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西田宗千佳の
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NECの3Dパソコン「VALUESTAR N」をテストする

「パソコンで3D」の価値は?


VALUESTAR N VN790/BS

 テレビの世界では、この夏に向け、続々3D対応製品が発表される。だが、それだけが3Dではない。パソコンの世界でも、夏商戦に向け「3D対応第一世代製品」が生まれ始めている。海の向こう、台湾で開催中の展示会「COMPUTEX 2010」でも、3D関連の発表が相次いでいるようだ。

 今回は、日本国内で「3D対応パソコン」の先陣を切るNECの一体型パソコン「VALUESTAR N VN790/BS」(以下VN790/BS)をテストする。テレビとは異なる、パソコンでの3Dとは、どのような価値を持ちうるのだろうか?


 


■ 偏光板を使って安価に3Dを実現。ちらつきは少ないが解像度/視聴位置には不満も

 VN790/BSは、20型のワイドディスプレイを内蔵した、いわゆる「一体型デスクトップパソコン」だ。CPUこそスペックが公開されていない(こういった表記の場合、未発表のCPUが採用されている場合が多い)が、OSはWindows 7 Home Premium 64bit版、HDDは1TBと特別なものが選択されているわけではない。実売価格は22万円前後。

 見た目には「普通の売れ筋のデスクトップ」という印象だろう。Blu-rayドライブを搭載しているのも、この価格帯ならば特別なことではない。

VN790/BS本体。20型ワイドディスプレイ一体型のデスクトップパソコン。キーボードもマウスもワイヤレスで、コンパクトな設計だ 本体右側面。Blu-rayドライブはこちら側にある 本体背面。アンテナやUSB、Ethernetなど、シンプルに端子だけが並ぶ構造だ
本体左側面。SDカードスロットやUSB端子、ヘッドホン端子など、頻繁に利用する端子類が並ぶ 付属のリモコン。RF方式で反応が良く、方向も選ばないのがメリットだ 電源は外付けアダプタ方式。本体が薄くコンパクトである一方、こちらはかなり大きめだ

 違いは1つ。ディスプレイが3D対応になっている、という点だ。3D対応ディスプレイというと、テレビで使われている「フレームシーケンシャル型」のディスプレイを思い浮かべる方が多いだろう。パソコン用としても、外付けディスプレイとしては、LG電子がフレームシーケンシャル型の「W2363D」を発売している。

 だが、VN790/BSのディスプレイはフレームシーケンシャルではなく「偏光板方式」である。

 両者の違いは、右目と左目の映像を「時間軸方向」に収録するか、「同一フレーム内」に収録するか、にある。

 フレームシーケンシャル方式では、表示コマ数を倍にし、右目・左目と順番に表示していく。同時に、メガネの側で表示されている映像とは反対の目の前を液晶シャッターでふさぎ、片目だけに映像が入るようにしている。そのため、1フレームあたりの解像度は落ちないものの、メガネをかけた場合の輝度は大幅に落ちる。

 それに対し偏光板方式は、1フレームに右目用と左目用の映像を入れる。ディスプレイに偏光フィルタを入れ、偏光メガネで映像を受けることで、右目と左目にそれぞれの映像を見せる形だ。1フレームに2画面分の映像を入れるため、それぞれの目に割り当てられる縦方向の映像解像度は半分(1,920×1,080ドットのフルHD映像の場合、1,920×540ドット)になるが、目に入る光の量は変わらない。

 NECがVN790/BSで採用したのは、有沢製作所の「Xpol」というフィルター技術。奇数ラインと偶数ラインで映像を分け、右目用・左用とする「水平インターリーブ方式」で3D表示を実現する偏光板である。

 Xpolを採用した理由を、NECの商品企画担当者は次のように説明する。「20型で手頃な価格の商品をいち早く投入したい、という狙いがあった。また特に大きく評価したのは明るさ。Xpolならば、フィルターを通しても数%、メガネをかけたとしても10%程度しか輝度が落ちないため、パソコン用ディスプレイとしては有利と考えた」

 パソコンでは、文字と映像の両方を見る。もちろん普段は、文字を中心に見るだろう。その場合、ディスプレイを最高輝度で利用するのはまれで、なんらかの調整を行なっているのではないだろうか? 目への負担を減らすため、輝度を落とし気味にしている人も多いだろうと思う。

 その場合、3D化でさらに輝度が落ちたらどうなるだろう? もちろん、設定変更をして輝度を一時的に上げればいいのだが、いちいち輝度を変更せずに使えた方が、使い勝手ははるかにいい。

 実際、VN790/BSでの3D映像は、メガネをかけても輝度がさほど下がっている印象はない。フレームシーケンシャル方式の3Dテレビでははっきりと輝度が変わるので、その差はかなり大きいと感じた。また、映像のちらつきも少ない。

