西田宗千佳の
― RandomTracking

E3 2010特別編 ニンテンドー3DSをブースで体験

~「見やすい裸眼立体視」の秘密に迫る~


ニンテンドー3DS。実機写真は発表会で撮影したもの

 ニンテンドー3DSの裸眼立体視ディスプレイは、E3会場でも最大の話題だ。今年最長の行列は、任天堂ブースの「3DS体験コーナー」だ。

 初日には3時間待ちということで、他の取材との関係もあり体験できなかったが、最終日の17日の食事時には、なんとか行列が「40分待ち」程度まで短くなり、ブース内での試遊が叶った。

 なお、ブース内の機器はすべて撮影禁止であったため、以下のブース全景を除き、文章のみでの解説となってしまい、わかりにくいかと思うが、ご了承いただきたい。


任天堂の3DS体験ブース。行列後にある程度の人数を集めて、20分間自由に体験する時間を与えられる。すべてのゲームを楽しむには足りないが、3DSの実力をチェックすることは可能だ

 


 

■ 任天堂の「視差調整の魔法」が画質の秘密? 3D視聴は「横」固定

 ブース内で与えられた時間は20分だったので、すべての映像・ゲームをチェックするのは難しい。筆者は「画質チェック」を最大のテーマとして、映像系コンテンツを2つ、ゲーム系コンテンツを4つほどチェックした。

ニンテンドー3DSの上部液晶での3D表示をチェック

 まずは映像だ。実写映像のクリップと、CG映画「How to Train Your Dragon」(Dreamworks)のクリップをチェックした。この時に、会見などで見た映像には「魔法」がかかっていることに気がついた。

 実写映像の方は、実はさほど画質が良くない。視差バリア方式で見られやすいクロストークが多く発生していたからだ。これは、撮影した映像の視差調整がうまくいっていないことを示すもので、以前に見た視差バリア式のデモよりちょっと良い程度でしかなかった。

 他方、「How to Train Your Dragon」の映像はかなりきちんと視差調整が行なわれており、クロストークは生まれていない。CGムービーの場合、事後の視差調整がより簡単だからだろう。

 この点は、ゲームの方をチェックするとさらにはっきりする。

 任天堂がデモ用に作った、マリオやリンクなどのキャラクター表示用のソフトは、クロストークがほとんど感じられなかった。また同じように、任天堂が3DS用として開発に力を入れている「Kid Icarus UPRISING(新・光神話 パルテナの鏡)」は、やはりクロストークの感じられないすっきりした映像だった。

画面右に「3Dボリューム」を装備する

 他方、サードパーティーのタイトルの一部では、いくら3Dボリュームを調整してもクロストークが消えず、3Dに見えにくいタイトルも存在した。

 すなわち、3DSの立体視の見やすさの秘密は、ゲーム機側で3D映像を出力したり、CGムービーを3DS用に変換する際の「視差調整」にある。3D映画の撮影などでも同様の話があったが3Dである限り、ポータブルゲーム機でも同じことなのだろう。

 また特にリアルタイムにCGを生成する場合には、中央と端での視差なども念頭に入れた上での調整が行なえるので、「視差調整の魔法」が効きやすい。任天堂製のゲームデモとサードパーティー製のゲームデモでクオリティに差があったのは、そのあたりのノウハウがまだ共有されていないためと思われる。

 また、3DSの視差バリア液晶は、利用できる方向が「横」に限られている。携帯電話用の視差バリア液晶は、縦方向と横方向の両方に対応しているものが多いのだが、そうすると視差バリア用の液晶の開口部が少なくなり、映像が暗くなりやすい。また、ディスプレイのパーツコストが高くなるのも問題だ。3DSの液晶は明るく、非常に見やすい。環境の問題もあるので、視差バリア用液晶の差が大きな違いになっている、とは断言できないが、なにかの影響を与えている可能性はある。

(2010年 6月 18日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]