日沼諭史の体当たりばったり!
理想のオーディオ&ビジュアル環境を目指し、家づくりからはじめてみた
(2015/12/24 11:00)
メリークリスマス! みなさん、今年の自分へのクリスマスプレゼントは、どんなAV機器にしただろうか。“沼”と揶揄されることもあるこのオーディオ・ビジュアルの世界。“上”を目指せばお金が際限なくかかるという点でネガティブに捉えられてしまうことが多いけれど、自分の趣味嗜好や予算に合わせて果てしなく深掘りしていけるという意味では、誰でもハマることができて、楽しめる、こんなジャンルはそう多くはないと思う。
筆者もこれまでいろいろなAV機器やガジェット類を購入したり、試したりしてきた。でも、まだまだやりたいこと、知りたいことが山ほどある。「理想のオーディオ&ビジュアル環境」というものがあるのだとしたら、どうすればそこに到達できるのだろうか。思いっきり体当たりでそこに挑んでみたら、どうなるのだろう。そんな思いで、この新連載を始めさせていただくことになった。
例えば、さまざまなオーディオ、映像機器を実際に導入するに当たり、どこに注意すべきなのか、あるいはどのように使えて、さらに便利な活用方法は考えられないか。そんな、AV機器との「もっと楽しい付き合い方」を、体当たりで試していければと思っている。
理想を目指すための“箱”を作った
さて、「理想のオーディオ&ビジュアル環境」を目標とするからには、各種機器を自由にセッティングして試せる“箱”が必要だ。つまりは家、マイホーム。すでに別の記事で触れた通り、2015年の今年、新しい我が家が完成し、ここを新連載の舞台の1つとして活用していく準備が整った。
壁の穴開け1つでも面倒ごとの多い賃貸物件では、理想の環境はやはり作りにくい。分譲マンションであっても、他の居住者と資産共有する集合住宅である以上、やりたい放題というわけにはいかない。自分の思うがままに、法律の範囲内で、少なくとも環境面で制限されることがないようにするには、戸建てを1から作るしかないだろう、という判断だ。それも最初から全てが決まっている建売物件ではなく、ユニット工法を採用する大手メーカーの注文住宅でもなく、設計事務所に設計・建築を依頼するところから、である。
そんなこんなで構想から設計、竣工まで約3年近くもの歳月をかけ、なんとか完成を迎えたニュー我が家。もちろん家主は筆者の私であり、将来数十年に渡るローン地獄のぐらぐら煮えたぎる鍋に浸かり続けるのも筆者なので、間取りや自分が使う部屋の決定権、各種設備の選択権は筆者が独占! のはずなのに、残念ながらそうもいかないのが現実である。なぜなのか。
地域や土地ごとに設定された建物の広さ、高さなどの建築制限があることもそうだし、当然ながら予算によるところも大きいのだけれど、最も影響したのが家族の存在だ。筆者が趣味にこだわるあまり、妻1人子2人から総スカン、もとい、家族みんなが快適に過ごせない家になってしまっては意味がない。主に妻の好みを最大限に反映させつつ(なぜなのか)、設計資料を精査して金具1つ、配線1本まで何を採用すべきかを決め、それでいて日常生活の快適さ(と家庭内の平穏)を図れるギリギリのセンを探っていった。
というわけで、AV視聴の環境として完璧な理想型となるリスニングルームを作るようなことはしていないし、できなかった。しかしこれはこれで、いろいろな理由からリスニングルームを設置できない家で、どうすれば満足度の高いAV環境を整えていくことができるのか、その解決策を探っていくという意味では悪くない判断だったと思っている(というか、リスニングルーム用の地下室を作るという選択肢もあったのだけれど、それだけで、1,000万円追加になります、と言われれば諦めざるをえない)。
ただ、その分、コストがそれほど余計にかからない細部の、しかしながらAV機器や環境的に重要であろうポイントについては、建築士の方や施工を担当した工務店にそれなりに注文を付けさせていただいた。そのうちのいくつかを挙げてみたいと思う。
将来の4K/8K放送の本格開始も見据えたアンテナ配線
“テレビ離れ”が話題の昨今だが、AV視聴環境を語るうえでテレビはいまだに最も大きな要素の1つ。快適な視聴には、テレビアンテナ周辺の設備が大きく関わってくる。電波を安定して受信できるのは当然として、将来想定される放送絡みの仕様変更の動きも見据えながら機器や設置方法を選ばないと、数年後にはアンテナ配線を丸ごとやり直し、なんてことにもなりかねない。
