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UB9000超えのディーガ最高峰「ZR1」に迫る。AV愛好家マストアイテム!?
2021年12月16日 12:16
“究極の4K録画再生機”を目標に掲げ、パナソニックのディーガ開発陣が最高グレードの画音質を追求したプレミアムレコーダー「DMR-ZR1」が、2022年1月28日に発売される。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は36万円前後。
基本的な機能や仕様は既報の通りだが、本稿では、ZR1の画質・音質機能の詳細とデモ機によるミニレビューをお伝えする。視聴に関しては限られた時間ではあったものの、同社の再生専用プレーヤーDP-UB9000を超える映像品質を体感。品質・機能共に、ハイエンドユーザー注目の製品となっていた。
全ては「UB9000を超えるため」。アナログ出力撤廃、電源・回路見直し
ZR1は、2015年に発売された世界初のUHD BD再生対応BDレコーダー「DMR-UBZ1」と、2018年に発売されたUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」の系譜を継ぐ、ディーガのプレミアムモデルだ。プレミアムクラスのBDレコーダーはUBZ1以来、6年振りの発売となる。
ZR1を開発したのは、歴代のBDレコーダーや上述のUBZ1、UB9000なども手掛けたディーガチーム。「最高の4Kプレーヤーを作る」というスローガンを掲げ、UB9000を生み出したメンバーが、今度は「決定版の4Kレコーダー、究極の4K録再機」を目標に、足かけ3年をかけて完成させた。
長年ディーガのハイエンドモデル等の開発に携わってきた甲野氏は、「放送やパッケージ、VODなど、4Kコンテンツが充実してきており、映画館を超えるAV体験が、家庭で楽しめる環境が整いつつある。そのような中で求められるのは、全ての4Kコンテンツを最高のクオリティで扱える製品。2006年から続く、ブルーレイディーガ15年の技術蓄積と、高級DVDプレーヤー、UniPhier、ハリウッド連携、Technics連携で培ったDNAを活かすことで、UB9000の再生性能を大きく超える4K録再機を目指した」と開発の狙いを語る。
なお、8Kチューナーを搭載しなかった事について、甲野氏は「我々の技術資産を最大限に活かすことが出来るのは、現状はまだ4K。例えば、8K放送のストリームをデコードしようとしても、今のディーガで使っているチップではそれができない。8Kを扱うには、これまでとは異なる技術・ノウハウが必要になる。対する4Kは現在成熟しつつあり、『我々が持ちうる技術をフルに投入した最高の製品を、一度は作っておきたい。やるなら今だし、今しかない』と考えた」と話す。
ZR1を開発するにあたり、掲げた設計コンセプトは3つ。
- UB9000を超える基本画質/音質
- 新たな画質&音質価値の提案
- 使いやすさの徹底追及
中でも、“UB9000を超える基本画質/音質”が最大の課題だったという。
「オールインワンの4K録再機が出来たとしても、“クオリティがUB9000に敵わないモデル”では作る意味がない。その一方で我々は、UB9000の開発でデジタルAV信号処理でのクオリティアップはほぼ完成の域にあるという自負もあった。そのため、UB9000の再生品位を超えるには、信号処理だけではない、別のアプローチが必要だった」(甲野氏)。
そこでディーガチームが取り組んだのが、電源、電気回路、筐体の抜本的な見直しという“アナログ的アプローチ”。UB9000を超えるために、音声DACを含むアナログオーディオ基板やアナログ専用電源を排除し、その物量をデジタル/ドライブ電源に集中投下しつつ、各回路を徹底的にブラッシュアップする方法が採られた。
では具体的に、ZR1で採用された高画質・高音質設計とはどのようなものか。
まず筐体は、2018年発売のUB9000の構造とベースシャーシを継承。
