西田宗千佳のRandomTracking

ソニー平井社長に聞く、感度軸製品訴求と将来の布石

スマホ苦境対応、α7Sやポタアンに注目。VAIOは昔の仲間

 IFA 2014会場にて、ソニーは日本人記者向けに、同社社長兼CEO・平井一夫氏を囲んでのラウンドテーブルを開催した。前日のプレスカンファレンスでは、例年通りスマートフォンの新製品発表に始まり、欧州でのハイレゾオーディオの展開やテレビ市場の動きが紹介されたが、ラウンドテーブルでは、その補完的な情報が出た。

IFA 2014プレスカンファレンスで新製品を紹介するソニー平井一夫CEO

 また欧米市場でPlayStation 4(PS4)の売れ行きが好調であり、その点にも注目が集まった。今回は、新製品だけでなく、「スマートフォンが経営上のリスクとなる可能性」「ゲーム機ビジネスの永続性」などにも質問が集中した。

ソニー全体の価値でスマホ訴求、だがビジネス状況は冷徹に判断

 ソニーにとって、今最も大切な事業の一つは「スマートフォン」だ。消費者の注目がそこにある以上、「Xperia Z3シリーズ」を軸に据えた形になるのも当然だ。それは、「スマホがカメラやオーディオを浸食する」という点に対する、ソニーの継続した戦略の一環でもある。

Xperia Z3シリーズなど新スマートフォンを発表

平井社長(以下敬称略):コンデジとの競合ですが、ここ数年世界中で、スマホがカジュアルな撮像について、コンデジからマーケットを奪っている事実はあります。そのトレンドに逆らってもあまり意味はなくて、社長就任以来、ありとあらゆるコンデジ・ハンディカムで培ってきた技術をスマホに入れていこう、としています。そのことによって、自信をもってお客様に届けられる「撮像機能がピカイチのスマホ」を作れます。それによって、ソニーとしては「サイバーショット」が1台売れなくても、「その代わりXperiaを買うんだ」という風にシフトしていただければ、ソニーファミリーの中でお客様をキープできたことになります。そこはスマホのない他のメーカーに対するアドバンテージとして使っていこう、ということになっています。

 カメラ側のアプローチとしては、「α7」や「DSC-RX100」「DSC-RX10」など、スマホではなかなか体験していただけないような撮影・撮像の領域にシフトしていくことと、レンズスタイルカメラ・QXシリーズのようにユニークなものに振っていきます。

 この両方で、カメラ全体の「リバランス」をする形で進めています。

Eマウントレンスも装着できるレンズ交換式スマホ連携カメラ「LCE-QX1」も発表

 ただ、ソニーのスマートフォン事業は好調、とまでは言えない。2014年第1四半期の段階では、営業損益が27億円のマイナスとなり、通期の販売台数見通しも5月時点の5,000万台から4,300万台へと下方修正している。主な理由は、中国市場を中心とした成長市場における普及価格帯モデルの不振だ。スマートフォンが軸でありつつも、それが懸念材料でもある。この点については、記者からも質問が重ねられた。

平井:ソニーモバイルの業績については、第1四半期の段階でブレイクイーブンとして発表させていただきました。当然Z3シリーズの販売を見込んだ、織り込み済みの数字です。スマートフォン市場全体ではまだ、23%くらいの伸びを示しているのですが、その中で現実的な数字をもう一度見直して、下方修正しました。

 今年度の予測として台数は発表させていただきましたが、現実として、市場がかなり動きます。それに合わせて台数がダイナミックに動く中でどうするかは、市場を見ながら動く、と皆様にご案内させていただいていますが、その中で下方修正した方がいいだろう、ということになりました。

 年初に発表した目標台数は、かなりアグレッシブな数字でした。しかし同時に「アグレッシブだとわかっているが実現できると思う。だが、方向転換もする」と発表しています。商品ポリシーがコロコロ変わるのはいけません。しかし、ビジネス展開を状況に合わせて変えないのはおかしい。それでは競合に置いて行かれてしまいます。

