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Ultra HD Blu-ray再生機登場。「DMR-UBZ1」のこだわり

新4K BDとともに4K処理を一新。40万円レコーダの価値

 パナソニックは10月末より、世界初のUltra HD Blu-ray再生対応BDレコーダ「DMR-UBZ1」(以下UBZ1)を発売した。40万円という高価な製品ではあるが、売れ行きは好調であるようだ。

 Ultra HD Blu-rayは4K解像度+HDRに対応する次世代光ディスクであり、なによりそこがUBZ1の特徴である。だが、それだけでなく、現時点でパナソニックが提案しうる「ハイクオリティAVセンター」であることが、UBZ1のもう一つの本質である。

 今回は、開発・商品企画に携わった人々に、UBZ1の狙いについて聞いてみた。お話を伺ったのは、画質技術の設計を担当した、パナソニック アプライアンス社 ビデオ商品技術グループ 主幹技師の甲野和彦氏と、商品企画担当の神高知子氏、中西智紀氏だ。

左から、商品企画担当の神高知子氏、中西智紀氏、画質設計の甲野和彦氏

4Kと2Kで処理分割、各社の「味付け」はHDR-SDR変換で出る?!

 すでに述べたように、UBZ1の最大の特徴は「Ultra HD Blu-ray対応」である。すなわち、高画質プレーヤーであることがまずは重要だ。

DMR-UBZ1本体。同社のフラッグシップ機として、高級感のあるデザインになっている。

 だが、パナソニックの商品として位置付けは、「ハイエンドBDレコーダ」でもある。同社のハイエンドBDレコーダとしては、2013年発売の「DMR-BZT9600」以来、2年ぶりの後継機種でもある。

商品企画担当の中西智紀氏

中西氏(以下敬称略):9600以来2年ぶりの商品切り替えで、世界初のUltra HD Blu-ray再生対応機です。単に再生できるだけでなく、他社が今後再生専用のプレーヤーを出してきたとしても追いつけない、というところを狙いました。

 UBZ1は、映像系の回路を2系統搭載している。2Kまでを担当する部分はBZT9600から進化させたものをそのまま使い、Ultra HD Bu-rayに代表される「4K」については、新たに開発した画質エンジンが対応する。

画質設計担当の甲野和彦氏

甲野:2チップ構成にすることで、9600で達成されていたことがそのまま落とすことなく、まるまる入ります。それに4Kが追加された、という内容です。

 フレームレートについて、2Kでは特に日本での放送向けに、60「i」(インタレース)があったのですが、Ultra HD Blu-rayの規格にはインタレースはありませんし、他の4Kも全てプログレッシブ。ですから、4K側は全てプログレッシブになります。ご存知の通り、Ultra HD Blu-rayでは階調が8bitから10bitになりますから、豊かな色表現が可能になります。プログレッシブ変換が不要になるということは、さらにクロマアップサンプリングの重要度が増す、ということでもあり、そこに注力したエンジンになっています。

 Netflixなどの配信で4K対応のものが出てきて、当然UBZ1も対応しています。楽しみかたの拡大としては非常に良いことなのですが、やはりビットレートは低い。ここがパッケージの優位点だと思っていて、Ultra HD Blu-rayではビットレートがビデオだけで100Mbpsとなります。100Mbpsを安定してキープできるため、元の映像に遜色ない映像が楽しめます。

対応テレビにUltra HD Blu-rayの映像が入力されると、次のような表示が

 UBZ1はUltra HD Blu-ray対応が注目されるものの、Netflixをはじめとした「4K配信」にも対応している。これは、「主にプロジェクタユーザーの方々のニーズを考えてのこと」(中西氏)だという。Netflix再生機能内蔵の4Kテレビなら表示できるが、プロジェクタ内蔵という話はないし、買い換えるのも困難。UBZ1で対応すれば、4Kコンテンツを楽しむ方法が1つ増えることになる。すでに述べたように、UBZ1は2チップ構成だが、ネット配信も含めすべての4Kの処理と、既存の2K処理で切り分けられている。解像度や色域、圧縮コーデックであるHEVCへの対応と、4K映像はメディアを問わず、処理の共通項がきわめて多いためだ。

