鳥居一豊の「良作×良品

ソニーの最上位BDレコーダ再び! 「BDZ-EX3000」

タイタニック3Dで、繊細にして奥行ある映像と音を


タイタニック 3D・2Dブルーレイ スペシャル・エディション<4枚組>

 今回は良作が多すぎてソフトの選択に難儀した。最大の幸運は3Dソフトが豊作だったこと。数々のアカデミー賞に輝いた「ヒューゴの不思議な冒険」は3Dで見ないと意味がないと断言できるほど。2D作品に目を向けると、インディー・ジョーンズ4部作をボックス収録した「インディ・ジョーン コンプリート・アドベンチャーズ」も、4K解像度でフィルム修復とリマスタリングを行なった「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」をはじめ、愛着のある作品が鮮やかに蘇っており、見逃せないタイトルと言える。

 いろいろと迷った結果、選んだのは「タイタニック3D」。詳しくは後ほど紹介するが、3Dソフト好きの間でも、もともと2Dで制作された作品の3D化に良い印象を持っている人は少ないだろう。本作はそんな思い込みを打ち砕いてしまった。

 大げさに言えば下手な3D撮影の新作よりも質の高い3D映像になっている。2D版の公開は1998年でCGやデジタル技術など最新映画のトレンドを採り入れていることもあり、もともと今でも古さを感じない映像だったが、3Dになることでその完成度は倍増したと言っていい。



■ 前作ユーザーにとっては、その進化ぶりが恐ろしくもある「BDZ-EX3000」

BDZ-EX3000

 取り上げる良品は、ソニーのBDレコーダの最上位モデルであるBDZ-EX3000。昨年まさに一目惚れという感じで購入し、現在もメインで使っているBDZ-AX2700の後継機である。BDレコーダに限らず、デジタルAV機器は製品の移り変わりが早く、旧モデルユーザーとしては新モデルの実力が気になるような、知りたくないような、複雑な気分になる。ちなみに、BDZ-AX2700の方も1月に本連載で取り上げている。

 もちろん、取り上げるからには前モデルのユーザーとして厳しくチェックすべきだと思うし、実は一足早く実機の映像と音を確認した関係者から「すごく良くなった」との評判を聞き、ぜひともその実力を確かめてみたくなったというのが本当のところ。

 さっそく自宅に届いた実機を取り出してセッティングをしてみる。外観は前作とほぼ同様になっており、あまり新鮮味は少ない。よく見ると、アルミのヘアライン仕上げの天板のフロント側が斜めにカットされており、デザインが一新された下位モデルのような斜めのラインをわずかながら採り入れていることがわかる。

前方から見ると、前作との違いはごくわずか。半透明のパネルを開けた状態もほとんど同様なものになっている側面図。見た目はほとんど変わらないが、前作が一般的な樹脂素材の感触だったのに対し、本機は素材を変更し、より合成の高い素材を採用している

 さらに側板も一般的な樹脂製からより剛性が強化されたものに変わっていた。シャーシは全体にさらに剛性を強化しているようで、音質面でのグレードアップにも力を注いでいることが感じられる。

背面は大きく変わった。S映像入出力が省略されるなど、端子が整理されている

 背面を見てみると、端子が整理されていることに気付く。目立つところでは、S映像入出力が省略されて、コンポジット映像出力もない。地デジ化の完了から1年以上が経ち、ほとんどの家庭で使われるテレビにはHDMIがある現在ではしかるべき変化で、他社製のBDレコーダは昨年からS端子の省略が始まっていた。

 あってもあまり使わないのに、なくなると騒ぐのは褒められたことではないが、S映像入力がなくなると、BSアナログ放送などを録画したS-VHSテープのダビングで画質的な優位性が失われてしまう。そもそもそういったユーザーは少ないと思うが、そういえば、S-VHS録画したお宝テープがまだ残っているなあ、という人は、現有のBDレコーダがS映像入力ならば貴重な存在になるかも。


専用の基板を持つ、アナログ音声出力。今作では、ジッター低減回路の効果がアナログ音声回路にも反映されるようになった。増設用のUSB端子はUSB 2.02系統のデジタル出力と同軸デジタル出力が並んだレイアウトは前作と同じ。アナログ映像はコンポジットのみとなるリモコンは、従来とほぼ同じデザインが、スタートボタンの色が変更され、録画リストボタンが十字キーの周囲に追加された
付属の電源コード。同社の単品コンポーネントと同等のグレードとなる。極太のケーブルだ脚部に使われるのは、同社の単品コンポーネントでも使われる偏心インシュレータ。中心点を外すことで共振点をずらし、効果的に振動を抑制できる