 エレキ全体の最終損益は変えていません。現在第3四半期の状況を見ているところですが、その上でなにか上昇・下降の激しいインパクトがある、とは見ていません。

 戦略の見直しについては、マーケットシェア「だけ」を徹底的におっかけることはしません。シェアも大事ですが、その前に利益体質・利益重視のオペレーションをしてください、とソニーモバイルのマネジメントとも方針を共有しています。

 今回も「Xperia E3」という製品を発表させていただきました。これは普及価格帯のものです。これも引き続きやっていきますが、フラッグシップの派生として「Z3 Compact」や「Z3 Tablet Compact」などに力を入れて、ソニーらしさがアピールできるところ、技術がアピールできるところにシフトし、ウェイトをかけることが大事かと思います。

 「シェアをとってなんぼ」という議論もありますが、そこにあんまり足をふみこむと、結局シェアは取れたが赤字、ということにもなりかねません。それでは将来につながらない、ということになるので、そこの軌道修正をした、というのがメインです。

 中国メーカーがどういう商品戦略をしてくるかわからないので、戦う・戦わないの議論はしにくいですが、ソニーの持っている技術の強み、グループとして貢献できるもの、コンテンツ・アプリでソニーらしさをアピールしていくのがポイントかと思います。

 責任論・組織改編論として、ソニーモバイル上層部の刷新も含む策については、平井社長は明確に否定した、

平井:過去、ソニーはいろんな事業のトップの入れ替えが激しすぎました。トップが安定していないと、安定的なビジネスはできません。ソニーモバイルのトップには、その責務を全うしてもらいたい、最後までがんばって欲しいと考えています。テレビ事業も同様です。

 なお、日本ではSIMロックフリー端末の議論が盛り上がっており、「ソニー本体から、SIMロックフリーの端末を」という声もある。その可能性については、「当然議論としてはある。市場性・ニーズを見ながらの展開になります」(平井)と今後に含みを持たせた。

「感動軸」商品を訴求、α7sやバランス型ヘッドホンに高い評価

 ソニーは現在「感動(WOW)」をキャッチフレーズとして多用する。IFAのプレスカンファレンスでも、「1月・CESの基調講演で、平井は何度“WOW"と言ったか」という、自虐的な話題も出た。(正解は24回)

 その感動軸製品として、高く評価しているのがPS4、そしてカメラだ。

α7S

平井:デジタルイメージングの領域も、ローエンドがスマートフォンに取られている中で、「撮影」を新たな感動軸で考えた時には、ミラーレスの市場を特に広げようと考えています。その中でも「技術者はよくやってくれたなと思うのが、「α7s」です。ISO感度が最高409600ですから。私も頻繁に厚木(研究開発拠点の厚木テクノロジーセンター)に足を運び、開発を確認しました。あそこまで暗くても写るんだ、ということで感動してきたわけですが。こうしたものが「商品化できる」こと、技術者や商品企画の方々が、我々の思いに答えてくれたのかな、と思います。

 ハイレゾオーディオは、「日本やアジアで広がりつつある」(平井社長)という段階だが、ハイエンドオーディオへのニーズが大きいドイツでは広がりが期待できるジャンル。そういった事情もあり、新製品が積極的に投入された。

平井:今回、ハイレゾ対応機として世界最薄・最軽量の「NWZ-A15」を発表しましたが、これは、お客様からのご要望として「普及価格帯のポータブルをもう少しやってくれないか」というお声をいただいたので、というところもあります。

ウォークマン「NWZ-A15」

 「PHA-2」というポータブルアンプを昨年発売し、かなりご好評をいただきましたが、私がオーディオの技術者と話し合う中で盛り上がってきて、「これからどうするんだ」という話になったら、「平井さん、まだまだやることはありますよ、バランス型のヘッドホンやるんですよ」ということになったんです。「え?! ポータブルでバランス型までやるの?」と、最初は冗談かと思ったんですが、ちゃんと開発してもってきてくれて。アンプである「PHA-3AC」とヘッドホンの「MDR-Z7」の組み合わせで、ということになりますが、徹底的な拘りというか「ポータブルの世界でも徹底的にここまで音を楽しんでもらうんだ」ということで、商品企画が作り込んでくれました。私も話を聞いて、「これは面白いから徹底的に掘ってくれ」ということで盛り上がった結果、ああいう形で商品として出てきたんです。

