【新製品レビュー】

快適操作とビデオ撮影、AV的魅力もアップした「iPhone 3GS」

-声で楽曲操作。3Gユーザーが乗り換える価値は?


iPhone 3GS

6月26日午前8時発売

本体価格
(キャンペーン適用時の実質負担額):
 「16GBモデル」11,520円
 「32GBモデル」23,040円


 いよいよ6月26日から発売が開始される「iPhone 3GS」。動作速度が従来の最大2倍、通信もHSDPAの7.2Mbpsに対応するなど“高速化”が機能強化の最大のポイントと言えるが、それ以外にも様々な新機能が盛り込まれている。

 僚誌ケータイwatchと法林氏の協力で発売前に試用できたため、ここではAV的な新機能である動画撮影にフォーカスして、iPhone 3GSの使い勝手を試してみたい。なお、iPhone OS 3.0で追加された機能については、既掲載の記事で紹介。AV関係以外の機能については、ケータイWatchの記事を参考にして欲しい。


■ 動画撮影に対応。静止画撮影も強化

 本体デザインは3Gとほぼ同じで、正面から見ると違いはわからない。液晶の輝度が若干落ち、黄色味がかっているように見えるが、3G自体も個体によって液晶表示は異なっていたので3GSの個体差もあるだろう。サイズは3.5型、解像度は480×320ドットで変更無し。仕様面では内蔵メモリ32GBモデルが追加されたのがポイントだ。

 液晶下部にホームボタン。側面左側にサイレントモード、ボリューム。下部にマイクとスピーカーを内蔵しているのも3Gと同じ。イヤフォン端子と電源ボタンは上部に備える。変更点は背面にあり、iPhoneの文字とメモリ容量などの表示色がシルバーとなり、3GSではより鮮やかに見えるようになっている。

 

左が3GS、右が3G。外観はほぼ同じだ液晶画面表示。左の3GSが若干、黄色味がかっている左側面にボリュームボタン、サイレントモードスイッチを備えている
上部。イヤフォン端子と電源ボタンがある下部。Dock端子、マイク、スピーカーを備える背面のロゴマーク。左上にあるのがデジカメのレンズだ
他機種との背面比較。左が3GS、中央が3G、右端が第2世代のtouch3Gの背面文字部分。文字自体が灰色で見にくい3GSの背面。ロゴマークと同様に光沢のある銀色で、読み取りやすくなった
3GS、3G、第2世代touchの厚み比較3GSのパッケージ

 カメラのレンズは背面に装備。iPhone 3Gのデジタルカメラは200万画素と、日本の最新携帯電話からすると心もとないスペックだったが、3GSでは300万画素に強化。オートフォーカス機能を備え、撮影時のプレビュー画面で、フォーカスが合っている部分に四角いマークが表示されるようになった。さらに、画面をタップしてのフォーカス位置が決められるほか、露出もそのポイントを基準に合わせてくれる。パンフォーカスでシャッターボタンを押すだけだった従来と比べると、ようやくカメラらしい最低限の機能を手に入れたと言えるだろう。

 

デジカメ撮影時。オートフォーカスで、フォーカスが合っている部分に水色の枠が出る枠は別のポイントに動かすことも可能画面をタップすると、その部分にAFが合い、露出も合わせてくれる

 実際の撮り比べてみたが、梅雨の曇り空の風景写真では、光量が少ないこともあり、画質差が歴然。単に画素数が増えただけでなく、レンズの解像度も上がっているようだ。また、AE/AFポイントをどこに合わせるか任意で選べるようになったのは大きく、明るい空に引っ張られて顔や建物が暗くなってしまうシーンでも、画面をタップすれば撮りたいものが明るく撮れるようになっている。

 

【 静止画比較 】
iPhone 3GiPhone 3GS
 
 
 

 

カメラアプリのインターフェイス。右下にあるのが動画と静止画の切り替えスイッチだ
 動画撮影は静止画と同じ「カメラ」アプリで行なう。画面下部の右側に静止画と動画を切り替えるスライドスイッチがあり、動画側にスライドさせると、下部中央のシャッターボタンが、赤い撮影ボタンに変化。これを押せば撮影開始となる。

