティブ4Kコンテンツ再生など
東芝は、先頃発表になった4Kレグザの試作モデルをところ狭しと多数展示。
画面サイズは58型(58L9300U:北米型番、以下同)、65型(65L9300U)、84型(84L9300U)という3モデル展開となっている。
84型モデルはIPS型液晶パネルを採用しており、58型、65型モデルはVA型液晶パネルを採用している。「84型のIPS」はLGディスプレイの液晶パネルであることは自明だが、58型、65型については「パネルメーカー名は非公開」となっている(台湾系といわれている)。
3D立体視への対応は、84型モデルに関しては、すでに日本では先行発売されているソニーの84型4Kブラビア「KD-84X9000」と同じ、偏光方式になるようだが、58型、65型に関しては3D立体への対応自体の可否も含めて検討中だという。もともと東芝は3D立体視に関して早くから偏光方式、アクティブシャッター方式、裸眼立体視方式と3方式を柔軟に使い分けてきたので、今回の4Kテレビにおいても特定方式にこだわらない姿勢とみられる。
東芝は、日本メーカーでは最もゲームユーザーに対する配慮が手厚いが、この姿勢は4Kにおいても継承されるようだ。
ブースではNVIDIA GeForce 600系GPUを搭載したPCで「DiRT SHOWDOWN」を走らせ、これをHDMIケーブルで58型の4Kレグザに3,840×2,160ドットにてドットバイドット表示させて、実際にプレイすることが出来るようになっていた。
既にハイエンドPCゲームは、1フレーム当たり数百万ポリゴンオーバーのジオメトリ量で描かれており、高精細テクスチャも多用しているため、4Kテレビでの出力が最も分かりやすいコンテンツといえる。ただ、現状のHDMI1.4a仕様での4K接続では毎秒30フレームが最高フレームレートになってしまうという制限もある。現状では4K解像度での60Hz表示はDisplayPort1.2接続を行なう必要があるが(あるいは次世代HDMI)、東芝の4Kレグザ製品ラインナップにDisplayPort端子の搭載はない。ただし、今期の4Kレクザでも、HDMI×4入力で4K表示を行なわせるアダプタボックス「THD-MBA1」には対応するとのことなので、4K/60Hzにこだわりたいユーザーはこれを利用する手はある。ただ、実勢価格で20万円なので、なかなか気軽に手を出しづらいが…。
ミスターレグザにはDisplayPort1.2搭載は強くリクエストしておいたので、PCゲームファンは将来モデルでの対応を期待していただきたい。
4Kレグザにおけるゲームモードの言及はなかったが、これまでウルトラハイエンドのCELLレグザにおいても低表示遅延を実現するゲームモードが搭載されていたので、4Kレグザにおいても搭載されるはずである。
ブースでは、劇場向け4K映画コンテンツ配信事業を行なっているRED社の業務用4Kプレイヤーによるリアル4K映像コンテンツの表示が、4Kレクザを用いて行なわれていた。
16Mbpsでエンコードしたという4K映像の表示だったが、16Mbpsという低ビットレートの印象とは裏腹に、なかなか高品質な映像表示になっていた。ちなみに、コーデックはRED Codecというオリジナルメソッドだという。
シャープブースの4K展示~70型4K AQUOSと60型4K ICC PURIOSはどちらが上位?