 そして、中でも最も大きな要素が「HDR」対応となる。

甲野:HDRについて、Ultra HD Blu-rayで採用したのは「PQカーブ」と呼ばれている、もともとはドルビーが提唱したガンマカーブです。これがSMPTE2084という国際規格になっています。PQとはPerceptual Quantizer、すなわち知覚的な量子化、人間の知覚特性に近い形でダイナミックレンジの量子化誤差が目立たないようにする方式です。単純に言えば、従来よりも暗い部分にビット階調を割り振ることになります。

 当然、HDRのコンテンツ、PQカーブに対応したコンテンツが来たらHDR対応のディスプレイで見ていただくのが基本なのですが、まだ対応機種は多くありません、VIERAでも、CX800シリーズだけです。そこで、テレビがHDRに対応していない時には、EDID(どの信号に対応しているかをディスプレイの側から取得するID)でわかりますから、その時はSDR信号に変換して出力します。変換機能のサポートは規格で決まっていますが、その中身ややり方までは規定していません。ですから、今後各社で機器が出てきた際には、ここで結構ばらつきが出る可能性があります。

 UBZ1の場合は「ダイナミックレンジ変換」という機能がそれにあたる。通常はディスプレイの対応状況を判断して動作するのでいじる必要はないが、効き具合を12段階で調節可能になっている。特に暗部の表現で好みがある場合、いじってみるのも面白そうだ。

HDR非対応の機器でHDR映像を再生する場合には、「ダイナミックレンジ変換」が行なわれる。基本的には最適になるよう出力されるが、自ら調整を行なうこともできる

 今回、UBZ1はUltra HD Blu-rayの規格に忠実に映像を出力することを目標として開発されている。「Ultra HD Blu-rayの規格パフォーマンスはすごく高く、そのパフォーマンスをフルに見られるディスプレイはまだない。どちからと言えば、ディスプレイ技術がついていけていない状況」と甲野氏はいう。

甲野:まだソフトウエアも準備段階で、年明けから徐々に出てくる、と聞いています。Ultra HD Blu-rayは、メディアの普及という意味では緩やかでしょう。しかし、本当にフォーマット、「コンテンツを入れる箱」としては大きいものです。個人的にも、HDRをきっちり入れたコンテンツが出てくるとどうなるのか、期待しています。

 ですから、マニアの方にきっちり認めていただけるものにすることが重要と考えました。良い映像による良い体験に興味を持っていただけるお客様が増えるといいのですが。

コストを「重さ」にかけて高音質化

 一般にはもちろん、Ultra HD Blu-rayによって画質が上がることが、もっとも大きなトピックといえよう。だが「映像を見て楽しむ」という観点でいえば、解像度以外の要素も、音質も重要になってくる。現在、Ultra HD Blu-rayに興味を持つのは、AVにこだわりを持つ人々のはず。能力をフルに生かすには、パナソニックのVIERA CX800シリーズをはじめとした、「4K+HDR対応」の大画面高画質テレビが必要になる。それだけの環境をそろえ、いち早くUltra HD Blu-rayソフトを体感したい、という人ならば、再生機器が「とりあえず再生はできます」というレベルでは満足しないだろう。すでにハイエンドBDプレーヤー(もしくはレコーダ)を持っていて、その代替としてUBZ1を選ぶことになるだろう。

 だからこそ、ベースモデルは、ハイエンドBDレコーダとして定評があり、2年を経たいまでもある種の「到達点」として支持されているBZT9600が選ばれることになった。BZT9600も、発売当初は40万円前後と高価な製品だったが、長く使われることで、愛好家に対して「コストに見合う価値」を提供してきた。いまUltra HD Blu-ray再生機器を商品化するのであれば、BZT9600と同じように「高価だが価値があり、長く使える製品を」という発想になったのは頷ける。

中西:買い替え需要も多い機種ということで、「退化」は許さないモデルです。そのため、開発上のハードルもありました。特に大きいのは音質の部分です。Ultra HD Blu-rayにドライブを対応させると、回転数が上がってきます。どうしても振動、ノイズにつながりかねません。今回はそれをどう抑え込んでDIGA史上最高音質を目指すか、というところが重要でした。

