■ 業界をひっくり返す? AVCCAMの立ち位置
音楽の世界では、プロ用のギターというものは存在しない。単に値段が違うだけで、機能が異なるわけではない。これと同じようなことが、映像業界に訪れつつある。
これまでビデオカメラのコンシューマ機は、マニュアル機能や絵作りに関するパラメータがないということで、ギターとは違っていた。ではそこにパラメータを追加したらどうなるか。そういうチャレンジングなシリーズが、パナソニックが業務用として展開するAVCCAMの本質ではないかという気がする。
AVCCAMのコンセプトが発表されたのは2007年のInter BEEで、翌年4月のNABではハンドヘルドタイプの「AG-HMC155」とともに、記録モードなどの詳細が発表されている。
これまではプロ用ではなく業務用ということで、多少のセグメントが存在したのだが、先日トムソン・カノープスの「EDIUS Neo 2 Booster」がAVCHDのリアルタイム再生をサポートして以来、AVCCAM意外にいいんじゃないの、という感じになってきている。そういえばZooma!でも過去AVCCAMを取り上げたことがなかったので、遅ればせながら今年8月に投入されたハンドヘルドモデル「AG-HMC45」(以下HMC45)をレビューしてみたい。
HMC45は、軽量・コンパクト、そして低価格が特徴だ。ネットでの販売価格は、20万円ちょっとといったところで落ち着きそうである。過去クリエイター向けカメラ「AG-DVX100」で世の中をひっくり返したパナソニックが、HDの世界でもう一度同じ現象を起こすのだろうか。さっそくテストしてみよう。
■ 大幅に軽量化を果たしたボディ
業務用ハンドヘルドとしては標準的なサイズ |
業務用ハンドヘルドというと、だいたいのサイズ感はDVX100が基準ということになっている。コンシューマのハイエンドモデルよりもちょっと大型、だが片手で持てないほどでもない、というぐらいのところである。
HMC45もまさにそのぐらいのサイズだが、形状が3スタイルに変わる。ハンドル部分が着脱式で、さらにハンドル部分にXLRマイクロホンホルダーも脱着できる。ちなみにハンドル無しでマイクロホンホルダーは付けられない。
見た目から来る重量感とは裏腹に、実際の質量はかなり軽い。ボディのみで0.98kg、フル装備で1.4kgである。ボディはほぼ樹脂製で、中味がかなり空いているような印象だが、ハンディでもバランスが良く、疲れずに持てる。
マイクロホンホルダーを外した状態 | ハンドルも外した状態 |
レンズはお馴染みLEICA DICOMARで、動画では35mm判換算で40.8~490mmの光学12倍ズーム、静止画41.3~496mm(3:2)、手ぶれ補正は光学式。撮像素子は305万画素1/4.1型 3MOSで、動画の有効画素は251万画素、静止画では約265万画素となっている。撮像素子のスペックはコンシューマ機の「HDC-TM350」と同じだが、レンズ設計の違いにより、エリアをより広く使っているということだろう。
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
---|---|---|
動画(16:9) | 40.8mm | 490mm |
静止画(3:2) | 41.3mm | 496mm |
マニュアル撮影機能もフル装備 |
フォーカスもボタン一つでオートとマニュアルの切り替えが可能。フォーカスアシストは、拡大表示である。またコンシューマ機同様、画面をタッチしたところにフォーカスを合わせる機能も搭載している。自動顔認識も搭載しているが、フルオートモードでないとONにできないようだ。
ユーザーボタンと組み合わせて、メニューに頼らない操作が可能 |
ホワイトバランスは、ボタンを押すごとにオート、オート固定、3.2K、5.6K、プリセットAまたはBに切り替わる方式だ。そのほかユーザーボタンが3つあり、機能を割り付けることができる。
記録フォーマットだが、最高画質のPHモードのみフレームレートの選択ができる。基本はPHモードで使うということだろう。
モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート | 記録時間 (32GB) | サンプル |
---|---|---|---|---|---|
PH | 1,920×1,080ドット | 60i | 21Mbps (最大24Mbps) | 3時間 | |
30p | - | ||||
24p | - | ||||
1,280×720ドット | 60p | ||||
30p | - | ||||
24p | - | ||||
HA | 1,920×1,080ドット | 60i | 17Mbps | 4時間 | |
HG | 60i | 13Mbps | 5時間20分 | ||
HE | 1,440×1,080ドット | 60i | 6Mbps | 12時間 | |
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。 また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
液晶モニタはボディの割には小さく、2.7型ワイドのタッチパネル式である。液晶下のボタンも、TM350と同じだ。だが本機は70度まで立ち上がるビューファインダも付いている。ハンドルを取り付けた場合は、いったん後ろに引き出して立ち上げるようになっている。
ボディの割には小さい液晶モニタ | ビューファインダは70度まで立ち上がる |
背面の端子は、アナログA/Vとコンポーネント、ヘッドホン端子がある。その下はカメラリモート端子だ。端子は右手前方にもあり、HDMIとUSB、マイク入力である。その下にあるのは、マイクロホンホルダー使用時に接続する集合端子だ。
3ブロックに分かれている背面端子群 | 右手前方にある端子群 |
ストロークの深いシーソー式ズームレバー |
