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ポストスマホ時代のパートナーへ。LINE舛田氏に聞く、AIとスマートスピーカー

 LINEは現在、クラウドAIプラットフォーム「Clova(クローバ)」と、対応のスマートスピーカー「WAVE」の開発を進めている。WAVEの先行版については、23日から順次出荷開始される予定だ

LINE「WAVE」

 スマートスピーカーとAIを使った音声応答技術については、AmazonやGoogle、マイクロソフトにアップル、テンセントと、世界のクラウド・ジャイアントが競争を繰り広げている最中だ。LINEもそこに参入することになるが、その狙いと勝算はどこにあるのだろうか? LINE・取締役 CSMOの舛田淳氏の単独インタビューをお届けする。

LINEでClova/WAVEを担当する舛田淳 取締役 CSMO

個人よりも「ファミリー」的な利用、開発には深くLINEが関与

 戦略の話をする前に、ハードウェアとしてのスマートスピーカーである「WAVE」と、その動作プラットフォームである「Clova」について解説しておこう。

 ハードウェア的に見れば、WAVEは「ちょっと大きめのBluetoothスピーカー」のように見える。底面にはリング状のLEDがあり、この色と発光状態で動作状況がわかる。青く光っている時が「コマンド待ち受け」で、LED発光中のみコマンドを認識する。ずっしりと重く、スピーカーとしての音質に気をつかっているであろうことが感じられる。

WAVE

 どのような使い勝手になるのか? 現状のWAVEは「フェーズ1、というよりもフェーズゼロ。社内では『初号機』と呼んでいる」と舛田氏は言う。とりあえず、取材中に試してみた動画をご覧いただきたい。これから、まず限定されたユーザーに「先行版」が出荷されるが、これも「開発プロセス含めて体験して、できれば楽しんでいただきたい」(舛田氏)という発想からだ。

WAVEを試してみた。(動画では冒頭が切れているが)コマンドワードとして「Clova」と話しかけ、その後に命令を伝える、一般的なアプローチだ。

 WAVEの開発は社外のODMと共同で行なっている。LINEとしては初めてのハードウェア製品であり、開発はそれなりに難航したようだ。当初7月中とされていた先行版の出荷がこの時期まで伸びたことからもそれは察することができる。

舛田CSMO(以下敬称略):当社がかなり内部に入り込んで開発をしています。確かに、当初は外部の企業にお願いすればある程度のものができる、デザインだけすればいいかな……と思っていたのは事実です。しかし、思ったようなものにならない。仕様にまでガッツリと入らなければ実現できませんでした。現在は社内に「Clovaセンター」という部署を韓国NAVERと共同で作って開発を進めています。

 そこには、本当にいろいろな人物がいます。元家電メーカーの開発者に、元ヤフージャパンで言語処理を行なっていた人物、ソフトバンクロボティクスでPepperを担当していた人、さらにはマンガ編集部の人間など、異能が集まって、大きなチームで開発しています。

 社内の関係者に1,000を超えるWAVEを渡し、日々テストしながら開発しています。ログからデータも得られるのですが、直接私を捕まえて「ここがおかしい、こうすべきだ」といわれることも多いです(笑)。まだ正解があるジャンルではないので、「よりクリエイティブであるべき。チャレンジしよう。失敗してもいい」と社内では話しています。

 WAVEはスマートスピーカーなので、基本的にWi-Fiに接続して利用する。音声認識やコマンドの判断などは、LINEが立ち上げるクラウドAIプラットフォームである「Clova」が担当する。そのため、利用にはClovaとの接続が必須だ。

 ただし、接続に使うのは「LINEのアカウント」ではない。WAVE、そしてClovaはLINEが運営するので「LINEアカウントで接続するのでは」「そうなると、個人あてのLINEのメッセージがみな再生されてしまうのでは」という懸念を抱く人もいたようだ。しかし、実際にはそうではない。

舛田:Clovaには「Clova アカウント」があります。これはLINE IDとは別のものです。WAVEのようなAI/IoT機器はパーソナルなものではなくファミリーデバイスとしての側面が強いので、不安にするような作りにはしていません。

