小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第727回:4Kに手ぶれ補正、“動く写真”まで!? iPhone 6s Plusの動画撮影機能を試す

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第727回:4Kに手ぶれ補正、“動く写真”まで!? iPhone 6s Plusの動画撮影機能を試す

秋のスマホ祭り?

 毎年の恒例行事となりつつあるが、9月~10月あたりはiPhoneの新モデル発売で盛り上がる。もちろんAndroid勢もこの頃が新モデル投入のシーズンであり、秋は何かとスマートフォンやタブレットの話題が多くなる季節だ。

5.5インチ液晶のiPhone 6s Plus

 さて今年の新モデルであるiPhone 6sと6s Plusの話はあらかたご存知だろう。昨年発売の6と6 Plusの直系的後継モデルである。サイズ感はほぼ同じでカラーバリエーションが増加、操作面では「3D Touch」搭載、もちろんプロセッサのスピードもアップと、後継モデルとしては実に直球な作りだが、AV的には今回から動画撮影が4K対応になった点は見逃せない。

 もちろん、スマートフォンのカメラが4K対応になったのは、これが初めてではない。昨年4月にも4K撮影可能なXperia Z2をレビューしており、このころからすでにスマホカメラの4K化は避けられない運命ではあった。これに加えて日本でユーザーの多いiPhoneが4K対応したとなれば、日常的に4K動画が撮影される状況となり、事態は大きく動いてくる可能性がある。

 新iPhoneのレビューはすでにたくさん出ているが、まだ動画に特化したものはないようだ。今回もまた、せっかく借りたiPhoneで動画しか撮らないという偏ったレビューをお届けする。

意外に低ビットレートな4K

 今回はiPhone 6s Plusの方をお借りした。いつもならデザイン周りの話をひとくさりやるところだが、すでにそのあたりは語り尽くされたところでもあるので、カメラスペックに集中していこう。

Plusは光学手振れ補正が付いてるのがポイント

 メインカメラは撮像素子のサイズが公開されていないが、画素数は1,200万画素、レンズはF2.2の5枚構成となっている。6sと6s Plusはカメラスペックは同じだが、Plusの方は光学手振れ補正が付いている。前作の6 Plusでは動画撮影中に手振れ補正が効かなかったが、6s Plusでは4K動画撮影でも光学手振れ補正が効く。これがPlusならではのメリットになるだろう。

 動画の撮影モードは、720pから4Kまで4タイプあり、「設定」の「写真とカメラ」から設定変更ができる。

撮影モード解像度フレームレートビットレート
(実測)
サンプル
720p/30p1,280×72030p8.5MbpsIMG_0035.m4v
(17MB)
1080/30p1,920×1,08030p11MbpsIMG_0034.m4v
(18MB)
1080/60p1,920×1,08060p16MbpsIMG_0033.m4v
(31MB)
4K/30p3,840×2,16030p28MbpsIMG_0032.m4v
(42MB)

 動画専門ではないメディアでは、4K動画はファイルサイズが大きすぎるという評価もあるが、一体何を言ってるんですかと。今4K撮影可能なカメラでは、コンシューマ機でも60~100Mbpsで記録するのが普通だ。28Mbpsだと、1080/60pぐらいでも若干厳しいぐらいのビットレートである。むしろ低すぎて画質の方が不安になるレベルだ。

 普通の動画以外にも、スロー、タイムラプスといった撮影も可能なところは、前作と同じだ。ただスローは、今回1080/120fpsでの撮影が可能になっている。240fpsでは相変わらず720pのままだが、iPhone 6では120fpsも240fpsも720pしか撮影できなかったので、HD解像度で撮影できるようになったのは地味に大きい違いだ。

 一方、ディスプレイの方は5.5インチで1,920×1,080、いわゆるフルHD解像度となっている。4Kで撮影しても本体ではフルHD解像度にダウンコンバートされての表示となる。

ディスプレイは5.5インチのフルHD

 プロセッサは、「Apple A8」から「Apple A9」へと1世代アップしている。処理速度で70%、グラフィック処理速度で90%アップしたということだが、動画編集のレスポンスも気になるところだ。

動画でも大きく違う手振れ補正

 では早速撮影である。撮影日は良く晴れて風もなく、穏やかな秋晴れに恵まれた。

 まずレンズの画角だが、Appleからは正式に焦点距離のアナウンスはない。過去のカメラと比較したところ、動画ではソニー「RX100M4」のワイド端とほぼ同じなので、おそらく35mm換算で28mmといったところではないだろうか。静止画は動画よりも多少横が広く入る程度で、それほど大きくは違わない。

