小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第774回 デュアルカメラに強力手ブレ補正、iPhone7/7 Plusの動画性能を試す

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

デュアルカメラに強力手ブレ補正、iPhone7/7 Plusの動画性能を試す

今度のiPhoneはカメラが面白い

 9月7日、AppleはiPhoneの新モデル、iPhone 7とiPhone 7 Plusを発表した。各キャリアからは9月16日から発売になっているが、人気商品ゆえに新色は品薄が続いているようである。

9月16日から発売が開始されたiPhone 7/7 Plus

 かねてからの噂通り、サイズはこれまでのiPhone 6シリーズとほぼ同じで、ディスプレイは7は4.7型、Plusは5.5型となった。カメラ的な注目ポイントは、Plusのほうだろう。広角と望遠の2つのカメラを横並びで搭載した。

 これまでも2つのカメラを搭載したスマートフォンはあった。かつて3Dブームの頃は、同性能のカメラを2つ搭載して3D撮影ができるものもあったが、2014年にはHTC J butterfly「HTL23」が性能の違うカメラを2つ搭載。奥行き情報を付加して後からボケを付けたり、立体写真っぽく演算処理をするといった機能を実現した。また今年6月には、HUAWEIがカラーとモノクロのセンサーを搭載した「P9」を発売したのは記憶に新しいところだ。

 加えて今回のiPhone 7 Plusの登場で、「大型スマートフォンのツインカメラ」というのは、今後トレンド化するかもしれないわけである。まだ7への乗り換えを躊躇している人、7にするか7Plusにするか迷っている人も多いと思うが、今回は動画関係の性能を中心に色々テストしてみたい。

ユニークなスペック

 カラーやデザインなどについては、すでに多くの記事で触れられているところなので、細かいところはそちらを見ていただくとして、AV的なポイントだけ押えておこう。まずディスプレイ解像度だが、4.7型の7は1,334×750ドットで326ppi、コントラスト比1,400:1。7Plusのほうが1,920×1,080ドットで401ppi、コントラスト比1,300:1となっている。

 スペック的には6sから変わっていないが、今回のディスプレイは色域が従来のsRGB、Rec.709だけでなくDCI-P3にも対応した。これはデジタルシネマ映写の色空間として標準化されたもので、カラーフィルムの色域に近い。HDTVの標準化時に策定されたRec.709よりも、赤と緑方向に色域が広くなっている。

ディスプレイサイズと解像度は変わってないが、色域が拡大している

 実は9.7型iPad Proのディスプレイは、すでにDCI-P3対応だった。Macでは「21.5型iMac Retina 4K」と「27型iMac Retina 5K」のディスプレイも対応している。これらはデジタルシネマ制作の現場で作業モニタとして使われる可能性もあるので、ある意味当然の対応だったわけだが、iPhoneのような小型ディスプレイでの対応は珍しい。もちろん、正確な性能を発揮させるにはDCI-P3対応の映像データを表示させる必要があるが、sRGBの写真やRec.709の映像でも、色味が濃く見えるはずである。

 すでに多くのメディアで語られているところではあるが、今回の7シリーズではアナログのイヤフォン端子がなくなった。そのため、Lightning端子に直結できるイヤフォン「EarPods」が付属する。アナログイヤフォンを使用する場合は、付属の「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」を使ってアナログ接続することになる。もちろん普通のBluetoothイヤフォン/ヘッドフォンも使えるが、iPhone 7と同時に発表された左右セパレート型のイヤフォン「AirPods」は10月下旬発売で、残念ながら執筆時点では入手できなかった。

底部の端子はLightningのみ
Lightning端子直結のイヤホンが付属する
アナログ変換用のアダプタも付属

 イヤフォンジャックが無くなった分だけ、スピーカーが充実することとなった。今回のiPhone 7は、小型の4.7型でもステレオスピーカーを内蔵している。これも後で試してみよう。

 iOSオペレーションのポイントであるホームボタンは、これまでのような物理スイッチを排し、圧力検知型のボタンとなった。iPhone 4ぐらいからのユーザーにはご存じだろうが、昔のホームボタンは長年使っていると反応が悪くなり、修理が必要になったりしたものだ。そのためなるべくホームボタンを使わないオペレーションを身につけたりしたものだが、今回からはもうそんな気遣いは無用である。すでにAndroidは物理ボタンを廃止して長いわけだが、ようやくiPhoneもそれに追いついたことになる。

ホームボタンは感圧式に

 ホームボタンは、Touth ID(指紋)センサーの搭載やこれまでのオペレーションスタイルを継承するためか、見た目としては物理ボタンがあるのと同じである。実際に凹んだりしない代わりに、ボタンが押されたと検知すると、コツンという反応が返ってくる。この反応の大きさは3段階で選択できる。

クリック感は3段階に調整できる

 このタイプの反応は、すでにMacBookのトラックパッドや、「Magic Trackpad 2」といった製品にも採用されており、Macユーザーにはお馴染みである。ただiPhoneに搭載されたのは初なので、ボディ全体からコツンというクリックが返ってくることに違和感を感じる人もいるだろう。