 LINEというIDは今、マルチデバイスな形にはなっていません。これはあえて「していない」んです。認証を強くするためにそうしているのですが。しかしAI/IoT機器、Clovaを使う機器は、基本的にマルチデバイスでの利用になるでしょう。なので、内部でClova アカウントを使います。Clovaを使ったデバイスの設定にはスマートフォン上の「Clovaアプリ」を使いますが、それはLINE IDで認証します。いったん認証すると、それ以降はLINEを意識することはほとんどありません。

 すなわち、Clovaで機器や個人を認証し、識別に使うのはあくまで内部の「Clovaアカウント」であり、LINE IDは表には出てこず、スピーカーであるWAVEがいきなりLINEのメッセージを読み上げるような形にはなっていない、ということだ。現状、「状況を見ており、方針が完全に決まったわけではない」(舛田氏)というものの、スマートスピーカーであるWAVEは家族で共有されることを前提としており、個人をベースにしたLINEでの情報をそのまま活用する形ではない。

 ClovaというAIを使う機器は多数登場することが想定されており、それらの形状や商品特性によっては、スマートフォンに近い、個人のためのデバイスもありうる。その時には、Clovaアカウントの側で機器を認識し、機器に合わせてLINEとの連携の形が変わることがありうる。この辺は、他のスマートスピーカーと考え方が大きく異なる部分だ。AmazonにしろGoogleにしろ、今のスマートスピーカーは「買った人個人のID」で利用するもので、パーソナルな情報を家族のいる場所で使うような部分がある。よりプライベートなサービスであるLINEを母体としているが、それであるがゆえに、他社とは少々違うアプローチを採っているわけだ。

チャレンジすることがLINEらしさ、狙うは「AIのAndroid」

 もう少しベーシックなところに戻ろう。みなさんご存知のように、スマートスピーカーと音声応答エージェントは競争の激しいジャンルである。技術開発の幅は広く、そこにはすでにワールドクラスのライバルがいる。LINEがそこに入っていって勝算はあるのか? なぜ参入を考えたのか? 誰しもそう思うはずだ。この疑問について、舛田氏は「チャレンジすることを是、宿命としている会社だ、と自分たちでは思っているから」と答えた。

舛田:今後、音声デバイスの普及が進むのは間違いありません。AI/IoTが進むのも間違いない。私たちはスマートフォンとずっと向き合ってきていて、スマートフォンの可能性も、カバーしきれない可能性が存在することも一番よくわかっています。

ポストスマートフォンのAI時代が2017年に幕開け(6月のLINE CONFERENCE 2017で撮影)

 その中での選択肢として、既存のプレイヤーの皆さんが展開するプラットフォームの上で、今までと同じように「アプリベンダーとして」やっていく方法もあります。実はこれはすごく合理的ですよね。コストもかからず、今までの延長線上でやれなくもない。

 もうひとつは、私たち自身もプラットフォームを目指していくことです。

 経営陣の中でも色々と議論はしました。

 我々がいろんなサービスを展開するにあたって、今後必ず、データもセンサーも大事になります。しかし、今までのように既存のプラットフォーム上で展開をしていくことだけだとすれば、サービス展開の幅が限定的になるはずなんです。いわば、彼らの作った枠の中に、さらに自分たちの枠を作って展開することになる。その中でとれるデータだけではかなり狭い、ビッグデータとしても弱いものになり、プラットフォーム側はどんどん強くなっていく構造です。

 これからのプラットフォームはOSのように、いくつのAI/IoTデバイスがつながり、かつどれだけ多くのアクティブなものがあるかが大事になります。それが、スマホでまかない切れない可能性に対してアプローチができるということです。

 我々LINEという会社は、チャレンジすることを是、宿命としています。巨大なプラットフォーマーと、ずっとずっと前から競争してきました。キャリアメールとも、Facebookのような世界に冠たる存在とも。小さなところで満足し、リスクをとらない会社にするべきではないと思うんです。(LINEが)成熟した今だからこそ、大きなモメンタムが起きている今だからこそ、ジャイアント達ときちんと競争をしないと。もちろん、結果はわからないですよ? でも、やらないとなにも起こらない。

