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WWDC2012 基調講演 詳報 新OS編
~Moutain Lionは7月。iOS 6の切り札は地図と位置情報連携?!~
今回の基調講演のテーマ。本記事ではOS XとiOS 6を扱う |
WWDC基調講演レポート・後編は「新OS」にフォーカスしたレポートをお届けする。
ハードウエア編でも述べたように、今回の基調講演では、「新MacBook」、「OS X Moutain Lion」、「iOS 6」の3つの話題が中心。本記事では、「OS X Moutain Lion」と「iOS 6」について詳しく解説していく。
この2つは、開場前から話題の中心になることがわかっていたものだ。そのため、機能についてもある程度予想だができた部分がある。
入り口に掲げられた垂れ幕にも、2つの新OSの姿が。デベロッパー向けには、2つの新OS情報を公開し、対応のための作業を進めてもらう……という意味合いも濃い | デベロッパー向けの待合スペースの垂れ幕は「AirPlay」。OS X Moutain Lionのメインフィーチャーの一つでもあり、アップルも強くプッシュしていた |
だが、それが生み出す効果については、色々と予想外の展開を見せたところもある。本レポートでは、発表内容を伝えつつも、そこから見える「アップルが考えていること」も分析していきたいと思う。
実際のところ、アップルにとって真に重要なのはこれら「新OS戦略」であり、MacBook Pro Retinaディスプレイモデルなどの新製品は、それを支える「開発のための基盤」であるからだ。両方セットでアップルのビジネスだが、より長く、広くビジネスに影響するのは、新OSがもたらす効果のはずである。
■Mountain Lionは「iOSインスパイア」、「iCloud」「共有」などを強化
フィル・シラー氏による新MacBookシリーズの紹介が終わり、プレゼンテーションを引き継いだのは、Macソフトウェア・エンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏だ。フェデリギ氏がプレゼンするのは、「OS X Mountain Lion」である。
OS X Moutain Lionのプレゼンを担当する、ソフトウェア・エンジニアリング担当バイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏 | 次バージョンの愛称は「Mountain Lion」。ネコ科の伝統は継続 |
ご存じの方も多いと思うが、Mac用のOSはこのバージョンより正式に、頭から「Mac」がとれ、「OS X」と表記する。「OS X Mountain Lion」は、バージョンナンバーにすると「10.8」になる。
その機能の多くは、すでに2月に公開され、本連載でもプレビュー記事を掲載している。併読していただけるとありがたい。
今回の発表も、2月に公開された内容を受けて、より詳細な情報を伝える形のものになっていた。
フェデリギ氏は、現在のMacの状況をラウンドアップするところから、プレゼンをスタートした。
「Macは現在非常に好調です。過去5年間でインストールベースが急激に伸び、6,600万台に達しました。現行バージョンの『OS X Lion』も、きわめて好調に推移しています。Lionは『Mac AppStore』を使い、初めてダウンロード形式で販売されたMac OSですが、結果的に、2,600万ダウンロードを達成しました。これは、これまでに最も売れたMac OSになります。そしてすでに、40%のユーザーがLionを利用しています。この間、たったの9カ月でしたが、WIndows 7を40%のユーザーが利用するまでには26カ月もかかりました」
すなわち、この好調に乗って、さらに改善したものとして登場するのがMoutain Lion、ということだ。
フェデリギ氏は、OS X Mountain Lionに「200を超える新機能がある」と説明する。基本方針は、iOSから良い機能をフィードバックしていく、ということだ。
Mountain Lionの新機能で、iCloudを使い文書を同期する「Documents in The Cloud」。対応ソフトでは、ドキュメントフォルダは今までの表示ではなく、iOS的な「サムネイル表示」になる |
その中で、まず説明したのは「iCloud」だ。Mountain Lionでは、アップルのクラウドサービスであるiCloudとさらに連携が密になる。対応アプリケーションで作ったドキュメントをiCloud上に保存し、iOS/Macすべてで自動的に同期する「Documents in The Cloud」がそれだ。iOSにはあった「Reminder」なども新たに搭載され、iCloudを使ってiOS機器と同期する。