 解像度はVGA(640×480ドット)で30fps、フォーマットはMPEG4-AVCで拡張子はMOV。音声はAACの16bit/44.1kHz/モノラル。撮影中は撮影ボタンが点滅する。なお、撮影開始前の状態では静止画同様にAF/AEポイントをタップで指定できるが、動画撮影中に変更できないので注意が必要だ。

 カメラは縦向き、横向きのどちらでも撮影可能。撮影ファイルをPCに転送して再生する際も、QuickTime Playerでは横/縦情報は引き継がれる。しかし、GOM PLAYER(Ver2.1.16.4631)では縦動画も横向きに再生されてしまった。なお、撮影中に縦/横を切り替えることはできず、撮影開始ボタンを押した時の向きで保存されるようだ。

 撮影動画のサンプルは以下の通り。30fpsの滑らかな撮影ができているが、電車が近付く「yoko02.MOV」では、CMOSの読み出し特性の問題で、画面右側の電車の車体が斜めになる「動体ひずみ」が起きている。

 

【 動画サンプル 】

yoko02.MOV(15.5MB)

tate02.MOV(13.6MB)


yoko01.MOV(12MB)


tate01.MOV(9.47MB)

編集部注:掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

PCとUSB接続して、撮影した静止画や動画を取り出しているところ
 撮影した静止画と動画は、写真アルバムの中に一緒に保存される。カメラアプリの左下アイコンからアクセスでき、静止画と動画を混在させた「すべて」を表示するか、「写真」、「ビデオ」のどちらかに絞るかを上部のバーで選択できる。なお、ホーム画面からアクセスする「写真アルバム」では、このバーが登場せず、「すべて」の表示に限られている。

 本体のみで動画のカット編集も可能。再生中に画面をタップすると、上部にコントロールメニューが現れる。そこにフレームがタイムライン表示されるので、ドラッグすると、前半、もしくは後半の任意の部分を選択できる。選択後に「トリミング」ボタンを押すと、選択部分がカットされる。動作は素早く、数十秒のクリップならば作業が待たされる感じも無い。

 編集が終了したら、左下のアイコンをタップすると、その動画を添付したメールを作成したり、iPhone OS 3.0で対応したMMSのメッセージに貼り付けたりできる。具体的には「メール」、「MMS」、「MobileMeに送る」、「YouTubeに投稿する」が選べ、MobileMeの会員の場合はMobileMeギャラリーに、YouTubeのアカウントがあれば、そのまま投稿できる。

 Windows PCで動画を取り出す場合は、USB接続すると「iPhone 3GS」がマイコンピュータに現れ、静止画と動画の保存フォルダにアクセスできる。フォルダの認識、展開も3Gより高速化されている。

 

撮影コンテンツを表示しているところ。動画も静止画も混在している上部ナビバーの「写真」を選ぶと静止画のみが表示される「ビデオ」では動画のみを表示カット編集画面。タイムラインのフレームをドラッグする
編集が終わったらメールに添付やYouTubeへの投稿が可能YouTubeへの投稿時は動画変換も行なわれるYouTubeのIDとパスワード入力画面従来通り静止画をメールしたり、壁紙に使うこともできる

■ 動作速度が高速化

 3Gよりも最大2倍高速化されたという3GSだが、確かにアプリの機動や、ホーム画面のアイコン表示切替、文字入力などがサクサクと動作し、時折動作が引っかかる3Gと比べ、高速化が実感できる。通信速度も高速化されていることもあり、地図アプリの起動から、現在地認識、衛星写真ダウンロードといった一連の動作ももたつきがない。

 動作速度を比べた動画を用意した。AV Watchのトップページを表示したもので、3Gと無線LANの2種類の通信方法で比較しているが、通信速度の違いを介さない、HTMLの解析&表示スピードの違いという意味では無線LANが参考になるだろう。電車内で3Gを使ってWebブラウジングもしてみたが、読み込み途中でトンネルに入ってしまう事が多い地点でも、トンネルに入る前にページ表示が完了するなど、各所で速さを実感できた。

