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これだけ違うスマートスピーカー。Amazon、Google、LINE、Apple、MSの特徴とは?

 日本でもスマートスピーカーの話題が多くなってきた。先日LINEが「WAVE」の先行テスト版を出荷し、筆者も自宅で使っている。とはいえ、本当に話題が盛り上がるのはもう少し後、秋になって涼しさを感じるようになってからではないか……と思う。WAVEの正式版は「秋」の予定で、これからまだ、しばらくの間開発が続きそうだ。すでに国内での製品化を発表しているのはGoogleの「Google Home」になるが、こちらも「年内発売」とされている段階だ。

LINE WAVE
Google Home

 その他にも、製品化が進んでいるレベルの話であれば、IT系企業だけでなく、オンキヨーやハーマン・カードンのようなオーディオメーカー、LenovoやHPなどのPC系メーカーも含め、多数の企業がいる。

 筆者は取材を通じ、多数のスマートスピーカーに触れてきた。開発中のものが多く、横並びで比較してはいないので、それぞれの優劣をつけることはできない。しかし、各社がどのようにビジネスを考えていて、どういう特徴を持っているのか……ということは、概ねわかっている。

 そこで今回は、これから話題になるであろうスマートスピーカーを、企業・プラットフォーム毎にまとめてみたい。どんな風に市場が構成されていて、どこに注目の製品があるのかを大づかみするお役に立てば幸いだ。

技術名提供者スピーカー名国内発売時期
AlexaAmazonEchoほか未定(海外発売中)
Google
アシスタント
GoogleGoogle Home年内(海外発売中)
ClovaLINEWAVE体験版発売中
SiriAppleHome Pods'18年以降(海外は12月)
CortanaMicrosoftInvokeほか未定(海外は'17年秋)

日本語対応で先陣を切るLINE、赤外線での家電連携にも注目

 まずは、冒頭でも紹介したLINEの取り組みからいこう。現状、日本語で使えるスマートスピーカーのうち、出荷されているのはLINEのものだけだ。スマートスピーカーを世界的に見ればフォロワーだが、日本市場に向けた取り組みという意味ではトップランナーだ。

LINEのWAVE。8月23日より「先行版」の出荷が始まった。一般市場への販売は秋にも行われる。

 詳しい戦略や方向性は、先日本連載で掲載した、LINE・取締役 CSMOの舛田淳氏へのインタビューをご参照いただきたい

 LINEは「Clova」というAI・IoTプラットフォームを構築し、これを多数のスマートスピーカーや家電、自動車などに利用していく計画を持っている。ソニー・LG・タカラトミーにトヨタ自動車、ファミリーマートと、提携企業の幅は非常に広い。また、Gateboxを小会社化してパートナーとし、「キャラクター」を立てた、コミュニケーション性の強いデバイスを指向しているのも特徴といえる。他社も特定の仮想キャラクターを立ててAIを作っているものの、どちらかといえば「万人受けするキャラの薄い」ものを作っている印象が強い。それに対してLINEは、Clovaでもう少し個性の強いキャラを複数用意し、利用者との関係を構築しようとしている。この辺は、「キャラの国」である日本らしいアプローチともいえる。

 その中で、LINE自身も、ある種のリードデバイスとして自社でハードウエアを作って販売する計画で、その第一号が「WAVE」ということになる。ちなみにコマンドワードは「Clova(クローバ)」なのだが、「ジェシカ」に変更することもできる。なぜジェシカなのかはわからないが。

 現在のWAVEは、Clovaが開発初期段階ということもあって、さほど多くの機能をもっているわけではない。音楽と天気などを音声で使える……というところだろうか。ある種の隠し機能的に、「じゃんけん」や「あっちむいてほい」などのゲームも入っているのだが、もちろんそれがメイン、というわけではなかろう。音声認識の精度は特に悪くないし、合成される日本語の声も、十分好感を持てるつくりになっている。ただ、命令として反応する「語彙」の数にはまだ制限もあるようだし、反応そのものも、英語で動いている他のプラットフォームに比べると、若干遅い印象がある。コマンドワードを認識し、「話を聞く」モードに入ったことはLEDの色で分かるのだが、「命令の意味を認識してくれたかどうか」は、命令が実行されるまでちょっとわかりづらく、それを不安に思うことはあった。どちらにしろ、今はひたすら利用者からのデータを集め、改善を積み重ねるフェーズだろう。