底部を支えるシャーシは、1.2mm厚鋼板インナーシャーシに1.6mm厚×3層の鋼板を積層した計4層6mm厚、重さ5.6kgという重量級ベースシャーシを使用。ハイカーボン鋳鉄インシュレーターと併せて筐体の大幅な低重心化を実現し、不要な振動を低減した。
フロントパネルには7mm厚のアルミ押し出し材をベースに切削加工を施した専用部材を投入。サイドパネルにも3mm厚のアルミ押し出し材を採用し、前と横からベースシャーシに固定させることで、筐体の剛性を強化。トップパネルにも板厚の異なる2層鋼板を組み付けることで、制振性を向上させた。
大きな振動源になるUHD BDドライブに関しては、3層5.2mm厚の鋼板を使ったドライブベースにマウント。加えてドライブ全体を深絞り鋼板の高剛性シェルターで覆うことで、ディスク回転時の不要な振動と騒音を抑制。さらにドライブを筐体中央に配置し、ドライブベースと一体構成された2本のフレームを、前述のフロントパネルとリアパネルに締結することで剛性を強化した。
UHD BDドライブ同様、HDDにも専用ドライブベースを新開発。厚さが異なる2種類の鋼板(3.2mm厚+0.8mm厚)を貼り合わせ、専用ドライブベースにHDDを直付け・固定することで回転による振動を大幅に低減。内蔵するHDDは全数検査済で、低回転タイプのものを選別しているという。
音質設計を担当した宮本氏によれば、基本音質・画質を底上げするキモになったのが“独立電源”だったとのこと。
「UB9000の電源はアナログ専用電源とデジタル/ドライブ兼用電源という構成だった。ZR1はアナログ専用電源を排除し、デジタル専用とドライブ専用に分離。これにより、各々に最適かつ強力な電源供給、そして光ディスクやHDDからデジタル系へのノイズ低減に繋がった」のだという。甲野氏も「まず最初に着手したのが、独立電源だった。電源を見直しが非常に重要で、画音の向上を見て、UB9000を超える手応えを掴んだ」と話す。
UB9000では面積の1/3が占められていた回路基板も、ZR1では余剰分の回路資源をデジタル系に集中投下。
システムクロック用には、超低位相ノイズ水晶発振器とその性能を活かすためのローカルレギュレーターおよび高周波特性の良いチップフィルムコンデンサー(一般的にはDAコンバーター周りに使われるグレードのもの)を採用。AVクロック用に対しても、超低ジッターPLLとローカルレギュレーターおよびチップフィルムコンデンサーを採用することで、徹底した低クロックジッター設計を図った。
UB9000比で約15dBもの改善効果が得られた超低位相ノイズ水晶発振器は、高性能ゆえに、軍事転用扱いのパーツで輸出規制があるものだそうだが、「クオリティ向上のために、無理を言って採用した」(宮本氏)という。
ルビーマイカコンデンサーと非磁性の炭素被膜抵抗による「USBパワーコンディショナー回路」は、UB9000のUSBフロントに加え、ZR1では、USBリアと2系統のHDMI電源回路にも投入することで、ノイズ対策を徹底。またHDMI出力回路周辺にも、高周波ノイズを低減用のチップフィルムコンデンサーとチップビーズを追加する事で、ディスプレイ機器からの回り込みノイズを抑えている。
ネット動画のクオリティアップを目的に、LAN端子部もブラッシュアップ。UB9000などの従来モデルでは、ギガビットイーサネット用ICに含まれる発振回路を使っていたが、ZR1では外付けの超低ジッター水晶発振器を搭載し、そこに低ノイズ電源を供給するためのローカルレギュレータ、チップフィルムコンデンサーを採用した。
さらに、同軸デジタル音声出力回路には、Technics高級モデル(SU-R1)と同等の出力トランス、真鍮削り出しの端子を採用。高周波ノイズが回り込むシャーシGNDから分離させることで出力性能を強化させている。
甲野氏は、「こうした電源や回路等の見直しは主に、音質の改善を中心としたものだが、結果的には基本画質の改善にも大きく寄与した」と振り返る。
4K放送を楽しむ機能が満載。22.2ch音声のAtmos再生を実現
2番目の設計コンセプト“新たな画質&音質価値の提案”では、ディーガのデジタルAV信号処理に更なる磨きがかかっている。
