プレイバック2017
オーディオビジュアルにもやってくる「AI」と「VR」の胎動 by 西田宗千佳
2017年12月20日 08:15
2017年なにを取材していたか、というと、相変わらず配信だったり製造技術だったりスマホだったりする。音楽も映像もストリーミングで消費することが増え、品質面では一歩後退、ではあるのだが、一方、自分が好きな時間・好きな場所でコンテンツに親しめるようになり、そのことを人と話せる機会も増えてきたあたり、2017年は「一般化しはじめた年だった」のだろう、と強く感じる。
他方、それらを取材しつつも、なにかにつけてAIとVR/ARの話が絡んでくるようになったのが、大きな変化だったように思う。節操なく取材しているように見えるかもしれないが、要は「生活を変えていくテクノロジーとその影響」を取材するのが私の仕事なので、これでも、首尾一貫しているつもりなのです、自分では。
さて、今年の話題といえば、結局スマートスピーカーに尽きる。正直1年前には、こんなに取材したり記事を書いたりするとは思っていなかった。「まあ、そういうものもあるよね」くらいの認識だったのだが、それは多くの同業者にとってもそうだったのではなかろうか。今年1月のCESを取材した時、アメリカでの風向きがあまりに大きく変化しているのに驚き、改めて取材や情報収集を本格化した……というのが実情である。
日本でも製品が出てきたわけだが、当初分析した通り、「音楽というコアなニーズがない状態で、不完全なコミュニケーションAIによる価値提供がどこまで受け入れられるのか」という点が、やはりハードルになっているように思える。ここをどう超えていくのか。その鍵が、結局音楽なのか、それともテレビ連携なのか、家電連携なのか。おそらく、追加でなにかを買うようなものではなく、ほんとうにちょっとした便利さなのではないかな……と予想している。
そういう意味で、日本で要のようなサービスになりつつあるのが「radiko」だ。ラジオという「毎日多くの、一定の質を持ったコンテンツが生まれる仕組み」の活用は、とても重要だろう。とはいえ、ラジオが聴けるからスマートスピーカーを買う人が増えるわけはなく(だったらラジオを買う方が早い)、使い続けるインセンティブ、というところではないか。
ただ、技術の進歩は予想より早いので、応対のぎこちなさも1年でずいぶん変わるのではないか、と予想している。応対の品質で厳しい評価を下されているLINEのClovaも、今の段階で切って捨てるのはちょっと早い。どちらにしろ、「スマートスピーカー」という存在が熱いうちに、その可能性をわかりやすく示す必要がある。間違いなく、2018年は正念場だ。
2017年個人的に買ったものでいえば、「HoloLens」に尽きる。38万円で、しかも開発キットなのでさほど私の仕事には使えないものなのだが、これほど「今後なにが起きるか」「そのためになにをすべきか」、示唆を与えてくれた製品もない。こうしたHMDが普及すると、仕事だけでなくエンターテインメントも確実に大きな変化を迎える。2016年にPlayStation VRやOculus RIFTなどの「第一世代ハイエンドVR HMD」が出た時にもインパクトを受けたが、HoloLensからはそれ以上のインスピレーションを受けた。こういう製品は、体験会で触るのではなく、自分でセットアップし、血肉として使ってみないとわからない。そういう意味では、高い投資だが買ってよかったと思っている。
HMDという意味では、実は先日もう一つ買ってしまった。12月第一週にラスベガスに出張した際、サムスンがアメリカなどで出荷しているWindows Mixed Reality対応HMD「Odyssey」を購入した。Windows Mixed Really対応HMDは日本でも11月から出荷が始まっているが、どれもほぼ同じ光学系とディスプレイ(VR用液晶)を使っている。Odysseyは光学系もオリジナルで、ディスプレイにもOLEDを使っていて、かなり品質が異なる。日本では現状発売予定もなく、価格差もたいしたことはない(クレジットカードへの請求額で約61,000円、日本で売られているHMDは57,000円程度が中心価格帯)ので、日本で他のHMDを買う代わりに、Odysseyを買って帰ってきてしまったわけだ。
マイクロソフトのWindows Mixed Reallyは、Oculus、SteamVR(HTC)、PlayStation VR(これは若干特質が異なるが)に続く、「第四のハイエンド系HMD」といっていい。マイクロソフトが主導であること、各社が似た仕様のHMDを販売することなどから、「VR HMD界のMSX」なんていう人もいる。なんとなくわからなくはない。マイクロソフトが年末に積極的な価格施策を展開していることもあり、入手のハードルが下がっている。
まだコンテンツ数は少ないし、日本向けにこれ、という強いものも出ていないが、プラットフォームとして見逃せない存在であるのは間違いなく、360度動画やVRシアター系コンテンツは、確実に対応していくことだろう。2018年に向けて、この辺も注目しておきたい。