 LINEの体験をデザインできるのは、それを作っている我々だけです。同じように、AI/IoTプラットフォームの体験をデザインできるのも、作る側、すなわち我々だけなんです。

Clovaはあらゆる領域に

 同時に舛田氏は、AIプラットフォームを次のようにも定義する。

舛田:これは「Androidが生まれたときのようなものじゃないか」という話をするんです。最初にAndroidを触ったとき、みんな「なんだこれ」と思ったはずなんです。フィーチャーフォンで世界一進んだものを使っていたので「これでいいのでは」と思った。しかし、やっぱり違ったわけです。あの、Androidが出てきた時と同じタイミングが「今」なのだと思います。だから、我々がClovaで作ろうとしているのは、AI時代のAndroidのようなものです。最初の一手が「スピーカー」であっただけです。

 LINEはClovaをプラットフォームに位置づけており、ソニーやLG、タカラトミー、トヨタ自動車にファミリーマートと、多数のパートナーとともに事業を展開する。この点も「ClovaはAndroidのようなもの」という言葉を聞けば納得できる。その中で最初に自社でWAVEというハードウェアを作って展開するのは、「できる限り早く市場に投入するため」(舛田氏)だ。「まずは自前で傷つく」ともいうが、それは、自社展開によってテストケースを示していきたい……ということでもある。パートナーとの事業展開方針の詳細はまだ公開されていないが、「LINEよりもオープン性を持たせていきたい」という。

 注意すべき点がひとつある。それは、Clovaが「開発中」ということだ。舛田氏は現状を「フェーズゼロ」と呼んだが、それだけ開発の初期段階である、という意味でもある。パートナーとの連携や多くの機能はまだ開発中であり、提供予定の「先行版」にも含まれない。また、音声認識の品質や速度についても完璧ではない。本取材中に舛田氏が話すものも「構想」「予定」であり、先行版やその後の製品版で、初日からその機能が完璧に動いている……というわけではない。この点は舛田氏も認めるし、「必ず進化する」と話す。

舛田:今のプロダクトでのスピードや精度は本質ではないです。確実に進化していきますし、品質は上がります。LINEの時もそうでした。初期にはVoIP(音声通話)の品質でご批判もいただきましたが、今は電話よりもおそらくクリアです。改善を続けていけば、一定の品質までは必ず上がります。どの領域でどこまでやるか。それはディープラーニングであろうがルールベースであろうが同じです。

広がるClovaの活用シーン

AIでもカギはコミュニケーション、「話したくなるAI」を狙う

 では、彼らが注力し、大事だと思っているところはなにになるのだろうか? 舛田氏は「どういう体験を与えるか、デザインするかに尽きる」という。他のライバルに対する勝算についても、結局はこの点に尽きる。

舛田:音声でコミュニケーションするということは、人間がもっている原始的なところに近づくということです。そこで最適なサービス体験、UXの構築ができているかどうかが、選ぶ基準になります。

 我々はLINEを作る時「これがインターネット3週目」と言っていました。PCがあり、フィーチャーフォンがあって、スマートフォンがやってきた。そのデバイスを大衆化させるために必要なのはキラーサービスであり、キラーコンテンツであり、キラーな体験です。そこで我々はずっと「コミュニケーション」だと思っています。クラウドAIの世界でも大事なのは「コミュニケーション」。だから先日のLINEカンファレンスでも、あえて「コミュニケーションファースト」、ずっとコミュニケーションが価値ですよ、と主張したくてわざわざそう話したんです。

 では、AI/IoTデバイスにおける「コミュニケーション」とはなんだろう? LINEでコミュニケーション、というと、他人とのメッセージングが思い浮かぶ。しかしすでに述べたように、スマートスピーカーは家族で共有するもので、パーソナルなデバイスではない。だからLINEのメッセージを直接読ませるような「コミュニケーション」とは違う。

