ミニトピ
iOS 11の写真/動画形式「HEIF」と「HEVC」。従来とは何が違う?
2018年1月23日 08:00
アップルがiOS 11搭載のiPhone/iPadなどで採用した新しいファイルフォーマット「HEIF」。現在は採用例が少ないが、iOSとmacOSがサポートしたことで、今後普及が進む可能性がある。「写真のサイズを約1/2に削減できる」というHEIFは、従来のソフトや機器などではそのまま扱えない場合も多いが、9月の提供開始から約3カ月が経ち、対応する機器やサービスも少しずつ増えている。
一方、動画についてもiOS 11からは「HEVC」フォーマットが採用。動画もファイルサイズを“ほぼ半分”に削減できるという。HEVCやHEIFとはどんな技術なのだろうか。機器やサービスの対応状況と合わせて、改めて現状をまとめた。
HEIF/HEVCと、JPEGなど従来フォーマットの違い
HEVCは、国際電気通信連合(ITU)によって承認された動画圧縮に関する国際標準規格だ。「H.265/MPEG-H HEVC」とも呼ばれ、次世代の動画圧縮規格として、4K、8K映像での利用が想定されており、すでにいくつかの動画配信でも採用されているほか、日本の4K放送やUltra HD Blu-rayで採用されているのもこの方式だ。
HEVCはすでにさまざまな場所で使われており、MPEG-2に対してはデータ量が1/4に、H.264に比べると圧縮率が40%向上し、iOSのカメラでは2倍の効率になるという。つまり、同じ画質であれば2倍の容量を保存できる(撮影可能な時間が増える)ようになる。
これを実現するために、HEVCでは新たなイントラ予測やインター予測、変換ブロックサイズ画素適応オフセットなどといったさまざまな技術を導入しており、それにともなってエンコーダーパワーが必要になる反面、高効率の動画圧縮を可能にしている。
このHEVCの技術を活用しているのが「HEIF」(High Efficiency Image File Format)だ(ちなみにアップルのイベントなどによれば、発音は「heef」(ヒーフ)となるようだ)。このHEIFもISO/IEC 23008-12が割り当てられた国際標準規格であり、画像ファイルフォーマットとして位置づけられている。
HEIF自体はファイルフォーマット(コンテナ)であり、その画像の圧縮方式には複数の技術が規定されている。圧縮方式にHEVCの技術を使った場合、ファイルの拡張子は.heicになり、iOS 11(iPhone 7/7 Plus以降、iPad Pro 10.5インチ、第2世代iPad Pro 12.9インチ)やmacOS High Sierra(10.13以降)ではこの方式が採用されている。H.264を使えば.avci、その他の方式を使うと.heifになる。圧縮効率は、JPEGに対して平均で139%の高効率になるという。
HEIFの高効率はHEVC技術に基づくものだが、HEIFの特徴はさまざまな情報を内包できるという点だ。広く使われているJPEG形式は圧縮方式にJPEG技術を使い、ロスレス圧縮としてはTIFFを使う。メタデータはExifで規定されており、サムネイル画像を内蔵することもできる。
それに対してHEIFは、圧縮方式はHEVC、ロスレス圧縮もHEVCを用い、メタデータとしてExif、XMP、MPEG-7を内包できる。Exif規格によってExifタグをJPEG内に埋め込むことはできるようになっているが、HEIFでも同様に埋め込みが可能。今まで別ファイルとして保存されていたXMPのようなファイルも埋め込めるようになる。
ほかにも、1つのファイル内に複数の画像やアニメーションなどを内包するマルチピクチャ機能や、トリミングやオーバーレイ情報、透明度、サムネイル画像も含むことが可能だ。
こうした多彩な情報を1ファイル内に保存できるので、さまざまな可能性が存在するのがHEIF。例えばiOSでは、320×240のサムネイル画像、Exifが内包されており、さらに写真と同時に短時間の動画を記録するライブフォトの動画も1ファイル内に保存できる。現時点でも、連写画像、HDR画像と通常の画像、ポートレートでのボケや光の情報など、1ファイルに収めて便利な機能は色々ある。編集情報をファイル内に保管して非破壊編集をする、といったことも可能だ。
HEIFの特徴は、圧縮技術の進化による高効率に加え、さまざまな情報を内包して画像をさらに活用できるという点だ。画像ファイルフォーマットとして一般的なJPEGに対して、同じ画質でファイルサイズを削減できるというメリットに加え、連写画像を1ファイルにまとめたり、アニメーションGIF・通常の動画を静止画と同じ1ファイルとして保存したりもできる。HEIFの公式サイトでは、1つの画像を表示すると複数の画像のサムネイルが表示され、さらにサムネイルを選ぶとそのフルサイズの画像を表示する、といった例や、1ファイルに連写画像と動画を内包し、ファイルを開くとそれらを表示する、というようなフォルダ的な使い方が紹介されている。
このHEIFをいち早く使えるようにしたのがiOSとmacOSだ。iOSの場合、[設定]から[カメラ]→[フォーマット]を選択し、[高効率]を選ぶことでHEVCとHEIF(拡張子heic)の利用が可能になる。HEVCでは効率の向上に加えて4K・60fps、1080p・240fpsの撮影が可能になる。なお、iOS 11からはこの[高効率]がデフォルト設定になっているので、特に設定をしていなければHEVC/HEIFを使うようになっている。
ファイルを扱う上での注意点は?