 

【無線LANでの比較】
(左:3G / 右:3GS)
【3Gでの比較】
(左:3G / 右:3GS)

 iPhone 3Gは、OSを3.0にアップデートすると、文字入力が従来のバージョンと比べ遅くなり、変換候補表示で待たされる場面もあるが、G3Sではそのような事は無い。3G 3.0でも、「設定」の「一般」から「ホーム」にアクセスし、「検索結果の表示」を各項目を一旦チェックから外すと入力が高速になることが編集部で確認でき、文字入力のストレスは軽減できる。だが、ホーム画面への切り替えなど、全体的な動作速度で3GSのアドバンテージが変わる事は無い。


■ 細かい機能をチェック

 iPhone 3Gと言えば、音楽再生中に写真を撮影するとシャッター音が消えるという、日本の携帯電話にはあまりない仕様があったが、3GSでも検証してみた。結論は、3GSでは音楽再生中でもシャッター音がする。サイレントモード時も同様だ。

 ただ、イヤフォンを装着すると、イヤフォンからシャッター音が出るが、本体からは出ない。音楽を再生しても、していなくても同様だ。なお、再生中に動画撮影モードに切り替えると、音楽は停止する。

 3GSのみに追加された機能として注目なのは、デジタルコンパス。コンパスアプリはクラシカルなデザインで方位を教えてくれるものだが、マップアプリでもコンパス機能が使えるのが特徴。認識はほぼリアルタイムで素早い。GPSで現在地を表示するだけでなく、向きも正確に表示できるようになったことで、「地図を見ながら真逆の方向に歩き出す」といった失敗が減りそうだ。

 

ホーム画面。コンパスやボイスメモなど、新アプリが追加されている音楽再生に関する機能は従来と同じだデジタルコンパスアプリ

■ 楽しいが、使い道に悩む音声コントロール

 ホームボタンを長押しすると、電子音と共に「音声コントロール」機能が立ち上がる。音声認識機能を使って各種操作ができるもので、例えば音楽再生中に「一時停止」や「再生」と声に出すと、ポポッという認識音の後、その動作を行なってくれる。「前の曲」、「次の曲」などの言葉でトラック移動も可能。

 さらに、「グループ名は?」、「曲名は?」などと語りかえることで、「○○の、○○を再生中です」などと、音声で案内してくれる。アーティスト名とアルバム名を声に出して再生してもらうことも可能だ。

 

音声コントロール画面。指令の例が画面に流れている
 面白いのは、画面に音声指令の例が流れること。「声で命令しろ」といわれても、なんと言っていいかとっさに思い浮かばない事が多いが、画面に「再生しているバンドは?」、「電話」、「電話をかける」など、指令のヒントになる言葉が流れているので、それを見ながら話すことができる。アドレス帳に登録された人に電話をかけることも可能だ。

 ただ、長い言葉になると認識率はイマイチ。アーティスト名とアルバム名は、「一致するものが見つかりませんでした」と大半は蹴られてしまう。また、アーティストとアルバム名を言ったつもりなのに、突然、山田さん(仮名)に電話をかけはじめ、あわててキャンセルをする事態も発生。

 違う音楽が再生される程度ならば笑って済むが、いきなり他人に電話をかけられる可能性を考えると、ちょっと気軽に使いづらい。また、機能の利用にホームボタンの長押しが必要なのも面倒だ。そもそも画面にタッチできる状態ならば直接操作した方が楽だ。

 実はこのモードは、付属リモコンの中央ボタン長押しでも起動する。電子音で音声コントロールが立ち上がったことがわかるので、本体画面を見ずに、マイク内蔵のリモコンに向かってに「再生」や「前の曲」と言えば、声だけでコントロールできるというわけだ。