もちろんこれが活きてくるのは「対応アプリのみ」という制限がある。非対応アプリが多いうちは、両方の操作を覚えねばならず、少々戸惑う可能性が高い。だが、そうした問題を解決するためにも、デベロッパーに情報を開示し、新OS向けの機能に積極的に対応してほしい……というのが、そもそも、WWDCの目的でもある。
次に説明されたのが「通知センター」だ。iOSでも、iOS 5よりメールや予定などの通知に使われているものだが、同じ機能がMoutain Lionにも搭載される。ただし、通知の領域は画面の右上・右側になる。
「通知センター」がMacにも。これまではGrawlなどのサードパーティー製アプリで再現されてきた機能が、OS標準搭載になる、という言い方もできる | Mountain Lionの「通知センター」での通知方法。画面右にポップアップやサイドバーの表示などの形で見える。通知センターは指をタッチパッド上でスワイプさせることで出し入れ可能 |
通知センターとディクテーションを使い、声でツイートすることも。ディクテーションの呼び出しボタンは、Siriで使っているマークに似たテイストになっている |
また、「Siri」とはいかないものの、音声による文字入力(ディクテーション)機能も改善された。通知センターや、Twitter連携機能と同時に動くことで、「最新のツイートを通知センターから、声で入力」といったこともできるようになる。
もうひとつ、2月にすでに発表された機能ではあるが、改めて紹介されたのが「Sharing」、要は“共有”だ。iOS 5からTwitterのIDをOSが記憶し、写真やウェブ、地図などの共有に活かしているように、Moutain Lionも同様の機能を持つ。ただし、共有の対象はもっと広く、メールやFlickrなどの写真共有サービス、無線LANで他のMacへデータを渡す「AirDrop」などが含まれる。Webブラウザからクリック一つでWebをツイートしたり、プレビューした写真をFlickrにアップしたりといったことがワンクリックで行なえるのだ。これまでは手作業でコピー&ペーストしていたことを、OS側が代替する、といえばわかりやすいだろうか。これがなくてもできることだが、この機能があれば「簡単になる」、という思想のものだ。
「Sharing」の印は矢印の含まれた、写真のアイコン。ウェブブラウザー「Safari」などに組みこまれ、ここから簡単にツイートなどの作業ができる |
この他、Macでの「AriPlayミラーリング」や「GameCenter」の搭載、iMessageと互換性のある「Messages」の搭載などは、すべてiOSで上手くいきつつあるものをMacにも取り込み、トータルでの価値を上げたい、という発想と考えて良い。特にAirPlayミラーリングは、テレビ連携という点でも、ビジネスや教育の現場で「画面を皆に見せる」という用途でも、かなりプラスだと感じる。デモでは、GameCenter経由で対戦しているゲームを、1080pのAirPlayミラーリングを使ってプロジェクタに送信し、スクリーンに投写して遊ぶ、ということも行なわれていたが、特に遅延は見受けられず、快適そのものに見えた。
GameCenterとAirPlayミラーリングのデモに、「Racer OS X」登場。「OSR Racing」というタイトルで、iPadとMacに分かれて対戦。デモはすべてAirPlayミラーリングで行なわれた |
■スリープ中にアップデートする「PowerNap」、発売は7月で19.9ドル
他方、今回初めて明かされ、解説された機能ももちろんある。
新しいSafariには「iCloud Tab」という機能が搭載され、iCloudで、自分が使っている他の機器のSafariで開いたウェブの情報を取り込んで、再度見ることができるようになった |
例えば、Webブラウザ・Safariの改良。Javascriptエンジンがさらに高速になった他、iCloudを使って、他の自らが持つiCloud対応機器(iOSでも、マックでもいい)で開いたウェブの情報を取り込み、手元の端末で再度見ることもできるようになった。
初お目見えの機能でもっとも興味深いのは「PowerNap」だ。これは、Macがスリープしている間にも、メールの受信やカレンダーの同期、果てはOSのアップデートなども、自動的に行なってくれるもの。いわゆる自動起動と違うのは、できる限り省電力で、静かな状態で動く_(すなわち、フルパワーでマックが動いているわけではない)という点だ。特に、フェデリギ氏から「アップデートもサイレントに、自動で行なう」と告げられた時、会場はかなり盛り上がった。
ただし、この機能を使うには、どうやら最新の、特別な省電力コントロールが必要のようだ。そのため、Moutain Lionを入れても、すべての機種で動作するわけではなく、2010年10月に発売された通称「第二世代MacBook Air」以降のMacBook Airか、MacBook Pro Retinaモデルのみが対象となるようだ。
