小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第765回 外でも安全に音楽を聴きたい! 骨伝導CODEOとJBLのAmbient Awareを試す

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

外でも安全に音楽を聴きたい! 骨伝導CODEOとJBLのAmbient Awareを試す

聞こえなさすぎ!?

 ノイズキャンセリングヘッドフォン/イヤフォンも一般的なものになってきた。以前は飛行機や新幹線など、長距離移動の多いビジネスマンに好まれていたものだが、今や普通の通勤電車の中で利用している人を見かけることも珍しくない。

頭部に装着しているのがCODEO、首にあるのがJBL「EVEREST ELITE 100」

 そもそも交通機関とは、かなりやかましいものである。今でこそ車体の防音性がよくなり、地下鉄の電車内もそこそこ静かになっているが、30年前の丸ノ内線や銀座線は、春先から初夏は窓を全開にして走っており、耳が壊れるかと思われるほどうるさかったものである。あの当時ノイズキャンセリングヘッドフォンがあったらと思わないこともないが、まあそれは無理な注文だろう。

 ノイズキャンセリングだけでなく、耳にフィットするカナル型の進化もあり、周囲の音を遮断できるようになったのはいい事ではあるが、それは自分の安全が確保できている時である。例えば飛行機のシートに座っているときとか、電車内はとりあえずボーッとしてても危険な目に遭うことはない。

 しかし街を歩いているときやジョギングしているときなど、こちらも移動している場合は、周囲の安全を気にする必要がある。目視だけできちんと確認できればいいのだろうが、背後からの車の接近などは、音が頼りだ。そんなとき、イヤフォンの遮音性が高すぎると、危険を察知できずヒヤリとすることがある。

 筆者もよくジョギングするのだが、音楽を聴いてテンション上げながら走りたいし、かといって周囲の音を聴かないと危ないし……というジレンマに陥っている。そこで今回は、周囲の音も聞こえるタイプのイヤフォン2種をテストしてみることにした。

スポーツにも対応する「CODEO」

 骨伝導によって音を聴く装置というのはかなり昔から存在するが、なかなかメジャーにならない。以前は枕型のものや、スイミング時に使用するものなど、割と限定された用途で製品が販売されたことはある。

ネックバンドスタイルの骨伝導ヘッドフォンCODEO

 骨伝導とは、鼓膜の振動によって音を聴かせるのではなく、骨に振動を与えることで音を聴く方法である。通常我々が音を聴くときには、空気振動を鼓膜で受け取り、それが耳の中の3つの小骨である槌骨、砧骨、鐙骨の組み合わせによって増幅され、その振動が蝸牛に伝わって、電気信号に変換され、脳内に伝達される。

 骨伝導は、頭蓋骨に直接振動を与え、その振動が蝸牛に直接伝わって電気信号に変換される。元々我々が自分の発した声を聴く時には、口から出た空気振動を鼓膜でキャッチしていると共に、体内の骨を通った音も蝸牛がキャッチしている。“外と中のミックス音”を聴いているのだ。

 骨伝導ヘッドフォンには、様々なタイプがある。後頭部に振動板を当てるタイプや、こめかみのあたりに振動板を当てるタイプなど、要するに骨を振動させればいいので、いろんなやり方が考えられるのだ。今回ご紹介する日本コンピュータ・ダイナミクスのCODEO(コデオ)は、ネックバンド型Bluetoothイヤフォンと似たようなスタイルで、耳の前のあたりの骨に当てるタイプである。耳の中には入れないので、イヤフォンではなくヘッドフォンというのが正しいだろう。価格は12,000円だが、通販サイトでは8,000円を切っているところもあるようだ。

耳の前のあたりに当てる形で装着する

 首の後ろに回る部分が太くなっており、ここにバッテリがあると推測される。電源ボタンを押すとペアリング待機状態となり、普通のBluetoothイヤフォンと同じ要領でスマートフォンとペアリングする。

後頭部にバッテリ部分が来る構造
底部に充電用のUSBポートがある

 先端はスピーカーではなく、振動を伝えるアクチュエータが搭載されている。そのため先端は、厚みのあるユニットとなっている。補助用ゴムベルトも付属しており、ジョギングなどの時は背面のバッテリ部分がバタバタしないよう、後頭部で柔らかく支える事ができる。

スピーカー部分にはアクチュエータが
ゴムベルトで固定することも可能

 肌に当たるアクチュエータ部分はサラッとしたシリコン素材となっており、不快感はない。このユニット部は30度ぐらいローテーションするので、ベストなあたり位置に調整する事ができる。右側には通話と音楽再生のスタートストップ、左側には音量と曲のスキップボタンがある。

