レビュー

スマートスピーカー日本代表? LINE「Clova WAVE」にみる音声操作の可能性(と違和感)

 音声対話で操作できるスマートスピーカーが注目されている。Google、Amazon、Apple、Microsoftなどの大手プラットフォーマーが自社の音声エージェント技術とともに製品を発表しており、Amazonの「Echo」は、米国で最も売れているBluetoothスピーカーとなっているという。日本のメーカーも、Googleアシスタントを採用するソニーやパナソニック、AmazonのAlexaを採用するオンキヨーなどが参入を表明しているが、そんな中でも、中核技術のAI・音声エージェント技術「Clova」を開発し、自社プラットフォーム展開を図るのがLINEだ。Clova内蔵のスマートスピーカー「Clova WAVE」を8月に先行販売、10月5日から一般販売を開始した。

LINE Clova WAVE

 価格は14,000円(税込)だが、キャンペーン価格としてLINE MUSICの12カ月利用権付で12,800円(同)で販売する。当初は15,000円で発売と予告していたが、2時間前に日本発売を発表したGoogle Homeが14,000円(税抜)だったこともあり、揃えてきたのかもしれない。

 ちょうど1カ月ほど先行体験版を利用していたので、その使用感を紹介しよう。なお、Clova WAVEの先行体験版は、ファームウェアやアプリ更新、サービス改善も多く、最新仕様とは若干異なっているかもしれないが、その点はご了承いただきたい。また、5日に追加されたLINEメッセージの読み上げにも対応する「LINE家族アカウント」は試せていない。

大型のボディにタッチセンサーも装備

 本体以外の同梱品はACアダプタと簡単なマニュアルというシンプルなもの。

パッケージ

 円錐状のボディは、最近の無指向性Bluetoothスピーカーなどで一般的なものだが、外形寸法は86.25×139.84×201.05mm、重量は998gと結構大きい。LINE初のハードウェア製品といえると思うが、外装やパッケージの仕上げはとても良い。

LINE Clova WAVE
背面

 操作は基本的に音声対話で行ない、設定はアプリ「Clova」を使う。基本は音声操作だが、本体天板にはタッチセンサー式の操作ボタンを備えている。ボリュームと一時停止/再生のほか、プレイリスト再生などを割り当てる3つのボタンも装備する。

 天板のタッチパネルは、ひとつはスタンバイボタンで「クローバー(Clova)」の呼び名を省略して音声操作するためのもの、あとはLINE MUSICの「SONGS TOP100」、「NEW SONGS」に割り当てられている。すぐに再生開始できるのは便利なのだが、手に持った時に意図せず触れてしまい、音楽再生が始まってしまうことが結構あった。アプリからボタンの機能の割り当てが変更できるようになる予定なのだが、現時点ではまだ実装されていない。違う機能を割り当てたり、もう少し感度を弱くしたり、できるようになるとありがたい。

上にプレイリスト用ボタン、下側にボリュームと再生停止ボタン
アプリで機能割り当てできるようになるはずだが、まだ対応していない

 背面には上からマイクボタン、電源ボタン、DC入力を装備。5,000mAhのバッテリを搭載し、持ち運びもできるClova WAVEだが、音声対話のため常時待機状態になるため、基本的にはACアダプタ接続で使うほうがよい。

マイクボタンと電源ボタン
底面
ACアダプタ

もう少しLINE MUSIC連携強化してほしい。音質はまずまず

 設定にはLINE Clovaアプリを利用。初期設定についてはClovaのブログで紹介している。アプリの画面を見ながら設定すれば、それほど難しくないと思う。アプリからClova WAVEを無線LANのホームネットワークに接続設定し、初回起動時にはLINEアカウントとClovaアプリを紐づける必要がある。

Clovaアプリで設定

 一度設定してしまえば、その後にLINEアカウントを使うことはない。ただし、5日付でClova WAVEでLINEメッセージなどをやり取りできるようにする「LINEアカウント連携」に対応。これにより、1台のWAVEで、家族など複数のユーザーが、それぞれのアカウントを使った機能を利用できるようになるという。

 アプリで登録した位置情報をもとにユーザーの居場所を認識。「東京都千代田区」といった天気予報などの情報に反映する。また、生年月日を登録することで「占い」が利用可能になるなど、ユーザーの属性情報を追加することで、使えるようになる機能もある。

 音声操作はシンプル。まず「クローバー」と話しかけて、緑のLEDが点灯した後に、「今日の天気を教えて? 」などと聞けば、「10月6日の東京 千代田区の天気は……」といった具合に、Clova WAVEが答えてくれるのだ。