その代表的な例が、4K放送の24p/30p変換出力だ。
しかし60pの4K放送を、なぜわざわざ24p/30pに変換する必要があるのか。
甲野氏は、4Kで放送されている映画とドラマの実フレーム数を調査(番組を録画してコマ送り再生してフレーム数を調査)したところ、79の映画作品中70番組が24p素材(3-2プルダウンで放送)、そして64のドラマ作品中51番組が30p素材(同じコマを2度書き)であることが分かった。つまり、ダブったコマが余分に送られているわけだ。
しかも4K60p信号の場合、HDMI2.0の帯域制限(18Gbps)により、4K60p 4:2:2 12bitまで(17.82Gbps)しか伝送することができず、ディーガが得意とするクロマアップサンプリング処理(4:2:0→4:4:4)をフルに活かすことができない。
そこで開発陣は、60pに変換されてしまったこれらの素材を、元のフレーム数に戻して出力する機能を考案。24p/30pに変換すれば、ディーガからディスプレイへ、クロマ処理を施した状態4:4:4 12bit(13.37Gbps)で伝送することができるようになる。さらにディスプレイ側での24Hz均等駆動、および低フレームレートによる階調性能向上(DLPプロジェクターは時間軸で分解能を出すため、フレーム周期が下がった方が階調性能が上がる)が期待され、結果4K放送における映画・ドラマをさらに高品位に楽しめるようになっている。
映像字幕の輝度低減も、ZR1で追加された新機能。これまでディーガではUHD BD/BDビデオなどを再生する際、字幕の位置や明るさを変更することができたが、映像に重畳された映画放送の字幕は変更できなかった。
ZR1では、字幕の輝度だけを低減する特殊技術を開発(特許出願中)。メニューでON(弱/強)にすると、ディーガがフレーム毎に分析・動的処理を行ない、眩しさを感じやすい、暗いシーンでの字幕輝度を低減してくれる。
HDD録画、BDダビングされた素材という条件は付くものの、4K/HDR放送映画における輝度低減は効果が絶大。字幕による“目潰し”がなく、暗いシーンでも暗部の微妙な階調がしっかり見て取れる。ライトを落として映画視聴を愉しむ有機ELテレビやプロジェクターユーザーに重宝されそうだ。
HDR素材に対するトーンマップ機能も、ブラッシュアップされている。
4Kディーガなどでは、HDR素材の明るさを調整する「①ダイナミックレンジ調整」、暗部を調整する「②システムガンマ調整」の2項目があり、明るく高コントラストで見たい時は①アップ②ダウン、明るさとコントラストを抑えて見たいときは①ダウン②アップ、という調整方法を案内していたが、操作が難しいという声があった。
ZR1では、ダイナミックレンジ調整を操作するだけで、システムガンマが自動的に連動するモードを新設。併せてシステムガンマの調整値を倍に増やし(±12)、使いやすさと暗部の調整精度を高めている。
そして、音質面での最大のトピックが「22.2ch音声→Dolby Atmos変換」だ。
4Kディーガはレコ-ダーで唯一、NHK BS4Kで放送される22.2ch番組の音声を、22.2chのまま録画・ダビング・ビットストリーム出力できる機能を備えている(ソニーやシャープの4Kレコーダーは最大5.1ch音声までしか録画・ダビングできない)。
しかし、22.2chに対応したサウンドシステムは非常に限られる上、家庭で22.2chの再生環境を用意するのは現実的に難しいと言う課題があった。
そこでパナソニックは、ドルビーと共同で、22.2chの音声情報をそのままDolby Atmos信号に変換し、HDMIを通してDolby Atmos対応機器に伝送する技術を開発。業界で初めて、ZR1に搭載した。
具体的には、4K放送のMPEG-2 AAC 22.2ch(48kHz,16bit)の音声を、PCMにフルデコード。デコードした22.2chのPCMデータに対応するスピーカーは、Dolby Atmosの“動かないオブジェクト”として扱う。そして、マルチチャンネルPCMに位置情報を付与した信号をDolby MAT(Metadata-enhanced Audio Transmission)コンテナに格納し伝送する仕組み。