 筆者はことあるごとに、「スマートスピーカーは音楽を軸に売れている」と書いてきた。後述するが、実際、海外のスマートスピーカーでも一番使われているのは音楽機能だ。WAVE自体のスピーカーはなかなか品質が良い。高音質にじっくり聞くというより、「快適なBGM環境」というイメージだ。実はBluetoothスピーカーとして使えるようにもなっているので、その辺「買っても損しにくい」構造にはなっている。忘れられがちだが、大切な点だ。また、LINE MUSICとの連携も強く指向しており、サービス連携の濃度という点では、かなり「音楽より」な特徴を持っている。

 また、他のスマートスピーカーにないWAVEの特徴として、赤外線リモコンの信号を発する機能が挙げられる。スマートスピーカーは他の家電とのゲートウェイとしての役割を期待されているが、その軸はあくまで、ネットワーク接続機能をもった最新の家電、例えばAndroid TVであるソニーのBRAVIAや、フィリップスのLED照明「Hue」などへの対応だ。赤外線リモコン連携では複雑なことはできないが、まず「声をリモコン代わりにする」ことはできるので、対応の幅を広げるられる。

 全体的に、「いかに毎日使ってもらう製品にするか」に、かなり知恵を割いている印象が強い。

日本登場が間近な「Google Home」。ソニー・パナソニック・オンキヨーも

 Googleが年内の日本市場投入を予定しているのが「Google Home」だ。現状は1モデルだが、より安価な小型モデルを開発中……との噂もある。現状はライセンスモデルを採らず、自社内のみでスマートスピーカーを展開している。コマンドワードは「OK Google」。アプリから別の言葉に代えることも可能だが、もちろん、自由なワードが使えるわけではない。

Google Home。年内に日本語版が登場する予定

 コアにあるのは、スマートフォン用にも展開している音声アシスタントである「Google アシスタント」。これの音声専用・家庭向けデバイスがGoogle Home……と考えてもらえばいいだろう。最大の特徴は、検索まで含めた、Googleの各種サービスと結合しており、簡単な設定で色々な価値を生み出せることだ。GmailやGoogleカレンダーを使っていて、普段も検索にGoogleを使っているなら、声でそれらの情報と連携した価値を引き出せる。

 例えば、「次の飛行機のフライトの予定は?」といった個人的なことを聞いても、きちんと答えてくれるわけだ。Googleアシスタントがその名の通り「Googleがあなたのアシスタントになる」ことを狙っているので、その延長線上にあると思えばいい。他のスマートスピーカーでもできるのだが、その場合、Googleのサービスとの連携を自分で設定する必要がある。この辺で対抗できそうなのは、アップルやマイクロソフトくらいだろう。

 現状はまだ日本語で動いていないので、筆者にも日本語での認識率はわからない。だが英語での認識については、「なまり」への対応も含めて考えても、現状トップクラスの精度と考えていい。おそらく技術的には、スマートフォンでの音声認識をそのまま横展開すると思われるので、日本語での認識率は、スマホ版の「Googleアシスタント」が参考になるだろう。英語で試した時の印象では、他に比べ、「音楽が鳴っていて、周囲が多少うるさい時の認識率」に優れていたように思っている。この辺は日本語で、製品でどうなるか、試す価値のあるところだ。

 他社のサービスとの連携に門戸を開いており、音楽サービスとしては、自社の「Google Play Music」の他に、「Spotify」が使える。実はYouTubeも再生対象になり、ここが意外と大きい。「再生できる楽曲数」でいえば、実はもっとも多いスマートスピーカー……になってしまう可能性がある。レコメンドはうまく効かないだろうし、音質や著作権などの問題も絡んでくるが。

 Google Homeは他の機器との連携は密接だ。テレビやオーディオ機器に「Chromecast」があれば、それらを声でフックして再生することができる。この辺に積極的なのがソニーだ。BRAVIAはAndroid TVなので、Chromecastと同等の機能を内蔵している。だから、「OK Google、Netflixで続きを再生して」というと、テレビの電源が入って続きから再生する……といったこともできる。もうおわかりのように、ソニーは国内では主にLINEとパートナーシップを組みつつ、Googleとも連携する他面展開を採るわけだ。