これらの機能が入ったMountain Lionは、Lion同様、Mac App Storeからの配布となり、物理メディアのディスクは用意されない。価格は19.99ドル(日本では1,700円)で、7月に配布が開始される。アップグレード対象となるのは、Lionおよび、その前のバージョンであるSnow Leopardだ。なお、本日発売になった新マックを含み、6月11日以降に購入したマックは、すべてアップグレードが無料で受けられる。
■最新版が使われているから進化する?! iOS 6
Mac OSは、iOSからのフィードバックを色濃く受け継ぐものになった。
では、そのフィードバック元であるiOSはどうなるのだろうか? プレゼンを引き継いだのは、iOS担当である、iPhoneソフトウェア担当上級副社長のスコット・フォーストール氏だ。こちらも、他の人々と同じく「数字」から入った。
iOS 6のプレゼンを担当した、iPhoneソフトウェア担当上級副社長のスコット・フォーストール氏 |
「3月までに、3億6,500万台のiOSデバイスが売れました。そして重要なことは、そのうちの80%がiOS 5のユーザーなのです」
フォーストール氏はそう語り、ひとつのデータを示した。それは、Androidで利用されているOSのバージョン分布だ。
「Android 4.0は、iOS 5とほとんど同じ時期に登場しました。しかし悲しいことに、7%しか利用されていません」
iOSデバイスは3月に3億6,500万台を突破。この種のデバイスとしては明らかに、他とはワンランク違う好調さを維持している | iOSも、最新の「5」を使っている人がもっとも多い。iOS4以前を使っている人はすでに少数派となりはじめている、とアップルは言う | Androidと、OSのバージョンのインストールベースを比較。最新のOSを使えているのは、Androidでは7%しかいない、と皮肉る |
これは、OS Xでの話題と同じ意味を持つ。最新のOSの利用者が多く、環境が均質であるため、最新のOSに合わせたアプリを作っても十分にビジネス価値がある、という主張である。特にiOSの場合、アップル1社が作っていて、最新の機種は必ず最新OSで出荷されるため、「道具」として長くそのまま使われ続ける傾向がある「パソコン」であるMacよりも、さらに比率が高くなりやすい。
そしてさらに、iOS 5で追加された「通知センター」、「iMessage」、「Twitter連携」、「GameCenter」の利用率へと話は及ぶ。要は、最新の機能は埋没せず、きちんと広がっている、と主張しているわけだ。これはもちろん、「新機能も同様に広がるはずですよ」と暗黙のうちに伝えていることになる。
もうひとつ、OSが改良されていくことの価値を、フォーストール氏は別の角度からも解説する。
「消費者アンケートで、iOS機器について『とても満足した』との回答は、75%に達します。それに対しAndroidは50%以下です。このような満足度が実現できているのは、毎年OSを着実にバージョンアップしているからです。そしてもちろん、今年も例外ではありません」
すなわち、最新のOSが多くの人に使われるようにすること、機能を追加して最新OSにアップデートしたい(もしくは新しい機器に買い換えたい)と思わせることが、顧客満足度の高さに繋がっている、という主張である。
顧客満足度調査の結果。最上位にあたる「とても満足した」と答えた人の率は、iOSが75%でトップになっている | 歴代iOSのバッジ。発売当初から、継続してOSを定期的にアップデートしてきたことが強み、とアップルは主張する |
フォーストール氏は、iOS 6についても「200を超える新しい機能がある」と説明する。OS Xも「200を超える新しい機能」とされているので、おそらく“200”というのは具体的な数ではなく、アップルが各OSに付け加えた機能が「このくらい多いのですよ」というイメージを表しているのではないか、と感じる。
まずフォーストール氏が説明したのは「Siri」だ。Siriについては、3月に日本でもアップデートで使えるようになったため、iPhoneユーザー以外にも、まだ記憶に新しいはずだ。
特に今回は、従来以上により多彩な情報と連携し、「話せば答えてくれる」環境を目指すようだ。
プレゼンでは次のようなデモが行われた。
「昨夜のジャイアンツの試合の結果は?」「5-0でジャイアンツが負けました」
「チームの中で一番背が高い選手は?」「LeBron James選手です」
「次の49ersの試合は?」「9月9日、午後1時15分からです」
内容でおわかりのように、スポーツ関連の情報を出してくれるようになったのだ。