Dolby Atmos対応機器は、Dolby MATコンテナのDolby Atmos信号に対応(マンダトリー)しているため、AVアンプやサウンドバー、テレビなど、既存のAtmos対応機器で、オリジナルが持つ立体的な音場を再現することができる。
開発陣は、変換前の22.2ch音声とAtmos変換後の音声を比較視聴し、変換後も遜色のない立体音場が再現できていることを確認済みとのこと。「開発を通して、22.2ch番組の音声は、しっかり作り込まれていると改めて感じた。NHK BS4Kでは、音楽ライブやコンサート、ドキュメンタリー、ドラマ、スポーツなどの22.2ch番組があり、映画とはひと味異なる、立体音場の楽しみが味わってもらえるのではないか」と話す。
4K/22.2chの番組は、紅白歌合戦や東京2020 パラリンピック(開閉会式など)、NHK杯フィギュアハイライト、8Kスーパーライブ、ドラマ「スパイの妻」、「太陽の子」、「浮世の画家」など、もともとはNHK BS8K放送用に制作されたコンテンツのため、NHK BS4Kでの放送も稀だ。しかし、手持ちのAtmos対応機器で、22.2ch音声が従来よりも手軽に体感できるようになった意義は大きいと思う。
UB9000超えを体感。ZR1は、AV愛好家のマストアイテム
短時間ながら、ZR1の試作機をパナソニックのデモルームで見ることができた。比較再生には、DP-UB9000を用意。表示するディスプレイには、'20年発売の4K有機ELビエラ「TH-65HZ2000」を組み合わせた。なおデモルームの関係上、映像のみの視聴だったため、音声を聞くことはできなかった。
まず観たのは、NHK BS4Kで放送された「8Kスペシャルドラマ 浮世の画家」(録画BD)。UB9000でしばらく再生した後、ZR1に切り替えた映像を観て驚いた。UB9000よりも明らかにコントラストが高くなり、精細感が増している。色数や暗部の階調も豊か。そして何より全体のヌケ感がハンパない。月並みな表現だが、ZR1の画は、まるで1枚ベールを剥ぎ取ったかのようにリッチで生々しい。
次にNetflixで「Mank/マンク」(有線LAN接続、4K/60p出力)を視聴した。ここでもZR1のヌケの良さが作品のディテールをこれでもかと引き出してくれる。陰影の描写やドレスにあしらわれたラメの輝きなど、UB9000再生の時には気が付かなかった部分が見えてくる。再度UB9000に戻して再生すると、全体がモッサリとして、何だかメリハリのない画。もうこの画には戻れないだろう。
最後にUHD BD「マリアンヌ」(4K/24p出力)を再生した。ブラッド・ピットがカサブランカのクラブへと向かうシーン。「浮世の画家」「Mank/マンク」で感じたのと同様、SNの良い透明感のある描写に目を見張る。全景カットの奥行き感も素晴らしく、ボンネットの反射光もピークが伸びて艶やかだ。UHD BDプレーヤーの最高峰UB9000を発売したあとに、レコーダーでこの画を出してくるのは、「パナソニックさん、反則でしょ」としか言い様がない。
ZR1の画質は、「『UB9000を超える』と言っても、所詮はレコーダー。専用機のプレーヤーに敵う訳がないでしょ」という先入観を、良い意味で裏切ってくれた。放送やBDの音、新機能の22.2ch→Atmos変換を試聴することはかなわなかったが、映像でここまでの進化が見られた以上、音質における大幅な進化は間違いない。UB9000ユーザーとしては正直複雑な心境だが、ZR1のコンセプトである“究極の4K録画再生機”は本当だった。
画質音質はもちろん、UB9000にはなかった機能(4K24p/30p出力、Atmos変換、UHD BD/BD音声のfs/bit数表示、録画BDの詳細表示)を考慮すれば、ZR1は、ハイエンドな4K画質・音質を追い求めるAV愛好家のマストアイテムと言えそうだ。
なお、パナソニックによれば、ZR1発売後もUB9000は販売継続する。海外では、DACチップを変更したモデルに切り替わっているが、国内流通モデルに関しては現状、仕様変更の予定もないとのことだ。