 僕が本機でもっとも気になっているのは画質と音質だが、今期のソニーのBDレコーダには、そのほかにも気になる新機能が盛り込まれている。その代表が「コーナー目次」。これは、録画済みの番組の主な内容を本の目次のように表示し、目当ての部分に素早く移動して視聴できる機能。同様の機能は他社が先行しているが、ソニーの場合は、無料で利用できることが特徴だ。ちなみにこの情報はインターネットから入手するので、ネットワーク接続が必要となる。

 この機能は、情報番組などではかなり重宝する。目次機能はリストからオプションボタンで呼び出すか、リモコンの「コーナー目次」ボタンで呼び出せる。データが利用できるようになるのは、放送終了してから1時間ほどかかるようで、オンエア中の追いかけ再生中などではできないものの、ほとんどの番組をタイムシフトで視聴している僕にはその制約はまったく気にならない。ニュースなどを気になるものだけチェックできる利便性は実に便利だ。店舗や商品情報については、呼び出した情報をスマホなどにも転送できるとなお便利だと感じたが、こうした機器連携も時間の問題だろう。

ニュース番組のコーナー目次の内容。インターネットで情報を入手し、時系列順で取り上げたニュースの内容やCMなどがリストアップされる目次から「詳細」のタブに移動すると、そのコーナーの内容が詳しく紹介される。出演者なども紹介されているので、アイドルやタレントが目当ての人にも役立つ「お店」のタブでは、そのコーナーで紹介されたお店の情報がわかる。緑ボタンを押すと、より詳しい情報がわかる
「商品」のタブは、紹介された商品を詳しく紹介する。詳しい商品の情報をチェックすることも可能だ

 なお、この情報はBDレコーダ本体に保存したり、番組の管理情報として残されるわけではないので、この目次を使って必要な部分だけをダビングするなど、編集で利用することはできない。目次で示されたコーナーへの移動も、場面がはじまる少し前に移動するようになっており、見落としはないが精度は低い。CMを素早くスキップするならば、従来通りオートチャプターによるチャプタースキップを使うといいだろう。

 続いて、待望していた録画済み番組を対象とした番組検索も可能になった。録画済み番組リストの上部に検索機能が用意され、キーワードやジャンルによる検索が可能。もちろん、ソニー自慢の検索機能を応用したものだから、アイドルの愛称などのニックネームなどでも検索が行なえるなど使い勝手は良好。

 本機はHDDが3TBと大容量化しているし、USB HDDの増設にも対応しているので、いちいちBDに録画せずにHDDに貯めっぱなしにする人も多いだろう。そうして大量に録り貯めた番組を手軽に検索できるのは、今後は不可欠の機能と言える。

 また、実用上かなり役立つのが、電子番組表から利用できる「気になる人名/ワード」で検索対象を内蔵/USB HDDを指定できること。人名などの登録をせずに検索できるし、放送される新しいライブの前に同じアーチストの以前のライブ演奏をチェックするなんてことも簡単だ。

番組表でオプションボタンを押すと現れるメニューにある「気になる人名」。これも検索対象に内蔵/USB HDDを指定できるようになった気になる検索の検索対象選択画面。番組表のほか、本体HDD、USB HDDを指定して検索を行なえるビデオのリストにあるタイトル検索。録画済みの番組を対象した検索で、内蔵/USB HDDを指定して検索を行なう

■ テレビ放送でも画質/音質の良さがわかる。放送音声の良さに感心

 コーナー目次機能をはじめとする新機能がことのほか使いやすく、設置してしばらくは普通にテレビ放送を見ていろいろといじって遊んでいたが、実はすでに画質・音質については驚愕していた。基本的には前作と同じ自然な映像と音なのだが、鮮度が飛躍的に高まったかのように、生き生きとしたものになっている。

