小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第775回 プロも納得?! SDI対応でネット配信にも便利な小型スイッチャー、ローランド「V-1SDI」
プロも納得?! SDI対応でネット配信にも便利な小型スイッチャー、ローランド「V-1SDI」
2016年10月5日 09:30
ネットのライブ放送も、個人が趣味でやるクラスタと、業務でガッツリやるクラスタに別れてきた。特に業務レベルでは、Webカメラとソフトウェアスイッチャー程度でやるような仕事はほとんど淘汰されてしまい、もはや“ネット放送だからクオリティが低くても許される”時代ではなくなってきた。
きっかけはやはり、ローランドのAVミキサーだろう。アナログベースながら4系統がスイッチング、オーディオもミキシングできる「VR-5」は、丁度2011年、震災後にネット放送が注目されたタイミングと相まって、40万円越えの高価格ではあるが、個人レベルの業務ユーザーから大学の研究室まで幅広く導入され、ヒット商品となった。
その後ローランドはほぼ毎年のように新商品を投入し、放送用スイッチャーメーカーがやらない業務レベルのエリアを席捲した。競合製品としては、BlackMagic DesignのATEMシリーズがある。最近は放送用スイッチャーの大手ソニーも、来年発売の「MCX-500」でこのジャンルに参入する予定になっており、30万円以下のネット放送向けライブスイッチャーは、今“熱いジャンル”となりつつある。
そんな中、昨年11月のInterBEEで登場した「V-1HD」は、12万円前後で買えるハードウェアベースのコンパクトスイッチャーだった。通常コンパクトと言っても、スイッチャーならフットプリントでA3ぐらいあっても、十分コンパクトで通る。
だがV-1HDは、A4の縦半分のサイズに映像スイッチャーとオーディオミキサーを盛り込んだ。価格とサイズのインパクトで、業務ユーザーのサブ機、あるいはメイン機として、これもかなりのヒット商品となったようだ。
ただし入力がHDMIしかないということで、カメラケーブルを長く引き回す用途には不向きであった。分かってるユーザーはSDI-HDMIコンバータを使ってプロ用カメラを入力していたが、やはり何系統かはダイレクトにSDI入力したいという声が強かった。
V-1HD登場からほぼ1年、SDI対応モデルとも言える「V-1SDI」が登場することとなった。9月9日のローランド新商品発表会ではじめてお目見えしたが、この10月にも発売を予定している。オープン価格ではあるが、店頭予想価格はだいたい20万円弱になるだろう。
ボディはかなり似ているが、単に入力をSDIに変えただけではなく、中身は色々いじってあるようだ。どんな仕上がりになっているのだろうか。早速試してみよう。
細かいところで違う機能
スイッチャーの素性を知るには、背面パネルを見るのが一番である。入力ソース数や端子の種類で、どのようなクラスの製品なのかが分かるからだ。
まず映像入力は4系統。1番2番がSDI専用で、3番がSDIとHDMIの兼用になっている。4番がHDMI専用だ。従って入力としては、SDI×3 + HDMI×1か、SDI×2 + HDMI 2という事になる。なお4番の入力はスケーラーが内蔵されているので、システム解像度以外の入力や16:9以外のアスペクト比のソースに対応できる。
映像出力は、SDIのプログラムとプレビュー出力があり、HDMIのマルチビュー出力がある。出力端子にどのような映像を出すかは設定で変えられるにしても、“システムの中心としてはSDI、モニターはHDMIで接続”という利用シーンが見えてくる。
側面には、システムフォーマットのスライドスイッチがある。720/59.94p、1080/59.94i、1080/59.94pの3パターンに設定可能だ。1080iで入力された信号は内部で1080pに変換されるため、注意すべきは解像度だけだ。4番入力だけはスケーラーがあるのでなんでもありだが、その他の入力はシステムフォーマットに合わせる必要がある。