 また新しいホームボタンやイヤフォンジャック廃止に伴う恩恵として、本体がIP67等級の防沫、耐水性、防塵性能を持つ事になった。防水機能を持つAndroid端末の利用者なら、日常的にキッチンでレシピを見たり、お風呂の中で動画を見たりという利用はあったと思うが、iPhoneユーザーもいよいよその仲間入りを果たすことになる。

 さて共通点が多い7と7Plusだが、ディスプレイサイズ以外の大きな違いは、カメラである。7が12メガピクセル、F1.8のシングルカメラであるのに対し、7 Plusは7と同じカメラに加え、横に焦点距離が2倍となるF2.8のカメラを備えた。どちらも12Mピクセルである。Appleのサイトには「2倍光学ズーム、最大10倍のデジタルズーム」とあるが、そのあたりを動画でテストしてみる。

iPhone 7のカメラはシングル
iPhone 7 Plusのカメラはデュアル

動画でよくわかる2カメラの動き

 では早速撮影である。iPhone 7 Plus搭載カメラの焦点距離は、広角側が35mm換算で28mm、望遠側が2倍の56mmとされている。静止画と動画での画角を確認してみよう。

広角望遠
静止画
4K動画
HD(30p)動画
インカメラ
動画撮影モードは4タイプ。デフォルトは1080/30pなので、4K撮影は設定変更が必要

 画角の広さで言えば、静止画が一番広いのは当然として、動画では一段画角が狭くなるのは残念なところだ。動画撮影では4K/30p、1080/60p、1080/30p、720/30pの撮影ができるが、4Kと1080/30pの比較では、4Kのほうが若干画角が広い。全画素読みだしの都合で、HDよりも4K動画のほうが画角が狭くなるデジタルカメラは多数存在するが、逆にちょっと広くなるカメラは珍しい。

4K撮影のサンプル
4ksample.mov(205.66MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 7 Plusの撮影画面には、録画ボタンの脇に「1×」という表示がある。録画中にこれをタップすると、素早いズーム動作を間に挟んでテレ側のカメラに切り替わる。

録画ボタンの脇にズーム値を示す表示が
ここをタップすると自動で2倍に

 このズーム動作をスローモーションで再生してみると、1倍から2倍に至るまでは、テレ側のカメラをデジタルズームしていき、2倍に到達したところでテレ側のカメラに切り替わっているのが分かる。Apple側ではこれを指して「光学2倍ズーム」と呼んでいるのかもしれないが、従来の常識では、光学ズームというと全域光学で撮影できることを指す。「光学で2倍に寄れる」と言う意味でズームと称しているのかもしれないが、ズーム過程も表現の一つであるビデオの世界では、この表現は違和感があるところだ。

iPhone 7 Plusのズーム動作
zoom1_hd.mov(62.51MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なお画面を指で縦方向になぞることで、手動ズームもできる。2つのカメラ動作はこちらのほうがわかりやすいだろう。1倍から2倍に向けて電子ズームで拡大していき、2倍になったときに望遠カメラに切り替わる。この時、カメラの位置が違うので縦方向に映像がシフトすると共に、ホワイトバランスや露出も変わる。さらにズームを続けると、望遠カメラをどんどん拡大していく様子が分かる。自動でズームさせるときは瞬間の動きで誤魔化されて綺麗に繋がったように見えるが、実際には2つのカメラのコンディションはかなり違うのがわかる。

画面をなぞると手動でズームできる

 また近距離で撮影している時には、2倍にズームしても望遠カメラに切り替わらない時もある。おそらく近すぎると望遠カメラではフォーカスが合わないため、そちらに切り替わらないようにコントロールしているものと思われる。考えてみれば、ワイド側で撮影している時もテレ側のカメラは電源が切れているわけではないので、そちら側のAFも内部では動いている。そこでフォーカスが合焦しないのであれば、切り換わらないのだろう。

近距離ではカメラが切り替わらずズームすることも
zoom2_hd.mov(27.57MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 2つのカメラの違いは、手ぶれ補正にも現われる。広角側カメラには光学手ぶれ補正が搭載されているが、望遠側のカメラにはない。望遠のほうが手ぶれの影響を受けやすいのに、手ぶれ補正が効かないのは残念である。実際にどれぐらい差があるのか、7 Plusの望遠側と7のカメラ(7 Plusの広角側と同性能)を2つ並べて歩いてみた。

2台のiPhoneで同時撮影

 手ぶれ補正はかなり強力で、違いは明らかだ。三脚なしで望遠側で動画を撮影するのは、結構大変だろう。一方三脚など固定治具に乗せてしまえば、広角も望遠もそれほど差はない。