 また、今年のIFAにて、正式にGoogleアシスタントを搭載した「パートナー版Google Home」も発表された。パナソニックは「GA10」というスマートスピーカーを年内に製品化するし、オンキヨーは「G3」を10月からヨーロッパで販売する。パナソニックやオンキヨーが「オーディオ製品」として販売するので、当然音質にこだわったものになる。

ソニーの「LF-S50G」。まずは年内に、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスで販売を開始する
パナソニックがドイツで開催中のIFAにおけるプレスカンファレンスで発表した「GA10」。Googleをパートナーに、Googleアシスタントによって動作するスマートスピーカーとなる
オンキヨーが欧州で10月に発売する、Googleアシスタント搭載スピーカー「G3」。同社はAmazonと両にらみでのビジネス展開となる

今の勝者はAmazonのEcho。広がる「Alexa経済圏」

 アメリカで900万台を超える数を売り、スマートスピーカーという市場を作り上げたのがAmazonの「Echo」シリーズである。実のところ、他のスマートスピーカーはそこまで売れておらず、「Echo市場」といっても過言ではない状態だ。コマンドワードは「Alexa」。アプリで「Computer」などいくつかの単語に変更はできるが、変えている人はあまりいないようだ。冒頭でも説明したように、日本参入の正式なアナウンスはないのだが、「遠くないうちに日本に来るのは確実」と、多くの業界関係者は考えている。Kindleの時もAmazonプライム・ビデオの時にもあった、もはやお馴染みの風景とも言える。

AmazonのEcho Dot。圧倒的な世界トップシェアを誇り、実質的にこのジャンルを支配している。日本への市場投入時期は未定だが、「参入が近い」との噂は根強い

 コア技術は、コマンドワード名と同じく「Alexa」。正確には「Alexa Voice Service」(AVS)と呼ばれる。AmazonのスマホアプリやSTB「Fire TV」で使われているものと同じである。こちらも、スマホなどでの状況を試すと、日本語化された時のイメージがわくかもしれない。英語で比較した場合、十分(ほんとうに、ほとんど苦労しないくらい)認識率は高いのだが、「なまり」への対応ではGoogleに軍配が上がるか……という印象である。

 Echoには主力モデルの「Echo」の他、50ドルと安価な「Echo Dot」。ディスプレイ内蔵でビデオチャットもできる「Echo Show」と複数のモデルがあり、これも現状、他社製品と異なるところ。実は、Echoが数を伸ばしたのは、2016年後半に「Echo Dot」が出てからで、2016年下半期以降の1年で600万台以上が出荷されている、と見られている。低価格なEcho Dotを複数買い、自宅のそれぞれの部屋で使う人が出始めたことが大きく影響しているようだ。

 もうひとつ、ビジネスモデルとして非常に大きいのが、Alexaを使った機器を他社が製造・開発することを強く推進していることだ。今年のCESには「Alexa対応製品」があふれていたし、Lenovoやオンキヨーなどのように、実際「Alexa対応製品」を出荷する企業もいる。ハードウエアベンチャーであるCerevoも、IFAにあわせ、Alexaを組み込んだロボット・デスクライト「Lumigent」のコンセプトモデルを公開している。

オンキヨー「VC-FLX1」

 EchoクローンといえるAlxea対応製品の開発情報には、ウェブからアクセスできる。ハードウエア開発キットについては「招待ベース」での情報公開だが、AVS対応機器を作るためのSDKについては、情報が広く公開されている。

・Alexaベースの音声対応ハードウエアデバイス開発情報
(https://developer.amazon.com/ja/alexa-voice-service/dev-kits/amazon-7-mic)

・Alexa Voice ServicesのSDKに関するページ
(https://developer.amazon.com/ja/alexa-voice-service/sdk)

 Echo(Alexa対応機器)内で使うサービスは「Skill」と名付けられており、スマホのアプリストアと同じように、そこでの市場形成が試みられている。Skill追加により、スマートスピーカーの利用価値を増やそう……という形になっている。だから、機能の量=Skillの量、といってもいい。ここでも他社に先駆けている。