舛田:AI/IoTデバイスでなにが変わるか、価値はなんですか? という観点は、2つの機能で議論されます。「リモコン」か「パートナー」か、です。リモコンで終わるのか、それともパートナーなのか、どっちなのか、という話になります。おそらく、これは我々も含めてなのですが、最初は「リモコン」、良く言うことを聞いてくれるリモコン、ということになります。

 しかし、これをさらに進めようとしてくると「コミュニケーション」の要素が必要になります。そこではAIとのコミュニケーション、AI/IoTデバイスを通したコミュニケーションになるでしょう。コミュニケーションを我々はずっとやってきた自負があります。

 今のスマートスピーカーは、音楽をかけてもらったり家電を制御したりと「リモコン」的な部分がある。スマホを持たず、気軽にそれができることには意味があるが、一方で「その程度」であることも否めない。照明の電気を付けるなら、いちいち話しかけるより壁のスイッチを押した方が早い。すべての家電系IoTデバイスはリモコン的であり、いかに「ちょっとしたリモコン」の範囲を脱するかがポイントになる。そこでLINEがClovaで考えるのは、先にある「機械とのコミュニケーションである」というわけだ。

 また舛田氏は、現状のスマートスピーカーの難点を次のようにも説明する。

舛田:問題は、いかのこういうデバイスを一般のご家庭で使っていただくのか、ということです。LINEがやるのであれば、やるからには「ニッチではダメ」という話を常にしています。1,000万・2,000万のユーザーが使うものでないと、我々がやるものではない。LINEと同じような方々にいかに使ってもらうかを考えると、自社だけでなくいかにエコシステムを作るか、ということが大切になります。

 一方、これはClovaができるかどうか、という話は別にしてなのですが……。

 こうした機器で問題になるのは「リテンション(関係の維持率)があがらない」ことです。AIを作っていく過程で自分達も使うわけですよ。すると、「これ、どうリテンションを保つんだろう? 使ううちにしゃべる量が減るね」という問題に行き着きます。我々だけじゃなく、世界中の人が抱える疑問だと思いますが。だからどうやって「愛着をもたせるか」が重要です。AIとしての人間性というよりは、温度感をもった、人間性をもったコンピューティング……ということだと思うのですが。社内では「そこに愛があるのかどうなのか」という話をします。言葉使いにしても、それで愛着を持ってもらえるのかどうか。「話しかけたくなる」状況を作るにはどうすべきか、ということなんですが。

 実際問題、今のAIから発話する(はなしかける)のは相当に難しく、そこまでの最適化を行なうには、かなりの階段が必要です。

 実際問題、各種スマートスピーカーやスマートフォンとのコミュニケーションは別に面白いものではない。精度が高い・低い以上に、自分が言ったことを「そのままやってくれる」だけだからだ。もちろん、時には質問に面白い答えが返ってくることもあるが、それはある程度「シナリオで決められた」反応である。本当の意味で「会話を楽しめる」AIは、まだこの世に存在しない。LINEのClovaも、その段階を超えているわけではない。だからこそ、「スマートスピーカーを使い続けてもらうための要素」として、単純にAIテクノロジーに頼らない要素も含めた「話したくなるAI」を狙っていくのだろう。

Gatebox買収は「キャラへの愛」、今求められる「AIとのコミュニケーション」とは

 そこで注目される存在がある。LINEが買収し、子会社化したスタートアップ企業である「Gatebox(7月に社名変更。旧社名はウィンクル)」だ。Gateboxは2016年1月に「俺の嫁と一緒に暮らせる」を謳い文句に、AIキャラクターと暮らす機器の開発を公表。2016年末には、クラウドファンディングにて日米300台の限定販売を行った。29万8,000円という高価なものだが、2017年2月には限定数分の予約を終了している。そして、Geteboxに「一緒に暮らせるキャラクター」を追加していくプロジェクトの第一弾として、8月8日、「初音ミク」を採用することが発表された

Gatebox

 Gateboxとの連携は、「話しかけたくなるAI」を目指すLINEの戦略の一部である。

舛田:Geteboxは「話しかけたくてしょうがない構造」に、あえてしていますよね。武地さん(Gatebox 代表取締役の武地実氏)は、「話しかけなくてもいい。見ていたい」と言っています。それも「愛」ですよね。パートナーになるわけですから「気になる」、だから話しかけたくなる。リテンションが下がらなくなる。