7 Plusの望遠側と7のカメラで手ぶれ補正をテスト
stab_hd.mov(58.92MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
1080/120p撮影ができる

 スロー撮影はiPhone 6時代から、120pと240pでの撮影ができたが、両方とも解像度は720pであった。その後、6s/6s Plusで1080/120pに対応。今回のiPhone 7/7 Plusでも同様だ。

フルHDでのスロー撮影はS/Nとしても悪くない。なお、240pは1080pに拡大している
slow_hd.mov(56.13MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

動画と音楽もクオリティアップ

 iPhone 7/7 Plus搭載のカメラはなかなか性能が高いが、常時カメラとして使うわけではない。大半の時間はコンテンツを再生するために使うはずだ。

 そこで気になるのは、ステレオスピーカーの存在である。7型、8型、10型などのタブレットではステレオスピーカー搭載が当たり前になってきているが、4.7型のスマホでステレオスピーカー搭載は珍しい。早速音楽を再生してみた。

 実は実際に再生するまで勘違いしていたのだが、この底部の2箇所の穴でステレオスピーカーという事ではない。底部の穴は右側のみがスピーカーで、左側の穴は気圧調整のための機構なんだそうである。もう一つのスピーカーは、通話用のスピーカーを流用する。つまり本体を横向きにしたときに、はじめてステレオ再生になるのだ。SNSの動画はフルスクリーン再生しないと横向きにならなかったりするが、縦で見ているとステレオ感が得られないので要注意だ。

底部のスピーカーは、右側のみ

 スピーカーの位置や解放穴の向きが左右で違うが、案外ステレオ感はバランス良く感じられる。もちろんこのサイズでは低音の表現力は望むべきもないが、中域から高域にかけては明瞭感がある。映画やアニメの視聴においても、台詞が聴き取れないということは無いだろう。

 付属のLightning端子直結のEarPodsは、再生音や使い勝手としては従来のイヤホンと遜色ない。コネクタを抜けば自動的に再生が止まるという挙動も同じだ。Lightning出力はデジタルなので、このコネクタの先に小さいDACが入っていることを考えれば、技術的にも興味深い。ただLightning端子を塞いでしまうため、音楽を聴きながら充電することができなくなった。

 筆者は動画撮影時に外部マイクを使う事が多いのだが、付属の「Lightning - 3.5 mmヘッドフォンジャックアダプタ」はきちんと4接点対応となっており、マイクとイヤホン端子を分岐するケーブルを併用すれば、ミニジャック対応のコンデンサーマイクも使用できた。間に変換コネクタが1つ入るのは難点だが、使い勝手としてはアナログ端子があるのと変わらない。

 今回は本体にIP67等級の防沫、耐水性がある。これは防塵性能として6級(粉塵が中に入らない)、防水等級として7級(一時的に一定水圧の条件に水没しても内部に浸水しない)という意味だ。したがってお風呂での動画視聴も、温度に気をつけて無茶しなければ大丈夫だろう。自分も濡れる水回りではイヤフォンは使えないが、そういうときにも本体再生でステレオ感が得られれば、より動画コンテンツの消化も捗ると言うものである。

 色域が拡がったディスプレイだが、同サイズのiPhone 7と手持ちのiPhone 6を見比べてみたところ、若干色味がマゼンタ方向に転んでいるように見える。赤の特性がいいディスプレイは、往々にしてこのように見える傾向がある。また解像感が高く高コントラストで、トータルでは絞まった映像だ。同じ映像を見ても、満足感は高いだろう。

総論

 AV機能に絞ってもまだまだ書き足りないところがあるが、今回のiPhone 7/7 Plusはなかなか見所の多いスマートフォンだ。未だ多くの人はキャリアの2年縛りがあるだろうから、ベストな買い換えタイミングの人は2年前にiPhone 6を購入したユーザーという事になる。

 まだそんなに古くなってないかもしれないが、カメラをよく使う人なら強力な光学手ぶれ補正が付いた点で、買い換えのメリットがある。またステレオスピーカーになったのも、地味にうれしいところだ。

 問題は7にするか、7 Plusにするかだろう。個人的には、デカいスマホはHUAWEIの「P8 MAX」を使っているので、逆に小さい4.7型のほうが2台持ちするメリットがある。だが今後2つのカメラを使った面白いアプリが色々登場しそうなので、やっぱりPlusかなぁと考えている。被写界深度が自由に変えられるエフェクトも、間もなく登場するはずだ。

 ただレンズ部分の出っ張りが楕円形になった関係で、クリップ型のワイコンが付けづらくなった。動画では画角が狭くなるため、ワイコンの併用が必須だったのだが、そこが難点である。

 秋は何かと新製品ラッシュで出費が重なるシーズンではあるが、今回はかなり大きな変化があるタイミングなので、イノベーションを体感できるこの機を逃すのはもったいないと思う。現在、カラーによっては品薄が続いているようだが、1カ月も経てば状況も落ち着くだろう。初期ロットのゲットに出遅れた諸氏も、あきらめずゆっくり検討するといいだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。