右側には再生のスタートストップボタン
左側には音量と曲のスキップボタン
装着イメージ

 では実際に試聴してみよう。装着は比較的簡単だ。耳穴に入れる必要が無いので、それほどシビアに位置決めや角度調整をするわけではない。またメガネをかけていても、ツルの部分を巧みによけて立体交差する形でアームが配置されるので、併用できるところも強みだ。

 音量的にはかなり上げることができるが、それほどハイファイでもないので、BGMレベルに聴こえれば十分である。高域や低域が伸びるわけではなく、どちらかというとAMラジオ的な音質と言えるだろう。ただ左右の耳の近くにアクチュエーターが配置されるため、ステレオ感はちゃんとある。

 ボーカル帯域は非常に聴き取りやすい。バンドスタイルの曲はグジャッとしてしまうところがあるが、アコースティックギターとボーカルだけみたいなシンプルな曲は、割とちゃんと聴けるので驚いた。アクチュエータの位置によって音質や明瞭度が全然変わってくるので、なるべく耳に近いポジションに当てるのがコツのようである。

 周囲の音は、耳穴をまったく塞いでいないので、はっきり聞こえる。ただ音楽も蝸牛でミックスされているので、音楽の音量次第ではある程度マスキングされる。安全面の意味でも、あまりボリュームを上げ過ぎない方がいいだろう。面白いのは、小さい音量でもちゃんと音楽が聞こえているところだ。むしろ音量を上げると、周波数特性の不足感が目立ってくるので、小音量で聴いた方が不満が少ないだろう。

 今回はiPhone 6との組み合わせでテストしているが、音量の上下はアクチュエータ単体の動作ではなく、スマホのボリュームを直接操作できる。従ってスマホと機器側のボリュームのアンバランスによる歪みなどは考えなくていい。

 これでジョギングしてみると、ユニット全体はバッテリ部分がそこそこの重さがあるので、多少ずり下がってくる感じはある。ただ外れてしまうほどでもないので、ゴムベルトのテンションを調整すれば、ベストなフィット状態が見つかるはずだ。またアクチュエーターと皮膚の間に髪の毛が挟まっていると、音が上手く伝わらないだけでなく滑ってずれやすくなるので、髪の毛をよくかき分けてから装着した方がいいだろう。

ベルトは簡単に長さ調整できる

 車の音や人の会話なども普通に聞こえてくるので、安全性は高い。音質的には普通のヘッドフォンやイヤフォンには及ばないが、ケーブルのタッチノイズなども全くなく、耳穴への負担もないので、快適ではある。ただ左右の締め付けはそれなりにあるので、長時間の装着はいったん休憩を入れるなどしたほうがいいだろう。

 バッテリ容量は320mAhで、動作時間は約5~7時間だ。バッテリ込みで、重量は70gである。

 なお音声通話の品質にもかなり力を入れているということなので、LINE通話でテストしてみた。確かに通話音声はかなり明瞭だ。普通のイヤフォンをしている状態と遜色ないレベルで相手の声を聴く事ができる。ハンズフリー通話デバイスとしても耳を塞がないので、安全性は高いと言えるだろう。

周囲の音が聴けるノイキャン搭載、JBL「EVEREST ELITE 100」

 次は同じネックバンドタイプではあるが、カナル型イヤフォンだ。JBL「EVEREST ELITE 100」(27,880円)は、今年1月に発売された小型Bluetoothイヤフォン「EVEREST 100」にノイズキャンセリング機能などを追加したELITEシリーズの製品だ。発表時は4月発売とアナウンスされたが、製造工程の遅延のため6月25日から発売開始となった。カラーはブラックとホワイトがあるが、今回はホワイトのほうをお借りしている。

6月に発売されたばかりのEVEREST ELITE 100

 ネックバンドの先端からケーブルが生えており、その先にドライバがあるという作りだ。ドライバは13.5mmと大型で、ドライバの正面ではなく、横方向からノズルが突き出しているバーチカルドライブ型となっている。

ドライバは13.5mmの大口径

 ネックバンド部分にバッテリと充電用USB端子、電源ボタンがあるほか、ネックバンド部の左右先端にはコントロール用のボタンが2つずつある。右側が音量の上下と曲スキップ、左側が曲の再生とポーズ、機能割り当てが可能なSmartボタンとなっている。