「いや、別にスポーツなんて、別の方法で見れるから」と思う人も多そうだ。だが、このデモには大きな意味がある。Siriは、音声の問いかけをクラウド側で意味解釈し、データベースから答えを返す仕組みだ。その多くは、ネット上にある、Webブラウザからも得られるだろう情報だ。スポーツもその例に漏れない。
しかし、それをSiriがとってくるためには、「Siriとネットサービスのための連携の仕組み」が必要になる。情報提供側が用意することもあるだろうし、アップル側が工夫することもあるだろう。どちらにしろ、「クラウドにある機械の側が、また別のクラウドから情報を取得する」仕組みが整備されることで、Siriが答えてくれる情報は格段に増えていく。そのための汎用的な仕組みを用意した……わけではないようだが、Siriが扱える情報を増やしていく仕組みを、アップル側がきちんと考え、整備し続けていこうとしていることが、このデモからは読み取れるのである。
スポーツに関連する情報を、Siriが答えてくれるようになった。これは、Siriの可能性を広げていくアプローチの一つだ |
■Siriの価値を上げる「ローカル情報」検索、ハンズフリーならぬ「Eyes Free」
Siriの価値を高めていくという上で、さらに大きな可能性を秘めているのが「ローカル情報」だ。
デモでは、近所のレストランを探した上で評価に応じて並べ替えて提示したり、そこまでの地図を見せたり、さらにそこから予約を行なったり、という利用例が提示された。また、映画情報の検索もできる。近くの映画館で、いつ、なにが上映されているのか、好きな女優の映画、例えばスカーレット・ヨハンソンはどの作品に出演しているのか、といった情報を検索してくれる。
これは、iOS 6のSiriで、口コミレストラン情報サービスの「Yelp」(日本でいう食べログのようなもの)、レストラン予約サービスの「Opnetable」(こちらは日本でもサービス中)との連携が実現されて、できるようになったことだ。映画については、チケットサービスの「Fandango」と連携して表示している。
先ほど述べたように、Siriはネット上にある様々な情報と連携することで価値を高めていく。ネット検索できることを「エージェントとしてサポートしてくれる」ことが、Siriの一つの意味なのだ。そのためのパスができていくことは、サービスの進化の過程として正しい。
SiriがYelp、Opnetableと連携して「近くのレストランを検索して予約する」ことができるように。Webでもアプリでもできることだが、声でやってくれると別の有用性が生まれる |
映画の情報を声で検索。ここからトレイラーを見たり、評価をチェックしたりすることも可能 |
その他Siriは、アプリの起動やツイートへの対応など、いくつかの新機能に対応している。また、すでに対応している6つの言語に加え、中国語・韓国語を含む9つを追加、15の言語に対応することになる。これまではiPhone 4Sのみで使えたが、新たに第三世代iPadも対応機種に追加される。
iOS 6でのSiriの機能概要。ネット連携による情報の取得を含め、様々な価値が追加される | Siriの対応言語拡大へ。総計で15の言語に対応する。画面は中国語の例 | 3月に発売された、第三世代iPadもSiri対応へ。これは多くのユーザーから望まれていた機能だろう |
自動車のステアリングに「Siri」ボタンをつけ、声での操作・反応を有効活用する「Eyes Free」という発想を推進。9つの自動車メーカーと、12カ月以内にボタンをつける合意がなされたという |
それらを繋ぐ、とても大きな考え方が「Eyes Free」というものだ。
「ハンズフリーは、運転する際、ステアリングから手を離さずに済む、ということです。我々はこれをSiriに、もっと良い形でインテグレートしたいのです」(フォーストール氏)
これは特に、車社会であるアメリカで重要な発想でもある。声で質問して声で答えるということは、画面を見ずに使えるということにもなる。運転しながら使うなら、画面を見るのは危ない。そこでアップルは、トヨタやホンダを含む9つの自動車メーカーと共同で、これから12カ月以内に「自動車のステアリングにSiri呼び出しボタンを付ける」ことに合意した。これによって、車の中でのiOSデバイスの位置づけが、「カーオーディオ代わり」から「カーコンピュータ」へ進化していくことになる。
■Facebook連携を搭載、「電話」系も大幅に強化へ
昨年のTwitterに続き、今度はFacebookとの連携を実現 |
OS Xでは「共有」機能が新たに追加される、と書いた。同様に、その呼び水となったiOS側でも、新しい「共有系」機能が搭載される。それが「Facebook連携」だ。