バランス接続対応のポータブルヘッドフォンアンプ「PHA-3AC」とヘッドフォン「MDR-Z7」

 パナソニックさんがテクニクスを復活させましたが、そこもおそらく、オーディオの部分にはまだまだ価値がある、ということを訴求されるつもりだからでしょう。いずれにしても、「オーディオは(ビジネスとして)もうないんじゃないの?」と長く言われましたが、新しい音楽の楽しみ方を提供することで、まだまだ市場はある。パナソニックさんも、そう思っていらっしゃるのではないか、と私も思っています。

ソニーヨーロッパ 玉川勝プレジデント

 欧州市場では、ソニーのテレビ事業が好調だ。現状については、ソニーヨーロッパの玉川勝プレジデントから説明があった。

玉川:欧州のテレビ市場について「7割増やした」とお話ししましたが、これは戦う領域を明確に、紹介すべきものにフォーカスした事が大きいのだとおもいます。また、数字は12年から13年の話ですので、基本的には2Kで、すべてのジャンルを総合し、販売台数が70%増えました。中でも牽引したのが50型以上の、大型の領域です。4K市場をつくってその中でシェア拡大が、今年の戦略です。

テレビの販売数量は70%アップ
湾曲4K液晶テレビも展開

PS4ヒットの理由は「ソーシャル性」。スマホ向けリモートプレイはXperia独占

 ソニーにとって、2014年の明るい話題は、やはり「PS4のヒット」だ。「感動軸として、ゲームが受け入れられた」と平井社長は話す。PS4がヒットに至った理由について、SCE内部でも様々な分析がなされている。平井社長は「古巣」の成功について、次のような分析を語った。

平井:PS4を出す前、「コンソールビジネスに可能性はもうない、スマホでいい」という議論でした。確かにその状況は否定しません。しかし、あえて「そこで体験できないものはなにか」を徹底的に議論し、高画質とか大画面向けのゲームの価値といったものを積み上げることで、支持していただけるものになりました。これはPS3の反省ですが、x86ベースの機器とすることで、比較的に簡単に開発が行なえるようにしたこともプラスだったでしょう。

 ですが、なにより、いままでのゲームプレイを越えてソーシャルな体験を共有できるようにしたことが重要です。要は、ゲームをいつでもブロードキャストし、「こんなトリックプレイができたぜ」と自慢できるようにしたんです。対戦だけでなく「関わり合い」ができるプラットフォームにしたことが評価されました。

 こうした、「コンソールだからできる、厚みのある体験」が、ヒットの要因だと考えます。

 ですがやはり、なんといっても、楽しいゲームが揃ってきているのが大事です。PS4の日本向けタイトルについては、年末までに44本が準備されます。

 1,000万台が予想外だったか、ということですか?

 社内では色々な想定の元、議論をしていました。その中で「ここまで売れたらいいね」と言っていた数字の中でも上の方の数字である、というのは事実です。非常に評価が高く、満足すべき結果です。ただし、日本市場についてはもう少しがんばりたい、と思いますが。

 PS1の時から変わらない戦略ではありますが、ゲーム機はまず「ゲーマー」の方に買っていただきます。その後、いかにグレーだったりライトだったりする方々に提供していくか、ということになります。そこでは、色々なサービスがゲームと同時に提供されることが重要です。

 そして、その段階でもコアの人々に「支持し続けていただく」ことが大切です。このバランスをいかに保つかが、より台数を広げていくためには必要なことです。

 Xperia Z3シリーズでは、これまでPS Vita/Vita TVでのみできた「PS4とのリモートプレイ」が機能として提供される。その狙いと、スマートフォン拡販上の価値はどうだろうか?