 そうした部分は、本体構造を「3ブロック独立構成」にすることで実現した。要は、アナログオーディオ部とディスクドライブ、デジタル部を分割し、相互干渉が起きづらい構造にしたわけだ。ドライブの底面には1.2mm厚の鉄板を敷き、デジタル部とドライブを独立させて振動を抑え、ドライブはシェルターで覆うことでアナログオーディオ部への影響も防いでいる。都合、シャシーは4層構造になるのだが、それぞれ素材が違うので共振もしない。

UBZ1のUltra HD Blu-ray対応ドライブのカバー
UBZ1の内部。アナログオーディオ部・ディスクドライブ・デジタル部を分割し、相互の干渉を抑えた「3ブロック独立構成」になっている

 インシュレーターについても、BZT9600ではセラミックを樹脂で覆ったものだったのだが、炭素含有量の多い「ハイカーボン鋳鉄」に変えた。ハイカーボン鋳鉄は密度が非常に高く重たい素材。今回は厚みのある低音を目指し、この素材が採用されている。

UBZ1のインシュレーター
左がUBZ1の、右がBZT9600のインシュレーター

 ボディ構造やインシュレーターに手を入れた結果、UBZ1は見かけ以上に「重い」製品になった。'15年冬モデルのDIGAは1.8〜2.5kg、従来のBZT9600も7.7kgで相当重い製品だったが、UBZ1は8.2kgにボリュームアップしている。「物量にお金をかけています」と開発陣も笑う。

 本体のUSBコネクターに接続し、本体内部の電源ノイズを低減する「USBパワーコンディショナー」が付属するのだが、こちらも地味に改善し「MK II」になっている。外見はロゴ以外差がないのだが、音質は「MK IIの方が確実にいい」(甲野氏)という。

付属のUSBパワーコンディショナー・MK II。音質改善効果はMK Iより向上していうという
UBZ1のリモコン。右上にNetflixボタンがあるのだが、特別にリモコンのデザインに合わせた「シルバー地」のボタンだ

 音質系にお金をかけただけでなく、リモコンにもお金をかけた新規設計としている。すでに述べたように、UBZ1にはNetflixの視聴機能があり、その関係で「NETFLIXボタン」も用意されている。、ボタンの色は金属質のリモコンに合わせ、シルバーに赤。Netflixのロゴは白地に赤で、リモコンのNETFLIXボタンも「白地に赤」とブランドルールで決められているのだが、「どうしても、ということで交渉してシルバーにした」(神高氏)のだという。

録画はまだまだ先、当面4Kは「視聴」中心

 UBZ1は、Ultra HD Blu-ray「再生」対応レコーダではあるが「Ultra HD Blu-rayレコーダ」ではない。現状、Ultra HD Blu-rayには録画規格がなく、4Kのリムーバブルメディア録画についても、ルールが定まっていない。今後の4K放送を機器側でどう扱うかも未確定な部分が多い。だから、こうした性質の機器になるのは当然だし、ニーズを考えても論理的な選択と考える。だが、事情を知らない人には、少々複雑かとも思う。

レコーダ商品企画担当の神高知子氏

神高:現状のお客様を見る限り、この製品をお買いになる方々が誤解する、ということはないようです。買われる方は「最初から分かっている」方ですので。しかし、最初から分かっている方もいれば、そうでない方もいるのは事実です。レコーダとして考えると、どの時点で「録画して残しておきたいコンテンツ」が出てくるのかな、というのが気がかりではあります。

 あえて事情を分かっておられて、「スカパー4Kのチューナを入れて欲しかった」というお声はいただきますね。「今世の中にある4Kコンテンツは全てこの製品で見られる」という風にしたい、というお話なのですが。商品の設計として、チューナーを入れるともう一段階大変になりますし、現状で、購入された方のうちどれだけの方がご覧になるのか、という点も加味すると、難しいところはあります。

 現在は、SVODや見逃し配信も出てきて、「レコーダ」「録画」の価値が問い直される時期とも言える。4K放送に合わせ、いろいろな仕組みも変わってきそうだが、まだ先は見えない。放送業界の一部には「コピーネバー導入を」といった話もあるように聞く。筆者個人としてはそうなって欲しくないし、今と同じ程度の自由度は欲しいと考える。

 「4Kと録画」は、まだ少し時間がかかりそうだ。まず4KとUltra HD Blu-rayの関係は「見る」ところを軸に回っていくのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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