音声設定にある「ハーモニクスイコライザー」の設定画面。テレビ放送の視聴が主体ならば常時「入」で問題ないだろう

 もう一つ驚いたのがテレビ放送の音質が際立って良いこと。これは、新機能で搭載された「ハーモニクスイコライザー」によるもの。テレビ放送のMPEG-2 AACなどの圧縮音声の失われた情報を補完するものだが、一般的なものが高周波の情報を補完するものに対し、こちらは時間経過によって減衰していく信号成分(音の響き)が失われやすいことに着目し、音の消え際の微小な音を再現する。これにより、細かな音が蘇り広がりのある音質になる。

 この機能はメニューで「入/切」を選択できるが、試してみるとアナウンサーの声が聴きやすくなる。滑舌がよくなるというか、はきはきとした聞こえ方になる。音楽番組では歌い手の声のニュアンスもよく再現されるなど、なかなかの効果だ。これはテレビ放送には不可欠と言えるもの。もちろん、ドルビーデジタルやDTSなどの圧縮音声フォーマットでも効果がある。非常に有効な機能なので、最上位機だけのフィーチャーというのはもったいない。ぜひとも下位モデルでも採用してほしい。

 このほかの新機能としては、新たに4K/24pアップコンバート出力が行なえるようになった。高画質回路は名称こそ「CREAS PRO」のままだが、4Kアップコンバート対応をはじめとして、大きな進化を果たしている。4K変換は、「適応型アップコンバーター」と「超解像 for 4K」を搭載し、より精度の高い4K映像を目指している。ただし、残念ながら4Kテレビがないため、今回はその実力を確かめることはできなかった。4Kテレビはまだまだ高嶺の花ではあるが、再生環境については着々と準備が整ってきている。

 また、前作で搭載されたバーチャルサラウンド機能には、内蔵スピーカーが画面の下にある場合、音が下の方に定位するのを補正する機能が加わった。さらに、バーチャルサラウンドのモードも、映画館のような残響を持つ「シアターモード」、高品質なソフトをより忠実な音声で楽しめる「AVルームモード」、会話しながら映画などを楽しめる「リビングモード」の3つから選べるようになっている。このように、細かい部分でのブラッシュアップも行なわれており、あらゆる面で熟成が進んでいることを実感する。

 このほか、従来通りの機能ではあるが、BDソフト視聴の準備として、HDMI AV独立ピュア出力の選択、BD-ROM専用画質モードの使用などを選択する。このあたりは大きく変わっていないので、設定も慣れたものだ。

新設されたBD-ROM 4K/24p出力の項目。自動にしておけば、BDの1080/24pの映像を4K/24pでアップコンバート出力するBD-ROM専用画質モードを「入」にすると、BD-ROM再生時の画質調整を個別にメモリーできるようになる。それぞれに好みの画質をメモリーしておくと再生が楽になるHDMI AV独立ピュア出力も「入」にする。これでテレビとAVアンプにそれぞれHDMI接続し、映像と音声を独立して伝送する。高画質/高音質を期待できる
バーチャルサラウンド音声位置補正の設定。内蔵スピーカーなどの音像の定位を画面中央付近にまで持ち上げることで、より一体感のある映像と音が楽しめるようになる音声設定でバーチャルサラウンドを選択すると、サラウンドモードの選択が可能になる。個人的に好ましかったのは、サラウンド化による音の曇った感じが少ない「AVルームモード」

■ いざ、タイタニックの豪華な船旅へ!! 3D化でまさに体験する映像に進化した

 僕は実のところ「タイタニック」にあまり良い思い出がなく、BDはもちろんDVDさえも持っていなかった。基本的に長い映画が嫌いというのもあるが、映像的な驚きこそあるが、いまいちジャックとローズの恋物語に感情移入ができず、食い足りない印象があったのだ。

 それが3Dになると驚くほどの違いに言葉を失った。冒頭の深海艇で沈没したタイタニックを探索するシーンも、真っ暗に沈んだ深海の深さ、深海艇と対比することで巨大さが伝わるタイタニックの残骸の迫力にいきなり吸い寄せられてしまう。未見の人ならば、3D制作の新作だと聞かされればそのまま信じるだろう。3D変換技術の進化にも驚かされるが、おそらくその正体は、2Dの映像を距離に合わせて分離し、映像のない部分をCGで埋めるといった従来の作業が大幅に緻密になっただけなのだろう。本当に驚くべきは、技術よりも2Dを素材にここまでの映像を作り上げたキャメロン監督をはじめとする制作スタッフの仕事だ。