建築中だった筆者宅では、運良く電気関連の配線工事が始まる直前に、マスプロから将来の4K/8K衛星放送で使われることになるとされている3,224MHzの周波数に対応したアンテナ配線用の分配器、分岐器、直列ユニットが発表されたおかげで、「4SPFRW」などの最新パーツを指定して取り付けてもらうことができた。
配線ケーブルには3,224MHzに対応できる5Cサイズの同軸ケーブルが使われていたので、これで将来4K/8K衛星放送が始まってもアンテナ(と必要に応じブースター)を3,224MHz対応製品に変えるだけで安心して視聴できるはずだ。
今後はこの4K/8K衛星放送対応の配線機器が、新築の集合住宅や戸建て物件に標準的に使われることになる可能性はある。が、現時点では、よほど動向に詳しい建築士や工務店でない限り、最新のものが使われることはないだろう。今まさに自宅や集合住宅を建築中の人は、施主(自分)側からはっきり製品名を指定しておきたいところだ。
また、アンテナの設置場所と設置方法、アンテナケーブルの引き回し方法も細かく指定した。東京スカイツリーからの地上デジタルの電波が届く日沼家から見て東方向と、BS/CSの衛星電波が届く南西方向の視界が開けた位置で、しかし外観的にはあまり目立たない、自分でもメンテナンスのしやすいアンテナ設置場所を要望した。結果、西側の壁から屋根の上に突き出す形でアンテナ固定用ポールを1本取り付けることになった。
アンテナケーブルは、そのポールから室内の配線集合場所(分配器手前)まで、2本敷設。地上デジタルとBS/110度CSだけ視聴するのであれば屋外のアンテナ部で混合することでケーブル1本で済むが、そうすると将来的にスカパー! を導入した際には、混合が不可能なので配線を増やさなければいけない。2本あれば、地上デジタルとBS/110度CSの混合で1本、スカパー!で1本、という使い方ができる。
無線LANと有線LANを有効活用できるよう配置と配線を工夫
最近のAV機器は、ネットワーク接続機能をもつものが増えてきた。AVアンプやネットワーク上の映像・音声ファイルをDLNAでストリーミング再生するようなネットワークプレーヤーの中には、有線LANだけでなく、無線LAN機能でワイヤレス接続できる製品も多い。スピーカー単体でワイヤレス再生機能をもつものも続々登場してきている。
無線LANに対応していると配線する必要がなく、気軽に接続できるのがうれしいのだけれど、気を付けなければいけないのは、大きなメディアデータを取り扱う際、無線LANではまだまだ問題が起きやすいということ。NASなどに格納しているハイレゾ音源をストリーミング再生するような場合、無線LANの電波状況によっては音が途切れてしまうことがままある。どんなに最大通信速度の高速な無線LANルータを使っていても、間に障害物やノイズの発生源があれば電波が減衰する。安定して通信させたいなら、今でも有線LANが確実だ。
そのため日沼家では、インターネット回線(光)の引き込み方法から、ルータの設置場所、有線LANと無線LANの使い分けまで、家の設計段階で想定して配線を決めた。具体的には、インターネットの回線工事時に家の壁に穴を開けなくて済むよう、専用の配線口を設け、リビングのある建物2階中央、上部の棚のコンセントへ壁内を通して引き込めるようにした。さらにそのコンセントにLANポートを3つ設け、1つはリビング、1つは真下の作業机の足元、もう1つは1階中央の埋込棚に、これも壁内を通してそれぞれカテゴリー5eのLANケーブルを独立配線した。
リビングのコンセントにはLANポートがあり、ここにONUから壁内を通ってきたケーブルがつながっている。そこからハブに接続し、ハブからテレビ、メディアレシーバー、ゲーム機、その他ネット接続が必要な機器類に有線接続する形にした。一方、ONUの真下にある作業台の足元には、デスクトップPCなどを置く可能性がある。頭上のONUやルータからケーブルをぶら下げるより、足元からLANケーブルを取り出せるようにした方が見栄えはいいだろう、と考えた。
そもそも2階の中央にインターネット回線を引き込めるようにしたのは、無線LANルータを使用する時のことを考えて。無線LANルータでは基本的に同心円状に電波が広がるので、家の中央にあるとまんべんなく電波が届きやすい。特定の方向に電波を届けられるビームフォーミング技術を搭載した無線LAN機器も増えてきているが、それでも家の中央にあった方が効率は良いはずだ。