 我々のプロダクトに「CHAMP」というものがありますが、これも無機質なスピーカーよりはキャラクターになっていた方がいいじゃないか、もっとかわいく・もっと持っていたい、もっと話しかけたいと思うものをどうやったら生み出せるか、という社内での検討で出てきたものです。

CHAMP

 こうしたことから、Clovaの構造自体も「キャラ立て」を意識したものになっている。

舛田:Clovaの構造にも、基本的な「人格」が入っています。そのためのプロファイルが設定されているわけです。弊社にはマンガ編集部がありますが、そこ出身の人間が、作家さんと主人公の打ち合わせをするがごとく、一生懸命プロファイルを作っていますよ。「この子はどんな風な言葉使いをするんだろう……」みたいな。

 基本的な判断部分としてのClovaはひとつの形しか持てません。連続発話と単独の声かけでは話すべきことが異なるので、それをどうするか、内容によってどんなスピードで話すのがいいのかなど、細かな工夫はあるのですが。

 しかし、Clovaをコアに持ちつつも、表層には別に「キャラクター」を配置することもできます。例えば、1台の中に、Clovaとは別にキャラクターを「同居」させることもできます。キャラクターがさらに操作するエージェントとしてClovaがいる、という形にできるわけです。ただ、それができるのは少し先になると思いますが。

 一般的なスマートスピーカー用のAIは、ここまで「キャラクターを活かしたユーザーとの関係」を構築しようとしていない。アップルの「Siri」やマイクロソフトの「Cortana」は、特定の声に紐付けてある種の「キャラ立て」をしてはいるものの、作りとしてはあくまで中立なもので、特定の人に強く共感を得るためのキャラクター性にこだわっているわけではないように見える。AIプラットフォームの中でキャラを変える考え方を強く打ち出す、という意味で、LINEのアプローチは差別化されている。

舛田:作っていく中では「いかにシンプルに作るか」ということが重要だとは思います。ただ、表現力だけは高くしなくてはならない、と最初から決めていました。LINEでスタンプをみなさんが愛してくださったように、こういった新しいものを愛していただくには、表現力が必須です。

 だからこそ、表現力の塊のようなGateboxをグループに招きました。

 舛田氏がGateboxのことを知ったのは、2016年11月のこと。ベンチャーキャピタルである「B Dash Ventures」の招待制イベント「B Dash Camp」におけるGateboxのプレゼンテーションのレポートで読んだ舛田氏が「一緒に暮らすという発想は同じだ」と思い、Gatebox・武地氏にコンタクトをとったという。そこから、資本参加の話はトントン拍子に進んだ。

舛田:ほぼ、最初のミーティングで決めました。Gateboxには、資金や技術などの「なにか」が潤沢にあったわけではなく、思い入れを持ってあるものをガーッと組み立てていった末に、「逢妻ヒカリちゃん」というキャラクター(Gateboxがメインキャラクターとしとして展開しているオリジナルキャラクター)を表示するところまでに至った。先日、初音ミクを採用した「Living With」プロジェクトを発表しました。あれはあるべき姿なんです。

 当然、あれはキャラクターに非常にとんがった「愛」なので、ひとつの形です。もう少し一般的な形をとるとどうなるか……というものは、CHAMPのように自社でやることになります。

 とはいえ、AIは難しい。AIのみで満足なコミュニケーションができないことは、ソフトバンクのPepperが証明している。シナリオ型でのコミュニケーションを突き詰めるために、「会話のシナリオ」に長けた吉本興業とパートナーシップを組んであたったが、それがうまくいっていないのは、みなさんも街角でうなだれるPepperを見て感じているだろう。シャープの「RoBoHoN」も、キャラ付けを「子供」にすることで期待値を低く誘導し、成長要素を増やすなどの工夫をしている。Clovaについても、まだまだ先の要素が多いが、「コミュニケーションする機械」に求められる期待の高さを、どうコントロールしようとしているのだろうか。