 そのため、タイタニックへの乗り込みが開始される場面になると、こちらの興奮も大きく高まる。2Dはただの豪華客船のように見えていたはずが、3Dでは見上げるような高さの巨大さで迫ってくる。

【訂正】
記事初出時に「タイタニックは船首部分のみが実物大で制作された」と記載しておりましたが、実際には、全長236m、幅28mのほぼ実物大のレプリカが制作されました。お詫びして訂正いたします。(10月30日)

 黒い船体のラッタルの張り方まではっきりと見えるディテール感は、ソフトの質の高さもあるが、BDZ-EX3000の実力もあると言わざるを得ない。黒い部分のS/Nが極めて優れており、暗部で目立ちやすいザラつきや輪郭の強調感などがまるで気にならないのだ。

 その理由は新搭載となった「新デジタル圧縮ノイズ除去」や新回路による「新映画画質」によるところが大きいだろう。徹底したノイズ対策を施し、「新映画画質」でBDの情報量を余すところなく再現する。言ってしまえば当たり前のことではあるが、これらを徹底することで、前作とくらべてもワンランク上の映像に仕上がっている。

 タイタニックに乗り込むと、まずは上流階級のローズたちの船室の場面になり、船内とは思えない広い室内や豪華な調度品が目に入る。シーンが切り替わるとジャックたちが乗り込む三等客室に移り、その狭さくるしさが際立つ。主人公である2人の境遇の違いが説明されるまでもなくよく伝わる。2Dでもこのあたりの狙いは同じだっただろうが、ラブストーリーにあまり関心がない僕には通じなかった。3Dでその意図がようやく伝わったというのもお粗末な話だが、映像の力の凄さを改めて思い知らされた感じだ。


■ 使いやすさを高め、より攻めの画作りができるようになった画質調整

画質設定のトップメニュー。細かい画質調整を行なわず、モニター種類と画質モードを選ぶだけの簡単調整は踏襲。項目が整理され、シンプルになった

 船上のデッキでジャックが乗客たちをスケッチするシーンで、画質調整を行なってみる。海上の風はかなり強めで、ジャックの目にかかるほどの長髪も乱れがちになっている。静止してみると驚くが、ジャックのクローズアップでは、あごの奥に引っ込んだのど元や乱れた前髪などが細かく分割されてそれぞれに前後の距離感を与えられていることに気付く。恐ろしいほど緻密な仕事だ。

 画質調整メニューはオーバーレイ表示で映像に重なってメニューが表示されるが、その項目は、ディテール再現に関わる項目をまとめた「くっきり」、ノイズ除去関連の「すっきり」、基本的な画質調整である「明るさ・色」の3つに整理され、いきなり膨大な数の調整項目が並んでユーザーを戸惑わせないように変更されていた。


カスタム1/2を選ぶと、詳細な調整が行なえる。また、右下にある「おすすめ設定」でプリセットの調整値を選択できる「おすすめ設定」のモードのひとつ「シネマFLハイレゾ」。モニターの種類や部屋の明るさなど、8つのシチュエーションに合わせたプリセット設定が選べる。これを元に好みで調整することも可能だ

 ここでメインで調整を行なったのは、「くっきり」にある輪郭(高域・中域)と、精細感(高域・中域)だ。例によって、まずは調整値を大きく動かして最大と最小での映像の違いを見ていく。まずは精細感だが、高域・中域といった表現こそ同じだが、効果が現れる周波数帯は多少変更されたようで、中域で髪の毛の1本1本の細やかさに変化が出る。高域はもっと細かい部分に効果があるようで、服の生地の質感や肌のきめなどに変化が出た。

 素晴らしいのは、前作では精細感を高めすぎると、ノイズが目立ち気味になり、最大値は5でも使えるのはせいぜい2か3だったのが、「タイタニック3D」の場合は最大まで上げてもノイズや映像のざらつきが気にならないほどだった。精細感とノイズはシーソーのような関係で両立はなかなか難しいところなのだが、BDZ-EX3000はそれをやすやすと実現してしまった。これが第一にうらやましいポイントだ。これは精細感を重視したい人でもかなり攻められる画質だと、いろいろと試してみたが、もともと解像感の高い映像でもあり、ノイジーな感じはないものの、せっかくの柔らかいトーンが硬めになるように感じたので、最終的には高域を+2、中域を+3にとどめた。

