小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第823回
これがiPhone 8 Plusの実力か! 生まれ変わった動画と写真、そしてコーデック
2017年10月11日 08:30
「7とあんまり変わらない」は本当か
9月22日より、iPhoneの新作「iPhone 8」および「iPhone 8 Plus」の発売が開始された。新プランを発表するなど一部キャリアの特別対応も見られるところだが、セールスの方はというと、昨年のiPhone 7/ 7 Plusの時の7割程度という話も聞かれる。見た目がそんなに変わらないことや、11月にはiPhone Xが控えている事などから、見送り組もいるという事だろう。
あんまり変わらないと言われつつも、新しいiOS 11との組み合わせでiPhone 8/8 Plusしかできない事も多い。特にカメラ関係は、変わったと言われつつも、じゃあ7とどれぐらい違うのか、というところがはっきりしない。筆者も個人的に7 Plusユーザーなので、乗り換えるべきか、このままでいいのか悩ましいところだ。
そこで今回は、iPhone 8 PlusとiPhone 7 Plusで同じものを撮影しつつ、その違いを確認してみよう。もちろん、8独自の機能もご紹介する。
サイズ的には全く同じだが……
例年秋には、iPhoneの新モデルが出るということで、スマートフォン市場が盛り上がる。ただ2009年発売のiPhone 3GS登場以降、“数字iPhone“の翌年は外観は同じでスペックアップした“sバージョン”が登場というサイクルが続いてきた。途中5cやSEといった変わり種モデルも出た事があったが、基本的には新ボディになるのは2年に1回だったわけである。
今年の新モデルも、iPhone 7sではないかと言われていたわけだが、結構早い段階から今年は8だということがリークされ、実際その通りになった。ただしサイズやデザインはほとんど変わらず、事実上iPhone 7sなんじゃないかという声も聞かれるところだ。
8も8Plusも、外装上での変更点は、背面が金属からガラス素材になったところ。これはワイヤレス充電に対応するためだ。7/7Plusは背面から側面まで一体成形のアルミだったが、8/8Plusではアルミ筐体の前後をガラスで挟むような構造となっている。
同じ筐体を使い回すメリットは、金型がそのまま使えることだ。だが背面部材が変わったことで、構造も全く変わってしまった。つまり、金型は流用できないわけである。まあiPhoneぐらいのセールスがあれば、金型代ぐらいは大したことないのかもしれないが、それでも同じサイズとデザインとしたわけだから、意図的なものがあったという事だろう。
構造は変わったが、耐水性能はそのままである。背面がガラスとなったのは、2011年発売のiPhone 4GS以来という事になる。
カラーも7の5色から3色に減った。シルバー、ゴールドは存続で、ローズゴールド、艶消しブラックとジェットブラックが廃止となり、その代わりスペースグレイが追加された。MacBookよりもカラーバリエーションが減ったのは、意外である。
今回iPhone8はスペースグレイ、8Plusはシルバーをお借りしている。スペースグレイは、写真ではほぼ黒に見えるが、実際にはかなり濃いグレーだ。ディスプレイ面は真っ黒だが背面はやや明るいということで、ひっくり返した時のコントラストの面白さがある。
一方シルバーは、背面だけ見ればほとんど白だが、液晶面の白いエッジ部分に比べると、若干暗い白となっている。こちらもひっくり返した時のコントラストの妙を感じる。
ディスプレイは得意のRetina HDだが、今回はより広色域なのに加え、4チャンネルの環境光センサーを使ってホワイトバランスを追従させるTrue Toneテクノロジーを搭載している。使用環境の照明に合わせて正しいホワイトバランスで見えるように、ディスプレイ側で追従するという技術だ。
カメラの変化は、主にセンサーである。iPhone 7/7 Plusでは動画撮影が4K/30pが最高だったのに対し、iPhone 8/8 Plusは4K/60pの撮影が可能になった。コンシューマ向けビデオカメラやデジタル一眼でも、一部の製品でようやく4K/60p撮影の製品が出てきているところだが、iPhoneの対応でカメラメーカーには大きなプレッシャーがかかることだろう。
写真とディスプレイの巧妙な組み合わせ
ではまず写真性能から比べてみよう。今回はiPhone 8 Plusと7Plusを平行に配置し、極力同じ画角になるように撮影している。
今回はレンズスペックに関して言及がないが、画角を見る限り特に変わった点は見られない。色味が違うのは、センサーや絵作り、あるいはオートホワイトバランスの違いである。
続いて発色の違いを比べてみよう。鮮烈な黄色、赤で比較してみたが、画像データ的にはそれほど劇的な違いはない。多少iPhone 8 Plusのほうが明るめにふる傾向がある程度である。
ただ、撮影時は全然違う。ディスプレイ上での発色は、圧倒的にiPhone 8 Plusのほうが綺麗だ。そもそもビデオ録画ボタンの赤の発色からして、全然違うのである。これは液晶そのものの色域の広さに加え、ホワイトバランスを追従させるTrue Toneテクノロジーの恩恵もあるだろう。2つを比較しないとわからないが、カメラを向けた時の自然な感動という点では、iPhone 8 Plusのほうがより大きいだろう。