Xperia Z3ではPS4のリモートプレイに対応。PS4コントローラとBluetooth接続してプレイも

平井:PS4のリモートプレイは、当面Xperiaエクスクルーシブでやります。Xperiaでのみ楽しんでいただけるものとしています。欧米、特に米国仕様においては、携帯電話事業者とお話している中で、リモートプレイの存在が、Xperiaを採用していただく材料とはなる、と思います。それだけでマーケットをとっていくのは非常に難しいかとは思いますが、ソニーらしさを携帯電話事業者にアピールする、携帯電話事業者がお客様にソニーらしさとしてアピールする、という点においては、有効です。ただそれに合わせて、他のアプリやスマートフォンとしての基本性能が同時に大事になる、と考えます。

VAIOは「昔の仲間」、支援はするが一線を引く

 今年の7月1日、ソニーのPC部門が切り離され、「VAIO株式会社」として独立した。その結果、ソニーにはPCというパーツがなくなったが、今後のブランド的な連携などはどうなるのだろうか?

平井:完全に関係が絶たれたわけではなく、5%は株式を持っています。今後もマーケティング的な部分では支援をします。例えば、映画の中でパソコンが出てくる必要がある場面があれば、まず高取さん(高行氏。VAIO株式会社代表取締役社長)に電話し、「どうでしょうか」と声をかけますよ。

 VAIOというブランドは、基本的にVAIO株式会社のものです。よほど我々とバッティングするのでない限り、こちらがVAIO、という名前を使うことはありません。私の判断として、彼らに社名・製品名として使っていい、という形にしたわけですから、なるべくサポートしてあげたい気持ちがあります。別の会社ではありますが、昔の仲間ですからサポートしてあげたい気持ちはあります。マーケティングでもブランディングでも前向きに検討します。

 ソニーグループにも14万人の関係者がいます。全員がPCを使うわけではないですが、会社のパソコンとして、「用途に合う製品がある」ということが前提とはなりますが、なるべくVAIOを使いたい、という意識はあります。

 すなわち、VAIOはVAIOで「独立して」やってもらう一方で、ソニーとしての支援も行なう、ということではある。だが、その関係は「家族」というより、彼の言葉にあった通り「昔の仲間」という、少々距離を置いたものになっていることも感じられる。

ウェアラブルは「デザイン重視」で協業も視野に

 今回のIFAでは、各メーカーがこぞってウェアラブル商品・スマートウォッチの製品化を進めている。ソニーは以前からこのジャンルに積極的だが、今回は以前から製品化しているものの強化・進化モデルに加え、1月のCESで展示した「スマートアイグラス」の進化モデルも展示した。

ウェアラブル展開は他社協業も視野に

 だが、ウェアラブル機器は参入合戦の状態にあり、すでに過当競争との見方もある。その中でのビジネスの勝算を、どう見ているのだろうか。

平井:ウェアラブル市場の可能性は高いと思っています。2014年の市場規模が20億ドル、2018年には200億ドル市場になる、との予測もあります。

 以前から申し上げているように、ウェアラブルは「不動産」です。腕につけるブレスレットは2つまでだし、メガネは1つ。4つはかけられません。その場所を占めた後の参入障壁は非常に高く、一等地の確保が重要です。

 現在、あらゆる企業が出てこようとしています。しかしそれは「過当競争」というより、まだヒットが見えていないところでの戦い、トライアルの段階だと考えます。機能・大きさ・デザイン、なにがヒットするか、どう勝者が出るかはわかりません。

 しかし、私がとても重要だと思っているのは「デザイン」です。グラス系は特に目立ちます。「スマートアイグラス」については、前のプロトタイプが「これはちょっとやり直そうという」デザインだったので、私からも「デザイナーが自信をもって、満員の山手線内でかけられないといけない。そこまでもっていくのが勝負」と話しました。

スマートグラスも参考展示

 どんないい機能があっても、ファッション性がないといけません。

 それが本当にソニーだけで出来るとは限りません。場合によっては、外部の企業、例えばメガネメーカーとコラボレーションをする可能性もあるでしょう。機能一点では決まりませんよ。

 昨日も「いままでのウェアラブルは男性っぽすぎる。人口の半分は女性なんですから」という議論になりました。センスのある会社とのデザインコラボなども、オープンマインドをもって臨みたいです。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41