小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第811回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Leicaダブルレンズがスマホに! 自撮りしないオジサンでもHUAWEI「P10 Plus」はうれしいのか

セルフィしないんだけど……

 スマートフォンのカメラ部分に、カメラブランドの価値を持ち込んで成功したのは、昨年発売されたHUAWEI「P9」が最初といってもいいだろう。Leicaダブルレンズカメラ搭載の同機は、“いい写真が撮れる”、“特にポートレートがいい”ということで、人や自分を撮る機会の多い女性の注目を集めた。

HUAWEIの5.5型スマートフォン「P10 Plus」

 同様にカメラブランドを持ち込んだ例としては、同じく昨年9月に国内発売が開始されたMotorolaの「Moto Z」および「Moto Z Play」の背面に合体させるカメラユニット「Hasselblad True Zoom」がある。ただしこちらはスマホと別にユニットを購入する必要があること、合体するとかなり大型になることなどから、どちらかというとマニア受けする方向であろう。

 そんな中、P9の後継機「P10」が発売された。すでに一部の国では今年3月から発売が開始されているが、日本は1次発売国から漏れた格好で、この6月から発売が開始された。

 Leicaダブルレンズカメラも第2世代となり、レンズスペックやセンサーもアップデートされている。もっとも気になるところはセルフィの出来かもしれないが、オジサンともなればそうそう自分撮りなどしなくなる。

 風景とネコとメシぐらいしか撮らないオジサンでも、Leicaダブルレンズは意味があるのだろうか。また、あまり評判を聞かない動画性能はどうなのか、今回はその辺を中心にテストしてみよう。

ハイエンドらしい魅力ある端末

 この6月から販売が開始されたHUAWEIのスマートフォンは、3モデル。「P10 lite」と、5.1型ディスプレイの「P10」、5.5型の「P10 Plus」だ。P10 liteはいわゆる格安スマホと呼ばれるジャンルの製品なので、ここでは置いておく。P10とP10PlusがLeicaダブルレンズカメラ搭載だ。今回はP10Plusを中心にテストしている。

6月に発売されたP10(左)とP10 Plus

 本流よりもちょっとデカいモデルが「Plus」なのは、iPhoneによって定着したわけだが、P10も同じルールに乗っかった事になる。Plusモデルは、iPhoneもP10も同じ5.5型。一方PlusではないiPhone 7が4.7型なのに比べ、P10は5.1型だ。2つを並べるとそれなりにサイズ感は違うが、P10は画面的に縦横5mmぐらい小さく、文字・表示のそのまま小さくなるだけだ。

 逆に言えば、Plusだからテキストやブラウザの表示エリアが拡がるわけではなく、大きく見えるだけという事になる。一方実売価格では、P10が6万円強、P10 Plusが7万円強と1万円の差がある。この1万円差をどう考えるか、という事だろう。

 iPhone7 Plusとサイズ比較してみると、液晶画面のサイズは当然同じだが、ボディサイズはP10 Plusの方が縦横5mmほど小さい。片手で操作する事を考えたら、特に横幅の5mmの差は小さくない。

 P10 Plusのカラーは、グリーナリーとダズリングゴールドの2色。どちらもスマートフォンとしては主流ではないカラーリングで、好みが分かれるところではあるだろうが、他にないカラーや質感は、ハイエンドモデルらしさのアピールでもあるのだろう。

ハイエンドのわりには個性的なカラーリング

 さて注目のカメラ部だが、メインカメラが1,200万画素カラーセンサー + 2,000万画素モノクロセンサーの2つ。2つのレンズは同性能で、焦点距離は35mm換算28mmのiPhone 7 Plusよりも若干広く、27mm。なおレンズ横にあるのは、上がLEDライトで、下は奥行き情報を取るためのレーザーセンサーだ。

注目の新レンズ搭載

 P10とPlus最大の違いはこのレンズ部で、Plusが1.8なのに比べ、P10はF2.2だ。1段以上明るいレンズは、夜間や光量不足時の撮影で違いが出るはずだ。

P10のレンズは同じように見えてF2.2

 一方インカメラは、800万画素のF1.9となっており、こちらはP10、Plusともに共通だ。こちらのレンズもLeicaレンズだという。画角は公式なデータがないが、メインカメラよりもやや狭いため、おそらく30mm程度ではないかと思われる。

インカメラもLeicaレンズ採用に

 レンズと通話用スピーカーの間にあるのは照度センサーで、画面が塞がれた時などの近接センサーも兼用している。

 ディスプレイは5.5型で、解像度は1,440×2,560ドットのIPS液晶。画面下には楕円形の指紋センサーがある。ここはタッチセンサーにもなっており、1タッチで戻る、長押しでホームに戻るといった操作も可能だ。