 全体的に「プラットフォーム作り」「グループ作り」を強く指向しており、それが他社との最大の差別化点でもある。とはいえ、サードパーティーによるAlexa対応機器の販売量はそこまで増えておらず、Skillも質のいい「声によるキラーアプリ」が増えているわけではない。

 なお、利用可能な音楽サービスは、Amazonのプライム・ミュージックが基本。しかし、SpotifyやPandoraなど、他社のサービスも使えるようになっている。

……と、いう話だけで終わったのは、8月30日までのことだ。同日、Amazonとマイクロソフトが発表した驚愕の提携によって、状況はさらに混沌としてきた。

iOSの横展開で「音楽」から攻めるアップル

 アップルが6月にWWDCで発表したスマートスピーカーが「HomePod」だ。発売は「12月」とされており、近日中に行われる新iPhoneの発表に合わせ、発売日が公表されるだろう。ただし、年内はアメリカ・イギリス・オーストラリアの3国でのみ発売され、対応言語も(おそらく)英語だけだ。日本での展開は2018年以降になる。

アップルが年内にアメリカなどで発売を予定している「HomePod」。音楽を重視したスマートスピーカーだ

 ベースになっている技術は、アップルの音声認識技術である「Siri」。HomePod自身、iPhoneのOSである「iOS」をベースに開発されたOSで動いており、使っているプロセッサーも、iPhone 6に使われていた「A8」。今のアップルらしい、iPhoneのための技術を横展開したスマートスピーカーになっている。Siriは日本語対応し、すでに多くの人に使われている技術なので、「HomePodが日本語化された時のイメージ」もそこから感じられると思う。iOSからの横展開だと考えると、アップルのクラウドサービスであるiCloudと連携し、iPhone・iPad・Apple TV・Macなどとつながるのも間違いない。

 Siriで動くので、コマンドワードはもちろん「Hey,Siri」だろう。多数のアップル製品がある中で使うと同時に反応するのではないか……という気もするのだが、その辺をどうするか、ちょっと気になっている。

 HomePodの最大の特徴は「高いこと」だ。他のスマートスピーカーが100ドル台、日本円だと1万円台までを中心価格帯としているのに、HomePodは349ドルとなかなかに強気の価格帯である。

 iPhoneでもわかるように、アップルは低価格製品を作るより、「ハイエンド製品=利益率の高い製品を価値の分かる顧客に売る」のが好きな会社だ。HomePodも、低価格でのばらまき戦術ではなく、「いいものを堅実に売る」パターンになる。AmazonのEcho Dotとは真逆のやり方だ。

 HomePodは完全に「音楽」を軸に置いている。それは、アメリカのスマートスピーカー市場が「AI」よりも「音楽」で動いているからに他ならないし、自社で展開する「Apple Music」と密結合することで差別化もしやすい。自社音楽サービスとの連携を打ち出す、という意味では、実はLINEのやり方に近い。

 高価格になっているのにはもちろん理由がある。複数のスピーカーをソフトウエアで制御し、「聴いている人に最適な環境を実現する」機能を搭載しているからだ。

 スマートスピーカーは、基本的には無指向性のスピーカーである。だから、壁の近くに置いている時と、部屋の中央に置いている時では音の聞こえ方が異なる。最適な音にするには、音の反響を考える必要があるが、そのためには、部屋のどういう場所にスピーカーが置かれているかを理解し、スピーカー側が調整を行なう必要がある。また、部屋に複数人がいた場合と一人しかいない時では、最適な音場の「広さ」も異なる。そのためには、聴いている人の数やその位置などの把握も必要だ。

 こうしたことは、これまで、マルチアレイマイクを使ったフロント式のサラウンドスピーカーで使われてきた技術である。それと似た手法で「リビングでの音楽の体験を変える」と、アップルは主張している。音声認識とは違う方向で「ソフト的な制御が多い」スピーカーといっていい。非常にユニークなアプローチだ。

 一方で、製品としてはアップルのサービスに閉じる可能性が高い。AmazonでいうSkillのようなアプリストアを作るかも知れないが、音楽サービスやアカウント連携はアップルのもののみになるだろう。要は、Apple TVと同じ扱いである。体験の良さによって「アップルに閉じる」世界観や高価格を許容してもらえるかは、現時点では未知数。少なくとも9月第一週までは、筆者を含め、実機を体験した人物はほとんどいないため、アップルのいう「体験の違い」のレベルは、評価できる状況にない。