撮影されたHEVCの動画やHEIFの画像は、iOS同士やmacOSであればそのまま保存して利用できる。A9以上のチップを搭載するiOS端末、第6世代以上のIntel Coreプロセッサを搭載するMacであればハードウェアデコードが、それ以外はソフトウェアデコードに対応する。
現状の問題はそれ以外の機器だ。Windows、Androidは現状でHEVC、HEIFに対応しておらず、そのままでは再生・表示ができない。Windows 10の場合、最新の「Fall Creators Update」にした上でWindows Storeから「HEVC Video Extension」をインストールすればHEVCに対応する。必須要件に第7世代Intel Coreプロセッサが必要となっており、やや環境が限られるが、標準の「映画&テレビ」アプリなどで再生できる。
それ以外でもWindows 10やAndroidでは外部アプリをインストールすることで利用可能になるが、特にHEIFのサポートは完全ではない。
もちろん、WebサイトやSNSでHEVC、HEIFファイルをそのまま利用するのも難しい。そのため、iOSでも外部にファイルを転送する場合にHEIFをJPEGに自動で変換する機能を搭載している。Windows PCとiPhoneなどを接続して写真を表示させた場合、iPhoneの設定画面で[写真]の[MACまたはPCに転送]の項目が、[自動]になっているとJPEG変換の画像、[元のフォーマットのまま]を選択するとHEIF形式のファイル(HEIC)が表示される。
ほかには、フォトストレージサービスの「Googleフォト」、オンラインストレージの「Dropbox」が対応。各アプリやサービス内であればHEVC、HEIFファイルを表示できる。また、バッファローのフォトストレージ「おもいでばこ」でも、HEIFファイルの保存、表示が可能だ。
容量不足解消に有効、今後の採用拡大に期待
HEIFやHEVCは、iOSとmacOS内で使う限りは便利なフォーマットだ。より高画質の動画像を、より少ないストレージ容量で撮影できるようになるため、画像や動画をたくさん撮影する人にとって便利。SNSで使うなど、一般的な使い方であればフォーマットを意識する必要もないので積極的に活用していいだろう。
問題は非対応アプリやサービスで、撮影したものをそのまま使いたい場合や、オンラインストレージにそのままファイルを保存してWindowsなどで利用したい場合に不便になるという点。現状は、各OSやサービスの対応を待つしかない。
HEVC、HEIFは国際標準規格であり、iOSが対応していることは今後の普及も期待できるのは間違いない。AdobeはPhotoshop CCやPremiere ProでiPhoneで撮影したHEIFやHEVCを扱えるとしているが、筆者の手元の環境(Windows 10 Fall Creators Update+最新版Photoshop CC)ではHEIFを読み込めなかった。どうやら現状ではmacOS版のみのサポートのようだ。
また、iOS版Lightroom CCアプリは、HEIFファイル読み込み時にJPEG変換してしまうなど、ほかの環境で扱おうとすると途端に面倒になる。DropboxやGoogleドライブはそのままHEIFファイルを転送しているようだが、OneDriveアプリやケーブル接続でのPC転送ではJPEG変換が入ってしまう。普及まで(もしくは廃れるまで)の過渡期のこととはいえ、せめてSNSやメール以外はHEIFをそのまま転送できるようにiOS自体にオプションが欲しいところだ。
とはいえ、一般的な用途であればHEIFでも問題ない。ストレージの容量不足に悩んでいる人は、これを機にHEIF/HEVCにしてもよさそうだ。