一方音声は、入力1番~4番までの映像信号にエンベデッド(畳重)されたオーディオ信号のほか、RCAのアナログステレオ入力、ステレオミニジャックによるマイク入力がある。各ソースにはリップシンクをとるためのディレイが装備されているほか、3バンドEQもある。またマイク入力にはハイパスフィルターやコンプレッサー、ノイズゲートも備えている。
オーディオ出力は、プログラム、プレビューのSDIと、マルチビュー用のHDMIにエンベデッドされるほか、RCAのアナログ出力、モニター用ヘッドホン端子に出力される。
また、オーディオアウトプットには、マスタリング機能としてリバーブやノイズサブレッサー、エンハンサーといったエフェクターも備えている。正直このスイッチャーでそこまでオーディオをいじるかと言われれば微妙なところではあるが、楽器・エフェクターメーカーとしての性を感じさせる部分である。
USB端子は、PC/Macと接続して、ソフトウェアベースのコントロールパネルと接続する。2人でオペレーションする際に便利だ。また側面の9ピン端子はRS-232端子で、コマンドによる動作実行を行なう際に使用する。オートオペレーション化や遠隔リモートなどに使うわけだ。V-1HDではMIDI端子が付いていたが、V-1SDIではより業務ユースに近づいているのが分かる。
続いてコントロールパネル面を見てみよう。ボタン配置やつまみ、フェーダーはV-1HDと全く同じだ。ブルーの差し色が入っているので、V-1HDと並べれば見分けが付くが、単体で出されたらどっちがどっちだかわからない。
しかしパネル面の表示をよく見て行くと、V-1HDとはかなり機能が違う事がわかる。まず左側だが、V-1HDにはテンポに合わせてスイッチングできる「BPM」という機能があった。この機能がなくなり、BPMのボタンはシンプルにセットアップへ入るためのボタンになった。
エフェクトのボタンは、PinP(小画面表示)とSPITがプリセットされた。以前はA/B列それぞれにエフェクトがあり、エンボスやカラライズなど、派手なエフェクトもあった。ただどのエフェクトがアサインされ、どんなレベルで効果がかかっているかは、いったんOAに出してみないと分からなかった。一方、今回のエフェクトは、カラー系の派手なエフェクトはなくなり、PinPとSPLITのパターンが複数あるのみと、シンプルになっている。
トランジションボタンは、BPM機能が無くなったので、そのボタンの代わりにKEYのレベルをコントロールノブで調整するための「Key Level」ボタンになった。
フェーダー横の2つのボタンは、上がDSK(ダウンストリームキー:エフェクトなどがかけられた映像に、さらに合成する機能)、下がAUTO Takeボタンとなった。以前はフリーアサインの「TRANSFORMER」ボタンが2つあって、オペレーションがわかりにくかったが、機能をきちんと分けてわかりやすくなった。
またDSKが付いたのは大きい。以前からキーヤーはあったが、A/Bのエフェクトの中にあっため、PinPの上にテロップを乗せるといった、複合的な使い方ができなかった。今回はキーヤーを独立させてあるので、トランジションやPinP、SPLITの上にテロップを乗せることができる。
より実用的になったエフェクト
スイッチャーの基本、4入力をワイプやトランジションによって切り換えるという機能は、V-1HDと変わらない。フェーダーは、A/Bバスモード、PGM/PSTモードが選択できるのも同じだ。
考え方が大きく変わったのは、エフェクトだろう。パネルにはPinPとSPLITの2つのボタンがあるが、それぞれに割り当てられるエフェクトは以下のように整理された。
エフェクト名 | 効果 | サンプル |
PinP 1/4 | 1/4サイズのPinP | - |
PinP 1/2 | 1/2サイズのPinP | - |
SPLIT-VS | 映像を縦に引き伸ばして 左右2画面合成 | |
SPLIT-VC | 映像の中央部を縦に切り出して 左右2画面合成 | |