ネックバンドにバッテリーと電源ボタンがある
右がボリュームのアップダウンと曲のスキップ
左側先端がSmartボタン、上が曲の再生とポーズ

 イヤフォン部には耳への装着感を高めるスタビライザー(突起)も付属しており、サイズは長さ違いで3種類、イヤーピースも3サイズが同梱されている。

飛び出たスタビライザーで装着を安定させる

 本機はノイズキャンセリング機能を備えているが、加えて周囲の音を聞くための「Ambient Aware」機能を搭載しているのが特徴だ。これらは排他機能ではなく、ノイズキャンセリングを効かせた状態で利用できる。人の声などが通りやすい周波数だけ穴を空けるようなイメージでいいだろう。

 詳細な設定は、「My JBL Headphones」というアプリを使用する。ノイズキャンセリングをONにすると、AwarenessというパラメータがOFFを含めて4段階選択できるようになる。OFFの状態が完全にノイズキャンセルした状態だ。LOW、MEDIUM、HIGHと上げていくにしたがって、周囲の声がよく聞こえるようになる。

設定用アプリのMy JBL Headphones

 声だけを綺麗に抽出しているわけではなく、スイープ波形を再生してみると、おおよそ800~4KHzぐらいまでを通すようだ。従って電車や車のノイズは、その周波数帯だけ通り抜けて聞こえる。

 実際に電車に乗って試してみたが、人の話声にフォーカスした帯域ではあるものの、電車内のアナウンスなどはさすがに音楽を止めないとキチンと聞こえない。ただ、車や電車が近づいて来ている音はわかるので、街やホームで大きな音に気づかないということはなさそうだ。

 左側のSmartボタンを、Awarenessのレベル調整に割り当てる事も可能だ。ただしボタン操作だとなぜかMEDIUMの設定ができず、OFF、LOW、HIGHのローテーションとなる。もう一つの左側のボタンが音楽再生のポーズボタンになっているので、車内アナウンスを聞きたいときはポーズしてAwarenessのレベルを上げるという一連の動作が、左手だけでできる。

 スポーツ向けイヤフォンではないが、ジョギングでも使ってみた。ネックバンドの重心が後ろにあるため、ネックバンド部が暴れて背後にストンと落っこちてしまう。一応脱落防止のガードも付いているが、これ自身も外れやすいのであまり役に立たない。ジョギング時はネックバンドの上からタオルでも首に掛けておけば、それで固定される。

10バンドのEQも使用できる

 ケーブルがあるわりには、タッチノイズはほとんど感じず、その点はジョギング用としてもなかなか優れている。ケーブルが体に触れてないからだろう。

 音質的には若干低域寄りで、全体的にロックっぽくまとまった音である。特にベースの凄みのある低音は、一聴に値する。好みは分かれるところだろうが、個性的な音が好きな人には面白いイヤフォンだ。イコライザも3つのプリセットのほか、10バンドの設定を自分で作れるので、好みの音質に変える事もできる。

総論

 今回の2つのヘッドフォン/イヤフォンは、まったく違ったアプローチから環境音を取り込むことに注力したモデルということになる。もっともCODEOの方は、音楽に環境音を取り込むというよりも、“普通に環境音が聞こえる状況に音楽を少し足す”、といった逆のアプローチだと考えた方がいいかもしれない。

 音楽を高音質で鑑賞するというつもりで聴くと、ガッカリするかもしれない。ただ“無理なく音楽が聴こえる状況を作るデバイス”としては、なかなか面白い。

 一方、通話音声はかなり綺麗に聴き取れるので、むしろ両手塞がってる状態で複数人とグループ通話するといった使い方のほうが、満足度が高いかもしれない。

 個人的には、もう少し見た目がスマートで軽量になれば購入したいところだ。昨年あたりから骨伝導製品は数が増えてきているようなので、今後の進化も期待できそうである。

 EVEREST ELITE 100の方はAmbient Aware機能がポイントだ。この機能自体は、EVEREST ELITE 700/300といったオーバーヘッド型ヘッドフォンでも使えるほか、7月発売のLightningコネクタ直結ノイズキャンセリングイヤフォン「REFLECT AWARE」にも採用されている。

 ノイズキャンセリングではあるが、人の声が聞き取りやすい帯域だけマイクを通じて拾い直すことで、完全に遮音されることを防ぐというのは面白い。レベルも自由に変えられるので、電車内や空港ロビーなど、場内アナウンスも聞く必要がある場合に便利だ。

 “いつも音楽を聴いていたいが、危ないのは勘弁”というニーズは確実にあると思う。現在ノイズキャンセリングヘッドフォン/イヤフォンはほとんどの主要オーディオメーカーが作っているが、その技術を活用した「環境音を聞く」という取り組みが、今後一層進化するよう期待したいところである。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。