シャープブースでは、2013年2月より発売される、受注生産の4Kテレビ「ICC PURIOS」(日本型番:LC-60HQ10)が人気を集めていた。
昨年より試作モデルの展示は行なわれていたが、最終製品版に近い形のものが北米で一般展示されるのは初めてのことになる。このため、フルHD映像との比較デモコーナーは連日黒山の人だかりとなっていた。
アイキューブド研究所が開発した4K映像創造技術「ICC」(Integrated Cognitive Creation。シャープは「光クリエーション技術」というブランド名を与えている)は、簡単に言えば「フルHD→4K映像化」技術である。昨年までの各家電ショーでは、これまで同じデモ映像での比較となっていたが、今回は新作のデモ映像での比較視聴ができていた。ICCの一般映像への適応能力が確認できる数少ない機会だったと言える。
フルHD映像とICC処理後の4K映像を比較してみると、超解像的な効果に加え、フォーカス感が増し、まるで視力が向上したような画調になっていることに気がつかされる。また、「光クリエーション技術」というブランド名からも想像できるように、映像中の陰影各所におけるハイライト効果が際立って見える。この部分については、筆者は、東芝が4Kレグザシリーズに搭載した「4K輝き復元」に近いイメージを抱いた。
ICC PURIOSは、THX認証ディスプレイとしての訴求もなされるため、ブースでは、映画ソースの表示も行なわれていた。シャープはAQUOS Tシリーズ以来、ハイエンドAQUOSにはTHX認証ディスプレイの称号を取得して与えることが多い。ICC PURIOSはシャープが販売する民生向けテレビ製品としでは最も高価な製品となるため、今回もTHXロゴを与えることになったようだ。実際にデモの映画クリップを見た感じでは、一般映像に対してよりもICC効果は控えめのようで、しっとりとした落ち着いた映像に見えていた。
なお、ICC PURIOSは、THX認証ディスプレイとしては、世界初の“4K”テレビとなる。
シャープは70型の4K AQUOSの試作モデルもブースに展示していた。
こちらは、ICC PURIOSのブランドではなく、AQUOSブランドでの発売が計画されているとのことだ。発売時期は未定だが、ICC PURIOSのような受注生産ではなく、量産モデルとしてラインナップされる見通しだ。
価格も未定だが、ICC PURIOSの262万円よりは大幅に安価になる見込みで、他社の同画面サイズ(65型クラス)4Kテレビに対して競争力のある価格が設定されるはずである。東芝やソニーは「84型を除けば、1インチ1万円台が当面の価格の目安となるはず」と述べていたので、そのあたりの価格になるのではないかと見られる。
70型4K AQUOSは試作機ながら、画質は良好で、ICC PURIOSには採用が見送られた新開発の低反射コーティング技術「MOTH EYE」が適用されていることもあり、外光の映り込みの少なさ、そして好印象なフォーカス感と黒の締まりが実現出来ていた。
ターゲットユーザー層が違うとはいえ、60型のICC PURIOSと70型の4K AQUOSは、画面サイズだけでラインナップ上下関係が成立しないため、マーケティングの難しさが課題になりそうである。ちなみに、シャープ関係者によれば、アイキューブド研究所はICC PURIOSは60型1モデルで展開することを強く希望しているとのことで、当面は1モデルラインナップのままと思われる。
ソニーブースの4K液晶TV新モデル、実は広色域対応!?
ソニーの4K有機ELテレビ試作機については、前回の「4Kに見る映像の未来(1)」でみっちりとやっているので、本稿では、液晶パネルを採用した4Kテレビ製品を取り上げたい。
ソニーは液晶パネルを採用した4Kテレビとしては、既発売の84型モデル(日本製品型番KD-84X9000、北米型番XBR-84X900)に加えて、今回のCESにて、55型と65型をラインナップに追加した。北米での型番はそれぞれ「XBR-65X900A」と「XBR-55X900A」となる。
液晶パネルは既発売の84型と同じく、全てLGディスプレイのIPS型液晶パネルだといわれている(ちなみに、LGはこれらと同サイズ4Kテレビを今回ラインナップした。詳細は後述する)。3D立体視には偏光方式で対応する。