FacebookはTwitterと並んで、スマートフォンで利用することの多いサービスだ。写真や地図、スケジュールなど、共有したいものも多い。iOS 6では、Twitter連携機能と同様、iOS側でFacebookのシングルサインオンに対応した上で、iOS上の機能から、各種情報の共有に対応する。また、通知センターで、Facebookからの通知がわかるようになったりもするようだ。メールやFacebookアプリの依存度が減るのは間違いない。ただし、メッセージなどの機能をFacebookのものに置き換えてしまうほど、連携が強いわけではない。
なおFacebook連携については、iOS 6のアップデートにあわせ、OS X Moutain Lion側でも、秋に行なわれる予定だという。おそらく機能も同様のものなのだろう。
シングルサインオンで、各機能からFacebookに情報を「共有」したり、Facebookからの通知を通知センターで受けたり、SIriで操作したりといったことが可能に |
ことiPhone専用の機能として重要なのが「電話」機能の拡張だ。これまで、電話に出るのが難しい時に電話がかかって来た時、我々はとりあえず「切って」いた。だがiOS 6では、ショートメッセージで簡単に返事をしたり、切ったことを自分に後から「おしえてもらう」ことができるようになる。
仕組みは簡単だ。ショートメッセージで返答する場合には、最初から組みこまれているメッセージをタップする形で返答する。もちろんカスタムメッセージの登録も可能だ。
電話をかけかえすことのリマインダー機能はさらに賢い。「1時間後」という設定も可能だが、「ここを離れた時」、「家に帰ったとき」、「仕事場へ帰った時」などの設定ができる。要は、iPhoneが取得している位置情報を使い、その変化によって反応する、という「リマインダー」にある機能を活かして返答するわけだ。
改良された電話機能。電話に出られない時は、このような画面にして「メッセージを送る」か「自分にリマインダーを残す」かできる | メッセージを送る場合には、決まったメッセージを簡単にタップして送る。カスタム設定も可能 | 折り返し電話のリマインド機能。設定を「リマインダー」に帰すようになっているのだが、位置情報と連携することで、かなりユニークで賢く、電話の折り返しを思い出せる |
電話に「答える」ことも重要だが、「答えない」ことも大切だ。新しく用意されるのが「Do Not Disturb」機能。ホテルのドアノブにかけるアレだ。寝ている時など、時間を指定しておけば、その間は電話を着信しない。ただし、電話帳の「お気に入り」の人は着信を許したり、何度も繰り返しかけてきた人の通話(すなわち、それだけ緊急性が高い可能性がある)は着信したりと、柔軟性に富んだ設定ができるのが特徴だ。
安眠を守る?!「Do Not Disturb」機能。夜間の着信などを防ぐ。ただ防ぐだけじゃなく、インテリジェントに「必要な着信は受けつける」あたりが面白い |
もうひとつ、別の意味で「電話」に重要な変更があった。
FaceTimeが無線LAN以外でも利用可能に。通信速度の問題は気になるが、自由度は遙かに高まる。これを期待していた人も意外と多いのでは? |
それは、ビデオ通話の「FaceTime」が、ついに携帯電話網でも可能になる、ということだ。現在FaceTimeは、Wi-Fiでの利用時のみに許可されているが、iOS 6では携帯電話ネットワーク上からもOKとなる。ただ、現在、ただでさえ携帯電話網の混雑が懸念されているなか、データ量の多いFaceTimeをすべての事業者が許すかどうかは……。ちょっと興味深く見守りたいところだ。
もちろん、この他にもいくつもの改善点がある。
例えば、フォトストリーム機能に「シェア・フォトストリーム」が登場し、友人・家族との間で、共有したい写真だけをまとめた「共有用フォトストリーム」作れるようになった。これは、iOS・Macだけでなく、閲覧はWebサイト経由で、WindowsなどからもOKだという。写真の簡単な、しかも協力な共有方法として、かなり有望なものだと思う。
Safariやメールの改善も、細かい点だがつかってみると便利そうだ。
また、教育などのために用意される「Guided Access」という機能も興味深い。要は、ホームボタンを無効にし、特定のアプリだけしか起動できなくするもので、子供に安全に使わせたり、試験中にWebブラウザなどからのカンニングを防いだり、美術館で専用アプリだけを使わせたり、といった用途に使う。これまでは開発者ツールで同様の操作を行なっていたが、OSの基本機能となることで、より利便性が増す。
共有用のフォトストリームを作れる「Shered Photo Stream」。PCなどからも、ウェブサイトを経由して閲覧可能だという |
Safariの改善点。オフラインでリーディングリストを読める機能が追加される他、やっと、ブラウザを経由して、ウェブサービスへ写真のアップロードが可能になる |
■氾濫するチケットを賢くまとめる「Passbook」、実は「NFC」への布石か?
