小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第824回
現代のスパイカメラ?! 超小型なソニー「RX0」の謎に迫る
2017年10月18日 08:00
無茶しやがって……のRX0
ソニーのRXシリーズと言えば、不振が続いたコンパクトデジカメの中、2012年に高級路線を打ち立てて成功した一連のラインアップである。RX100シリーズは現在までM5まで、ネオ一眼タイプのRX10はM4まで拡充、フルサイズセンサー搭載の最上位機RX1も、初代とRX1R、RX1RM2という顔ぶれとなっている。
数字3ケタ、2ケタ、1ケタとシリーズがあるわけだが、ここで「0」が来るとは思わなかった。しかも短焦点、タフネス仕様のコンパクトモデル「RX0」である。オープンプライスで、店頭予想価格は8万円前後。発売日は10月27日だ。
タフネス仕様のカメラといえば、ソニーにはアクションカムとしてAS/Xシリーズがある。ただしこちらはハンディカム文脈だ。RXシリーズはサイバーショット文脈なので、素性がそもそも違うという事になる。
ご承知のようにタフネス仕様のビデオカメラの代表格はGoProであり、昨今は市場が飽和したと言われつつも、米国での地位は揺るぎないところだ。今では単にスポーツ撮影だけでなく、VRやバレットタイム撮影など、大量に小型カメラが必要なシーンでもよく使われている。
タフなコンパクトカメラという市場にRXクオリティが食い込めるのか、その可能性も含めて、RX0の実力を検証してみよう。
手乗り感のサイズ
サイズ感という意味ではGoProと比較されるところではあるが、GoProがレンズ部分が出っ張っていて純粋に直方体とは言えない形状なのに対し、RX0は出っ張りもなく、綺麗に直方体である。このあたりに、ソニーらしい美学を感じる。
外形寸法59×29.8×40.5mm(幅×奥行き×高さ)、重量はバッテリとメディアを含めて110gとなっている。GoProもそうだったように、こうした製品は後続シリーズが出ても、外寸が変えられない。アクセサリー類が使い回しできないからである。そういう点では、改良モデルが出ても、このサイズなら収められるという自信があっての寸法なのだろう。
作りとしては、軽量ながらも金属とガラスの質感が十分に感じられ、実物に触れば確かに「GoProと同じジャンルじゃないな」ということが分かる。そもそもGoProというのは、絵が無事なら本体は壊れても惜しくないというコンセプトなわけだが、RX0は壊れたら惜しい。所有感が全然違う。
ではまずスペックからチェックしておこう。レンズはZEISSテッサー T*で、6群6枚の全部のレンズが非球面である。絞りはなく、F4固定だ。
焦点距離は最も画角の広い3:2の時で35mm換算24mm。1:1の時が最も狭く、30.7mmとなる。動画撮影時も24mmだ。一方ハイフレームレート時は、240p、480pの時は画質優先で24mmだが、960fpsの時だけ画質優先でも35mmとなる。
最短撮影距離は、レンズ先端から50cm。ワイドレンズの割には、あまり寄れないのが惜しいところだ。フォーカスは、写真撮影時はAFおよびマニュアルフォーカスが使える。動画撮影時には、基本はプリセットフォーカス(パンフォーカス)となり、それと50~100cmまでのニアフィールドフォーカスとのマニュアル切り換えとなる。
センサーは、1.0型Exmor RS CMOSセンサーで、アスペクト比は3:2。皆さんはもう1インチセンサーという言葉に慣れてしまっているだろうが、対角線で15.8mmである。この奥行きによくそんなの入れたなと思う。そりゃ全部非球面レンズにしないと、歪みが取れないだろう。
余談だが、1インチ(1型)センサーというのは、対角線が1インチという意味ではない。昔のビデオカメラで使われていた1インチ撮像管のイメージサイズという意味である。
正面のフレーム下にある2つの穴は、マイクだ。天面には電源とシャッターボタンがあるのみ。動画ボタンはシャッターボタンで兼用する。