iPhone 7 Plus時代にβ版の機能として搭載されていたポートレート機能は、iOS 11で正式バージョンとなった。iPhone 7 Plus上では、撮影時に大きな違いはないが、「写真」の編集機能を使うと、背景がボケた写真をオリジナルの状態に戻す事ができるようになった。
これは撮影時に、背景合成前と合成後の写真を1つのファイルに格納するようになったからである。したがって、iOS 11前に撮影したポートレート写真は、オリジナルに戻すことができない。
LIVEフォト機能も新しくなった。以前から写真の前後1.5秒ずつを撮影する機能ではあったのだが、単にそれを再生して楽しむ程度しか活用法がなかった。だがiOS 11では新たにループエフェクトや長時間露光が設定できたり、動画としての再生範囲を決める事が可能になった。さらにこのエフェクト状態を動画として書き出すこともできる。
描き出した動画は1,290×966という変則的なサイズだが、ネットに貼ったりSNSで送ったりする分にはテレビフォーマットにサイズが合ってなくても関係ない。またこれらの機能は、iOS 11前に撮影したLIVEフォトに対しても使える。
上記の機能は、iOS 11で実現した機能なため、iPhone 7 Plusでも使える。一方iPhone 8 Plus上でしか使えないのが、ポートレート撮影時の「ポートレートライティング」機能だ。
シャッターボタンの上にある「自然光」というアイコンをタップすると、半円状にライティングの選択肢が出てくる。わざわざ半円状に出てくる必要があるのかについては賛否あるだろうが、ここから5種類のライティングタイプを選択できる。
自然光、スタジオ照明、輪郭強調照明の3種については、スクリーンショットでもその違いが分かる。
【ポートレートライティング機能のUI】
ここで特徴的なのは、ステージ照明だろう。ターゲットとなる被写体を中心に、背景を黒く落とした写真を撮影できる。単に円の外側をぼかして黒く落とすだけでなく、綺麗にマスクで切り取ったような効果を出す事ができるのがポイントだ。
この効果も、ポートレート撮影をオリジナルに戻す機能が使える。これで効果前と効果後を比べると、仕組みがわかる。
あえて綺麗に切り取られない構図で撮影してみたが、オリジナルと比べて分かるように、本来なら背景をぼかす効果にかかる部分、すなわち1xカメラの画像が合成される部分が、そのままベタで黒に落とされているのがわかる。
一方2xカメラの画像、すなわちフォーカスが合った部分はそのまま生かされ、UI上にあった円の外側へ向かってグラデーションで黒に落とすアルファチャンネル処理がなされる。
したがって輪郭を綺麗に切り取ってしまおうと考えるなら、背景ボケができる程度にまで、被写体と背景との距離を取らないといけないという事である。この機能は、簡易的なアルファチャンネル作り(マスク切り)にも使えるので、製品撮りなどにも重宝されることだろう。
フォーマットの注意点
次に動画性能の検討に入りたいところではあるが、まず先にiOS 11から搭載された、静止画と動画の新フォーマットについてまとめておきたい。ここから先は技術的な話が続くので、単にiPhone 8 Plusの動画の話が読めれば十分という方は、次の見出しのところまで飛ばしていただきたい。
iOS 11から、静止画と動画の記録フォーマットが変更された(iPhone 7/7 Plus以降の機種)。静止画はHEIF、動画はHEVCがデフォルトとなっている。まず動画のHEVCに関しては、AV Watch読者諸氏ならよくご存じだろう。H.265/HEVCとして知られ、日本における4K放送の公式フォーマットとなっている。従来のH.264に比べ、約2倍の圧縮効率というのがウリであり、内蔵ストレージに限りがあるスマートフォンに高効率のコーデックが採用されるのは、当然の成り行きである。
一方HEIF(High Efficiency Image File Format)は聞き慣れないフォーマットかと思うが、Appleのオリジナルではなく、MPEGで開発されたフォーマットで、動画コーデックのHEVC技術を静止画および静止画シーケンスファイルに応用したものだ。HEIF自体はコーデックではなく、メディアコンテナである。したがって中身のコーデックは、HEVCという事になる。規格としてはAVC、JPEGも含めることができるようだが、Appleの実装はHEVCのみ、というわけである。
細かい話は今年のWWDCで発表された資料が公開(リンク先はPDF)されているので、エンジニアの方はこれを眺めればなんとなく概要は掴めるのではないだろうか。
JPEGで十分なのに静止画をそれほど圧縮する必要があるのか、という話なのだが、Appleとしてはおそらく静止画シーケンスファイル格納用として、どうしても使いたかったのだろう。
というのもこれまで説明してきたように、iOS 11以降のポートレート撮影では、背景をぼかしたり、照明効果で背景を落としたりした写真を、元に戻せるようになっている。つまり、合成のために使われた複数の静止画ファイルを、1つのコンテナに格納したかったのだ。