だが、筆者として「今回のキモだ」と思う機能は、ここから後にある。
まずは「Passbook」だ。写真の通り、要はチケットやカードをまとめておくところ、というようなニュアンスである。フォーストール氏は次のように解説する。
「Passbookは、1カ所でパス(筆者注:会員権やチケットのこと)を管理するための、もっともシンプルな方法です」
現在、飛行機に乗る際のチケットは、バーコードになりつつある。紙に印刷してもいいし、スマートフォンなどの画面で提示してもいい。電子的に発券されたものを、スキャンしてもらってゲートを通る。この辺は日本が進んでいたが、アメリカでも2年くらい前から一般的になってきた。
バーコードを使っているのはこれだけではない。アメリカの場合には、店舗の会員権や映画館(シネコン)のチケットもバーコード化されている。日本も種別は違うが、似たようなところはある。それらの紙やカードが、鞄やサイフの中で邪魔になることは日常茶飯事だ。スマートフォン普及後は、画面に表示しておけるので少し楽になったが、それでも、レジやゲートの前でいちいち出すのは面倒だ。
そこで登場するのがPassbookである。ネットサービスと連携し、それらで発行されるバーコード類を1つのアプリ・サービスの中で「束ね」て持ち歩くことで、簡単にiPhone上で取り出せるようにしよう、というものである。
Passbook。狙いは文字通り、パス類の管理をシンプルにすることだ | アメリカの例。飛行機の搭乗パスにスターバックスのプリペイドカード、そして映画のチケットと、バーコードなのに管理がばらばらになりやすい |
Passbookにするとこうなる。カードがiPhoneの中に「まとまっている」ように見えて、それぞれはいままで通りバーコード。各種チケットにプリペイドカード、クーポンまで、「ネット連携して発券されるバーコード的なもの」であれば、サービスが対応している限りまとめて管理できる |
使い終わったパス、いらなくなったパスはもちろん削除できる。削除する時には、シュレッダーにかけているようなアニメーションが表示される |
単にネットサービスを束ねただけでも「便利そうだな」と思うが、Passbookはさらに賢い。
通知領域に、スターバックスとUnited Airlineの通知が。前者は近くにスターバックスがあることを、後者は発券済みのチケットのフライト情報に変更があることを告知している |
画面を見ていただきたい。これらは、「位置情報」、「情報更新」に連動し、Passbookから「通知」として表示されたものだ。
近くにスターバックスがあれば、自動的にPassbookから「通知」が出る。Passbookを表示したいと思う時は、その店に入ろうとした時だ。自分でアプリを立ち上げなくても、GPSの情報と連動して、通知に表示されるので、通知バナーをスワイプすれば、目的のパスが一発で表示されることになる。
また、飛行機の搭乗パスの場合には、搭乗するゲートなどが変更になると、自動でパス側の情報(もちろんバーコードも含む)が書き換えられ、その旨が「通知」される。だから間違って移動してしまいにくくなるのだ。これはきわめて賢い。
カードのたぐいは位置情報との連携がカギだ。自分の近くの情報に簡単にアクセスし、さらにはそれをセールスにつなげられればこんなに便利なことはない。
ここで重要なのは、Passbookの場合、別に広告がプッシュされているのではなく、「自分がしたいと思うこと」を位置情報を使い、楽にしているということだ。さらに搭乗パスの例についていえば、利用者が自ら情報を更新するのではなく、利用してもらう企業の側が情報を更新することで、よりスムーズな利用を促進できる、という利点がある。バーコードをスキャンする、という意味では紙と同じだが、バーコードを「書き換えることができる」のはIT機器ならではの強みだ。
さらにである。ここからは予想だ。