 輪郭(高域・中域)も同様で、最大値や最小値では弊害が出やすかったが、輪郭がぼやけすぎたり、強調しすぎて擬似輪郭が現れてしまうようなことはなかった。従来は制作の過程で輪郭に不自然な強調が発生したのを抑える方向の使い方が主体だったが、今回はやや甘めのソースをシャキっとさせる+方向の調整でも効果があると思われる。今回は元の状態が良かったので、どちらも「0」のままとしている。

 ノイズリダクション周りの「すっきり」はすべて「0」とした。質の高いBDソフトならばこれでOK。基本的に地デジソースや素材の状態があまり良くないBDソフトに組み合わせて使うといいだろう。「明るさ・色」では、「コントラストリマスター」と「クリアブラック」を+1としている。これは、液晶の3Dテレビのコントラスト感を高めるため。面白いのは前作では同様のコントラスト感を得るためにどちらも「+2」としていた点。全体的な画質の向上もあるが、コントラスト感に限ってもなかなかのものになっているとわかる。これは、ノイズ除去をはじめとする基本的な映像処理が高性能化し、暗部や細かいディテールのノイズが減ることで、暗部やディテールをより鮮明に再現できるようになったためだろう。特に輪郭周りに現れやすいオーバーシュートはかなり少なくなっており、ノイズ関連をすべてオフにしていてもかなりすっきりと見通しの良い映像になっていた。これがうらやましいポイント2だ。

「くっきり」の調整項目。モードには、4KやフルHDなどの高精細ソース向けの「ハイレゾ」とテレビ放送やDVD向けの「スタンダード」がある精細感(高域)の調整画面。実際には背景には視聴ソースの映像が表示され、調整値を動かすと映像の変化を確認できる「すっきり」項目の調整メニュー。デジタルノイズリダクションは一新され、新たに「リンギングノイズリダクション」が追加された。これはDVDなどで多い輪郭周りの強調感(オーバーシュート)を抑制するもの
「リンギングノイズ除去」の調整値。0を含む4段階の調整が可能で、ノイズ関連はすべて同様だ「明るさ色」の調整メニュー。「コントラストリマスター」は映像全体のコントラスト感を調整する。「クリアブラック」は黒の締まりに影響がある。組み合わせるテレビに合わせて調整するとよい

 結果的に調整を加えた部分はごくわずかだったが、これは標準状態での画質がかなり良くなったことの現れでもあるだろう。前作を1年近く使ってきて、調整を重ねてようやくいい感じになってきた映像と、電源を入れただけのBDZ-EX3000が簡単に肩を並べるものを出してきたときの衝撃といったら。基本的な画質の向上に加えて、調整も積極的な追い込みに対応したものとなっており、ますます使いこなしがいのある製品になってきたと、悔しさを感じながらも認めざるを得ない。

 ちょっとした調整ではあったが、映像はさらにディテールが緻密になり、映像の立体感が増してきた。静止画で仔細に映像をチェックしていると、港に集まった群衆の場面や、デッキや船内のホールに人々が集まっているシーンで、人々の位置関係に奥行きや距離感はあるものの、人物が切り抜いた絵のように見えてしまうことがある。ディテール感やコントラスト感を最適に調整することで、こうした2Dの絵に立体感が出てくる。3D映像の立体感がさらに豊かになるのはもちろんだが、一般の2Dソフトの視聴でも自然な立体感のある映像が楽しめることもよく実感できる。

 こうなってくると、画面から目が離せなくなってしまう。ジャックのように船内を自由に歩き回り、豪華な船旅を満喫する気分になってくる。そして、ジャックとローズが出会うシーンは、船尾から見える海面の高さ感や真っ黒い海の底知れない深さが伝わってくる。映像のリアリティがドラマを盛り上げていることがよくわかる。


■ 後半の沈没シーンは迫力満点! 轟音をクリアに再現する低音のパワー

 2D版ではありがちな身分違いの悲恋という程度に冷静に見ていた自分が、気付けば夢中になって2人の恋の行方を見守っており、DISC1の再生が終了したところでハッと我に返った。3時間を超える長編でしかも3Dだから仕方ないと思いつつ、DISC2に入れ替えて視聴を再開。氷山に衝突したタイタニックが沈没していく迫力満点の場面が始まる。