 ただ、実際に使ってみると、リモコンにそもそも「再生/停止」や「曲送り」などがボタンで用意されているので、わざわざ音声コントロールする必然性を感じない。再生中の曲名読み上げは便利だが、そうそう頻繁に使う機能でもない。電話をかける時に使えそうだが、認識率の点で、確実に目的の人に電話をかけてくれる保証は無いので、画面を見ずに電話をするのは勇気がいる。物珍しくはあるが、正直言ってあまり使い道が思い浮かばない。例えば今後、ゲームアプリなどで使えるようになれば、幅が広がっていくかもしれない。 

3GSの付属品一覧。3Gとほぼ同じだ3GS付属のリモコン付イヤフォン

 また、この機能が追加されたことで、3G(OS 3.0)や3GSではホームボタン長押しで、アプリの強制終了ができなくなった事が気になる。iPhoneでは様々なアプリが利用できる反面、完成度のあまり高くないアプリの動作が怪しくなったり、多数のアプリを使い過ぎて空きメモリが足りなくなる事がある。従来はそうしたアプリを強制終了させて回避していたが、そのテクニックが気軽に使えないのだ。実は電源ボタンを長押しし、電源スライドバーを表示させた状態でホームボタンを長押しすると強制終了できるのだが、1工程増えたことで“おっくう”になったのは事実だ。


■ 3Gとわずかに違う再生音質

 短い時間ではあるが再生音質についても比較してみた。ULTRASONEの「HFI-680」、オーディオテクニカの「ATH-AD7」などを接続。山下達郎「ずっと一緒さ」、「ANGEL OF THE LIGHT」、宇多田ヒカル「Beautiful World」などで比較した。

 音色の傾向は良く似ており、どちらも極めてニュートラル。低域から高域までバランスが良い。音場の広がりが若干3Gの方が良く、低音の沈み込みも3Gの方が深い。そのため、ベースラインが安定しており、音の彫りが深く、音楽にメリハリを感じる。3GSは軽めの音で、良く言うと軽やかで抜けの良いサウンド、悪く言うと量感や迫力が乏しい。

 ただ、比較用の3Gは約1年間、毎日鳴らしていたものなので、エージングの違いもある。また、同じ曲を再生しながらイヤフォンを抜き差し、静かな室内で大口径ヘッドフォンで比較するとわかる程度の違いであり、屋外で歩きながらイヤフォンを使っていると気にならない程度だ。純粋な3GSの音質としては、ニュートラルであるため、大半の人は不満を感じないだろう。


■ 基本機能の強化がもたらす“快適さ”

 3Gから3GSになり、強化された点は、通信/処理能力の高速化や電子コンパスによる地図機能の強化など、どちらかというと“ベース機能の向上”がメインと言える。メモリ容量に32GBモデルが追加されたことも同様だ。

 AV機能という面では動画撮影が可能になり、iPhone 3Gユーザーにとっては羨ましいポイントだが、日本の携帯電話からすると“真新しい”とは言えず、画質もいたって普通。むしろiPhoneは機能単体ではなく、機能を使った様々なアプリを世界中の人が開発し、それを気軽に追加できる事が最大のポイント。3Gの低画素なデジカメ機能でも、それを世界の人と共有してコメントしあうアプリや、パズルに使うアプリ、レタッチアプリなど、様々なものが開発された経緯があるので、“今後の可能性”こそが重要と言えそうだ。

 このように、OS 3.0を入れた3Gと比較すると、機能面で大きな違いは無い3GSだが、実際にそれらの機能を使っていると、キビキビとした動作が実に心地良く、動画の撮影やカット編集でも待たされる事がほとんどない。“ベース機能の向上”に注力したからこそ、その恩恵が常に感じられ、機能の項目差では表せない“快適さ”が最大の変化点だと思える。初めてiPhoneに触れる人には“不満の少ない端末”、従来の3Gユーザーが触ると“快適さ”が容易に比較でき、“触ったら3Gには戻れない端末”になっていると言えるだろう



(2009年 6月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎 協力:法林岳之/ケータイWatch ]