さらに、2階から1階にLANケーブルを1本通したのは、2階の無線LANルータからの電波が1階に届きにくいことがある点を考慮してのもの。以前別の企画で広い木造住宅における電波の届き具合を測定した際、階下に置いた時よりも、階上に置いた時の方が電波が届きにくいことが分かった。1階に無線LANをセッティングすれば、電波はほぼ確実に家全体に届くと考えた。
壁内のLAN配線は以上の3本となるが、各部屋全てに配線しなかったのは、単純にコストアップを避けたかったため。リビング以外の各部屋では有線LANが必要になるほどの機器を置くことはないとして、無線LANで十分と踏んだ。
リビングでは壁掛けやサラウンド環境を想定。アースも接続できるように
日沼家の2階にあるリビングは狭い。狭いだけに、将来大型テレビを設置した時に一層狭く感じたりしないよう、テレビを壁掛けできるようにする下地を壁に埋め込んでもらった。一般的な木造住宅は、壁に石膏ボードを使うことが多く、それは日沼家でも同じなのだが、石膏ボードのみの壁にはネジで重量物を固定することがほぼできない。石膏ボード用アンカーという、ある程度強固に固定する手段はあるものの、20kgは超えるであろうテレビの固定となるとやはり不安だ。
ということで、リビングの壁の中央に、下地となる板を埋め込んでもらった。テレビはもちろん、壁に固定するセンタースピーカーなんかも使えるだろう。そうすれば、現在テレビを載せている、わりとスペースを占有しがちなAVラックは不要になる。その際にステレオスピーカーやアンプといった機材をどう配置するかは悩ましいところだが、このあたりは今後の課題としてじっくり考えていきたい。
ところでリビングから見上げると、頭上はやや吹き抜け気味に天井が高くなっており、梁がむき出しになっている。この梁は建物としての構造上必要なものなので、筆者の方から要望したわけではないのだが、これらを利用すればリアスピーカーも適切な位置に配置できそう。いずれサラウンド環境を構築してホームシアターを実現する時にも、Dolby Atmosに対応の天井スピーカーを無理なく取り付けることができるのではないだろうか。
その他に気を配ったところとしては、コンセントの配置と数、そしてアースの有無。AV機器に限らず白物家電などでもそうだが、コンセントが少ないと部屋を横断するような形で電源ケーブルを引き回すことになったりして、うっとうしい。なので、電化製品を置きそうな場所については、入念にコンセントを用意した。
また、AV機器によってはアース付きの3ピンの電源コネクターが使われていたり、アース線だけを別で配線する仕様になっているものがある。電源口が一般的な2ピンになっていたりすると、行き場所を失ったアース線をぷらんと放置することになってしまうので、なんとなく気持ちが悪い。アースを配線しなくても動作する機器が多いとはいえ、できるだけ正しく、きれいに配線したいので、アース付きの3ピンの電源口や独立してアース線を接続できるコンセントを多めに設置した。
2016年以降の日沼家の行方は??
というように、筆者なりに考えられる範囲で、新居にはAV環境に関わる最低限の設備を整えたつもり。おそらくAV機器を充実させていくうちに、不都合が出てくるところもあるだろうけれど、今のところ家自体は80%、AV環境的な面からは70%くらい満足のいく完成度になったと思っている。
昔から、100%満足できる家にするには3回建てなければならない、という話もあるらしいから、初めての家で70~80%もあれば、まあまあ成功と言えるかもしれない。今後連載を続けていくなかで、これを100%に近づけながら、どんな風にAV環境を充実させていけるだろうかと考えるとわくわくするが、目下の課題は、引っ越しから1カ月以上たった今でも引っ越し荷物で家中が埋めつくされており、これを片付けないと先には進めないということである。
2016年以降、好き勝手にいじくり回されたこの家が、美しいAV環境の理想郷へと近づいていくか、あるいは単なるボロボロの中古物件に成り下がるかは企画内容と運次第。生暖かく見守っていただければ幸いだ。
マスプロ 4SPFRW |
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