 何を話しかけていいかわからない場合は、アプリ上に簡単な例文があるので、適当にアレンジして話しかければいい。

Clovaアプリで例文をチェックできる
Clovaアプリの設定画面

 8月下旬の利用開始当初は、Clova WAVEに話しかけてからの反応速度が遅く、テレビの衛星中継のやり取りみたいで、あまり実用的ではなかった。しかし、9月中旬ぐらいには、かなりレスポンス良く答えを戻してくれるようになった。この辺りは日々チューニングが続けられているようだ。

 先行体験版に引き続き、Clova WAVEの主要な機能と位置付けられているのが、「音楽用スピーカー」という点。「スマート“スピーカー”なんだから当たり前では? 」と思うかもしれないが、LINEだけでなく、Amazon、Googleなどを含めて、スピーカーを作りたいというだけで製品を作っているわけではなく、スマホだけでは接触できない利用シーンにおいても窓口になれる音声対話のインターフェイスを開発し、自社のサービスにアクセスしてもらうために、音声アシスタントを強化しているのだ。その導入にぴったりだったのが、ストリーミングサービスとの親和性が高いスマートスピーカーだったというだけだ。

 Clova WAVEでは、LINE MUSICと連携して、ストリーミングで音楽を再生してくれる。「クローバー」と呼び掛けた後に、「なにか音楽を再生して」とか、「松田聖子の曲をかけて」とか話しかけると、再生が始まる。「人気の曲を再生して」とか「秋っぽい曲」なんとなく話しかけても、なんらかの音楽は再生してくれる。

 ただ、アルバム単位での再生というよりは、基本的には曲もしくは、プレイリストをなんとなく再生するような使い方になる。画面がないため、次の曲とかはわかりにくい。なお、再生停止や再生中のボリューム操作、曲スキップもはClova WAVEに話しかけて行なえる。また、知らない曲でも「曲名を教えて」で、曲名を読み上げてくれるのは結構ありがたい。

LINE WAVE「Clova。この曲を教えて」

 ちなみに、音楽操作の時は、「○○を再生」まで続けてしゃべったほうがいい。

 例えば、「秋っぽい曲」だけだと、「いろんなことに興味があるのは悪いことではないですよ」と、「秋っぽい」を「飽きっぽい」に誤認してしまう。しかし、「秋っぽい曲を再生」と話しかけると音楽再生してくれるのだ。「再生」がついていると、音楽の話と認識してくれるようだ。

 音楽機能で物足りなさを感じたのは、アプリ連携による選曲ができないこと。再生中の楽曲が気に入らない場合、アプリの「LINE MUSIC」からも選曲したいのだが、音声でのWAVE本体操作時はLINE MUSICから選曲できない。

 アプリのLINE MUSICからClova WAVEに音楽出力するためには、Wi-FiではなくBluetooth経由で接続する必要がある。Wi-FiでつないでいたWAVEとBluetoothで接続し直して、出力する必要があるし、Bluetoothスピーカーとして動作している場合は、音声による曲名の読み上げなどはできないので、普通のBluetoothスピーカーでしかない。もっと連携がうまくいけば面白くなるだけに、やや物足りないのが現状だ。

 5日のアップデートで、プレイリストがClovaアプリ上から確認できるようになった(筆者の環境では未確認)が、アプリで選曲して再生できないのは、音楽を楽しむうえでは、心もとない。現在のClova WAVEは好きな音楽を楽んだり、探すよりは、ラジオのようにBGM的に使うようなイメージだ。

 Google Homeでは、アプリからの選曲操作も可能な通常のネットワークスピーカーとして動作するはずなので、このあたりはClova WAVEのウィークポイントと言える。

 また、通常利用時とBluetooth接続時の音質、音量が違うのも気になるところ。Sptiofyなどの他の音楽配信サービスのため、Bluetoothスピーカーとして利用した後に、WAVEでの音声操作で音楽再生すると突然大きな音になったりして驚かされる。

 どうやら、音声操作時とBluetooth接続モード時で音量管理が別になっているようだ。いちいち変更するのも面倒なので、もう少しシンプルな動作を望みたい。

 360度に音が広がる無指向性スピーカーなので、リビングのどこにおいてもそれなりに音楽を楽しめる。ただし、Clova WAVEのボディサイズから想像するほどの迫力のある音が出ていないとも感じる。中域が厚めで聞きやすいサウンドではあるが、正直もう少し低域の迫力が欲しいし、高域の分解能もやや物足りない。

 筆者が普段使っているボーズの「SoundLink Revolve Bluetooth speaker」(25,800円)より、Clova WAVEは二回りほど大きいのだが、迫力、特に低音はSoundLink Revolveのほうが明らかに上だ。ということで、音楽スピーカーとしては、あまりWAVEを使わず、もっぱらボーズのほうを使ってしまっているし、この運用はしばらく変わらなそうだ。音質もそうだが、やはり音楽を聴くなら、アプリからも選曲したいからだ。