背面には1.5型のクリアフォト液晶モニタがある。メニューボタンのほか、上下左右ボタン、決定ボタンが逆L時型に配置される。モニタの横は端子類だ。多くのカメラは側面に端子を設けるものだが、背面にあるのは珍しい。
このフタは着脱できるようになっており、別途端子カバーに付け替えることができる。端子はmicro HDMI、USBマイクロと、外部マイクとなっている。コンパクトデジカメの中で、外部マイク端子を備えているものは本当に少ない。一方ビデオカメラなら当たり前に付いており、アクションカムにも当然あるのだが、RX0はその点でも変わったカメラである。
側面はバッテリスロットで、バッテリは新タイプの「NP-BJ1」。いわゆるJタイプということになるだろう。これまでRX100やASシリーズでよく使われてきたXタイプが使い回しできなくなったのは残念だ。
アクセサリとしては、ケーブルを束ねて固定するためのケーブルプロテクタ「CPT-R1」、外装をカバーし、様々な方向からの固定を可能にするケージ「VCT-CGR1」なども発売される。
さすがの静止画品質
最近の関東地方は秋の長雨に見舞われ、残念ながら撮影も雨天の中行なうこととなった。だが本機は、水中にそのまま入れられる防水性能IPX8相当を有するカメラで、水深10mまで耐えられる。雨に濡れたぐらいはどうということもない。
超小型サイズで短焦点ながら、ディテール表現は十分だ。AF時は合焦のマークも出るので、パンフォーカスカメラと違って近景での撮影にも不安はない。ただ、これぐらい小さいカメラだと、どうしても寄りを撮りたくなるのが人情というものだ。ところが最短撮影距離が50cmだと、小型の被写体がほとんど撮れず、スナップ的な使い方に限られる。
またいくら1インチセンサーとはいえ、24mmというワイドレンズゆえに、背景のボケはほとんど期待できないのは残念なところだ。昨今はスマホでは擬似的に背景をボカす機能が全盛であることを考えれば、いわゆる“インスタ映え”する写真にはなりづらい。
ただ、機能的には他のRXシリーズと同じ機能が使える。クリエイティブスタイルやピクチャーエフェクト、ピクチャープロファイルまで使えてしまう。他のRXシリーズのサブカメラとしても、同じ色味になるというのは強みであろう。
また撮影モードも、複数枚の写真を一度に撮影し、重ね合わせて輝度とSN比を稼ぐ「プレミアムおまかせオート」も搭載している。夜間の撮影などは、フラッシュなしでもかなり明るく撮影できる。このあたりは、スマートフォンにはない機能である。
撮影時の設定変更は、Fnキーこそないが、右ボタンがFnメニューのショートカットとなっている。Fnメニューは自分でカスタマイズもできるので、よく使う機能はここに割り当てておき、設定変更する段取りになる。
カメラモードの切り換えは、デフォルトでは左ボタンに割り当てられているので、静止画と動画の切り換えなども比較的スムーズだ。カメラサイズがサイズゆえにボタンも小さいが、クリック感はそれなりにあるので、誤操作はそれほど多くならないだろう。絞りがないため絞り優先モードがないが、マニュアル撮影もできてしまうので、じっくり取り組めるカメラではある。
どう使うかが問題の動画
つづいて動画性能を見てみよう。昨今ではデジカメだけでなく、スマートフォンでも4K撮影ができるのが当たり前となりつつあるが、RX0は残念ながら4K撮影機能は搭載されておらず、フルHD止まりとなる。ただHDMIからの4K出力は可能で、メニュー出力もOFFにできるので、外部のレコーダやスイッチャーに対しては、4Kカメラとして扱える。
まず小型カメラであるがゆえに気になるのは、手ぶれ補正がない事だろう。これだけ小さいカメラであれば、当然アクションカム的な使い方はある程度想定される。
24mmのワイドレンズなので、手ぶれはそれほどでもないかと思ったのだが、やはりそれなりに手ぶれはする。そこで一眼レフ用のジンバルを使ってみた。本体だけなら軽すぎてバランスが取れないところだが、同時発売のケージはそれだけで160gもある。本体より重いのである。合計すると270gのカメラで、コンパクトデジカメ程度となるため、一般のジンバルでも使えるようになる。