この65型と55型は、既発売の84型に対して画面サイズバリエーションが追加されただけと思われがちだが、違う。実はバックライトシステムが米QD Vision製の発光半導体技術「Color IQ」統合型になっており、白色LEDバックライトでありながら、RGB-LED方式に迫る広色域を達成しているのだ。このため、かつてのRGB-LEDバックライトシステムのブランド「TRILUMINOS」を復活させて、この機能にあてている。
ソニーマニアであればあるほど、TRILUMINOSというブランドに「え? RGB-LED復活??」と反応してしまいそうだが、実際はそうではないのである。なお、「Color IQ」システムについては、次回以降の大画面☆マニアで解説する予定だ。
さて、以上のことから、4Kテレビは既発売の84型よりも、新型の55型、65型の方が高画質(≒広色域)ということになる。この“大きくも些細な相違“は、型番にも現れており、TRILUMINOS非採用の84型は「XBR-84X900」で、TRILUMINOS採用の65、55は「XBR-65X900A」、「XBR-55X900A」と末尾に「A」が付けられている。
日本でも、この「A」型番をあしらって、TRILUMINOS搭載で55と65型がラインナップされるはずだ。
ちなみに、84型でTRILUMINOS対応の「A」型番モデルが出るかが気になるが、これについては未定とされている。
なお、筆者が「KD-84X9000」を評価した際に、ソニー関係者に伺った時には「84型は毎季モデルチェンジするものではなく、ロングライフモデルとして位置付ける」と断言していたので、直近でモデルチェンジ(マイナーチェンジ)があるとは考えにくい。
LGの4Kは55型と65型。4K/60pの地上波放送の実験報告も
ここ数年、CESの主役は韓国勢ブースという印象が強く、とにかくブース展開が派手で華やかで、それに惹かれて集まる来場者の数も連日、日本メーカーブース以上である。北米での各家電製品のシェアがLGとサムスンでワンツーを争うという展開なので致し方ないところではあるが。
こうした韓国勢の華やかなブース展開に、日本メーカーでは唯一、ソニーだけが抵抗を試みているという感じがする。パナソニック、東芝、シャープといった他メーカーは、製品やサービスのわかりやすさに注力した、比較的質実剛健なブース展開となっていた。
さて、LGは、最近では、サムスンと比べるとあまり「世界最大」、「世界初」の称号を取りに来ることにあまり躍起ではなりつつある。昨年から今年にかけて世界各国で各メーカーが次々に発売している84型の4Kテレビが、全てLGディスプレイからのパネル提供によるものであり、4K液晶パネル提供に関しては比較的順調な手応え、余裕を感じているからだろうか。ちなみに、LGディスプレイの84型4K解像度のIPS液晶パネルは、既に40カ国に輸出されているという。
さて、話を4Kに戻すと、LGブースでは、既発売の84インチ4K液晶テレビ「84LM9600」に加えて、今回CESのタイミングで発表された55型、65型モデルの新製品展示が行なわれていた。
現状型番は未確定で、日本での製品展開も現在前向きに検討中だとのことである。
なお、韓国では、KBS(韓国放送公社)が陣頭指揮を執り、4K(3,840×2,160ドット)の60Hz地上波放送をHEVC(H.265)で行なう実験を進めている。ブースでは、この実験に関連したデモも行なわれていた。
サムスンは、世界最大の110型4K液晶テレビ
サムスンは「世界一」、「世界初」に非常にこだわりを持ったメーカーだ。
今回は、液晶パネルを採用した4Kテレビとしては世界最大となる、110型の試作機を展示。さらに95型、85型の試作モデルもあわせて展示し、「世界最大級のラインナップ」を強調していた。
ただし、直近で発売が予定されているのは85型の北米型番「S9」モデルのみとなっている。価格は未定。発売時期は今年前半を予定している。
まるでフォトフレームをそのまま巨大化してしまったような、あるいは姿見鏡のような三角スタンドは、コンセプトデザインではなく、最終デザインなのだそうだ。業務用のデジタルサイネージ用ディスプレイのようだが、このデザインを民生向けテレビとして採用したことはなかなか大胆な選択である。
サムスンブースでも、4K地上波放送に向けた次世代コーデック「HEVC」(H.265)に関連した展示が行なわれていた。
4K映像コンテンツの本格展開は、このHEVCの技術確立と普及に連動すると言われているので今後「4K」と「HEVC」というキーワードは、ペアで目を向けていく必要があるかもしれない。