Clova WAVEとSoundLink Revolve Bluetooth speaker

 もっとも、スマートスピーカーだけあって、Clova WAVEの音声案内は明瞭で、聞き取りやすい。音楽スピーカーだけでなく、こうした対話を重視したチューニングを行なっているのかもしれない。

Google HomeとClova WAVE

身の回りのものは音声操作がかなり便利。正直Clovaはムカつく

 音楽以外の機能では、天気予報やアラームなどが便利だ。「Clova。14時にアラームならして」というだけで設定される。「3分後にアラーム」は、カップラーメンを作るときにとても便利だ。アラームの設定内容はClovaアプリ側からも確認可能。ただしアプリからの変更はできない。どの製品であれ、カップラーメンをよく作る人には、スマートスピーカーはオススメだ。

アラームを設定

 天気もいい。特に深夜0時を過ぎてから「今日の天気は」と聞いたときに、10月6日であれば、「10月6日の東京千代田区の天気は……」と日付も入るのも、日時の誤認を防げてよい。

 アラームの応用として、目覚ましに利用できるが、個人的には1回試したがあまり、継続しづらい。寝起きで「クローバー、アラーム止めて」と声を出すのも結構つらい。が、実は天板を押すだけでもアラームは止められる。ただ、ただ、目覚まし時計として使うには、個人的には数分ごとに鳴らしてくれる「スヌーズ」機能がほしいし、それがないと寝過ごしてしまいそうだ。あと、寝室に音声を常に聞いているスピーカーがある、というのも抵抗を覚える。ちなみに、Google Homeにはスヌーズ機能を備えており、マイクオフボタンも備えている。

 9月のアップデートでは、家電コントロールや「占い」、ニュースの読み上げなどに対応。今後は、カレンダーやToDoの連携も予定しているという。

 家電コントロールは、実際に東芝「REGZA 50Z10X」と連携させてみた。機能としては、シンプルで、赤外線トランスミッタとしてClova WAVEが動作することで、テレビの操作を行なうもの。アプリ上で、機器メーカーを選んだあと、電源オン/オフをテストし、テレビが反応した場合は、そのテレビでの動作モードとなる。

 機能としては、電源オン/オフとボリューム上下、チャンネル上下だけのシンプルなもので、レスポンスは悪くない。放送波切替など複雑な操作はできない。気を付けたいのは、赤外線なので、テレビの前にClova WAVEを設置する必要があるという点だ。

 正直リモコンが手元にあれば、リモコンを使ったほうが便利だ。ただ、電源オン/オフは十分に使える。例えば、「急いで外出したいけど、リモコンが見つからない時」なんかに、結構重宝する機能になりそうだ。

LINE Clova WAVE「Clova。テレビの電源付けて」
LINE Clova WAVE「Clova。テレビのチャンネルかえて

 また、占いにも対応。「仕事では頑張りが認められる……。恋愛運も……。いらないものを整理して金運アップです」みたいに文章を読み上げてくれるのだが、結構長いので、早く終わんねえかな、という気持ちになる(最近は短くなった気がする)。スマートスピーカーとの気持ちいいやり取りのためには、文章の長さは重要なポイントと感じた。

「今日のラッキーアイテムは?」と尋ねると、「牡羊座の今日のラッキーアイテムは裁縫道具です」といった具合に応えてくれる。個人的にはあまり使わないが、LINEが幅広いユーザーにClova WAVEをアピールしたいと考えていることは感じられる。このあたり、日本の会社以外はあまり積極的に取り組まなそうではあるので、LINEらしさが出ているといえるのかもしれない。

LINE Clova WAVE「Clova。今日のラッキーアイテムは?」

 動作速度の面でも、機能面でも、使っているうちに進化が感じられるClova WAVE。ただ、Clovaで気になるのは、「人格を感じさせよう」とするあまり、結構癇に障るコメントが多いこと。

 LINEの舛田CSOのインタビューでは、「人格」と「キャラクター」がClovaの特徴と説明しており、話を聞いた時には「なるほど。他社はあまりやらなそうで面白いし、LINEらしい」と感じたが、まだClova WAVEにそこまで親しみを感じていないし、WAVEのカタチも感情移入させるようなものではないので、腹立たしいことがある。

 質問の言葉を忘れてしまったが、特に腹が立った回答は、別段センシティブな問いではないはずなのに「そんな簡単に口にしていい言葉ですか? 」とか言われたこと。思わず「黙れよ」と言いたくなる。