6s Plusで撮影した静止画
6s Plusで撮影した動画から切り出したもの

 6sと6s Plus最大の違いは、光学手振れ補正の有無である。個人的には現在もiPhone 6を使っているので、Plusの光学手振れ補正は初体験だ。

 手持ちでフィックスから歩き、再びフィックスと撮影してみた。フィックス部分はかなりの精度で補正されており、不自然さがないのは好感が持てる。歩き部分もなかなか補正力が高く、これも全体的に自然だ。

 一部のデジカメに組み込まれている、光学と電子手ぶれを組み合わせるタイプはもっと恐ろしいぐらいに補正するが、4Kでは電子手振れ補正まで組み合わせるカメラはない。おそらくiPhoneも、4K撮影では電子手振れ補正までは行なわず、光学だけだろう。光学補正だけにしては、かなり補正力がある。

 この手振れ補正は、手動でOFFにはできないので、比較対象として手振れ補正のないiPhone6で、同様の撮影を行ってみた。色味が違うのはここでは深掘りしないが、手振れ補正なしのこういう映像は、これまでは標準的ではあった。6s Plusの補正を見てしまうと前時代的な感じがする。補正でブレが減れば、無駄なビットレートが喰われなくなるので、結果的に画質も上がる。動画撮影に関しては、この手振れ補正の有無だけで、6sと6s Plusではかなりの差が出るだろう。

6s Plusの光学手振れ補正は自然な補正具合
IMG_0045.m4v(59MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
手振れ補正のないiPhone 6で撮影
IMG_3492.mov(49MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方でCMOSの宿命ともいえるローリングシャッター歪みもテストしてみた。すれ違う電車を撮影してみたが、このスピードではかなり歪みがはっきりわかる。またクリップを使ってiPhoneを固定したのち、指で端の方をつついてみたが、かなりプルプルした歪みを感じる。これぐらいは手振れ補正で吸収できてもよさそうだが、本体のモーションセンサーがブレを検知しなくなった時点で、光学手振れ補正はOFFになるのかもしれない。

ローリングシャッター歪みのテスト
IMG_0102.mov(19MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 さて全体的な画質だが、iPhone本体のディスプレイで見る限りは、画素が1/4に詰まる関係で、非常に鮮明に見える。カラーバランスも、iPhone6は日陰が寒色に転ぶ傾向があったが、そういった傾向もなくナチュラルだ。

日陰でのカラーバランスは良好
レンズむき出しなので、逆光では盛大にフレアが出る

 だがファイルを取り出して4Kテレビで見ると、画質的にはやや眠い。特に遠景の樹木など細かいディテールは、かなり間引いている印象だ。ただ意外にも接写なら被写界深度がそれなりに浅くなるので、背景をぼかすことはできる。合焦している部分では、部分的に十分な解像感が得られるシーンもある。

遠景のディテールはややごまかしてる感じがある
マクロ撮影では意外に背景がぼける
iMovieで編集した4K動画サンプル
IMG_0099.mov(142MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 iPhone本体だけで見ている分には、さすが4Kという評価もあるだろう。だがいくらAppleといえどもビットレートの低さは如何ともし難く、ドットバイドットで見れば、解像感の不足は否めない。

 4K動画の編集は、iPhoneアプリのiMovieで行なう。プラウザアプリの「写真」でも、4K動画のトリミングはできるが、複数のファイルをつなげて作品を作ることができないので、何か形にしようと思うとiMovieは必要になる。

「写真」でも4Kのトリミングは可能

 今回撮影した4K動画は全てiMovieで編集しているが、レスポンスとしては非常に快適だ。まず普通に再生が引っかかることもないし、トリミング中のスクラブも滑らかだ。元々動画ファイルとしてもビットレートがそれほど高くないので、処理もしやすいのだろう。逆に言えば、楽に処理できるファイルサイズに抑えてあるとも言える。

新しく4K対応となったiMovie
4K動画の再生は全く問題ない

 トランジションエフェクトや、色をいじるなどのプレビューもリアルタイムで行なわれる。ただいくらPlusが5.5インチあるとはいえ、指先を使ってきちんと編集するには、UI画面が小さく感じる。この辺りは、iPad Proに期待というところだろうか。

トランジションもリアルタイムでプレビュー可能
カラーの変更もリアルタイム
4Kそのままだけでなく、ダウンコンバート出力も可能

生まれ変わる機能

 新しく加わった機能としては、写真撮影時に使える「Live Photos」がある。これは写真を撮影すると、その前後1.5秒間の動画を撮影するという機能だ。この機能自体は、それほど目新しいものではなく、過去デジカメに何度か搭載されたことがある。写真を撮影する前からバッファ内で動画をループ記録しておき、シャッターをきっかけに吐き出すという仕掛けだ。

写真撮影時にLive Photosが有効になっていれば動画も撮影される

 過去デジカメに搭載されつつも、あまり市民権を得なかったのは、その有用性がよくわからなかったからだ。これは写真の撮り方にもよるだろう。花や風景のようなスナップを撮る人、あるいはメモ代わりに写真を撮る人は、サッと取り出してパッと1枚撮って終わりである。従って、シャッターの前後1.5秒に有効な映像が映っていない可能性が高い。