「Cortanaさん」で攻めるマイクロソフト、Amazonとの提携を電撃発表

 これら以外にも、テンセント・アリババ・バイドゥなど、中国系の巨大IT企業がスマートスピーカーを作っているが、日本市場には当面入ってこない(中国企業は自国内と、他国の華僑市場だけで十分すぎるほどの市場をもっており、日本を顧みる必然性が薄い)ため、紹介は省略する。

 最後に注目すべきは、残る巨大IT企業の一角である「マイクロソフト」だ。マイクロソフトは、Windows向けに音声コマンド技術「Cortana」を持っているので、スマートスピーカーについても、これを使う。そもそも、マイクロソフトがパートナー企業と開発しているスマートスピーカーでは、OSにWindows 10が使われている。組み込み向けである「Windows 10 IoT」をコアに、Cortanaを使い、さらにマイクロソフトの各種クラウドサービス、特にOffice 365と連携して動作する……というのが、最大の特徴だ。5月にシアトルで開催された開発者会議「Build 2017」でもデモが公開された。

Windows 10 IoTベースのスマートスピーカー。写真はBuild 2017の基調講演のもので、実機を使ってデモが行なわれた

 ハーマン・カードンと共同開発されていたスピーカーは「Invoke」という名称で、この他、LenovoやHPがパートナーとなっていた。Windows 10では、きちんと日本語でもCortanaが動作している。だから、Windowsベースのスマートスピーカーが出てくる時には、日本語への対応もしやすいはずだ。筆者は、日本語化が早いスマートスピーカーのひとつとして、マイクロソフトのものを想定しているくらいだ。コマンドワードは、英語のデモでは「Cortana」。しかし、Windows 10での実装を考えると、日本の場合「Cortanaさん」になるだろう。他より少し親しみがわきやすい、と思うのは筆者だけだろうか。

 Windowsベースのスマートスピーカー、中でもInvokeは、2017年秋に、少なくとも北米で販売が開始される予定である。

 しかし、だ。

 8月30日になって、こうした予想に大きな変化をもたらすニュースが舞い込んできた

 マイクロソフトはAmazonが提携し、AlexaとCortanaの相互連携を図っていく。例えば、EchoなどのAlexa対応機器に「Alexa, Open Cortana」と言えばAlexaからCortanaの機能が使えて、逆にWindows PCなどのCortana対応機器に「Cortana,Open Alexa」と言えば、Alexa上の機能が使えることになる。WindowsにAlexaが入るのでも、EchoなどにCortanaが乗るのでもない点にご注意いただきたい。

AlexaとCortanaが相互連携へ

 一見複雑に見えるが、このようになっているのには理由がある。それは、AlexaとCortanaでは、現状、得意なことが違うからだ。

 Alexaは早く普及した分だけ、Skillが充実している。スマートスピーカーとしても、Echoが大量に存在する。一方、Amazonが通販とコンテンツデリバリーを軸にしたビジネスであるため、個人のスケジュールやメッセージの処理などは苦手……というか、他のサービスと接続して利用する形になっている。

 CortanaはWindowsに組み込まれた存在なので、WindowsやMicrosoft Officeと連携した使い方がしやすい。Outlookなどのカレンダー・メッセージとの連携と、PCからの利用にはやはりCortanaが向いている。

 現状、両者の強みは分かれているので、相互に音声から得た命令を送り合うことで、弱みを補完して「どこでも」「どんな機器でも」「より多くの機能を」使えるようにすることが狙いである。連携は2017年中に開始されるものの、まずはWindowsとAlexa対応デバイスでの連携であり、iOSやAndroid上のCortanaとの連携は、その後に実現されることになるという。

 こうなると、Windowsベースのスマートスピーカーの位置付けが多少ふんわりとしてくる。直接Cortanaで使えるというメリットはあるが、「Alexa対応機器をも取り込んで市場に食い込める」点を考えると、トーンが下がっていっても不思議はない。

 同じシアトルにある巨大IT企業同士の連携は、スマートスピーカーと「音声コマンド」の競争に、非常に大きな影響を与えることは間違いなく、日本でのサービス展開についても注視しておく必要がある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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