偏光メガネを通し、画面を片目側から撮影。実際にメガネをかけて画面を見ると、文字などは「ラインが飛んだ」ように見える。これ水平インターリーブ方式の副作用だ

 ただし、その際の解像度の低下も劇的だ。写真をご覧いただければおわかりのように、文字やウインドウを見ると、1ラインおきに映像を分けているのがはっきり分かる。事情を知らずに文字などを見るとぎょっとするのではないだろうか。映像は解像度こそ落ちるが、ここまでの不自然ではない。ただし、CG生成された映像の場合、ジャギーが妙に目立つようになる印象は否めない。

 NECは、フィルターさえかければ済むという開発・製造の簡便さと、輝度が落ちにくいという特徴を重視し、3D対応のパソコン一号機にXpolを採用したのだろう。

 他方、Xpol方式は視聴の「スイートスポット」(ディスプレイからの視点までの最適な距離)がかなり狭い印象も受けた。筆者の場合、卓上にVN790/BSを設置し、ディスプレイからちょうど30cmくらい離れたところから「まっすぐ正面を向いて」見た時はOKなのだが、すこし上下にずれたり、距離が離れたりすると、クロストークがひどくなって見づらく感じた。NECの説明によると「推奨距離は60cmで、パソコンを一般的に使う距離で見ることを前提に調整している」とのことなので、テレビとはかなり異なる印象だ。

 また、Xpolはこの種のディスプレイに比較的多く利用されている技術だが、メガネはこの製品専用のものだ。フレームシーケンシャル式の場合と違い、メガネ側は偏光板が入っているだけなのだが、偏光の状態を「製品に合わせて調整している」(NEC)ため、他の製品で使われている偏光メガネや、円偏光式を利用している劇場などで使ったメガネをかけても、正しく3Dに見えるとは限らない。

 なお、メガネ「PC-AC-DP001N」は本体に1つバンドルされてくるが、もちろんオプションとして追加購入も可能だ。実売価格は5,000円程度。

視聴中の様子。このように「まさに正面にいる」状態でないと、見づらくなりやすい VN790/BSで利用するメガネ。偏光板のみが入っているシンプルなもので、かけ心地も軽い

 


■ 「立体感」を楽しむのに向いた構成。YouTubeの3D映像をそのまま視聴

「Powwr DVD 3D」。現状では、3D表示用としてはスタンダードといえるソフトだ

 VN790/BSでは、3D映像を見る方法を、主に2つ用意している。一つはBD/DVD再生ソフトである「PowerDVD 3D」を利用する方法。もう一つは、アイ・オー・データ機器の3D画像再生ソフト「I-O DATA DigitalVideo3D Player LE/DigiCame3D Viewer LE」を利用する方法だ。どちらもVN790/BSに付属するため、追加投資は必要ない。

 前者は主に市販ソフト用、後者は3D対応デジカメなどで撮影したファイル用、ということになっているが、厳密な使い分けがあるというほどではない。PowerDVD 3Dを中心に、補完的に他のソフトを使う、という感じである。

PowerDVD 3Dでは、3Dの突出量などの調整が可能。2D-3D変換も含め、「立体感を楽しむ」にはとてもいい機能だ

 Blu-ray 3Dソフト「3Dブルーレイディスクお試し版(パナソニックの3D DIGA/プレーヤーに付属)」でテストしたが、すでに述べたように、Xpolを使ったVN790/BSでは、縦解像度がおおむね半分になる。しかし、立体感そのものはきちんと表現される。例えば、Blu-ray 3Dのタイトルを再生する場合には、横解像度は収録された映像のままなので、意外に「見れる」印象である。特に、3D映像に慣れていない状態では、立体感の方が解像度不足よりも目立って感じられるため、大きな不満は感じない。

 また、PowerDVD 3Dを使った表示の場合、設定を変更することで、突出量を自分好みに変えられるため、立体感を楽しむという目的には向いている。輝度や色変化が少ないところも、カジュアルに楽しむには向いている、という印象だ。2D-3Dの映像変換もPowerDVD 3Dが担当することになるので、2DのDVDやBDを疑似3Dで楽しむこともできる。この場合も、解像感より立体感重視ならいいだろう。

 2D-3D変換は、個人で撮影した映像などでも有効だ。だから、ホームビデオなどを3Dで楽しめる。


 だが、富士フイルムの「FinePix REAL 3D W1」のような3D対応デジカメで撮影した映像・静止画の場合、Power DVD 3Dでなく、アイ・オー・データ機器製の「I-O DATA DigiCame3D Viewer LE」「I-O DATA DigitalVideo3D Player LE」という2本のソフトで見るのもいい。