SPLIT-HS | 映像を横に引き伸ばして 上下2画面合成 | |
SPLIT-HC | 映像の中央部を横に切り出して 上下2画面合成 | |
QUAD | 4入力全部を 田の字型に合成 |
カラーをいじるVJ的な機能が無くなり、シンプルながらよく多用されるスプリット系の機能が充実した。特にQUADは、HDMIのマルチビュー出力と同じと言えば同じなのだが、これをOAで使うことができるようになったのは面白い。
なおPinPとSPLITの各ボタンにはどのエフェクトでもアサインできるので、例えばPinPは使わないなら、そのボタンにSPLITのどれかのパターンを割り当てるといったこともできる。
操作としては、PinPはボタン操作でONにした後、フェーダーの動作で子画面がフェードインする。一方SPLITは、ボタンを押すと同時にSPLIT状態になる。
もう一つ大きなポイントは、Keyの扱いだろう。エフェクト内部からDSKに機能が移動したので、合成とKeyが同時に使えるようになった。Keyの種類としては以下の4つがある。
キータイプ | 効果 |
WHT-L.KEY | 明るいほうから抜いていくルミナンスキー |
BLK-L.KEY | 暗い方から抜いていくルミナンスキー |
GRN-C.KEY | グリーンクロマキー |
BLU-C.KEY | ブルークロマキー |
パネルのKey Levelボタンを押すと、コントローラーノブがキーレベルとキーゲインの調整となる。例えばルミナンスキーであれば、キーレベルはどのぐらいの明るさから抜け始めるかの調整、キーゲインは、抜けるところと抜けないところの範囲を広く取るための調整だ。キーゲインをうまく調整すれば、グラデーション的にレベルが変わる文字の影なども、綺麗に抜くことができる。ただ今回お借りした時点でのファームウェアでは、キーレベルがまだ動いていなかった。発売時にはきちんを動いた状態でリリースされるだろう。
クロマキーは、グリーンとブルーのプリセットだが、HUE(色相)は若干動かせるようになっている。補色補正もないので簡易的ではあるが、そこそこ抜ける。
誤動作を防止するためのパネルロック機能が充実したのも、興味深い傾向だ。パネルすべてのボタンをロックできるだけでなく、使用しないボタンだけ、本番中にさわるとダメなボタンだけを無効にできるようになった。リモートで操作している時に本体を触られて邪魔されるのを防止する、スイッチャーが分からない人に必要な機能だけを使えるようにして操作させるなど、いろいろな使い方が考えられる。
アウトプット フェードのつまみも機能が追加された。V-1HDでは白フェードか黒フェードするだけだったが、複数の機能が選べるようになっている。
設定 | 効果 |
VIDEO | 映像出力のみをフェードアウト |
AUDIO | オーディオ出力の音量調整 |
V & A | 映像出力のフェードと同時に音声を絞る |
BLACK / A | 左回しで映像のみ黒フェード 右回しでオーディオのみを絞る |
総論
V-1SDIは、見た目がV-1HDと変わらないので、入力端子が変わっただけのように見えるかもしれないが、実際にはSDI機材を使用するユーザーのレベルに合わせて、より実用的な機能への絞り込みが行なわれている。逆に言えば遊びの機能が減ったとも言えるが、業務ユーザーはほとんど使わない機能だっただろうから、支障はないはずだ。
逆にキーヤーがDSKに変わったことで、同時にできることが増えた。アウトプット フェードノブの機能も拡張され、より実践的な機能へと変化したのが特徴だ。HDMI入力はV-1HDでまとめておいて、その出力をV-1SDIに入力し、機能拡張するといった使い方もできるだろう。本体サイズがまったく同じなので、2台繋げてマウントできるようなリグを作っても面白いだろう。
20万円弱のスイッチャーとなれば、趣味でネット放送をやってる人が買うようなものではないが、かつてアナログ入力のスイッチャーからのリプレイスを考えている業務ユーザー、V-1HDはなんか微妙に違うと感じたユーザーには、1年待った甲斐があった製品に仕上がっている。