Passbookの仕組みは、単に「表示するだけ」だ。だが、将来的にiPhoneに非接触ICカード(NFC)の機能が内蔵されたらどうなるだろう? Passbookの仕組みのまま、表示に加えて「NFCで情報をやりとりする」仕組みを乗せられる。NFCのない過去の機種はバーコードで、NFCのある新機種はNFCで……といった連携が考えられるのだ。
日本で非接触ICというと、Suicaのような「決済系」が思い浮かぶが、決済系の導入にはインフラコストがかかる。しかし、チケットやクーポン、プリペイドカードであれば、バーコードから地続きに進化させることができるだろう。
アップルがそこまで考えているとしたら、実に面白いことになる。
■独自に作りあげた「Map」、日本も対応へ
iOS 6の機能のうち、最後に残ったのはもっとも派手で、しかも大切な機能。「Map」だ。
最後の大物は「マップ」。噂通り、アップルは地図機能を作り変えてきた。 |
先日から噂も出ていたが、アップルはiOS向けに、独自のマップ情報・機能を用意していた。グーグルも対抗上、先週、急遽新マップ機能を発表した、と言われている。
新マップの特徴を、フォーストール氏は一言で説明する。
「私達は、iOS 6のために、まったく新しいマップを用意しました。それは要は、すごくキレイでスムーズなんです」
とりあえず、動画と写真を見ていただこう。
2Dでの表現も変わったが、最大の変化は「3D化」だ。ベクターデータの状態で立体化できるだけでなく、写真のデータを活用し、建物なども「立体」として再現する。
「すごくきれいでしょう? でも、事前にレンダリングしたものではないです。ここで、リアルタイムに動かしているのです」(フォーストール氏)
世界各地の「2D」のマップ。いままでのグーグルから提供された地図情報とはテイストが変わっている。しかもデモを見る限り、動作速度はさらに速い | ベクター地図も、3Dで表現できる |
へリコプターなどで上空を飛び、そこから得られた校区写真を元に「3D」のマップデータを作成したという | アメリカ・サンフランシスコの3D地図。このクオリティでグリグリ(文字通り!)動く様は驚きだ |
上の映像が、実際にデモされたもの。地図がなめらかに描画され、違和感なく見れる点に注目。遠くのデータは、やはりネットからデータをダウンロードしながら描画しているのがわかる。
シドニー・オペラハウス周辺の映像。空中を飛んでいるかのような映像が手元で再現されるようになったのだから、スゴイ時代だ |
「そんなこと言っても、海外の話でしょ?」
そう思う人に朗報だ。アップルはこの機能を「ワールドワイドでの努力によるもの」としている。また、アップル広報からの情報によれば、マップ機能は「日本も対象となっている」とのことだ。
どのくらいのエリアが、どのくらいの精度で、どのような見栄えになっているかはとても気になるが、少なくとも「日本は蚊帳の外ではない」点だけは、安心できる。
■地域情報こそ「Map」の目玉、ナビも本格的機能へ
とはいうものの、これらは「見た目」の問題。地図にとってそれも重要だが、もっと大切なのはツールとしての価値である。
フォーストール氏は、今回のマップの重要な機能として「ローカルサーチ」機能を挙げる。
もちろんこの機能は、読んで字のごとくである。周囲のローカル情報を検索し、それを手がかりに移動するためのものだ。例えば、レストランの情報。そこまでの経路。そういったものが地図に組みこまれることで、iOSのマップは名実ともに「ナビゲーション」になる。
実際、ナビゲーションの機能も強化された。これまでは2Dの地図上に経路が出るだけだったが、iOS 6では、「Turn-by turn」、すなわち、一般的なカーナビのような表示にも対応するのだ。もちろん読み上げは「Siri」である。
ついに「Turn-by turn」ナビゲーションに対応。精度の問題は残るが、カーナビ的運用が可能となる | ナビ画面の例。距離などは音声ガイダンスだけでなく、わかりやすいバッジの形でも表示される |
さらにこの機能は、ローカルサーチと組み合わさって、最大の価値を生み出す。ローカル情報の中には渋滞情報も含まれる。ただし、iOS 6のナビでの情報は、「iOS機器から」得られたものだ。