 これらのソフトは、FinePix REAL 3D W1のファイルを表示することに注力したものとなっているが、静止画の記録に使われている「MPO」(マルチピクチャーフォーマット)形式は、CIPAで規定された、今後3Dの静止画としては標準になると思われる形式の一つ。なので、今後出てくる他のデジカメの画像も、表示できる可能性は高い。

「I-O DATA DigitalVideo3D Player LE」で、FinePix REAL 3D W1で撮影した動画ファイルを再生。同じファイルはPowerDVD 3Dでも再生できるので、意外と出番は少ないかも 3D表示時の画面を拡大

右側のウインドウに注目。YouTubeに公開されている3D映像を、フルスクリーンだけでなく、ウインドウ状態でも再生可能。2つの3D映像を同時に見られるのはパソコンならではだ
 また、Xpolの「水平インターリーブ方式」がプラスに働くのが、「YouTube」の3D表示だ。

 YouTubeでは、右目・左目の映像を用意してアップロードすると、サーバー側で各種表示方式に変換し、立体表示を行なう機能がある。この機能の場合、おなじみの赤青メガネを使う「アナグリフ」や、左右に映像を並べる「ステレオペア」、そして、1ライン毎に左右の映像を収納する「インターリーブ」などの、「1フレーム内に左右の映像を収録する」方式では表示できるものの、現状では、Blu-ray 3Dで使われているような、別々のフレームに右目・左目の映像を収録する方式には対応してない。

 そのため、3D対応テレビでYouTubeの3D映像を表示しても、そのままではフレームシーケンシャル方式の映像を見ることはできず、一旦パソコンに取り込んでから見る必要がある。

 だが、ディスプレイそのものが水平インターリーブの偏光板方式であるVN790/BSの場合、YouTube側の表示形式を「Row Interleave」にすれば、映像を立体で見られる。さすがに、しっかり作り込まれたブルーレイ3Dの映像に比べるとクロストークが感じられるが、ネットストリーミングでこれほど簡単に3D映像を提供できる、というのは面白いものだ。

YouTubeでは、3D表示にも対応。VN790/BSのようなXpol採用ディスプレイで見る場合「Row Interleave」を選択する

 他方、VN790/BSが対応していないのが「サイド・バイ・サイドで提供されるテレビ放送」の映像だ。

 PowerDVD 3Dは機能の豊富なソフトであり、既存のDVDビデオや3D放送で使われる「サイド・バイ・サイド」収録の映像も再生できる。しかし、VN790/BSの搭載チューナは地デジのみのため、BS11やスカパー! HDなどで放送される3D放送を見ることができない。

 また、VN790/BSで録画した地デジ放送を、直接PowerDVD 3Dで再生することができないので、2D-3D変換を行なって視聴することもできない。これはどちらも、「現状ではそのような形で利用するためのソフトが用意できていないため」(NEC)だという。
 


■ ゲームには向かないハード構成。低コストでの導入がメリットか

 他方、パソコンで3Dというと気になるのが「ゲーム」だ。

 しかし、VN790/BSはゲームの3D表示に対応していない。VN790/BSは、GPUとしてNVIDIAやATIの独立型を採用せず、インテルのCPU内蔵のものを使っている。そのため、ゲーム向けの3D表示(たんなるCGとしての3Dでなく、3D立体表示)を行なうには能力が足りない。

 ゲームは3Dにとって大きな魅力の一つ。だが、国内の個人向けPCの場合、ゲーム向けのGPU性能を重視しない傾向が強く、VN790/BSのベースモデルもそういった製品の一つだ。この点は、コンテンツ不足に陥りやすい3D対応機としては大きなマイナスである。

 また、立体感はしっかりしているが、やはり、水平インターリーブ方式による縦解像度の劣化は、小さなものではない。ある程度目が慣れてくるとすぐに、Blu-rayの持つ解像感がスポイルされている、と感じられるようになる。

 そういった点を考慮しても、VN790/BSは「本気で3Dを見る」機種ではなく、「パソコンに3Dがついてくる」くらいのところを狙ったモデルといえる。

 おそらくそのうち、パソコン用ディスプレイでも、フレームシーケンシャル方式に対応したものが、安価に採用できるようになるだろう。Xpolを使ったVN790/BSは、それまでのつなぎとも見える。だが、元々「地デジ対応一体型」として、VN790/BSは充実した製品。3D未搭載の同等モデルとの価格差も、どうやら2万円程度になるようだ。

 メガネが5,000円(これはモノの価値としては、少々高いと思う)、偏光板にやはり少々のコストがかかっている、と考えると、現状ならば、納得できるコスト差ではある。逆にいえば、現段階では「パソコンの3D化に高いプレミアムはつかない」と、NECは考えている、ということでもある。

(2010年 6月 3日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]