 デッキに密集する群衆や、デッキに上がれないように閉じ込められてしまう三等客室の人々の混乱や不安が、ダイレクトに伝わる。3Dによるその場感のリアリティーを計算しつくしたかのような映像になっており、群衆をかきわけるときのもみくちゃ感などは、実際にラッシュアワーの電車に押し込まれているときのそれにごく近い。逆に、沈みゆく船体をロングで捉えた映像は、パノラマ的な見晴らしで船上を逃げ惑う観客をきめ細かく再現していく。CG合成を駆使した映像だとしても、もの凄い数の人間を使い、手間をかけて映像に仕上げていることに改めて驚く。こういう細かい部分にまで目が行くのも3D映像の面白さではないかと思う。

 圧巻なのは、その音だ。沈没のクライマックスで船尾がほぼ垂直に持ち上がると、煙突が悲鳴のようなきしみ音をあげて崩れ落ちていくが、この重たい金属のきしむような感触が生々しく伝わる音は見事だ。低音域の力感や伸びの良さが優れていることももちろんだが、轟音とも言える船体のくずれる音が響くなかで、パニックになって悲鳴を上げる人々の声、最後までけなげに演奏を続けた楽士の奏でる音が、混濁せずにきちんと聴こえてくる。自然でバランスの良い再現は前作も持っていた美点だが、さらに情報量を高めながら分析的にはならず、サラウンドの空間再現と一緒になって自分を取り囲む。これはまさしく生き生きとしたリアルな再現。こうした音が、セリフに力を与えるし、見ている僕を引き込んでいったもう一つの理由だ。これもうらやましいポイントだろう。

 海上に露出した巨大なスクリューが海に投げ出された人々に襲いかかるシーンの迫真性や、真っ暗で冷たい海を漂流するジャックとローズの最後など、見どころはいっぱいだ。恥ずかしながら、「こんなに良い映画だったけ?」と変な感心の仕方をしてしまう。3D映像は技術的にも成熟してきたのか、素晴らしい作品が次々と上映され、BDにもなっているが、2D作品の3D化である本作は、別の意味で3D映像の素晴らしさや可能性を教えてくれたと思う。それは、単純に高画質・高音質というだけでは伝えにくかった、作り手の意図をよりダイレクトに伝えられる可能性だ。

 冷めた目で見れば、3Dは一部のマニアのもので、誰もが積極的に見るものではないと思われるかもしれないが、それでも3Dは誰が見ても面白いと断言したい。たまたま買ったテレビが3D対応で、メガネさえあれば視聴できるのであれば、ぜひとも騙されたつもりで体験して欲しい。店頭でちょっと見るのではなく、自分の家でリラックスして映画を1本見たとき、3Dの本当の面白さに気付くはずだ。


■ 4K黎明期は再生機器の進化も加速。高画質BD再生機器に注目

 手前味噌かもしれないが、前作は我ながら盲目的なまでに惚れ込んでしまい、しかも、絶賛記事を各所で書きまくった。しかし、こんなに張り切って凄い後継機を作ってくるのは予想外だった。

 これだけの大幅な画質・音質の向上には、絶対に何か理由がある。それは4Kプロジェクターや4Kテレビの影響だと思っている。4K映像の圧倒的な高画質は多くの方が知るところだし、ソニーでも同社の4Kプロジェクタの映像を見たことで、次の課題がたくさん発見できたことは間違いないだろう。これは4Kテレビに力を注いでいる他社も同様だ。つまり、4Kテレビはまだまだ一般的ではないとしても、再生機器は4Kを見据えた次世代高画質とそれに釣り合う高音質を見据えたものに移り変わってきているということ。それがBDZ-EX3000の仕上がりを見ると確信できる。こうした時代的な背景を考えてみると、画質・音質にこだわる人にとって、今年のBDレコーダやBDプレーヤーは大豊作と言えそうだ。

 3D対応を含めて、BD再生機器の導入を検討している人は、目が離せない年末になる予感がする。

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(2012年 10月 30日)


= 鳥居一豊 = 1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダーからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。現在は、アパートの6畳間に50型のプラズマテレビと5.1chシステムを構築。仕事を超えて趣味の映画やアニメを鑑賞している。BDレコーダは常時2台稼動しており、週に40~60本程度の番組を録画。映画、アニメともにSF/ファンタジー系が大好物。最近はハイビジョン収録による高精細なドキュメント作品も愛好する。ゲームも大好きで3Dゲームのために3Dテレビを追加購入したほど。

[Reported by 鳥居一豊]