RECボタンの周りには、電源とモード切替レバーがある。モードの切り替えは、通常のノックでカメラと再生切り替え、長押しで動画と静止画の切り替えになっている。一応静止画も撮れるのだが、このタイプのカメラであまり頻繁に静止画を撮るとも考えられないので、妥当なUIだろう。
その上には、QUICK STARTボタンがある。本機はビューファインダもあるので、コンシューマ機のように液晶を閉じただけではスタンバイにならない。
■ 表現の幅が広いパラメータ
では実際に撮影してみよう。今回は久しぶりの業務用機ということで、シネマモードなどをいろいろ試してみた。ガンマカーブで数種類を選択することができ、さらに複数のカラーマトリックスと組み合わせてバリエーションを作るというスタイルだ。わかりやすいようカタログ記載の説明とともに、サンプルを掲載する。
モード | 解説 | サンプル |
---|---|---|
NORM1 | 屋外やハロゲンランプの光源で撮影を行なう時に適した色を表現します | |
NORM2 | NORM1より鮮やかな色を表現します | |
FLUO | 蛍光灯下の屋内で撮影を行なう時に適した色を表現します | |
CINE-LIKE | 映画感覚の撮影を行なう時に適した色を表現します |
シーンファイルでパラメータを管理 |
シーンファイルは本体内に2つプリセットすることができる。デフォルト値に初期化もできるので、便宜的には3つである。ただシーンファイルを呼び出して適用するには、いったん電源を落として再投入しなければならない。ほんの少しの設定変えならば、その場でパラメータをいじった方が早い。がらりと設定を変える場合に、シーンファイルを使うというのがいいだろう。
表現に係わる部分では、ディテール設定の可変範囲が広くてなかなか面白い。標準、最大、最小と撮り比べてみたので、表現の幅がわかるだろう。
ディテール | Vディテール | サンプル |
---|---|---|
0 | 0 | |
+7 | +7 | |
-7 | -7 |
■ コンシューマ機能の取り込みで操作性アップ
プロ/業務用機の場合、コンシューマっぽいオート機能はまったく搭載せず、ほとんどマニュアルで設定できることを是とする考え方が永らく続いてきた。しかし実際には、プロ機でもコンシューマ的な要素は少しずつ取り入れてきており、今やプロ機でもAFやカラービューファインダが搭載されている。
さらに、本機の場合は、コンシューマ機の機能をかなり大胆に取り入れており、使い勝手も従来の業務用機とは違ってきている。例えばAFは非常に優秀で、狙ったところを外すことはないが、もし外してもタッチパネルによるフォーカス決めもできるので、不安が少ない。
顔認識も搭載しているが、フルオートモードでしか効かないのが残念だ。フォーカスはプロは自分で決めたがるものじゃないのか、と思われるかもしれないが、AFの信頼性が高ければ、任せても良いと考えるカメラマンは多い。特に一人で撮影している人は、AFをカメラに任せることができれば、他のパラメータに注力する余力ができるので、効率がいいわけである。
光学式手ぶれ補正は、昨今コンシューマではワイド端でも派手に効かせる方向になっているが、本機はそこまでの機能はない。従来と同レベルの補正量となっているようだ。
フルオートのみだが、顔認識によるフォーカス追従機能がある | 手ぶれ補正範囲は従来機同様 |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
露出に関しては、モニターに波形モニタを表示できるようになった。従来この手の機能では、ヒストグラム表示が多いわけだが、写真ならともかくビデオの世界では、ヒストグラム表示自体、馴染みがない。常々ビデオでは波形モニタ表示の方が使いやすいのに、と言い続けてきたのだが、実際に搭載されてみると大変使い出がある。ビデオ系の技術者は、ガンマの状況なども全部波形モニタで見るので、今回の撮影も表示をUSER 3ボタンに割り当てて、大活躍であった。
絞りに関しては、残念ながら開放でもテレ端では菱形絞りの影響が出る。ただ被写界深度はそこそこ浅いのが救いといったところだろうか。 本機には手動設定できるNDがないので、晴天の場合はNDフィルタは必須だろう。
波形モニタ表示を搭載 | 菱形絞りの影響が出るのが残念 |
なお今回の動画サンプルは、24P/CINE-LIKE_V/CINE-LIKEで撮影している。CINE-LIKE_Dもイイ感じではあるが、やはりコントラストが強いと、映像のフレーム内に捉えたテーマを光で強調することができるため、伝えたいポイントが表現しやすい。
屋外サンプル。24P/CINE-LIKE_V/CINE-LIKEで撮影 | 室内サンプル |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ 総論
映像の製作現場には、いろんなレベルでパラダイムシフトが起こっている。ハイエンドな世界でも、廉価な「RED ONE」や「EOS 5D Mark II」による映像制作がコンセンサスを得てきた。表現ができれば、値段とかコンシューマ機とか関係ないじゃないか、という下克上な状況が出現したわけである。
その反面、「じゃあ今までのビデオカメラって何なの」という命題が、いよいよ突きつけられた格好になってしまった。「丈夫です」とか、「ちょっとマニュアルでできますけど、それ以上はもっと高いヤツを…」では、もはや買って貰えない世界に突入するわけである。
新しい映像制作スタイルでは、一人が何役もこなすのが当たり前になってきており、そういう現場では簡単で効果が高いものが求められている。HMC45は、業務用機としては低価格だが、表現の幅が結構広い。しかもパラメータが単純化してあって、わかりやすいのも特徴である。さらにはコンシューマで便利とされてきた機能も搭載しており、任せられるところはカメラに任せて、自分は表現したいところに集中するという撮り方を可能にしている。
そもそもは、ブライダルやWEBニュースなどを想定されているようだが、新世代の映像作品は、放送ではなくWEBからが生まれてくる可能性が高い。映像制作を学ぶ学生や、アマチュアではない人たちのエントリー機として、HMC45はフィットするだろう。