横の額縁部が狭く、ディスプレイサイズの割にはスリム

 上部中央にある黒い部分は、赤外線センサーだ。隣の小さい穴は、セカンダリーマイク。底部にはイヤホンジャックがあり、充電などはUSB-Cポートから行なう。隣の小さい穴は通話用メインマイク、一番右はスピーカーだ。

上部に赤外線センサー
コネクタはUSB Type-Cを採用

さすがの発色と解像感

 ではさっそく撮影してみよう。すでに各メディアでセルフィなどのサンプルはあるが、単にキレイキレイと言っても、比較対象がないとコメントのしようもない。そこで今回は、実質的にライバル機ともなるiPhone 7 Plusと撮り比べてみた。

三脚に固定して比較撮影

 まず写真だが、なんのエフェクトもなしで撮影した場合でも、発色が強く、解像感としても十分だ。ただし被写界深度はそれなりに深く、3mぐらい奧の木もそれなりにフォーカスする。

P10 Plusで撮影。色味に透明感がある
iPhone 7 Plusで撮影。描写としてはリアリティ重視

 iPhoneと比較してみると、なんのエフェクトもかけてないわりにはかなりアート寄りに撮影されている。かなり手を入れている感じもあり、カメラとしてどうなのという気もしないではないが、高コントラストで色味の強い表現は、パッと見の印象がいい。

 P10 Plusの標準カメラアプリで特徴的な機能が「ワイドアパーチャー」だ。絞りのアイコンで表わされるこの機能は、被写界深度を擬似的に表現する。パラメータは0.95から16となっており、これはおそらく35mmフルサイズにおいて、これらの値の絞りにした際の被写界深度をシミュレーションするという事だろう。

ワイドアパーチャー4で撮影
ワイドアパーチャー0.95+「ソフトな色」で撮影

 撮影時に得られた奥行き情報を使って、写真に写っている被写体を切り取ってレイヤー化し、奥の方をぼかしていくということなのだろう。実際に物理絞りを動かしているわけではないので、綺麗な円形ボケが得られる。

 撮影時にリアルタイムプレビューもできるので、どのぐらいボケるのかを確認しながら撮影できる。リアルタイムプレビューでは、手前の物体の切り取りラインが如実にわかってしまうが、実際に撮影すると丁寧に後処理するので、境目は目立ちにくくなる。

 またメタデータにもワイドアパーチャの値がF値として記録されるので、撮影時にいくつで撮ったか、あとで確認できるようになっている。

 一方人物撮影においては、「ポートレート」機能が有効だ。これは芸術的ボケ + ビューティーモードを組み合わせたもので、肌のディテールを整え、顔を立体的に撮影できるので、女性に人気のある機能である。

 50過ぎの渋いモデルさん(筆者)でテストしてみたところ、肌がツルンとしてかなり整った感じに見える。

P10 Plusのインカメラで「ポートレート」撮影(※iPhone 7 Plusの作例と左右が逆になってしまったので、サムネイルだけ反転させている)

 一方iPhone 7Plusでは、標準カメラには補正機能がないため、ディテールなどはそのままである。また露出も顔認識がうまくハマらないと、飛びがちになってしまうため、誰が撮っても上手く撮れるということにはならない。

iPhone 7 Plusのインカメラで撮影

 もちろんiPhoneであっても、別途カメラアプリを導入すれば上手く撮影できるケースもあるが、それを言いだしたらP10 Plusも同じ事なので、ここでは標準カメラアプリのみを比較している。

4K動画は撮れるが……

 動画撮影としては、UHD 4K(3,840×2,160)での撮影が可能だ。前出のワイドアパーチャー機能は動画でも使用できるが、その際には解像度が720pまで落ちるので、使用の際には要注意だ。

動画は4K撮影対応
動画PROモード

 また静止画同様、動画にもPROモードがあり、露出モード、露出補正、フォーカスモード、ホワイトバランスのマニュアル操作ができる。

 iPhone 7 Plusのレンズには光学手ぶれ補正が搭載されており、その補正能力には定評がある。P10 Plusにも光学手ぶれ補正が搭載されているということで、動画撮影時の手ぶれ補正の利き具合をテストしてみた。

 まったく同じ条件で撮影してみたところ、P10 Plusのほうはかなりブレがひどい。補正機能が動作していないのかと思ったが、所々で映像がジャンプしているところから、レンズシフト機能は動作しているものと思われる。ただ動画撮影に対して、アルゴリズムがまったく最適化されていないという印象だ。ブレも大きいので、センサーによるローリングシャッター歪みも大きく感じる。