もし仮にバラバラの連番ファイルでこれらのファイルを保持しておくと、ユーザーが「なんだこれ?」といって一部の素材ファイルを破棄してしまうかもしれない。そうするとオリジナル画像の復元もできなくなってしまう。だからユーザーに触れないところで、複数枚の静止画ファイルをパッケージングする必要があったのだろう。
そういうわけなので、実際にはユーザーがHEIFファイルそのものをダイレクトに扱う必要はない。iOS内では普通に扱えるので、ユーザーは何も知らなくても気がつかないだろう。一方外部への書き出しについては、「写真」の設定のところに従来フォーマット(JPEGまたはH.264)に書き出すオプションがある。
ただしこの書き出し設定は、iPhoneとMacをケーブル接続し、MacOS側の「写真」アプリを使って画像を吸い出す際には無効となる。Mac版「写真」アプリが両フォーマットに対応したので、そのままでも問題ないわけだ。
Mac上で「写真」アプリから他のソフトで扱うために静止画を書き出す場合は、自動的にjpgに変換される。HEIFで書き出したければ、[ファイル] - [書き出す] - [未編集のオリジナルを書き出す] 機能を使えば、HEIFで書き出せる。ちなみにHEIFの拡張子は、「.HEIC」である。なんで「.HEIF」じゃないんだよと筆者にツッコまれても、知らない。
一方動画のほうは、通常の[ビデオを書き出す]機能で4Kフォーマットを指定すれば、4KのH.264で書き出せそうだが、実際には何をやっても指定を無視して720pサイズのHEVCで書き出されてしまう。おそらくバグではないかと思われる。
こちらも[未編集のオリジナルを書き出す] 機能を使えば、4KのHEVCファイルで書き出すことができる。拡張子はH.264と同じ.movだ。
HEVCは、最新のMacOSであるHigh Shierraでもサポートされており、ファイルのプレビューやQuickTmeによる再生はできるが、残念なことにFinalCut Pro Xがまだサポートしていない。ファイルの読み込み時点でサポート外という警告が出る。
仕方がないので、今回はAirDropを使って、iPhone 8 Plus内でHVEC - H.264変換をかけつつ、Mac側に転送している。
動画機能にもかなりの変化
ようやく動画の話までたどり着いた。こんな長い記事をちゃんと読んで貰えるのか一抹の不安を抱きつつ、検証に戻る。
iPhone 8Plusの動画撮影モードも、iPhone 7 Plusとは違う動作となっている。従来は動画撮影中に1×と2×を切り換えると、瞬間的なズーム動作で2つのカメラが切り替わっていた。
一方iPhone 8 Plusでは、動画撮影中に1×をタップすると、円弧状にズームカウンターが出現し、3倍までのバリアブルな電子ズーム動作となった。2×のカメラに切り換えるためには、いったん録画を止めて2×に切り換え、それからもう一度録画しなければならない。このとき1×に戻そうと思っても戻らず、今度はさらにそこから3倍(実質6倍)の電子ズーム動作となる。
4K/60pという高画質で撮影させといて、電子ズームはないだろう。またズームする際には、いったんタップして円弧のコントローラを出現させたのち、画面上で指をスライドさせないといけないので、どうしてもカメラが揺れる。一般的なズームの動きを実現するには、事前にちょっとした練習が必用になる。
手ぶれ補正に関しては、iPhone Xには2×カメラ側にも光学手ぶれ補正が入っているという情報がある。iPhone 8 Plusには特に言及されていなかったが、やはりiPhone 7 Plus同様、2×カメラ側には光学手ぶれ補正はないようだ。
そこで1×カメラ側の光学手ぶれ補正効果をテストしてみた。手ブレ補正機構まで含めたレンズユニットが同じなのか違うのか、情報は公開されていないが、両方を同じタイミングで比較してみると、若干ではあるがiPhone 7 Plusの補正力の方が高いように見える。
スローモーションに関しての進化点は、一目瞭然だ。240fpsでの撮影が、従来の720pサイズから1080pサイズに拡張された。少しずつではあるが、年ごとに着実に進歩している部分である。
総論
本来ならばARやオーディオ部分も検証したかったところだが、今回はカメラとファイル周りが大きく変わったので、その部分だけでもかなり説明が必用になってしまった。
iPhone 7 Plusも、iOS 11になってかなりの新機能は使えるようになったが、やはりカメラセンサーの違いやプロセッサパワーの面で、できることに差がある。やはり1年の進化は伊達ではないようだ。
カメラ機能の性能アップにどれぐらい価値を見出すのかは、使う人次第だと思うが、ディスプレイの上質さ、色表示の正確さという面では、iPhone 8 Plusに軍配が上がる。カメラとしてよりも、やはり情報表示端末としてiPhoneを見る機会の方が多いだろうから、この点は重要になるだろう。
とは言え、多くの人はiPhone Xがどういうものなのか、その価値観を確認できないことには、なかなかiPhone 8シリーズへの決心が付かないところであろう。来月またiPhone XとiPhone 8 Plusを比較する機会などがあれば、テストしてみたいところである。