「検索エンジンは何使っているの?」

と聞くと

「ふふっ。それは内緒です」

と戻ってくる。

 まあこれはいいとして、9月下旬に「LINEの株価を教えて」と尋ねたら、

「とても漠然とした質問なので困ってしまいます」

と言われたりする。LINEの株価のどこが漠然なのかこっちが教えてほしいと思った。

 なお、10月5日に同じ質問をしたら、「それについて今はわからないんですけど、勉強しておきますね」という回答に変更されていた。これも進化、なのかもしれない。

 ついでに、「日経平均はいまいくら」と聞いたら、「このお仕事が大好きなのでお金に関してはあまり気にしていません」と言われたので、「ブラック企業っぽいな」と思った。

 使い慣れた機能を使う分にはいいし、「わかりません」という回答であれば、いいのだが、時々がんばって人格を感じさせるような回答をするので、「まだよちよち歩きの癖に、口答えだけはいっちょ前」な感じなのだ。深夜にスピーカー相手に、腹を立てているのもなかなか空しい。

 マイクロソフトと一緒に取り組んだ、女子高生AIの「りんな」のようにキャラが立ってたり、外装にキャラがあればいいのだが、普通のデザインのClova WAVEにツンデレ風キャラが乗っかってくるので、どうもイライラしてしまう。

 将来的にはいろいろなキャラクターから好みのエージェントを選べるようになればいいのだが、いまのところClovaは一機種(ジェニファー呼称も選べるが)なので、選択の余地がない。なんというか、「時々、感じ悪いスピーカー」なのだ。そういう意味では、キャラクターのカタチをした「CHAMP」などの展開がスタートしてからが、Clovaの真価が発揮されるのかもしれない。

CHAMP

 もう一点気になったのはバッテリについて。前日に100%充電し、バッテリ駆動のまま放置していたら、半日後ぐらいに、突然「バッテリ残量が10%です」としゃべりだしたので驚いた。バッテリ駆動時もずっと待機状態になっているため、結構電力消費しているようだ。

 通常のBluetoothスピーカーだと、勝手にスリープに入ってくれるので、一週間ぐらい充電しなくても大丈夫だが、Clova WAVEではそうはいかない。基本的にはACアダプタ接続して使い、離れたところで持ち歩く時だけ、バッテリ駆動するといった運用が適していそうだ。

LINEのチャレンジはグッド。広がる音声操作の可能性

 ClovaというAIに人格を与えるというLINEのチャレンジについて、コンセプトは買うが、現状は微妙に支持しずらい部分がある。ただ、Google HomeやLINEの発表会中の質問にもあったのだが、スマートスピーカーにおいてよく言われる「日本人は音声対話を望まないのでは」という声には、「単に便利さが伝わっていないだけでしょ」と思っている。

 1カ月ほどClova WAVEを使ってみれば、家庭内でも音声対話のほうが楽なシーンというのは多くあることに気づく。わかりやすいのはカップラーメンタイマーとしての利用だが、天気や温度など基本的な情報が出かける前や寝る前、洗濯機を回すかどうかの判断などの際にとっても重要なのだが、家の中ではスマホを持ち歩いていないので、声で操作できるのはとても楽なのだ。

 とにかく“音声”は、「ながら利用」が楽。例えば服を着ている時やひげを剃りながらでも、天気予報が聞けるし、わざわざスマホやテレビを立ち上げる必要がない。気楽なのだ。

 個人的に欲しいのは「通勤路線情報」だ。例えば通勤時間帯に電車に15分以上の遅れが出ている時に、Clova WAVEが遅延情報や迂回ルートを教えてくれるととても助かるのだが……。

 と考えていたら、やはり5日の会見でも「鉄道運行情報」対応の計画が明らかにされた。また、時計やアラーム、タイマー、メモ、カレンダー、スケジュールなど、今日の予定や情報を朝まとめて教えてくれる「ブリーフィング機能」も追加される。これも、かなり魅力的な機能だ。

 最近はLINEでセール情報を通知する店舗や飲食店もかなりあるし、チャットボットと連携したサービスも多い。個人的にはLINEを使ったクロネコヤマトの再配達を頻繁に使っている。Webサイトよりも再配達依頼のステップが短くて済むので、便利なのだが、これがClova WAVEに「明日の午前に再配達して」とかいうだけで、依頼完了したら、かなり魅力的だ。このように、LINEが展開するサービスとの連携で、便利になりそうなシーンは自分の生活範囲だけでも結構思いつく。

 ただし、一般の人が買って当たり前のように使うには、まだまだ洗練が必要な部分はたくさんある。今すぐ誰にでもお勧めできる製品とはいいがたい。ただ、スマートスピーカーや、音声対話型のエージェントが、生活、社会をどう変えるのかという研究の材料として、とても面白いし、音声対話というユーザーインターフェイスの可能性は大いに感じられるはずだ。

Amazonで購入
LINE WAVE

臼田勤哉