舛田:やはり、人型は避けるべきだし、二足である、というところも避けるべきです。人間にはある期待値がありますから。

 でも、AIBOは愛されたじゃないですか。プロジェクトが終わっても、ユーザーが強く思い入れてくれている。あれは「ペット」という形だからです。

 なんでもできる形がいいわけではなく、AIは「人間の知性のように振る舞える」には相当のハードルがあります。過剰な期待を持つべきではないし、持たせるべきでもありません。

 しかし、できないことはあっても、思いを込めたコミュニケーションができて、これから「出来ることが増えて行く」。今は第一歩目です。最初の段階ですが、スマートフォンを持たずしてなにかができる、スマートフォンを補完するような役割だったら十分できます。

日本でも「音楽」は起爆剤に 他社解放も前向きに検討

 舛田氏の言う通り、スマートスピーカーの最大のハードルは「利用率の減少」だ。海外でヒットしているように見えるが、それはAIとのコミュニケーションやコンシェルジュ的なサービスを多用していることと同義ではない。ほとんどの人は「音楽を聴く」ためにスマートスピーカーを使っている。LINEもそこはもちろん、強く意識している。

 だからこそ、WAVEの先行体験版ではまず音楽用スピーカーとしての機能を訴求。「何か音楽を再生して」や「今日の天気を教えて」といった会話で、音楽の操作や天気予報などの機能を紹介し、「WAVEとの会話を通じてユーザーの生活をより豊かに、快適にする機能を提供する」としている。そのため、8月出荷のWAVE先行版では、音楽配信サービス「LINE MUSIC」(月額960円/税込、学割月額:480円/税込)が6カ月間セットになっており、LINE MUSICの4,000万曲以上の楽曲をWAVEで楽しめる。

舛田:機能は多いんですが「つかわなくてもいいんじゃないか論」が出てくる。では、それを防ぐためになにをすればいいのかというと、既存のものの置き換えになっていればいいんです。例えばiPhoneは、インターネットマシンとiPodであることで置き換えました。既存のなにに置き換わっているかが大事です

 リテンションを上げるには、習慣化しやすい機能を使ってもらうことです。天気情報や、ニュース、音楽といったものは毎日必要です。アンケートをとっても「音楽を聴かない」という人はほとんどいません。

 その時、弊社の中にLINE MUSICがあったことはもちろん重要です。日本でのストリーミング・ミュージックの利用者は急速に増えており、弊社の状況を見ても、ここ最近かなり強い。一方で、(ストリーミング・ミュージック)をまだ体験したことがない方も多いです。こういうAIデバイスがきっかけになるかも知れません。

 また、ラジオのようなプログラムの価値も、音声デバイスで高まっていくと予想しています。実際問題、現在は家に「ラジオの受信機」がない家庭が多くなっています。radikoの登場で若い利用者は増えましたが、より広くコンテンツをデリバリーすることができれば、価値は高まるでしょう。

 ただし、ラジオに関して、現状具体的な計画があるわけではなく、あった方がいいだろう、と思っている段階。まずは、ニュースや音楽といった、最初からあった方が良いものからスタートします。

 少し気になることがある。ストリーミング・ミュージックが日本でも軸のひとつになるとして、その時、使えるサービスはLINE MUSICだけなのだろうか? AmazonやGoogleは、自社サービス以外にも、Spotifyなどの有力かつ連携に同意したサービスが使える。アップルはHomePodにて、今のところはApple Musicだけを対象にしているように見える。Clovaは、WAVEはどうなるのだろうか?

舛田:音楽については、第1弾としては、自社サービスであるLINE MUSICになります。お互いのサービス同士でレコメンデーション用のデータをやりとりする必要もあるので、自社サービスからがやりやすいです。

 レコメンデーションを含めた判断をする「Clova Brain」では、できるだけ学習をさせ、それを活かしたいと考えています。そこに他社のサービスコンテンツをつなぐことを否定してはいません。できるだけ早く、サードパーティーにエクステンションを解放したいです。

レコメンデーションや会話をつかさどる「Clovav Brain」と音声認識などのインターフェイス側「Clova Interface」

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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