「渋滞情報は、匿名の形で、リアルタイムに、群衆的に得られるものです」
フォーストール氏はそう説明した。また、ここでそこからさらに「リルート」し、早く着ける経路も教えてくれる。
ナビ・地図には渋滞情報も表示されるが、その情報は「iOS機器から得られたものをソースにしている」という | 渋滞情報に従い、利ルートする機能も。到着までどのくらい早くなるかもおしえてくれる |
想像するに、こういうことだろう。
iOS 6で動作する機器からは、個人を特定しない形で、GPSからの情報を使い、移動距離や時間などの情報が送信される。それをアップル側が「全部いっしょくたな情報」として分析すると、「その場所を移動しているiOSユーザーが、どのくらいの速度でどのくらい混み合っているか」がわかってくる。それを渋滞情報にしているのではないだろうか。iOS機器のように数が多く、均質なデバイスがあるからできることだ。
道路上のビーコンなどに頼るのではないため、どこでも検出ができる、という可能性がある。他方で、端末数が少ないと信頼性が落ちるであろうこと、データを送信することのプラバシー部分がどうなっているかなど、気になるところもあるが、興味深いやり方であることに間違いはない。
そして、iOS 6の話題の冒頭に語った「Siri」のことをもう一度思い出してもらおう。Siriも、キモは「自分の周囲の情報をどう使うか」だった。実は今回、iOS 6より、Siriでのローカル情報検索も、アメリカだけでなく、「ワールドワイド」でサポートとなる。日本がどうなるのか、こちらはまだ情報がないが、もしローカル情報が充実することになれば、それは大きなインパクトに繋がるだろう。
■「連携」が重要、デベロッパーに活力を
iOS 6は、今秋にリリースされる。そして、対象機種は「iPhone 3GS以降、第二世代iPad以降、第四世代iPod touch以降」となっている。意外なのは、iPhone 3GSが対象で、初代iPadが対象外だ、というあたりだろうか。おそらく、前者は数が多いので対象とすべき、と判断されたのだろうし、後者は画面サイズに比してプロセッサーのパフォーマンスとメモリが足りないことなどから、外されたのだろう。
フォーストール氏は、「iOS 6はすばらしいアップデートとなる」と語ったが、確かに、すべての機能が理想的に働くなら、iOS 5の時以上のインパクトを持つ可能性が高い。
最後に、壇上に戻ってきたティム・クックCEOは次のように語りかけた。
最後に再び登場した、ティム・クックCEO。デベロッパーの創作意欲に「火を付けよう」としているのがよくわかるスピーチだった |
「アップルだけが、インクレディブルなハード・ソフト・サービスの組み合わせを生み出せます。アップルがこれまでに成し遂げてきた事こそが、それを証明していると思いますし、そのことを誇りに思います。それこそが、究極的には、多くの人がアップルへ来て仕事をすること、アップルとともに仕事をすることを選ぶ理由です。すばらしい製品は、人々がすばらしいことを成し遂げる力となります。我々が作るもの、そしてそれと協力し、みなさんが作り挙げるアプリは、世界を変えていく基盤となるのです」
確かにそうだ。
実のところ、OS X Moutain Lionでも、iOS 6でも、機能ひとつひとつをみれば、似たものはすでにある。他からインスパイアされたのだろう、と思うものもある。だが、アップルのうまさは、それらをうまく「組み合わせ」、「協調させ」て、新しい価値を生み出している点にある。
今回、基調講演で発表されたのはそのショーケースに過ぎない。OSとサービスが作り出した基盤でなにができるか、そこに価値がある。
そして、筆者は、今回の「基盤」こそが、「地図」と「位置情報」と「ネット上の価値」を連携させることだと考える。それは、すでにあるサービスを変質させ、破壊し、新しいものにする可能性を秘めている。
開場前の「暗幕」の答え合わせ。中身は「マップ」と「Siri」。ローカル情報と位置情報こそがカギ、とアップルが考えている証拠だ |
(2012年 6月 12日)