やはりジンバルの有り無しでは全然違う。動画の移動ショットは、ジンバル併用が前提と考えるべきだろう。
前段でも書いたが、コンパクトデジカメで外部マイクが付いたものは非常に少ない。一方RX0はマイク入力を備えており、ジンバルと組み合わせてもかなり小型の取材セットとなりうる。
スマートフォンで取材するよりも見た目が良く、ゴツいケージに入れてジンバルに載せれば、取材先で感じる「こいつGoProなんか持って来やがった」感もない。なにせ8万円もするカメラなのである。ケージも足せば10万円を超える高級品だ。
1点動画撮影中に注意が必要なのは、フォーカスエリアである。動画撮影中は基本的にはパンフォーカスとなり、AFの合焦マーカーが出ないため、うっかり近距離となってフォーカスが合わなくなっても気がつかない。ニアフィールド用にフォーカス切り換え機能もあるのだが、そもそも液晶画面が小さくてフォーカスの確認ができないのが難点だ。
本体のみで水深10mまでの防水性能があるので、そのままで水中撮影が可能である。深い海には潜れないが、ちょっとした川や水槽の中だったら、ガンガン突っ込める。なお、水深約100mまで対応し、55mm径の汎用フィルタや水中ビデオライトが装着できる防水ハウジング「MPK-HSR1」(9万円)も用意される。
スローモーション撮影は、撮影時のフレームレートと再生時のフレームレートの組み合わせで、以下のようになる。
24p | 30p | 60p | |
240fps | 10倍スロー | 8倍スロー | 4倍スロー |
480fps | 20倍スロー | 16倍スロー | 8倍スロー |
960fps | 40倍スロー | 32倍スロー | 16倍スロー |
撮影モードとしては、画質優先と撮影時間優先がある。画質優先では2秒間の撮影、撮影時間優先では4秒間の撮影時間となる。今回のサンプルは、画質優先モードで960fps撮影、30p再生だ。
イメージセンサーの読み出し画素数が1,136×384で、それをフルHDに引き延ばすため、解像度の劣化は見られる。また光量が十分でないとSN比が下がるので、昼間の屋外でも、雨天での撮影は厳しいものがある。
総論
どうしても見た目からすれば、GoProと比較されがちだが、レンズ固定、絞り固定ではあるものの、センサーや画像処理エンジン、メニューその他機能的な部分は、近年のRXシリーズと同等である。ということは、ベーシックには静止画のカメラなのだ。
ワイドが好まれる昨今ゆえに、画角の広さや歪曲の少なさとしては一級品だが、焦点距離24mm固定、近距離は50cmまでしか寄れないということで、スナップ撮りだとしても構図的にややテーマが絞りづらい画角だと言える。
今回困ったのは、バッテリの保ちの悪さだ。動画撮影では、実動でおよそ30分程度しか保たないため、1度では撮影しきれないケースも出てくるだろう。防水性能が必要なシーンでは、予備バッテリは必須である。
一方で電源を入れてからの起動は爆速なので、節電機能を短めに設定しても不便はないように思う。ポケットからパッととりだして撮影、電源切ってしまう、みたいなサイクルで、2~3時間の散策なら対応できるだろう。
動画機としては、手ぶれ補正がないのが痛いところだが、小型のジンバルでも対応できるはずなので、アクセサリの登場にも期待したいところである。また外部マイク入力があるところから、音声の同時収録もかなり期待できる。
今回はご紹介できなかったが、アプリを使って最大100台までの同時コントロールも可能なので、沢山並べてのバレットタイム撮影などでは、威力を発揮するだろう。
ただそんなメリットがありつつも、正直「GoProで何が悪いの?」という意見にはなかなか抗えないのも事実だ。価格もRX0のほうが2万円ほど高いため、バレットタイムのように数が必要な撮影では、予算が膨れ上がる。画質や発色的にはRX0のほうが良好だとしても、GoProのほうが使い慣れたユーザーが圧倒的に多く、後処理のワークフローも確立されている。
モノとしてはおもしろいのだが、プロ、コンシューマともにどういう使い方が最適なのか、知恵を絞る必要がありそうだ。