 だが、カメラとしてiPhoneのようなスマートフォンを考えた場合、通常のデジカメよりは格段に記念写真的な使い方をするケースは多いはずだ。記念写真をよく撮る人は、念のために数枚撮影するだろうから、被写体はずっと安定して構図の中に収まっている。こういうケースでは、撮影している状況がそのまま動画として残る可能性が高く、有用だろう。

 iPhone上では、該当の写真を強く押すとLive Photosが再生される。3D Touch機能が使われているわけである。また写真を順番にブラウズしていると、Live Photosで撮影された写真は、ページをめくったときに0.5秒ほど動画として動く。アイコンなどで示さず、動画そのもので該当ファイルを示すというやり方は、Appleらしい演出だ。

 実際にLive Photosとして記録された動画は、解像度1,440×1,080/15fps、ビットレート9.2Mbps、ファイルサイズとしては4MB程度となっている。一方この時に撮影された静止画は、4,032×3,024ドットでファイルサイズは5.6MBだった。画像によってファイルサイズは変わってくると思われるので、ざっくり平均すれば静止画と同じぐらいのサイズの動画ファイルが撮れると考えておけばいいだろう。

Live Photosで撮影された写真
Live Photosで撮影された動画
IMG_0065.mov(4MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 もう一つ、ちょっと地味な変更点として、フルHD解像度によるスロー撮影を試してみた。カメラモードを「スロー」にして撮影するだけで簡単に1/4倍のスローが撮影できる。いつもの階段で撮影しているが、スローモードではホワイトバランスがうまく追従せず、色味が少し変だ。ビデオモードにすればすぐ追従するので、スロー撮影前に一旦ビデオモードにするといいだろう。

 今回は午前中に撮影したので、光量はまずまずある。ノーマル撮影に比べればS/Nは多少落ちるが、ホビーとして楽しむのであれば十分だろう。

フルHD対応となったスロー撮影
IMG_0104.mov(41MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影した動画を本体で再生すると、先頭1秒ぐらいはノーマルスピードののち、スロー再生となる。これは再生アプリ側でこのように設定されているだけで、実際には全編音声付きの120fpsの動画が撮影されている。

 iMovieで編集すると、スローのスピードやタイミングも自由に設定できる。スピードの可変範囲も複数箇所設定できるので、ノーマルからスロー、一旦ノーマルに戻って再びスロー、といった編集も可能だ。

iMovieを使えばスローのタイミングやスピードを可変できる

総論

 iPhone 6s Plusの4K動画は、予想以上の意味でデジカメが4K対応したムーブメントとは異質である。なぜならば、iPhoneで撮影した4K動画を4Kモニターで見る方法が、ほとんど提供されていないからだ。

 たまたま筆者宅は、Macを4Kテレビに繋いでいるので、iPhoneからMacに動画を転送してフル画面で再生すれば、ドットバイドットで見ることができる。あるいは5K iMacを持ってる、Windows PCに4Kモニタを接続しているという人も見られるだろう。だがそれ以外の方法で見るのは大変だ。iPhone自体にはHDMI出力もないんである。

 そして実際等倍でこの4K動画を見ても、ディテールや色乗りがペタンとしていて、それほど魅力的ではない。もちろん、このビットレートにしてはよく健闘しているとは思うが……。

 では何のために4Kに対応したのか。それは、iPhoneの画面上で写真並のクオリティの動画を表示しようと思ったら、HD解像度ではダメで、もう一段上のフォーマットが必要だったからだろう。その目的なら、HDの縦横2倍の解像度を持つ4Kじゃなくても良かったのだろうが、4Kであればセンサーもレンズも画像処理技術も開発済みである。ジャンプアップのステップとしては、妥当だ。

 つまりiPhoneの4Kは、テレビは関係なく、スマートフォンの世界だけで完結する4Kなのである。これは「今のところ」なだけかもしれないが、もしかすると半分ぐらいは本当にそうなるかもしれない。実際に写真だって、最終的に印刷まで行くケースはほとんどなく、そこまでいらねえだろってレベルの高解像度の画像が、スマホ上やネット上で消費され続けている。

 動画も4Kというフォーマットや単語そのものが表に出なくなり、単に「Retina」とかそういう言葉に象徴され、集約されていくのかもしれない。実際多くのユーザーにとって、4Kが何ピクセル×何ピクセルなのかなどはどうでもいいことだ。なんかすっごい細かくて綺麗、ということさえわかれば十分なのである。

 皮肉ではなく、リッチなユーザー体験のためなら、技術とストレージと帯域をジャブジャブ食いつぶすという方向性は、いかにもアメリカが生んだスーパーソリューションだなぁと感心する次第である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。