P10 PlusとiPhone 7 Plusの手ぶれ補正比較
stab.mov(24.99MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 色味や解像度を比較してみると、iPhoneよりは若干高コントラストなところは、Leicaレンズの雰囲気を感じる。発色の強さはほぼ同程度だが、カラーマトリックスの違いからか、赤紫色の表現に違いが出る。

P10 PlusとiPhone 7 Plus、同条件での比較サンプル動画
sample.mov(95.46MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 途中2倍ズームのカットがあるが、iPhoneは光学2倍レンズ、P10 Plusは電子ズームの2倍である。ただダブルレンズの解像度、特に高解像度化したモノクロセンサーを使った「ハイブリッドズーム」となっており、2倍程度の拡大であれば画質劣化は感じられない。

 スローモーション撮影も可能だ。P10 Plusでは、120fpsでハイスピードで撮影しておき、撮影後にどこからどこまでをスローにするかを範囲指定するというインターフェースになっている。したがって、最初は通常速で途中任意の場所からスローにするといった加工も簡単だ。

スローはあとから範囲指定できる

 そうした加工状態は、いつでも指定範囲が動かせるという点でメリットがあるが、それで完成してネットへアップするためには、その状態を別動画として書き出す必要がある。ところがこの書き出しのエンコードで、恐ろしくビットレートを削ってしまうため、ブロックノイズがかなり目立つ結果となっている。スロー撮影時の動画ファイルは約40Mbpsあるのに、書き出し後は同じ解像度で約5Mbpsしかない。

スロー撮影したものを書き出すと、ビットレートが激減する
20170704105645.mp4(27.09MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 まあどのみちYouTubeなどにアップすればその程度のビットレートになると言えばその通りなのだが、素材としてファイルを取りだしてPCで加工するという用途も考えられる中、最初から決め打ちでそこまで絞り込むというのは厳しいものがある。

 余談ではあるが、P10 Plusで撮影したMP4ファイルは、Mac OSではうまく再生できないものが多かった。サードパーティ製アプリでは問題ないのだが、メタデータがQuickTimeの仕様と合わないのかもしれない。サードパーティ製メディアコンバータでQuickTimeに変換すれば問題なく使えるのだが、Mac OSではQuickTimeで直接開けないと、大抵の編集用アプリでも開けないので、使いづらいことになる。

 静止画では評判の高いHUAWEIだが、動画に関しては結構落とし穴がある。

総論

 写真、特にポートレートに向くスマホとして近年ブランド力も向上してきたHUAWEIの新モデルは、昨年に引き続きLeicaダブルレンズカメラを搭載、さらにレンズやセンサーをアップデートして、より強力になって登場した。

 P10とP10 Plusは、機能的にはそれほどの差はないと言われつつも、Plusはレンズが1段以上明るくなっており、単にちょこっとサイズが違うというだけではないのは、気づきにくいポイントだ。しかし逆にレンズのグレードが結構違うのに価格差が1万円程度しかないというのは、ある意味良心的とも言える。

 静止画の作り込みに関しては、ガチカメラ勢からは敬遠される部分もあるだろう。だがRAWで撮って現像でいじるみたいなことをせずとも、誰でも見栄えのいい写真が撮れるという点では、もはや従来のカメラの枠で考えること自体に意味がなくなってきているとも言える。

 Leicaレンズ搭載ということで、動画撮影にも期待がかかる。これまでコンシューマユーザーの手が届く範囲で、Leicaレンズで動画撮影できるのは、Leica本家のカメラ以外だと、パナソニックのコンデジやビデオカメラ、マイクロフォーサイズ用交換レンズを使うミラーレスカメラくらいしかなかったわけだが、スマホで撮れれば画期的である。

 今回実際に動画を撮影してみたが、確かに絵作りの面でLeicaレンズのテイストは感じなくもないものの、静止画ほどの強い個性は感じられなかった。それ以前に手ぶれ補正をなんとかしないと、一般ユーザーにはかなり厳しいのではないだろうか。サンプルは三脚に固定したが、普通は手持ちで撮ることだろう。

 ただ、生存競争の厳しいスマートフォン業界のなか、何か1つ突出させて製品を作ることを否定するものではない。もはやスペック比較では違いがよくわからなくなってきている昨今、写真という目で見てわかるポイントを作る戦略は評価できる。

 一方で、同じカメラを使う動画に関しては、あまり手当てされてなかったのが意外であった。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。